図書館をつくる

OCLC News APRC特別号

2018.02.16
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 OCLC News APRC特別号
商品情報をはじめ、OCLCに関する様々な情報をご案内致します。
今号はAPRC特別号として、佛教大学・飯野勝則様に、昨年11月末に早稲田大学で開催された
OCLC アジア・パシフィック地域(APRC)会議のご感想やご提言をご寄稿頂きました。

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目次

  1. 東京文化財研究所の美術文献目録がWorldCatで検索可能に

日本からの学術情報の発信をどう考えるか~OCLCアジア・パシフィック地域会議を踏まえて

佛教大学図書館専門員 飯野勝則

2017年11月29日と30日の両日、筆者は早稲田大学国際会議場で開催されたOCLC アジア・パシフィック地域会議2017(以下、APRC)に参加する機会を得た。APRCは、その名の通り、アジア・パシフィックに位置するOCLCの会員館が一同に会する「地域会議」であり、2009年から各国持ち回りの形式で毎年開催されている。東京では実に2010年以来、7年ぶり2度目の開催ということになる。

このAPRCのプログラムであるが、さすが「アジア・パシフィック」と銘打っているだけのことはある。日本を始め、香港、タイ、果てはニュージーランドに至るまで、アジア・パシフィックの図書館に特化した事例報告がふんだんに用意されており、実に飽きることがない。とくに普段はなかなか知ることができない隣人の有り様を理解することができたという点で、相当に満足のいくものであった。

中でも、筆者がとりわけ興味深く感じたのは、「Connecting Regions with Global Infrastructure」というテーマで行われたセッションである。地域ごとに作成されるメタデータをどのように世界で共有していくのか、そのために地域は、そしてOCLCは何ができるのかという点にフォーカスした、さまざまな国の総合目録サービスを軸にしたプレゼンテーションは、各国が直面する実情が異なるとはいえ、実体験として頷ける部分も多々あった。

プレゼンテーション “Connecting Regions with Global Infrastructure”
(Axel Kaschte, Product Strategy Director, OCLC EMEA)より
(※画像をクリックすると、プレゼンテーションがダウンロードできます。上記タイトルのリンク先と同じ。)

思い返せば、日本の場合、CiNii Books―あるいはNACSIS-CATと言うべきか―において、全国規模の大学図書館にフォーカスした総合目録サービスが実現されている。そこでは、日本独自のメタデータフォーマットやCJKの統合インデックスを採用することで、日本国内の需要に適応したサービスが提供されている。もちろん、このような自国の利用者に特化した総合目録サービスを提供するということは、日本に限ったことではない。さまざまな国々で同様の環境が構築されている。一方で、世界の学術情報は共有化を進めることが求められている現状を考えると、各国の事情に応じて構築された総合目録サービスをいかに結びつけ、共有化するのかを検討することは確かに大切なことなのだ。

ではどのような方法をとるべきなのか。

例えば、考え方のひとつとしては、各国の総合目録サービスをさまざまな水準から統一化、均質化させるという方法がある。そうすれば、そこから収集したメタデータは必然的に同質になり、全世界的な総合目録サービス―WorldCat―で共有化する際の手間は著しく軽減される。だがこの方法は、各国で長年にわたり積み重ねられてきた情報資源としてのメタデータや、そのフォーマット、果てはシステムにまで、仕様の変更求めるという点で、ハードルは高くなる。正直なところ、全ての国でこの考え方が受け入れられるとは考えにくい。

もうひとつの考え方は、各国の総合目録サービスの独自性を維持しつつ、そこから収集したメタデータを国ごとに準備された何らかのフィルタを通して、統一的に整形し、WorldCatで共有化するようなアプローチである。この場合は、共有化のための対応作業の多くはOCLC側での対応となり、各国の負担は幾分か軽減されるというメリットがある。

今回の分科会でOCLCが提案してきた新たなソリューションは、後者に基づくものであった。OCLCの担当者の言を借りれば「グローバル化とは均質化を意味するものではない」とのことだが、これは実に言い得て妙な表現であり、個人的には非常に共感できるものがあった。一般論として、こういった多様性を担保できるような仕組みであれば、世界的な枠組みの中でのメタデータ共有のハードルは下がり、学術情報の流通は進みやすい環境となる。とくに西洋言語とは異なる文字環境が支配的なアジアの国々にとっては、大きなメリットがあるだろう。

プレゼンテーション“Connecting Regions with Global Infrastructure”
(Axel Kaschte, Product Strategy Director, OCLC EMEA)
より

