人文社会系研究

連載:風俗画報でみるクリスマスとお正月

2017.12.22

Web版 風俗画報は、ジャパンナレッジが提供する電子書籍プラットフォームJKBooks上で、我が国最初のグラフ雑誌「風俗画報」を提供するデータベースです。明治22(1889)年創刊、518冊からなる「風俗画報」は、わが国最大の風俗雑誌としても知られています。

風俗画報に掲載されている図版を、センゲージ ラーニング社Galeのデータベースに搭載された欧米の図版資料と比べながらご紹介する本企画、今回は季節のイベントに関する特集をご紹介します。

クリスマス

早いもので2017年もあとわずか、12月に入り、町中にクリスマスムードが漂っています。風俗画報でみられるクリスマスの記事や図の中で、一番古いものがこちらです。

釈迦の誕生との対比で、キリストの誕生日であるクリスマスが取り上げられています。明治29年の時点でクリスマスという言葉が定着しているのが分かります。新しいものと古いもの、日本文化と西洋文化などの対比が面白いです。

なお、「風俗画賛」は明治22年から大正2年まで続く人気のコーナーです。ある時期から裏表紙もしくはその近辺が定位置となり、図でとりあげているテーマについて読まれている俳句や漢詩も読者からの投稿となりました。

風俗画讃 釈迦誕生/クリスマス 第112号(明治29年4月10日)

上の記事から2年後、12月の歳時記の中でクリスマスが詳しく紹介されています。クリスマスは欧米諸国の「プレゼントを贈る」イベントとして紹介されています。プレゼントとお年玉を対比しているあたり、まだまだ当時の日本ではクリスマスは縁遠い存在という感じがします。その後の号でもクリスマスを大きく取り上げた記事はみあたりません。

新撰東京歳時記巻之下○12月 第159号(明治31年2月25日)

お正月

クリスマスに対してやはりお正月の記事は多いですね。日本の冬のイベントといえばお正月なのでしょう。風俗画報では「第63号(明治26年12月28日)新禧恭賀看客万歳」、「第224号(明治34年1月20日)民間行事新年の祝」の特集号が出ていますし、他にも1月に刊行された号には正月の街の様子を描いた図が沢山のっています。その中からいくつかご紹介しましょう。

新年の風景

次にご紹介する特集号では江戸時代の行事についての図や記事が沢山載っています。

表紙 新禧恭賀看客万歳(部分) 第63号(明治26年12月28日)

〈図〉維新以前松の内行事図 新禧恭賀看客万歳 第63号(明治26年12月28日)

次にご紹介する新年特集号には、実際の明治・大正時代のお正月の様子が描かれたものが多く見られます。左下に見える二人が行っているのは「万歳」と呼ばれる芸能で、新年に家々を訪れて祝言を述べ、舞を演じる門付け芸です。「漫才」のルーツと言われています。現在でも正月にお笑い番組が多いのは、ここにルーツがあるのでしょうか。

右下には、明治34年の干支である牛の絵が描かれた暦らしきものがみられます。獅子舞、門松なども描かれていて、お正月らしさがあふれた図になっています。

〈図〉現今新年途上往来の図 民間行事新年の祝 第224号(明治34年1月20日)

行事

大阪の今宮戎神社で行われている宝恵駕行列の様子です。商売繁盛を願う行事で、紅白の布で飾られた籠に福娘を乗せ、その周りを幇間が取り囲み、囃し立てながら練り歩きます。商売の街大阪らしい行事ですね。

〈図〉大坂今宮十日戎詣の図 民間行事新年の祝 第224号(明治34年1月20日)

このほかにも各地の特徴的な行事が多数紹介されています。特に民俗学に御興味ある方には面白い特集号なのではないでしょうか?

〈図〉筑前国箱崎八幡宮正月三日玉糶リ祭の図他 民間行事新年の祝 第224号(明治34年1月20日)

次の図には「あらゆるめでたき数を乗せた船」との説明文がついています。宝船みたいですね。風俗画報の報道画家である山本松谷がお屠蘇気分で描いたそうで、新年らしいのんびりとした風情が良く表れています。

〈図〉新年の乗合船 第262号(明治36年1月1日)

正月の遊び

福笑いをする子供たちの様子です。題名の通り、みんな笑顔でお正月の楽しさが伝わってきますね。

〈図〉笑顔 第281号(明治37年1月1日)

羽根つきに興じる芸妓の様子が書かれています。羽子板には歌舞伎役者が書かれています。記事本文によると曾我五郎、十郎の押し絵の羽子板で「旦那筋から贈られたもの」だそうです。

〈図〉芸妓街の元旦 第281号(明治37年1月1日)

ファッション

和装の女性の装いの中に、ショールやブーツなど「ハイカラ」な雰囲気が漂います。徐々に洋装になっていく時代でしょうか。男性もユニークな服装の人が多いです。

〈図〉ゆききの人その1 第307号(明治38年1月5日)

次の図の中に見られる男性はすっかり「西洋の紳士」になっていますね!同じ号に「流行の洋服」という記事があり、モーニングコート、フロックコート、オーバーコートなどが紹介されています。街にはこのような装いの男性が沢山いたのではないでしょうか。

〈図〉新年の動物園 355号(明治40年1月1日)

電車や自転車が描かれ、人々の様子だけでなく街も変わっていることが分かります。現在に比べてイベントの少なかった明治・大正の日本で、お正月は大切なイベントだったのではないでしょうか?

〈図〉新年の市中 第453号(大正3年1月5日)

今回ご紹介した図からも、人々が着飾ってそのお正月を楽しんでいる様子が伝わってくると思います。また時代を追っていくと人々の髪型や服装が替わっていく様子も分かりますね。

宝船

最後におめでたい図をご紹介しましょう。

正月2日の夜、枕の下に敷いて寝るとよい初夢を見るという「宝船」の図は風俗画報の中にも沢山見ることが出来ますが、その中でもっとも賑やかな図がこちらです。

新しい年には皆様にも良いことが訪れますように…

(株式会社ゆまに書房 第一営業部 河上 博)

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