人文社会系研究

連載:風俗画報でみるロイヤル・ウェディング

2017.10.31

Web版 風俗画報は、ジャパンナレッジが提供する電子書籍プラットフォームJKBooks上で、我が国最初のグラフ雑誌「風俗画報」を提供するデータベースです。明治22(1889)年創刊、518冊からなる「風俗画報」は、わが国最大の風俗研究誌としても知られています。

風俗画報に掲載されている図版を、センゲージ ラーニング社Galeのデータベースに搭載された欧米の図版資料と比べながらご紹介する本企画、今回はおめでたい話題を取り上げることにしましょう。

風俗画報の特集号にはいろいろなイベントについて書かれたものがあり、その中に結婚式に関する特集号が何号かあります。今回はその中から第211号(明治33年6月15日)「皇太子殿下御慶事千代乃祝」をご紹介いたします。

記事文中では皇太子殿下という言葉を使っていますが、後の大正天皇の結婚式に関する特集号です。発行元の東陽堂も、この特集号にとても力を入れており、前号の210号には下左の図のような予告が出されました。

そして出された特集号「皇太子殿下御慶事千代乃祝」は、予告通り多数の図と写真を掲載、通常号の倍くらいのページ数になっています。特に、写真がこれほど多く収録された号はそれまでにはありませんでした。下右の図のように、表紙には皇室や九条家の家紋である菊や桐、下がり藤があしらわれています。

左:「皇太子殿下御慶事千代の祝」予告 風俗画報 第210号(明治33年5月10日)
右:「皇太子殿下御慶事千代乃祝」表紙 第211号(明治33年6月15日)

 

当時、皇太子殿下は21歳、皇太子妃は15歳だったそうです。皇太子妃は公爵九条道孝の四女で、九条家からは、それまでにも皇太子妃の伯母にあたる英照皇太后などが皇室に嫁がれています。

御肖像 第211号(明治33年6月15日)

それまで皇室の結婚式に関する規定が無かったそうで、このとき新たに「皇室婚嫁令」が制定されました。この法令は現在でも皇族の方が参照され、ここに載っている儀式を行っておられるそうです。先日婚約内定を発表された眞子さまも同様の手続きを経るそうですから「皇室婚嫁令」も再度注目されることでしょう。

この結婚式のもたらした影響はとても大きく、神前で結婚式を挙げるスタイルが普及したのはこの結婚式がきっかけだと言われています。日本での結婚式に対する考え方を大きく変えたともいえるでしょう。

皇太子殿下、皇太子妃皇室婚嫁令 皇太子殿下御慶事千代の祝 第211号(明治33年6月15日)

こちらの図は、結婚式当日の様子を描いたものです。皇太子殿下、皇太子妃それぞれが馬車に乗って参内されました。文中に書かれている馬車の装飾や列の警備員の様子などから察すると、下の図は皇太子殿下の参内の様子のようです。右上には宮中の賢所での挙式の様子と、明治天皇、皇后両陛下との対面式が行われている様子が描かれています。皇太子殿下、皇太子妃の衣装についての記載があり、対面式の際に皇太子妃は「マント・ド・クール」という礼服をお召しになったと書かれています。

〈図〉鶴祥亀瑞 皇太子殿下御慶事千代の祝 第211号(明治33年6月15日)

次は賢所で挙式をあげられた時の服装です。「我国中古の御盛装を用いさせ給いたるぞ」と書かれている通り、お二人とも古式ゆかしい服装をお召しになりました。皇太子妃殿下は十二単をお召しになっていたそうです。

東宮御婚礼御書使及三日夜餅具之図 皇太子殿下御慶事千代の祝 第211号(明治33年)

平安時代の儀式を取り入れた、「三日夜餅の儀式」で使われた用具の図も載っています。

東宮御婚礼御書使及三日夜餅具之図 皇太子殿下御慶事千代の祝 第211号(明治33年)

この後、御杯式や宮中での祝賀式が行われました。宮中の装飾がすばらしく、人々を大変驚かせたとの記述もあります。

しばらくして両殿下は三重、京都、奈良への行啓に向かわれます。次の記事ではそのスケジュールと供奉員(おつきの方)の名前、人数が載っています。さすがの大人数です!

三重京都奈良地方へ行啓 第211号(明治33年6月15日)

皇太子殿下婚儀後初めての行啓の目的は、伊勢神宮・神武天皇陵などへの結婚奉告だったそうです。京都では博物館や京都大学、大学病院も訪問されました。京都大学では講義をお聞きになったり図書館を訪ねたりされました。また訪れた大学病院では患者さんに病状をお訊きになり、患者さんが感激のあまり涙したという一幕もあったそうです。このようなエピソードは当時の人達にとって「新しい皇室像」を感じさせるものだったのではないでしょうか。

京都帝国大学其他へ行啓 風俗画報 第211号(明治33年6月15日)

今回は結婚式の内容とその後の行啓についてご紹介しましたが、この特集号では日本各地、世界各国の反応も多数紹介しています。次回は、人々がこの結婚式をどんなに喜びお祝いしたかを図版や写真を中心にご紹介します。是非ご期待ください。

また小社で刊行中の「大正天皇実録 補訂版 第一 明治一二年〜明治三三年」にもこの結婚式について詳しく書かれております。是非こちらもお手にとってご覧ください。

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