話は少々逸れるが、筆者は世界的な視点で見た場合の日本の学術情報の発信、共有状況に大きな懸念を抱いている。近年、日本を含めた世界各国の大学図書館では、「紙」や「電子」といった形態に関わらず、あらゆる学術情報資源を網羅的に検索できる「ウェブスケールディスカバリーサービス」が広く使われるようになった。とくにウェブスケールディスカバリーサービスの先行地域である欧米においては、図書館の検索ツールとして、従来型の蔵書検索―OPAC―に代わり、デファクトスタンダードになりつつある。実際のところ、クラウドサービスにより提供され、Googleのように全ての利用館が同一の「セントラルインデックス」を用いて検索を行うというウェブスケールディスカバリーサービスは、これから研究を志そうという初学者にとって、非常に利便性が高い。それゆえ、欧米の大学においては初学者を中心に幅広い支持を得ているサービスとなっている。

ところがウェブスケールディスカバリーサービスにおいては、日本語、いや日本の存在感が著しく希薄である。例えば、このサービスを用いて米国の大学図書館で「枕草子」と検索すると、検索結果の上位が中国語の学術文献で占められるということは珍しくない。そこにはさまざまな理由があるため、ここでは触れないが、それがために日本研究を志した学生が、情報の入手しやすい他国の研究に宗旨替えするようでは、日本にとって大きな損失になりかねない。日本の学術情報の発信は他国に比べ、確かに遅れをとっているのみならず、現実にさまざまな負の影響をもたらしているのである[i]。無論この問題は、今回のOCLCのセッションと直接結びつくものではなく、すぐに解決できるような内容でもない。だが、今回のセッションに関わる部分においても、これに類する懸念材料が存在することは知っておくべきだろう。

例えば、WorldCatについて考えてみよう。この全世界的な総合目録サービスにおける日本語の図書の登録数は、CiNii Booksに比べて相当に控えめである。国立国会図書館のデータが提供されているとはいえ、日本国内の大学図書館の蔵書に関わる情報は決して十分なものではない。確かにWorldCatは日本国内の多くの大学図書館にとって、重要性の高いツールではないのかもしれない。しかし、海外の大学図書館においては、広く受け入れられているツールでもあり、ここでの日本の学術情報の存在感が相対的に小さいという状況には、筆者としては、幾許かの懸念を感じざるを得ないのだ。

そういう意味では、今回のソリューションの適用云々は別にしても、WorldCatとCiNii Booksの間での連携が強化できれば、必然的に海外に対する日本の学術情報の発信が強化されることになり、かかる懸念の払拭につながることは確かである。もちろんそれは所蔵館における新たな業務をもたらす可能性のある事象でもあり、一筋縄ではいかないだろう。しかし、WorldCatはウェブスケールディスカバリーサービスと同様に、海外において、将来の知日派を増やしていく源泉となり得る存在だけに、将来への影響を鑑みても、検討する価値は十分にあるのではないだろうか。

「巨人の肩の上に立つ」という言葉が意味するように、我々は巨人、すなわち先人たちが蓄えた膨大な知識の姿を正しく捉えることで、初めて新たな知見や発見を生み出すことができる。さすれば当然のことだが、図書館員として、「車輪の再発明」をもたらしかねない環境をただ見過ごすことや、その状況に甘んじることは到底許されないだろう。言うなれば、世界のどこに蓄えられた知識であっても、それを必要とする人に手元に正しく届けることのできる環境を担保すること、それが図書館に勤めるものの責務であるように思うのである。筆者にとって、今回のAPRCは図書館員として今後なすべきことは何かを改めて考えるきっかけとなったという点で、実に意義深いものであった。

OCLCのミッション “Because what is known must be shared.®”

なお、ひとつだけ残念な点を挙げるとしたら、日本国内にいながら、グローバルな知見を得られる貴重な機会であったのにも関わらず、日本国内の大学図書館からの参加者がさほど多くなかったことである。OCLCやWorldCatの存在感が日本ではさほど大きくないこと、またAPRCへの参加申請にあたって、日本の図書館セミナーなどでは、あまり馴染みのないレジストレーション・フィーなどが必要とされたことなど、さまざまなマイナス要因があったことは確かであるが、この状況はあまりにも惜しい。APRCは世界各国の図書館員と交流でき、海外の実情を知ることが出来る貴重なチャンスでもあるのだ。何年後かは分からないが、日本で再度APRCが開催される際には、日本の大学図書館が多数参加できるような状況になってほしい。心からそう願う次第である。

[i] 飯野勝則. 海外日本研究に忍び寄る危機―学術情報サービスの視点から.リポート笠間. 2017, (61).  http://kasamashoin.jp/2016/12/61_2016314231.html, (accessed 2018-01-31)

各国からの参加者 集合写真

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