図書館をつくる

これからの目録について ― 新しい目録の概念モデル ―

2020.03.19

はじめに

前回は、『日本目録規則2018年版』(以下NCR2018)ではFRBRの考え方に基づいて、資料を、著作、表現形、体現形、個別資料の4つに分けて捉えるようになったことをご紹介しました。この著作、表現形、体現形、個別資料は実体として扱われており、FRBRでは第1グループとしてまとめられています。それ以外にも、資料の成立に責任がある主体として個人・家族・団体という実体を設定していて、これはFRBRでは第2グループとしてまとめられています。資料の主題は概念、物、出来事、場所という4つの実体で、第3グループです。これらの実体それぞれについて、データを記録し、他の実体と関連付けておく、という考えです。このようなFRBRの考えが発表されたのち、第2グループについてさらに検討が加えられ、FRAD(『典拠データの機能要件』)が発表され、さらに第3グループについてはFRSAD(『件名典拠データの機能要件』)が発表されました。
しかしこの3つは別々のワーキング・グループにより策定されたため、アプローチの仕方が統一されていませんでした。これらを再検討して統合したのが2017年にIFLA(国際図書館連盟)が公開したIFLA LRM(IFLA Library Reference Model『IFLA 図書館参照モデル』)です。それではどのように変わったのかを見ていきましょう。

IFLA LRMの概要

IFLA LRMも、記述対象を実体に分けて捉え、それらの実体の関連を記録する、という基本的な考え方は変わっていません。しかしFRBRにあった3つのグループ分けを無くしました。NCR2018の規則は大きくこのグループごとに章が分けられていますが、そもそもグループの名称は本文中には明示されていないので、特に影響はないと考えられます。それぞれの実体も一部変更されていますので順に見ていきましょう。
まず、資料そのものを表す、著作、表現形、体現形、個別資料はそのまま残っていて、記述対象の資料をこの4つの実体に分けて記録しようという考えは変わっていません。
個人・家族・団体は行為主体という実体の下位のレベルに位置づけられるようになりました。個人・家族・団体をグループとして一つにまとめるのではなく、行為主体という上位の実体における3つの種類になったと考えると分かりやすいでしょう。こうすることで、行為主体として定義した属性を、下位の個人や団体にも引き継ぐことができるようになりました。とはいえ、できあがるデータとしてはこれらも実質的にはFRBRと大きな違いはありません。
概念、物、出来事、場所という第3グループは、グループもそれぞれの実体も、跡形もなく無くなりました。そもそも第3グループは資料の主題を表す実体のまとまりでしたが、資料の主題になるのは概念、物、出来事、場所だけではなく、資料や個人、家族、団体も主題になり得えます。例えば、平家物語という著作について論じたり、平家物語の延慶本と八坂本という二つの表現形を比較・分析して研究の対象とすることがあり得ますし、夏目漱石を研究した本は、個人が主題として扱われていることになります。さらに、これらの実体には含まれない時間なども主題として扱われることがあり得ます。つまりありとあらゆる事柄が資料の主題となり得るのです。FRBRでは、資料の主題として第3グループを設定した上で、さらに第1グループも第2グループも主題として関連付けられるとしていましたから、要するに資料の主題はすべての実体であったわけです。さらに時間など、これらの実体に含まれないものも主題となり得ますが、これについてはFRBRの実体だけでは表現できませんでした。

新たに追加された実体 res

そこで、IFLA LRMではすべての実体のトップレベルにresという実体を新設しました(物という意味のラテン語なのですが、IFLA LRMの日本語訳ではresというアルファベットのまま使用しています)。すべての実体はこのresの下位の概念である、という位置づけです。そしてresは他のresと関連を持つことができます。これにより、資料の主題がresであると関連付けておくことで、すべての事柄を主題として表すことができるようになりました。さらにそのresがどのようなものかという属性や関連を記録すれば主題を詳しく表すことができます。また、すべての実体をresを頂点とした階層構造とすることで、resで定義した属性をすべての実体に引き継ぐことができるため繰り返し定義する必要がなくなり、実体を整理しやすくなりました。
NCR2018ではFRBRの実体に合わせて、概念、物、出来事、場所についての章を個別に設けてありますが、2020年3月現在では保留になっています。主題で情報を探すために、IFLA LRMのモデルを使用してどのようなデータを作成するようになるのか、今後注目されるところです。

