図書館をつくる

OCLC News 特別号

2018.06.12

OCLC News 特別号
商品情報をはじめ、OCLCに関する様々な情報をご案内致します。
今号は特別号として、国際日本文化研究センター・江上敏哲様に、
海外の研究者支援、日本から海外への発信の重要性などをテーマにご寄稿頂きました。

日本からの学術資料の提供をどう実践するか :
国際日本文化研究センターによるOCLC参加の取り組みから

江上敏哲(国際日本文化研究センター資料課資料利用係長)

吉宗のゾウと、学術資料の活用

2018年5月、国際日本文化研究センターで開催された国際シンポジウム「世界の中の日本研究」の中で、近世の日本-ベトナム間の交流史に関する発表がおこなわれた。ベトナム国家大学の研究者である登壇者は、享保13年(1728)八代将軍吉宗の頃にベトナムから渡来したゾウについて、それまでの研究の多くが日本国内の資料を対象にしたものであると指摘。当時のゾウ貿易の実態を明らかにするため、日本の資料だけでなく、ベトナム人の記録、フランス人の記録などを横断的に確認し、ゾウの日本への輸送費用がベトナム国内での取引の700倍以上にあたったのではという説を提示した。登壇者はこのほか、松阪木綿のルーツがベトナムにある可能性もあるとして、様々な資料調査やフィールドワークに取り組んでいることも紹介し、資料調査にも研究方法にも国境やディシプリンを越えた連携・共有が重要である、と提言している。

「象之図」(国立国会図書館所蔵 info:ndljp/pid/2543109

この例に限らずあらゆる分野の研究において、共同研究や連携・共有の重要性が認められ、国際化や学際化の流れが求められている。研究活動を支援するための図書館・データベース・学術情報機関などのインフラも、それに応える姿勢がなければならない。国や分野やメディアのボーダーをのりこえて、必要な人に必要な資料・情報を届けるには、何が必要だろうか。
その答えのひとつとして、国際日本文化研究センターでは2018年より、OCLC WorldCatへの目録情報の登録、およびOCLC WorldShare ILLへの参加による海外ILL(InterLibrary Loan、図書館間での貸借)/
DDS(Document Delivery Service、文献複写の提供)の本格的な受付を開始した。

海外の学術資料ユーザと、その届け方

海外には、日本について専門に研究する研究者や、日本と関わる職業に就く専門家、日本に興味を持ち大学で学ぶ学生などがいる。彼ら/彼女らが日本に関する研究成果をうみだすなど、何らかのアウトプット・発信をしていくことで、世界における日本理解が深められていくことになる。そういう意味では、その支援は日本自身にも影響が及ぶ問題であると言えよう。
さらに言えば、日本の資料・情報を必要とするのは、必ずしも日本を”専門”とする人たちだけとは限らない。かつての「地域研究」はある特定の国・地域に焦点をあてるやり方をとっていたが、昨今では互いに融合・協力したり広い視野で見渡したりする研究手法がとられる傾向にある。渡来したゾウの研究のように複数地域の資料・情報を横断的に調査することもある。共同研究やプロジェクトとして学際的・グローバルな研究が行なわれる場合、他分野・他地域の専門家が研究の過程で日本”も”対象に含む、視野に入れることになる。また、特定地域を専門としない社会科学・自然科学等の分野で”対象”として日本を(日本”も”)扱う、ということもあるだろう。
日本の資料・情報の届け先であるユーザは、このようなさまざまな事情–国、言語、業種、専門分野、研究方法–を抱えていると考えられる。したがって、日本のことをよくわかっている、日本での文献探索や情報収集に精通しているという、一部の専門家だけがリーチできるような資料・情報のインフラ整備の仕方は、決して良いやり方とは言えない。日本国内の資料・情報を集中的に検索できる国立国会図書館サーチ
CiNiiなどは非常に有用なツールであることはまちがいないが、それでも、他の地域・言語の資料とつながるような横断的な文献探索ができるか、日本と関係の遠いユーザの視界にまでそのデータが流れ込んでくるか、という点においては困難も多い。

OCLCの働きと、日本からの参加

OCLC (Online Computer Library Center) は、非営利・メンバー制で運営されるライブラリーサービス機関であり、世界中の図書館にさまざまなサービスを提供している。アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど、世界170以上の国/地域から、図書館・大学・研究機関など72,000以上の機関が参加している。扱われる資料の言語や所在地も多岐にわたっており、各国の国立図書館がデータを提供するなど、書誌ユーティリティとしても図書館サービス機関としても世界最大の規模を誇る。世界中の研究機関や研究者が活用しているこのOCLCは、さまざまな国・言語・分野のユーザ、特に日本が専門というわけではない、日本の文献探索に精通していないようなユーザに、資料・情報を容易に見つけてもらい、スムーズに届けることができるグローバルなインフラとして、非常に適していると言えよう。

北米日本研究資料調整協議会webサイトにリストアップされた日本のOCLC ILL参加館
http://guides.nccjapan.org/illdd

だが残念ながら、OCLCへの日本からの参加(目録情報の登録、ILL/DDSの受付など)は非常に少ない。現在も、国立国会図書館や早稲田大学等のごく一部の参加にとどまっており、国立大学等の参加はこれまで皆無であった。また、日本の大学図書館がOCLCを通してILL/DDSサービスを提供するGIF(Global ILL
Framework)というプロジェクトがあったが、2018年3月で終了してしまった。海外の日本研究者や図書館司書からは、日本からの情報発信や資料提供を求める声が多く上がっている。

