20世紀末のベルリンの壁の崩壊、ソ連崩壊を経て冷戦が終結したとき、世界はリベラルな民主主義の勝利を祝福しました。同じ頃、インターネットの民間利用が始まり、双方向のコミュニケーションと自由に発信できる情報空間の登場によって人々の政治への関心が高まることが期待されました。
20世紀に席巻した極端なイデオロギーは葬り去られ、21世紀にはリベラルな民主主義のコンセンサスの下で世界各国が環境、貿易、金融、科学技術といったグローバルな問題に対処する時代が到来するはずでした。しかし、四半世紀後の現在の政治状況を見ると、かつての予想は大きく裏切られています。
先進諸国では中間層の弱体化に伴い、伝統的な保守政党、リベラル政党が勢力を弱める一方で、排外的な主張を掲げる右翼・極右政党が勢力を伸長しています。これらの政治勢力が拡大する中で、難民の流入を前に、一度崩壊した壁が再建されようとしています。インターネットについて言えば、自由に情報発信できる空間どころか、デマが拡散され、見たい情報しか見ない蛸壺空間と化す一方で、政治団体にとっては人々を動員する強力なツールとして機能しています。葬り去られたはずの20世紀の政治イデオロギーが新たなテクノロジーを携えて復活しているような状況です。
このような状況の中で、欧米の学界では、極右や急進主義が政治学や社会学のテーマとして再検討されるようになり、一部の大学では付属の研究所を設立する動きもあります。
Political Extremism and Radicalism: Far-Right and Left Political Groups in the U.S., Europe, and Australia in the Twentieth Centuryは、以上の現状を踏まえ、20世紀に立ち戻り、政治的な右派、左派を問わず、急進的で極端な政治的主張を掲げた政党・団体・人物に光を当てようとするデータベースです。
地域的には、イギリスとアメリカを中心にヨーロッパ、オーストラリア、ラテンアメリカ、中東、アジアなど世界各地域に及びます。
収録資料は、政治的主張を掲げた政党・団体・人物による資料(刊行・未刊行)、政党・団体・人物に対する報道・分析資料、政府資料に大別されます。政党・団体・人物による資料は、イギリスとアメリカの政党・団体・人物のものが大半を占めます。報道・分析資料の主要なものは、極右団体を監視する目的で1970年代に創刊されたイギリスの雑誌『サーチライト』です。『サーチライト』創刊の母体となった反ファシスト活動家に対して行なったインタビューの音声記録も見逃せません。アメリカについては、公民権運動、反戦運動、学生運動、宗教右派、ニューライト等、政治運動の人物、団体、出来事に関する新聞・雑誌の切り抜きを項目ごとに収録しています。その他、戦間期、戦中期、戦後にかけてファシズムを主題にして刊行された書籍、パンフレットも多数収録されています。政府資料は、第二次大戦中のイギリスが公共の安全を脅かす恐れのある人物を予防拘禁した際の内務省文書、並びにイギリス情報局保安部が収集した極右や共産党系の人物の個人情報で、2010年代に機密解除されたファイルです。
第二次大戦後、消滅したと思われたファシズムの芽が残り、新たな政治勢力を形成しようとしていることに危機感を抱いたユダヤ人の帰還兵たちが、極右団体の行動を監視する組織として「43グループ(43 Group)」を立ち上げました。ファシスト系団体の活動が下火になるに従い、一時解散したものの、1960年代初頭、ファシスト系団体の活動が復活の兆しを見せる中、旧「43グループ」のメンバーが新たに「62グループ(62 Group)」を結成、ファシストの団体を監視し妨害する行動を行ないました。
自分たちの活動を広く公衆に周知させるために1964年、労働党下院議員のレッグ・フリーソンを編集長として新聞『サーチライト』を創刊しました。その後、定期的に発行される新聞というよりは報道機関にニュースを提供する通信社的役割に変化していましたが、1970年代、極右団体のイギリス国民戦線が勃興するに及び、ナチスの過去を暴くパンフレットを発行、支援者や労働組合からの資金援助を得て、ジャーナリストのモーリス・ラドマーを編集主幹、「62グループ」創立時から参加していたゲリー・ゲーブルを編集委員として1975年2月、新たに月刊誌『サーチライト』が創刊されました。同誌のキャッチフレーズは「民主主義を擁護する」、スローガンは「奴らを通すな」でした。
その後、『サーチライト』はイギリス内外の反ファシズム系団体との協力の下、ネオナチ、ヘイトクライム、人種差別等の行動に監視の目を光らせる一方で、出版活動にも従事します。その後、政治的急進主義に関するイギリス有数の研究拠点として知られるノーサンプトン大学が同誌との協働関係に入り、過去50 年間に亘る極右団体の監視行動を通して『サーチライト』が収集してきた資料の移管先に決定、「サーチライト・アーカイヴ」として現在に至っています。
ミシガン州立大学が1970 年以降収集したコレクション。公民権、宗教、人種、ジェンダー、環境など、政治的立場に関わらずあらゆるタイプの急進主義に関する資料を収録。ここで「急進主義(Radicalism)」とは、当時の政治的、社会的主流への異議申し立てというぐらいの意味で、人種、ジェンダー、環境、LGBT など、社会状況が変わったため、現在では急進的と見なされないような主義主張も含まれます。
第二次大戦の帰還兵ゴードン・ホールが偶然、反ユダヤ主義のビラに目を止めたことが契機となって、政治的急進主義に関心を抱くようになり、あらゆる種類の急進主義の資料を集め始めました。その一方で、みずから運動の当事者に会うなどして、急進主義思想についての理解を深め、講演や雑誌への寄稿を行ない、この方面ではアメリカ有数の専門家と見なされるに至りました。ゴードンは資料収集や研究支援のためにスタッフや研究アシスタントを雇いました。収集された資料はゴードンやスタッフがみずから急進主義団体の事務所を訪問し、入手したものです。コレクション名に名前が残るグレース・ホーグもスタッフの一人です。
Political Extremism and Radicalism: Far-Right and Left Political Groups in the U.S., Europe, and Australia in the Twentieth Centuryは、地域の枠を超え、20世紀の政治的急進主義関連の貴重な資料の一括調査を可能にする電子コレクションです。
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