新たに追加された実体 場所、時間間隔、nomen

それ以外に新たに加えられた実体は、場所と時間間隔とnomenです。
まず場所ですが、これはFRBRにも第3グループ(概念、物、出来事、場所)として存在していました。しかしFRBRの場所は第3グループの実体だったことからもわかるように、資料の主題としての場所に限定されていて、例えば出版地として関連付けることはできませんでした。出版地は体現形の属性として記録していたのです。これに対してIFLA LRMで追加されたのは単なる実体でありresの下位の概念ですので、あらゆる実体と関連を持つことができます。ですから、個人の出生地として個人と関連付けることもできますし、出版地として体現形とも関連付けられます。もちろん、資料の主題として著作と関連付けることもできます。
次に時間間隔は、「開始、終了、および期間を有する時間の範囲」という定義で、範囲は1年や1日などでも構いません。これも例えば個人の生没年や体現形の出版年、著作の主題などとして関連付けることができます。
残る一つがnomenです。名称とか名辞といった言葉ですが、いわゆる名前とも違いますので日本語訳ではnomenとアルファベットのまま使用しています。FRBRでは名称等はそれぞれの実体の属性として記録するようになっていましたが、IFLA LRMでは実体になりました。名称が実体であるというのはどういうことでしょう。

nomenとは

例えば、ある団体の名称として「国際連合」と表示されていたら、その団体を表す実体の優先名称として「国際連合」と記録することができます。「国際連合」は「国連」とも呼ばれますので、異形名称として「国連」と記録することもできます。そうすることで、この団体を「国際連合」でも「国連」でも検索できるようになります。しかしこれだけでは、「国連」が「国際連合」の略称であることや、この2つがともに日本語であること、表記として使用している文字が漢字であることなどは表すことができません。

そこでIFLA LRMでは、nomenという実体を設定しました。ある実体とその実体を示す名称とを分けて考え、両者の結びつきをnomenという独立した実体と捉えます。上の例でいうと、「国際連合」というのは単なる文字列であり、これだけでは何か特定のものを表すものではありません。一般的にはあの国際機構を指す場合が多いと思いますが、図書のタイトルであることもありますし、映画のタイトルかも知れません。ですので「国際連合」という文字列だけでは実体とせずに、「国際連合」があの国際機構を指す名称である、という結びつき全体をnomenという実体と考えます。

そうすることで、「国際連合」と呼ばれる国際機構について、英語の文字列として「United Nation」、フランス語の文字列として「Nations Unies」、ドイツ語として「Vereinigte Nationen」などの実体を設定し、それぞれについて言語や文字などを属性として記録できるようになります。これをまとめたのが次の図です。

resとnomenの関連

 

このように、これまで1枚のカードや1つの書誌レコードとして記述していた資料について、著作、表現形、体現形、個別資料という4つの実体に分けて考え、さらに主題や名称までも独立した実体として扱おうという考えです。

おわりに

現在ではさまざまな情報がインターネット上に作成・公開されていますが、今までのインターネットは人が見て理解することを前提にしていました。そのため、他のページとリンクが張られてはいますが、人が見て判断する必要があります。これをページのウェブといいます。それに対して、これからはコンピューターでデータを処理できるように、データとデータを繋いでいこうという考えが出てきました。これをデータのウェブと言います。図書館の目録のデータもインターネットにある他のデータと繋げようと考えていて、そのためにこのような細切れのデータとして記録することが考えられています。

その結果としてどのようなデータになるのか、それが利用者にとって使いやすいものであるのかどうかは、これからの課題です。

(参考資料 Riva, Patほか. IFLA図書館参照モデル : 書誌情報の概念モデル. 樹村房, 2019)

(紀伊國屋書店 ライブラリーサービス営業本部 蟹瀬)