国際日本文化研究センターによる研究協力の取り組み

国際日本文化研究センターは、日本の文化・社会についての研究、特に海外の日本研究者・学生による研究活動を支援する機関である。1987年に国立の大学共同利用機関として設立され、現在は独立行政法人として、専任教員・研究者・大学院生(総研大博士課程)50名ほどが在籍している。センターにおける研究協力活動として、海外からの研究者の受け入れ、海外でのシンポジウム等による研究交流などがある。また、図書館による資料・情報の提供もそのひとつである。在籍する研究者や国内の研究者だけでなく、文献調査やフィールドワークを行なうために来日する海外からの研究者・学生に対しても、図書館において支援すべきユーザとしてサービスをおこなっている。

国際日本文化研究センター図書館

『見てわかる日文研30年の歩み』から (クリックで拡大表示)

国際日本文化研究センター図書館では、これまでも海外からのILL/DDSリクエストを受け付けてはいたものの、件数としてはごく少数でしかなかった。前述のGIFに加盟する、特定大学と提携する、英文案内を整備する、国際会議で広報するなど、海外ユーザの支援を意識しての努力は適宜おこなっていた。しかし、そもそも目録情報を日本のデータベースでしか検索できず見つけづらい、リクエストのやりとりがスムーズでない、支払方法に難があるなど、ハードルが多く、決して有効に機能していたとは言えなかったのが実情である。
このように手薄だった海外ILL受付体制を抜本的に改善し、日本からの情報発信と資料提供という海外への研究協力機能を強化するべく、国際日本文化研究センター図書館では2016年からOCLCへの参加を具体的に検討し始めた。検討段階においては、こちらの要望と不安に真摯に向きあってくださった日本側代理店である紀伊國屋書店OCLCセンターのみなさんや、わざわざ来館の上ミーティングの機会をとっていただいたOCLC EMEAのみなさん、また北米やヨーロッパ等の国際会議の場での面談やミーティングで多くの教えをいただいた各国の司書・研究者のみなさんに、ここであらためて感謝申し上げたい。特に、今回のOCLC参加の取り組みおよび情報発信・資料提供の強化は、北米・ヨーロッパにおける各種会議に参加し海外の司書・研究者からフィードバックやアドバイスを得たことから生まれた成果である、ということもまたあらためて強調しておく。

OCLCで実現した、情報発信と資料提供

国際日本文化研究センター図書館によるOCLC WorldCatへの目録情報の登録、およびOCLC WorldShare
ILLへ参加しての海外ILL/DDS受付開始は、いずれも日本の国立大学・大学共同利用機関等では初めての試みである。これらによって、以下のような効果が期待される。

  • 海外で広く使われている総合目録データベースであるWorldCat上で、世界の研究者から当館の所蔵資料やデータベース画像が見つかりやすくなる。
  • 海外の図書館で広く使われているILLシステム(56ヶ国・1万館以上・年間700万件)によって、世界の研究者が所属機関を通じて当館所蔵の日本関係資料を利用(貸借・文献複写)できるようになる。
  • 日本からの情報発信・資料提供を強化することで、世界の日本研究推進に大きく寄与することができる。
  • 海外の研究者における国際日本文化研究センターのプレゼンスを向上させ、センターとしての研究協力・海外交流の意義を可視化することができる。

これらは海外の図書館・研究者にとっても国際日本文化研究センターにとっても、どちらにも利益のある取り組みであったと言える。

OCLC WorldCatへの目録情報の一括登録は、2018年1月にひとまず完了した。国際日本文化研究センターが所蔵するほぼすべての図書・雑誌の書誌レコード約30万件について、NIIの個別版データをOCLCが
MARC変換し、さらにヨミ等のローマ字を一括付与したうえで、OCLCのCBS (Central Bibliographic
System)に登録した。30万件のうち約17万件が今回OCLCに新たに登録された新規書誌であるという。これにより、web公開されているWorldCat.orgやWorldCat Discovery上で当館所蔵資料がヒットするようになり、さらにリンクをたどることで当館OPACや画像データベースへもたどりつくことができるようになった。今後は、毎年の新規レコードをどのように追加していくかが課題となる。
またOCLC WorldShare ILLによる海外からのILL/DDSリクエスト受付は、2018年4月より本格的に開始した。WorldCat上で当館所蔵資料を見つけた海外のユーザは、現物の借り出しや複写の送付をオンラインでリクエストすることができる。依頼は現時点(2018年5月末)で月あたり10-20件程度であり、担当者の業務負荷が大幅に増えているということはない。料金・送料等のやりとりにはOCLCの送金処理代行プログラム「IFM(Interlibrary-loan Fee Management)」が用いられ、日本側代理店である紀伊國屋書店の仲介により、国際間送金の手間・手数料を大幅に軽減できる。また、絶版本など紛失・破損で失われては困る資料については、著作権法第31条にもとづき複写をもって代替するなど、できるだけ依頼者のリクエストを満たす提案をおこなっている。一方で、資料を所蔵していない、同じ資料が自国内にある等の理由で謝絶することも多く、知見の共有や課題解決のための連携が今後継続的に必要であろう。

国際日本文化研究センターによるOCLCでの目録情報公開および海外ILL受付は、とりあえずは順調なスタートを切った。とは言え、当館所蔵資料だけでは海外からの幅広いリクエストを充分にまかないきれるというわけでもなく、さらに多くの日本の大学・研究機関にも同様に参加していただき、海外の日本研究者を支援する援軍となっていただく必要がある。今後は、当館で得られた目録登録・ILLに関する知見を国内・海外で広く報告・共有し、さらなる参加館の増加に寄与していきたい。

 


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