人文社会系研究

連載:風俗画報でみる戦争報道:日清戦争

2018.05.17

Web版 風俗画報は、ジャパンナレッジが提供する電子書籍プラットフォームJKBooks上で、我が国最初のグラフ雑誌「風俗画報」を提供するデータベースです。明治22(1889)年創刊、518冊からなる「風俗画報」は、わが国最大の風俗研究誌としても知られています。

風俗画報に掲載されている図版を、センゲージラーニング社Galeのデータベースに搭載された欧米の図版資料と比べながらご紹介する本企画、今回から戦争に関する特集をお届けします。

風俗画報の戦争報道特集

日清戦争は明治維新以降、日本が初めて経験した外国との戦争です。
風俗画報初の戦争報道特集号は「第78号(明治27年9月25日)日清戦争図会第1回」です。この号を封切りに、台湾征討、日露戦争、第一次世界大戦など戦争に関する多数の特集号が出されるようになり、その各々が多編に及びます。戦争というテーマが日本にとって大きな出来事であると同時に読者の関心を引き、販売部数も伸びたのが大きな要因だったのではないでしょうか。

なかでも読者の関心を惹いたのが、戦争で活躍した軍人たちのエピソード、とりわけ「戦争美談」だったと思われます。
これらのエピソードは、風俗画報のみならず他の多くの雑誌、新聞、錦絵、講談などでも取り上げられていますが、風俗画報ではその特性を活かしてどのように報じたか見ていきたいと思います。

日清戦争に見る「戦争美談」

数ある日清戦争の特集号から5つのエピソードをピックアップしてご覧に入れます。多くの場合、風俗画報では、まず図版数点が掲載され、その後のページにその図の説明文が載っています。今回は図と説明文を一緒にご覧いただきます。

「死んでもラッパを口から離さなかったラッパ兵」

明治から昭和にかけて、修身の教科書にも取り上げられた有名な「戦争美談」です。風俗画報では軍の発表に基づき、ラッパ兵の名を白神源次郎としていますが、後に軍から訂正があり実は木口小平という方のエピソードだったようです。

左図: 重傷死瀕して尚進軍の喇叭を吹図 日清戦争図会第2回 (明治27年10月28日)
右記事: 絵とき 日清戦争図会第2回 (明治27年10月28日)

「勇敢なる水兵」

重傷を負った水兵が、敵戦艦「定遠はまだ沈みませんか」と上官に尋ね、更に「どうか仇を討ってください」と言って死んで行くというエピソードです。このエピソードが報道されると国民的な感動が湧き起こり、軍歌「勇敢なる水兵」(佐佐木信綱 作詞)も作られたそうです。

左図: 水兵死に臨て副艦長に敵艦の存否を聞く図 日清戦争図会第2回 (明治27年10月28日) 
右記事: 絵とき 日清戦争図会第2回 (明治27年10月28日)

「子供を抱いて奮戦する大尉」

一見不思議な図版ですが、こちらも「美談」と言えるエピソードを取り上げています。行軍中に敵側の捨て子を見つけた樋口大尉が、その子を抱き上げると泣き止み、懐いたためにやむなく子供を抱いたまま敵に向かっていったという話です。このエピソードも非常に有名で、色々な雑誌の口絵や錦絵に取り上げられました。佐佐木信綱作詞「敵の孤児」という歌も作られました。

左図: 樋口大尉孤児ヲ抱イテ奮戦スルノ図 征清図会第7編 (明治28年3月10日)
右記事: 威海衛陸上の攻撃 征清図会第7編 (明治28年3月10日)

「占領地での恋話」

ラブロマンスも紹介されました。日本軍が占領していた金州に住むお金持ちの娘が曹長に想いをよせ、曹長もその気持ちに応えます。娘は、戦争が終わり帰国する際には一緒に日本に行くことを希望。悩む曹長を上官が諭し、二人で日本に行くことを決意するというエピソードです。こういったエピソードは日本軍のイメージアップにつながったのではと思います。

左図: 占領地豪家の處女軍曹某に恋慕するの図 征清図会第9編 (明治28年5月25日)
右漫録: 新領地に於ける某曹長の情話 征清図会第9編 (明治28年5月25日)

「凱旋兵士の我が子との再会」

10編に及ぶ日清戦争の特集号も、凱旋の様子を描いて終わります。次のエピソードはその一つです。凱旋した兵士に早く子供を会わせたいと親戚が近寄り子供を手渡したところ、子供も父との再会を喜んでほほえみ、兵士や周りにいた人達みんなが涙ぐんだそうです。親子の情の深さが感じられます。

左図: 凱旋の兵士途上愛児に逢う図 征清図会第10編 (明治28年7月25日)
右記事:軍隊の凱旋 征清図会第10編 (明治28年7月25日)

 

勇ましい戦況を報じた図や文も沢山載っていますので、是非風俗画報でご覧ください。

今回ご紹介したようなエピソードは日本の人々の感動を呼び、大きな反響があった様です。
図と文で報じる風俗画報独自のスタイルは、人々に「軍人像」や「戦争」をイメージづけることに一役買ったのではないでしょうか。

次回は日露戦争でのエピソードをどう報じたか、ご紹介いたします。

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(株式会社ゆまに書房 第一営業部 河上 博)
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