人文社会系研究

【連載】国史大系をひもとく:第一回 国史大系とはどんな史料集か?

2022.05.31

吉川弘文館では、さまざまな史料集を出版してきました。なかでも、黒板勝美によって編纂された「新訂増補 国史大系」は、35年の歳月をかけた大事業であるとともに、日本史研究の根本史料として高い評価を得てきた、日本国内随一の史料集です。その「新訂増補 国史大系」がいよいよJKBooksシリーズとして刊行されました。刊行を記念して、「新訂増補 国史大系」の魅力を連載形式でご紹介します。

以下の図は「新訂増補 国史大系」全58書目について、縦軸に時代区分や年代、横軸にはJKBooksのために分類したジャンル「歴史」「歴史物語」「説話」「伝記」「法制」「補任」「系図」の区分に従って一覧化したものです。今回はこちらの図をもとに「国史大系」についてご説明します。

図:【第3次】新訂増補 国史大系(黒板勝美編/国史大系編修会編、1929-1964、吉川弘文館)の書目分類

「大系」という造語

特定の分野の書物・論文などを体系的に編集した叢書に掲げる「大系」ということばは、多くの叢書で使用されてきました。 実は、この「大系」ということばは、「国史大系」の編纂にあたって考案された造語でそれ以前には無かったことばでした。「国史大系」の意味するところは「国史の大きな「たていと」(縦糸)」です。「日本歴史の流れの中央に、基本史料によって大きな縦の糸を引く」という意気込みを表しています。

現在、完結した「国史大系」を見たとき、その冊数や頁数、あるいは多彩な分野に目を奪われてしまい、この「大きな縦糸」というねらいを見落としかねません。そこで、明治・大正・昭和と3次に分けて編纂された、「国史大系」の歴史を振り返ってみたいと思います。

明治・大正期:第1次国史大系(正)

明治時代の歴史家である田口卯吉が、当時、新進気鋭の学者であった黒板勝美に協力を依頼して開始した「国史大系」は、1897年(明治30年)から刊行されます。この第1次編纂では、神話時代からの歴史書である『日本書紀』と、それに続く〈官選の史書〉である「六国史(りっこくし)」を収載しました。この「六国史」は平安時代前期を扱う『日本三代実録』で途絶えましたが、他方では『本朝世紀(ほんちょうせいき)』や『愚管抄(ぐかんしょう)』など、個人の立場でまとめられた〈私撰の史書〉も多く残されており、これらによって縦糸は神話の時代から平安時代の終わりまで伸びました。

また、日本文学の重要な作品のなかから、『栄華(えいが)物語』などの「歴史物語」、『今昔(こんじゃく)物語集』などの「説話文学」も収録します。さらに『令義解(りょうのぎげ)』や『類聚三代格(るいじゅうさんだいきゃく)』などの「法律書」や、朝廷の職員録である『公卿補任(くぎょうぶにん)』も収め、縦糸を伸ばしつつ横の厚みも増していきます。

図:【第1次】国史大系(正)(田口卯吉編・黒板勝美校訂、1897-1901、経済雑誌社)の書目分類

明治・大正期:第1次国史大系(正・続)

1902年からは、「続国史大系」として、鎌倉~江戸期を扱う歴史書『続史愚抄』とともに、〈官選の史書〉である鎌倉幕府の正史『吾妻鏡』、続く室町幕府を扱った『後鑑(のちかがみ)』、江戸幕府の正史『徳川実紀』を加えます。これで古代から近世(神話時代から江戸時代)を結ぶ「大きな縦糸」の構想が一応の完成を見ます。

図:【第1次】国史大系(正・続)(田口卯吉編・黒板勝美校訂、正:1897-1901・続:1902-1904、経済雑誌社)の書目分類
※緑色マス=第1次国史大系(正)にて収録、水色マス=第1次国史大系(続)にて追加収録

明治・大正期:第2次国史大系

田口卯吉の没後も黒板勝美はその意思を受け継いでいきます。大正時代(1913年)に第2次編纂を行いますが、このときは六国史を校訂し直し、新たに『類聚国史』を加えるという程度の改訂に止めています。ここまでの明治・大正期に刊行されたものを「旧国史大系」と呼んでおきます。

図:【第2次】国史大系(黒板勝美校訂、1913-1916、経済雑誌社)の書目分類
※緑色マス=校訂のみ、オレンジ色マス=第2次国史大系にて追加収録

昭和期:新訂増補 国史大系

第3次編纂は吉川弘文館から刊行された「新訂増補 国史大系」です。「旧国史大系」を収録の基準としながらも、①すべて新規に組版を行う、②底本はより信頼度の高い善本に差し替える、③編纂メンバーを増員して新たな観点から書目数を増やす、という大方針のもとに事業を開始します。「旧国史大系」は41書目でしたが、「新訂増補 国史大系」は17書目を追加し、全58書目(全66冊)として完成します。

図【第3次】新訂増補 国史大系(黒板勝美編/国史大系編修会編、1929-1964、吉川弘文館)の書目分類
※緑色マス・黄色マス黒字=第1次国史大系(正)にて収録、水色マス=第1次国史大系(続)にて追加収録、オレンジ色マス=第2次国史大系にて追加収録、黄色マス赤字=【第3次】新訂増補 国史大系にて追加収録

「大きな縦糸」は「大きな幹」のように

「新訂増補 国史大系」は、法制関係の書目を充実させるとともに、10代将軍で終わっていた『徳川実紀』の後を受ける『続徳川実紀』を収録することで15代将軍までをカバーしました。そして、もっとも組版の難易度の高かった系図集『尊卑分脈』を最終巻として完結します。収載書目の全容は神話時代から明治維新まで、歴史書を中核に、制度・法令・文学に関する記録文書等のほか、職員録と系図を収めて、日本史研究のための「大きな幹」のようになって完成したのです。

我が国の歴史にひかれた大きな縦糸をイメージして頂けましたでしょうか。数次の編纂を経て、「国史大系」は、「日本歴史の基本となる史料を悉く収録し、専門家であるかどうかを問わず、歴史と文化を研究する者が頼らなければならない一大権威の叢書」として実現し、「国史界の宝典」との評価を得て、長く生命を保ってきたのです。次回は緻密な編纂を経て誕生した国史大系だからこそのデジタル化の困難をご紹介していきます。是非ご期待ください。

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(デジタル情報営業部)