人文社会系研究

初期近代イギリスの信仰と超常現象:幻影、彗星、奇跡、怪異のニュース ~Early English Books Onlineより~

2019.02.15

15~17世紀のイギリスの大衆向け出版物から、様々な超常現象の出現を告げるニュースの一部をご紹介します。幻影、奇跡、彗星、あるいは怪談じみた奇妙な出来事を知らせるこうした印刷物では、しばしば、超常現象が神のなんらかの意志のあらわれとして解釈されており、当時の人々の信仰の一面が伺われます。

※当記事でご紹介する史料はすべて17世紀以前のイギリスの印刷刊行物を網羅的に収録するデータベースEarly English Books Online (EEBO)の収録コンテンツです。

幻影

左:”天からのしるし、1646年5月21日午後にケンブリッジとノーフォークの空中に現れたいくつもの幻影-帆を揚げた艦隊、上下に転がる鬼火、剣を持って格闘する3人の男、指輪のように丸く穴の開いた大きな雹、空中に響く奇妙な太鼓の音、地上からそびえたつ尖塔のような雲の柱と、天から降る槍-両カウンティの信用できる人々から届いた複数の手紙から”(1646)
右:”恐ろしい2つの軍勢の幻影とともに空中に現れた素晴らしい燃える星”(1681)

幻影の出現を告げるニュースです。太陽が3つ現れて地震が起きた、不思議な音が何日間も空中に轟いた等、こうした記録はこのほかにも多く残されています。

彗星


左:”1664年1月12日から数日にわたり、オーストリアの内陸、Rackelsburg、Czackenthurnに隣接するクロアチアの一部で午前2時から3時にかけて観測された素晴らしく燃える新しい星の報告”(1664)。
右:”1677年にハンブルクの北東に出現した新しい彗星、あるいは火球の正確な報告、およびキリスト生誕以降の注目すべき彗星の解説とそれがもたらした危険な結果”(1677)。

左の例は1664年に東欧に現れた彗星のニュースで、彗星を神の怒りの啓示、戦争の前触れとして報じています。13年後に出版された右のニュースでも彗星の出現は不吉な前兆とされ、古代の記録にまでさかのぼって、過去に観測された彗星とその後に起きた飢饉や地震、洪水、ペストの流行、戦争などが事細かに列挙されています。

奇跡

左:”ドイツのハルバーシュタットの町から2マイル離れたところで、1646年3月、通学の途上で若者が素晴らしい泉を発見し、この泉の水を使った人々は神の奇跡と祝福によってごく短期間に病気が治癒した。その250名の人々の病名、病気にかかっていた期間、出身地・居住地のリスト”(1646)
右:”奇跡の子供、マンチェスターからの素晴らしい知らせ-チャールズ・ベネットは3歳(1679年6月22日当時)にして一度も習ったことのないラテン語、ギリシア語、ヘブライ語を話し、聖書に関する質問すべてに見事に答えた。彼は今、王に拝謁させるために養育されている”(1679)

神の恩寵としての奇跡の出現を告げるニュースです。

怪異


左:”ドイツからの奇跡の知らせ:先の9月20日(1616年)、3つの死体が墓から起き上がり、最後の審判の訪れを警告した”(1616)
右:”安息日を破った者たちに下った神の裁きの実例―安息日を破る者は石打ちで殺され、神はその魂を滅ぼす。安息日に氷上でフットボールをした若者が全員溺死、糸紡ぎをした母娘が全員焼死、粉屋の家と工場が全焼…例26、オクスフォードの肉屋バリー・ホークスは排水溝を直すために手斧とスコップをもって作業場に入った。安息日なので妻はバリーを思いとどまらせようとしたが、彼は仕事を終わらせるのだと言って作業をした。そして溝の中で突然の死に見舞われ、仕事と人生を同時に終わらせた。…” (1671)

右の例は、安息日に労働やスポーツ、ダンスをした人に下った神の裁きの44もの実例を事細かに紹介する大判の片面刷です。安息日を守るように諭す趣旨のものですが、「神の裁き」の例を見ると、ほとんどが事故死や殺人、急死という形で語られており、突然死も天災と同様に神の意志のあらわれと捉えられる場合があったのかもしれません。