彗星探査機ロゼッタ撮影、火星の色をとらえた画像。出典:欧州宇宙機関
数千年以上前、エジプト人は夜空をさまよっているような輝く赤い物体の存在に気づきました。それに魅了された人々は、星図や墳墓の天井にその天体を描きました。中国、ギリシャ、ローマとその他の古代の天文学者もまたこの赤い惑星をおいかけ、物語をつくり、数々の占星術的な力を持つと考えました。
宇宙探査機Mars 1を描いたソビエトの郵便切手
さらに近代に近づいても、人々は火星の魅力にとりつかれています。そこにはエベレストの3倍の高さをもつ火山、グランドキャニオンの4倍の深さを持つ峡谷といった驚くべき地形が存在しています。大規模な嵐により砂が、変化し続ける幻想的な砂丘を形成します。表面の温度は地球より華氏138度(摂氏59度)低く、大気は極めて薄いです。過去には液体の水が溜まり、火星の表面を横切って流れていましたが、現在では大部分が凍っています。
航空、宇宙、ロケット工学の多彩な国際的側面をとりあげた重要な文書を提供する新しいデータベース
1960年代以降、ロボットが火星探査を行い、データと画像を地球上の科学者たちに送り返してきたことから、我々はこれらすべてのことを知っています。1960年代から1990年代にかけて、CIAの一部門がこういった情報を記録する出版物や報道を監視、記録、英訳しました。今日、新たなテクノロジーによって人類を火星に送る(あるいは火星で生命を発見する)可能性がかつてないほど高まっており、これらの情報源は、ますます意味を持つようになっています。
1960年代初頭、ソビエトは惑星間宇宙ステーションMars 1を打ち上げた。出典:アメリカ航空宇宙局
本アーカイブ中の最初期の文書の一部は、ReadexのAeronautics and Space Flight: Global Origins of Modern Aviation and Rocketryの一部として電子化され、1962年11月に打ち上げられたソビエトの宇宙船、マルス1号の不運なミッションをとりあげています。ブカレストを本拠地とする定期刊行物Stintasi tehnoca(科学と技術)は、同月にマルス1号の使命を概説しています:
この約1トンの宇宙研究所打ち上げの主な目的は、宇宙空間での長期にわたる研究を行い、惑星間ラジオコミュニケーションを設置し、火星の写真を撮影、それらの写真をラジオを使って転送することにありました。
Aeronautics and Space Flight: Global Origins of Modern Aviation and Rocketryより
打ち上げから1年もたたないうちに、マルス1号は技術的な困難に直面し、通信が途絶えました。それでも宇宙開発競争の真只中に打ち上げは、次の火星到達に向けての試みが間を置かずに行われることへの道標となりました。1960年代が進むと、ソビエトの探査機は初めて火星の近くまで飛行し、初めて他の惑星の軌道に入ることになりました。
これらの功績に対するCIAの関心は、米ソ間の競争を確実に激化させ、おそらく冷戦を悪化させたものの、それとともに確実に惑星探査を加速的に進歩させることにもなりました。究極的には、この二大大国の火星に対する知識への渇望は、政治的な緊張の時期におけるたぐいまれな協力関係へと導きました。
例えば1971年、ソ連のマルス2号とマルス3号が火星の表面に初めて到達した際、アメリカの衛星マリナー9号と協力してデータを収集しました。1972年には、ロシアの新聞プラヴダは次のように報道しています:
「火星のまわりの軌道に、相互補完しあう科学機器を装備した米ソ双方の宇宙船を配置すること、長期にわたりそれらが同時に機能し、米ソの科学者間で情報交換を行うこと…実験遂行中におけるこれらのことが火星探査の顕著な進歩をもたらす有望な状況を提供しました。」
(The placing of Soviet and American space vehicles equipped with mutually complementary sets of scientific instruments into orbit around Mars, their simultaneous functioning over a long period and the exchange of information between Soviet and American scientists…during the performance of the experiment provided favorable conditions for making considerable progress in the study of Mars.)
