自然科学

ニューヨーク科学アカデミーの環境問題への取り組み ~Harbor Projectを例に~

2020.01.09

温暖化が進み、世界各地で異常気象が勃発する今日、地球環境問題は一刻の猶予も許されない問題となっています。一方でアメリカではトランプ政権下で環境規制の見直しが行われていますが、科学者はそのような動向に警鐘を鳴らしています。

ニューヨーク科学アカデミーが2000年から2008年まで携わった水質浄化プロジェクト(Harbor Project)は、この問題に取り組む際の貴重な資料になります。 ここでその内容を俯瞰してみます。

(ニューヨーク科学アカデミーは1817年の創設以来、200年以上に渡り科学研究、教育、政策提言を進めてきました。ジェファーソン大統領やエジソン、ダーウィンを始め影響力の強い人物、さらに34名ものノーベル賞受賞者が参画してきました。 世界の科学界でも最も重要な組織の一つと言えますが、これまで未整理のまま保管されてきた同アカデミーの歴史アーカイブがWiley Digital Archivesとして電子化されました。 コレクションの詳細はこちらをご覧ください)。

 Wiley Digital Archivesで検索したアーカイブ内のEnvironment、Water、Pollution、Wasteの出現回数データ。

Harbor Projectの影響で1990年代後半から出現回数が増加。アメリカでは1970年に活動を開始したEnvironmental Protection Agency(環境保護庁)や1972年のClean Water Actを軸に環境問題への対応が進みました。1987年のモントリオール議定書で採択されたフロン規制はオゾン層保護に貢献しました。

ニューヨーク科学アカデミーも環境問題を重要課題と捉え調査や政策提言を推進。 そのようななか、アカデミーは1997年に環境保護庁からニューヨーク・ニュージャージーの河口の汚染の分析と対策立案を委託されました。 これはHarbor Projectと呼ばれ、港内の汚染物質に関する専門報告書にまとめられました。 またワークショップ開催、汚染防止やリサイクルに関する一般向けパンフレット作成にも携わりました。

Harbor Projectの報告書やパンフレット

報告書ではカドミウムやポリ塩化ビフェニルなど汚染物質ごとに詳細な原因・対策分析が記述されています。 例えば鉛では歯科医院での利用が原因の一つですが、しかしさらに、ブルックリンのカリブ・南米系コミュニティで宗教儀礼の一環として鉛が使われ、下水に流れていることが分かりました。

ハドソン川河口の鉛の原因 比較チャート(Wiley Digital Archivesでは資料内の統計資料はExcel/CSV形式で抽出も可能です)

2008年のHarbor Project最終報告は環境保護庁の水質管理施策の基盤となり、アメリカの水質浄化に大きく貢献しました。しかし一方で最近ではトランプ政権が2019年9月に、オバマ政権下で制定された水質浄化ルールを撤廃する大統領令に署名。 見直し検討段階で50万件以上のパブリックコメントが届き、その大多数が撤回反対であったにも関わらずの行動です。

Harbor Project総括報告 2000年10月1日

環境保護へ向けた調査・施策推進のためにも、今一度Harbor Projectの貴重な調査資料を振り返ることが重要な時かもしれません。

 

(紀伊國屋書店 学術情報販売促進本部 大野)

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