図書館をつくる

これから図書館で働く人達に向けて(大学図書館編)

2022.04.01

 紀伊國屋書店では全国の大学図書館を業務委託契約という形で受託し、各種の業務を行っています。これから図書館で働く人たちに求められるものは何か、また業務委託契約で働く職場環境はどのようなものであるべきかということを、採用責任者に語ってもらいました。変化の激しい大学図書館でのスキルアップの仕方、キャリアパスのあり方、持続可能な職場の作り方、それらを実現するために必要なDXの進め方など、多岐に渡る内容をお聞きしています。

 お話を聞いたのは、紀伊國屋書店のLS業務支援センター・藤井 知センター長です。LSとはライブラリーサービスのこと。この部署では図書館で働きたい人の新規採用活動をする一方、入社したスタッフの研修活動も担当しています。オンラインとオフラインを組み合わせて、ほぼ毎週のように図書館員のスキルと知識を磨くための研修を行っており、入社して頂いたスタッフが長く図書館でお勤め頂けることをミッションとしています。

 

―――採用と研修を同じ部署で行う理由を教えてください。

藤井「採用と研修は別ものと思われがちですが、当社では採用段階から長期的な人材育成を考えています。採用時から、将来的にどういう経験を積んで頂くのが良いのか、どういう研修を行って行くのがその方にとって良いのかを計画します。採用は本社で行うが、研修や教育は現場任せ。こういうスタイルが多くの企業に見られる社員教育のパターンだと思いますが、当社ではスタッフ研修というものを真剣に考えています。個々の方々のやる気に、本社部門が伴走して、確かな成長をして頂くことが、会社としての強みであると考えます。」

―――最近の採用状況に何か特徴はあるでしょうか。

藤井「当社は全国区でお店を出している会社ですので、有難いことに知名度は高いです。おかげで図書館業務のための採用広告を出しますと、多くの方々に応募をして頂けています。しかしながら、ここ数年は明らかな人手不足の影響で、採用に苦戦することも無くはありません。図書館という専門性の求められる職場の人材が、簡単に採用できる時代は終わっていると言って良いでしょう。そうであれば、その専門性を高める研修体制が必須なのはお分かり頂けるかと思います。」

―――人手不足は確かにあらゆる産業分野で深刻ですね。しかし一方で、労働市場では人材を募集する側の求める条件と、応募者のスキルとのミスマッチがあるという指摘もあります。この点は如何ですか。

藤井「人手不足であっても、普通は労働市場の中で需給調整が働き、解消するはずです。一般的には賃金を上げれば、求める人材が得られる。ところが大学図書館の場合、単に賃金を上げれば求める人材が得られるわけではありません。それぞれの大学が独自の建学の理念を持ち、ユニークな研究や教育を行っています。学部構成だって様々です。それぞれの大学図書館に特徴がありますから、それを理解するにはどうしても時間がかかる。最初から100%マッチしている人は多くないと思います。」

―――大学図書館で働く人の懸念として、少子化問題があります。大学が少子化の影響で経営が厳しくなり、大学図書館で働くことが将来難しくなって行くのではないかという心配がありますが、どうなのでしょうか。

藤井「大学が少子化の影響で経営的に厳しくなっているのは事実ですが、すべての大学がそうだと言うわけではないです。積極的にキャンパスのリニューアルを行ったり、グローバル化を進めたり、学修支援・研究支援に強化している大学もたくさんあります。そして、そういう大学を見ていると、ほぼ例外なく図書館に対する投資を十分に行っています。そういう大学の図書館には、当然スキルや経験のあるスタッフが求められますし、人材が常に必要な職場であり続けると思います。」

―――なるほど。大学図書館と言っても様々だと言うことですね。そこで求められるスキルや経験として、目録知識を重視されているようですが、その辺の話を教えて頂けますか。

