人文社会系研究

Wiley Digital Archives 英国王立人類学協会アーカイブ

2018.11.14

Wiley Digital Archivesは、世界各国の有力な学協会・図書館・史料館などと提携し、彼らが所蔵する歴史的に価値の高い一次資料をデジタル化してご提供する電子コレクションです。

今回は、Wiley Digital Archivesの中から、150年の歴史を持つ英国王立人類学協会のアーカイブ、Wiley Digital Archives –Royal Anthropological Institute of Great Britain and Ireland をご紹介します。

英国王立人類学協会:150年の歴史を誇る世界の文化人類学における最重要組織

1871年創設、英国王立人類学協会は人類学分野における世界で最も長い歴史を持つ学術団体として、広範かつ包括的に人類学の発展に貢献してきました。150年の歴史を持つ同協会は、その卓越した学術的伝統の下、人類学の研究に携わるすべての人々に対する支援と、人類学への普及と貢献を使命としてきました。その活動は定期刊行物の発行、大英博物館 人類学図書館との特別提携、ビデオ図書館や写真コレクションの所蔵、卓越した学術成果の表彰、講演や会合の企画、研究支援のための信託基金運用と多岐に亘ります。同協会発行の学会誌の7割が英国外で購読されていることは、同協会の国際的な影響力の高さを示しています。

英国王立人類学協会アーカイブとは

150年の歴史の中で英国人類学協会が蓄積してきた100万ページ以上のアーカイブ資料は、長らくロンドンの協会を訪れた人のみが利用可能な状況にありました。この比類なき価値を持つアーカイブを分類し、普及させるべく、同協会はWileyと提携し、Wiley Digital Archivesとしてそのコレクションを電子化・保存し、世界中の研究者にアクセスする機会を提供することになりました。

協会の活動を記録する本コレクションは、未知の歴史的文脈において新たな側面から研究を活性化させることを可能にします。

アーカイブ概要:

  • 収録年代:1837年~1967年(協会創設は1871年ですが、それ以前の協会のルーツまで遡ります)
  • 収録ファイル数: 36,100点
  • コンテンツの言語: 99%以上が英語、一部フランス語、ドイツ語、イタリア語、サモア語
  • 資料の種類:運営記録、書簡、データ、エフェメラ(チラシ等)、フィールド記録、灰色文献、図版、イラスト、手稿、地図、モノグラフ、パンフレット、定期刊行物、私的文書、写真、会議録、報告書 他多数
  • 取扱分野:人類学、考古学、植民史、文化研究、舞踊、民族学、地理学、ジェンダー研究、地域研究(アフリカ、東アジア、中東、ラテンアメリカ、カリブ海地域、インド、パキスタン、太平洋地域) 他多数

収録コレクションのご紹介

本アーカイブには、考古学から地理・地域研究の歴史的側面まで、広範かつ多岐に亘る学際的な資料が収録されています。ここでは、その中からいくつかユニークなコレクションをご紹介します。

Arthur Bernard Deacon Collection(1910年 – 1976年)

南太平洋のバヌアツ群島は、独特の絵⽂字⽂化「砂絵」で知られています。砂絵は地⾯の上に指⼀本を使って直接描かれ、複雑かつ優雅な幾何学模様で構成されます。砂絵は単なる絵画ではなく、⽂字と同様に、知識や⽂化を継承するためのコミュニケーション⼿段として発達し⽤いられてきました。しかし、砂絵はその性質上、⽉⽇とともに消えてしまい、記録として原形を保つことができません。

1926年にバヌアツを訪れた英国の⼈類学者Arthur Bernard Deaconは、住⺠に聞き取り調査を⾏うとともに、砂絵を忠実なスケッチに残しました。RAIにコレクションとして保管されていたこれらの記録は、バヌアツの⽂化・伝統を後世に伝える⼈類学上の⼀次資料として⾼い価値が認められ、2013年に世界的に重要な記録物を顕彰するユネスコの事業Memory of the World(世界の記憶)に登録されました。Deaconのスケッチは、バヌアツ群島に住む人々の文化遺産に対する意識を変え、住人自ら伝統を継承していこうとする取り組みに大きく貢献したとして、ユネスコに高く評価されています。
現在でもなお、そのスケッチは「砂絵」の描き方の手引書として、住人たちの間で重要な役割を担っています。


Deaconが残した「砂絵」のスケッチ

Photographic Library

歴史写真、ネガ、スライド、描画、絵画など、125,000点を超える膨大な図版を収録しているコレクションです。古くは1860年代まで遡ります。文化年代記や地誌学など、広範囲なトピックをカバーしている本コレクション資料は、文化人類学研究にとって重要であるばかりでなく、文化、地域、視覚研究にもご活用いただけます。


タイトル<Row of carved rocks>


タイトル<A group of Ainu stand in front of a hut in winter with animals. Ainu village of Jakue>


タイトル<Distribution and Line of Movement 1800 – 1810/S. African Migration 1800-1810>


タイトル<Inside factory, mill>


左図:タイトル<Chinese Bell>
左図:タイトル<The Ostrictin S. Westen Asia: A Furcher H Field

Edward Horace Man Collection

植民地担当としてベンガル湾沖のアンダマン諸島に着任したEdward Horace Man(1846-1929)は、文化人類学に興味を持ち、アンダマン諸島、ニコバル諸島の言語や文化を細かく記録しました。本コレクションには、aka-bea-da部族の現在絶滅している言語に関する研究、植物学を含む様々な主題、新聞の切抜、私的文書、描画やガラス版のネガを含む写真アルバム2冊も含まれます。


南アンダマン諸島の原住民が話す言語の語彙を記した手稿


アンダマン諸語の文法に関する手稿

Alfred Gell Collection

英国の社会人類学者Alfred Gell(1945-1997)の資料コレクションです。Gellは、人類学の芸術、言語、象徴や儀式などの分野に大きな影響を与えたとされています。本コレクションには、彼が残した記録、ノート、写真、草稿、フロッピーディスク保管ファイルが含まれています。


Umda語の特徴を記した手稿

本アーカイブにはその他にも多彩なコレクションが収録されています。以下はその一例です。

  • Archive Collection(1863-1967?)
    協会の歴史やビジネス的な側面を記録するアーカイブ資料、手稿等。
  • Manuscript Collection(1760-1967?)
    文化人類学者が作成した資料や文化人類学関連の資料等、協会外部から入手した手稿コレクション。
  • William Buller Fagg Collection
    民族美術、特にアフリカ美術の専門家で協会の名誉幹事だったWilliam Buller Fagg (1914-1992)関連コレクション。アフリカ以外の地域研究や、旅先の記録も数多く含む。
  • Lindgren Scientific Papers(1938-1949)
    英国の文化人類学者、教育者Ethel Lindgren(1905-1988)の文書コレクション。
  • Peter Morton-Williams Collection
    英国の文化人類学者Peter Morton-Williamsによる写真、フロッピーディスク保管ファイル、その他の文書コレクション。
  • Rosemary L. Harris Collection
    英国の文化人類学者、教育者Rosemary L. Harris(1930-2015)関連コレクション。

文化人類学の一次資料の宝庫、Royal Anthropological Institute of Great Britain and Ireland を教育、研究現場で是非ご活用下さい。

次回はニューヨーク科学アカデミー・アーカイブ(New York Academy of Sciences)について詳しくご紹介いたします。

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(紀伊國屋書店 データベース営業部 藤村)
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