Aeronautics and Space Flight: Global Origins of Modern Aviation and Rocketryより
実際に米ソの宇宙飛行士の提携は、火星に有人飛行船を送ろうとする最初期の真剣な計画の一部に拍車をかけました。「地球の隣の惑星でいわゆる太陽系内の熱帯生命居住可能領域に位置し、魅惑的なく磁石のように想像力を引き寄せる火星…その重力圏に我々を強力に惹きつけながら」(Mars, the neighbor of planet Earth, located in the so-called thermal zone of life in the solar system, draws the imagination like an alluring magnet…powerfully absorbing us in the field of its own gravitation,)と、S. Leskovは1987年にKomsomolskaya Pravda紙に記しました。さらにLeskovは、米ソの指導的な科学者のデジタル会談について述べ、以下のように続けています:
「既に夜もふけているが、疲れるどころか、前代未聞の事業の可能性を信じ、議論は熱狂に包まれている…ソ連国民経済達成博覧会の宇宙パビリオンでの有名なソビエトの学会員、科学者、宇宙エンジニアたちをみてほしい。私は、彼らもまた、不可解な惑星の魔力にとりつかれたことを確信している。そして「スペース・ブリッジ」の反対側には、等しく熱狂した米国の宇宙飛行士や設計者たちがいる…その議論はソビエト連邦と米国の火星共同探査についてのものだ。」
(It is already past midnight, but instead of fatigue, it is enthusiasm that rules the discussion, faith in the possibility of an undertaking unheard of before….Looking at the famous Soviet academicians, scientists and space engineers in the Space Pavilion of the Exposition of Achievements of the USSR Economy, I am convinced that they, too, have fallen under the spell of the enigmatic planet. And on the other side of the ‘space bridge,’ the equally enthusiastic American astronomers and designers….The discussion is about a joint expedition of the USSR and the USA to the planet Mars.)
Aeronautics and Space Flight: Global Origins of Modern Aviation and Rocketryより
CIAアーカイブの他の文書では、人類の火星探査は、実現可能なだけでなく、目の前まで迫ったもののようにとらえています。「火星への有人飛行は、次の世紀の初頭に実現するだろう」(The flight of astronauts to Mars will take place at the beginning of the next century,)と、アメリカ航空宇宙局(NASA)の行政官Daniel Goldwinは1992年にうけあいました。
Aeronautics and Space Flight: Global Origins of Modern Aviation and Rocketryより
しかし冷戦が終結に向かうにつれて、米露の火星共同ミッションへの投資は減少していきました。「Mars-94計画は財政困難により再び中止の危機に陥っている。」(The Mars-94 project is again in danger of being cancelled because of financial difficulties)とモスクワのSegodnya紙は1993年に報道しました。技術面でのちょっとした障害や政治もこの計画を実現困難なものにした、と記事は付け加えています。
Aeronautics and Space Flight: Global Origins of Modern Aviation and Rocketryより
今日、人類を火星に送るという夢はまだ実現していませんが、そこに生命を発見する、あるいは生命の痕跡をみつける可能性はいまだに地平線にかすかに光っています。NASAのマーズ2020宇宙ミッションは、この惑星上に過去の微生物の痕跡を発見し、将来人類が着陸するために最も快適な状態を探し出すことを目的としています。また、「火星の人」(The Martian) のような本や映画が一般大衆の大きな関心を惹きつけてきました。近代において我々が火星になぜ魅了されてきたかをよりよく理解するべく、様々な分野の研究者たちが歴史や地政学をひもとく中で、1つのことは明確になっています:火星について知れば知るほど、我々の想像力はかきたてられるのです。
Aeronautics and Space Flight: Global Origins of Modern Aviation and Rocketryは、新しいOrigins of Modern Science and Technologyシリーズのユニークな5つのデジタルコレクションの1つで、各コレクションは文理両分野における情報の宝庫です。さらに詳しいことを知りたい場合は、紀伊國屋書店までお問い合わせください。
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Krista Langlois
(翻訳 紀伊國屋書店 書籍・データベース営業部)