藤井「今、大学図書館の世界では図書や雑誌といった資料管理の仕組みが大きく変化しています。その理由は、資料の電子化です。電子書籍や電子ジャーナルといったものが学術世界ではもう中心です。一方で従来の図書館の資料管理の仕組みは、紙の資料を前提として作られていました。これを大幅に刷新する動きが現在進んでおり、当社もその新しいシステム構築の仕事の一翼を担わせて頂いています。」

学術資料のデジタル化及びグローバル化に対応した新たなNACSIS-CAT/ILLシステム構築を紀伊國屋書店が受託

藤井「資料管理の仕組みが変わることは、図書館の業務が根幹から変わる面を含んでいます。目録作成のルールも変わりますし、ILL等の資料提供の仕方も変わります。ですので、これからの図書館員には、この新しい資料管理の仕組みを十分に理解してもらわないといけません。当社が継続的に行っている研修に、閲覧業務スタッフへの目録研修があるのですが、ここに弊社の目録作成チームの最新の知見を組み込み、大学図書館で働くスタッフには学術情報基盤に対する十分な知識を持ってもらうことを目標としています。」

―――学術情報の管理の仕方に大きな変化が起きていており、その知識を持つことがこれからの図書館員には求められるわけですね。それ以外に変化しているものはありますか。

藤井「コロナウイルスは図書館を大きく変えました。大学の授業はオンライン化し、図書館も従来の入館者数や貸出冊数を目標には出来なくなりました。学生が大学に来られなくなった時期に、様々な代替手段を当社が受託する図書館では考えてきました。例えば、動画配信でのガイダンスやセミナー、オンラインでのリファレンスなどです。しかし動画一つ取っても、図書館員はそれを作るプロではありません。ですので、動画作成の研修ですとか、プロの指導でナレーションを吹き込む研修ですとか、従来の図書館員向けの内容とは異なるスキル獲得のための研修も増えました。」

―――図書館で働くということは、勉強し続けることと同じみたいですね。

藤井「そうですね。そのお手伝いが出来ることが、当社のような図書館業務委託を行っている会社の存在意義だと思います。しかし、大勢のスタッフがいて、その一人一人にきめ細かく成長の後押しをすることは、アナログなやり方ではとても出来ません。当社では数年前から、人事情報の電子化を進めています。個々の社員のスキルをシステムで見える化し、どのような職歴を経てきたか、これから進むべきキャリアパスは何か、こういうことを、データを基に判断できるようにしないといけません。いわゆる人事DXです。この点の投資を怠ると、必要とされる人材の管理は出来ません。」

―――働き方改革という点では工夫されていますか。

藤井「ここまで図書館員の能力向上を支援するという観点でお話ししましたが、一方ですべての人が同じように働けるわけではないことも考えないといけません。子育てや介護など、人間には仕事以外にもたくさんやることがありますから。研修を受けたくても時間的に難しい方もいます。そういう方も無理なく働ける環境にしないと、職場としての図書館に持続可能性はありません。冒頭申し上げた通り、人手不足は深刻です。」

藤井「良し悪しは別にして、図書館に勤める人の大部分は女性です。出産や育児等、ライフサイクルの中で、フルに仕事が出来ない時期を女性は持っています。一時的に仕事を離れ、またしばらくして職場に戻るということも珍しくありません。それぞれの方のライフサイクルに合わせて、柔軟に働ける環境を作ることが、当社が業務を受託している図書館で重要視している点です。」

―――最後にこれから図書館で働きたいと考えている方々にメッセージをお願いします。

藤井「当社は図書館支援事業として目録作成や業務委託ということを他社に先駆けて40年以上行っており、働くスタッフも千人を超える人数で行っています。この大勢の仲間たちと毎日切磋琢磨しながら、より良い図書館運営に工夫を重ねています。一度仲間入りして頂いたら、長いお付き合いでともに成長していきたいと考えています。どうか図書館でキャリアを積みたいと考える方には、当社の門を叩いてください。」

―――ありがとうございました。

 

(2022年3月、紀伊國屋書店本社にて)

(紀伊國屋書店 ライブラリーサービス営業本部 小林)