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【洋古書】エティエンヌ《フランス語の卓越性について》初版、《フランス語のギリシャ語との合致に関する考察》初版、ほか

フランス・ルネサンス期の出版者で著作家アンリ・エティエンヌの稀覯な初版本4点、ほか

関連ワード:エチエンヌ エティエンヌ ジュネーブ フランス文学 フランス語 ルヌアール 人文主義 出版史 古書 洋書  更新日:2024.11.14

フランス・ルネサンス期の出版者で、ラブレー、モンテーニュに続く第一級のフランス散文作家といわれるアンリ・エティエンヌの著作をご案内いたします。著者エティエンヌからド・ビュロンなる人物への寄贈本で、19世紀ニューヨークで空前の古書コレくションを築いた人として知られたロバート・ホウが所蔵していた『フランス語の卓越性について』初版本、18世紀英国の文人で初期刊本のコレクションで知られたマイケル・ウッドハル旧蔵の『フランス語のギリシャ語との合致に関する考察』貴重な初版本ほか、数点の在庫がございます。

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1. エティエンヌ《フランス語の卓越性について》初版 1579年
2. エティエンヌ《フランス語のギリシャ語との合致に関する考察》初版 1565年
3. エティエンヌ《フランス語のギリシャ語との合致に関する考察》第2版 1569年
4. エティエンヌ《イタリア化したフランス語に関する対話》初版
5. エティエンヌ《フランス語覚書》初版

—以下、「紀伊國屋書店 古書目録 2020」より—

エティエンヌ《フランス語の卓越性について》初版 1579年
ESTIENNE, Henri.  Proiect dv livre intitulé De la precellence du langage françois.  A Paris, par Mamert Patisson, 1579.

¥2,640,000
8vo, pp. (32), 295 (i.e. 293), (3) blank; woodcut Estienne device on title; entirely rubricated; an excellent copy in early nineteenth century navy morocco (by Bradel), flat spine gilt in compartments with tools of lyre and stars, black morcco title label on spine with letters gilt, covers elaborately panelled gilt, dentelles gilt, silk endleaves ornately woven in gilt, blue, green and black, edges gilt (very slightly rubbed); presentation inscription by the author to a De Buron dated 1579 on front fly-leaf, ownership inscription of Antoine-Auguste Renouard dated 1793 on the same leaf; engraved bookplate of Renouard (sold on 20 November 1854, lot 823), morocco bookplates of Robert Hoe (sold in January 1912 at Anderson Galleries, Part 2, lot 1226) and Henri Burton.  Renouard p. 181; Schreiber 250; Adams S1786; Cioranescu 9616.  

「アンリ・エティエンヌによるフランス語礼賛の三部作中、最後のものにあたり、言語学的見地からすれば最も『現代的』な論文。エティエンヌはドゥ・ブレー、パスキエ、ロンサールのような先駆者とともに、文章語としてフランス語の使用をラテン語同様に勧めるのみならず、書き言葉としてフランス語はラテン語に優る固有の特長をもつと論じている。巻頭には国王アンリ三世への長文の重要な献辞が置かれている。エティエンヌがフランス語の優越について執筆し、公刊することをすすめたのはこのアンリ三世であった。エティエンヌは本書の出版をパリのパティソンに委ねている。彼は1578年 Deux Dialogues du Nouveau Language François Italianizé の刊行をめぐってジュネーヴ評議会と衝突し、パリへ逃れていたのであった」(シュライバー)。

著者エティエンヌからの寄贈本。刊行と同年、ド・ビュロンへ与えたむねを記すエティエンヌの自署が遊び紙に加えられています。このビュロンについては未詳。上掲本を十八世紀末に手に入れたのは、エティエンヌやアルドゥスの古典的な書誌を編纂したことで知られるアントワーヌ=オーギュスト・ルヌアール。ルヌアールはそのエティエンヌ書誌で、本書には上質紙本が稀れに見られると記していますが、上掲本はまさにそれに当たります。青モロッコの洗練された現在の製本は恐らくルヌアールが為さしめたものでしょう、装丁者の署名は見られませんが、ルヌアール蔵書競売目録にはブラーデル作と明記されており、その様式から見ても確かなところと思われます。

上掲本にはさらにロバート・ホウとアンリ・ビュルトンの蔵書票が加えられています。ニューヨークのロバート・ホウ (1839-1909) はグーテンベルクの四十二行聖書ヴェラム刷りやカクストン版マロリーを筆頭とする類い稀れな(かつアメリカでは空前の)コレクションを築き上げました。彼自ら私家版として刊行した目録によれば二万一千冊、十四万点を数えます。これらは1911年から翌年にかけて四回の競売で散逸し、ハンティントンやワイドナー、ピアポント・モーガンらが蔵書の核を形成する重要な契機となりました。なお、ホウ競売目録にはルヌアール旧蔵本とあるのみで、著者寄贈本である事実は見落とされています。

エティエンヌ《フランス語のギリシャ語との合致に関する考察》初版 1565年
ESTIENNE, Henri.  Traicte de la conformité du language françois auec le grec, diuisé en trois liures, do[n]t les deux premiers traictent des manierees de parler co[n]formes: le troisieme contient plusieurs mots françois, les vns pris du grec entierement, les autres en partie: c’est à dire, en ayans retenu quelques lettres par lesquelles on peut remarquer leur etymologie. Avec vne preface remonstrant quelque partie du desordre & abus qui se commet auiourdhuy en l’vsage de la langue françoise.  En ce Traicté sont descouuerts quelques secrets tant de la langue grecque que de la françoise: duquel l’auteur & imprimeur est Henri Estiene, fils de feu Robert Estiene.  [Geneva, Henri Estienne, 1565].

¥2,200,000
8vo, pp. (32), 159, (1) blank; woodcut Estienne device (Schreiber 15) on title, woodcut initial M at the beginning of the epistle dedicatory; title-leaf lightly frayed, occasional mild browning; a very nice, attractive copy in late eighteenth century red russia in the style of Roger Payne, flat spine gilt in compartments with green morocco title label with letters in gilt, covers and dentelles with roll tools gilt (slightly rubbed), bound for Michael Wodhull, with his gilt arms on front cover, one manuscript note by Wodhull (‘Perfect’) on fly-leaf.  En Français dans le Texte 62; Adams S1792; Cioranescu 9604; Schreiber 156; Renouard p. 125.  

フランス語で書かれたアンリ・エティエンヌの最初の著作であり、十六世紀フランス散文作品の古典的名著。「本書はフランス語を擁護し賛美したアンリの三部作中第一作にあたる。本書でアンリはギリシャ語をのぞくすべての言語に対してフランス語が優れていると主張している。彼によればギリシャ語こそ最も完全な言語であり、フランス語はそれに最もよく似た言葉なのである。アンリ・エティエンヌはそのフランス語作品によって、ルネサンスにおけるフランス語散文の最も偉大な著作家と目されるにいたった。シャルル・ノディエによれば、彼は『ラブレーとモンテーニュに続く、十六世紀における第一級の、かつ最も国民的なフランス散文作家』なのである」(シュライバー)。

極めて稀覯な初版。マイケル・ウッドハル旧蔵。美本。製本は十八世紀末と思われるロシア革、ウッドハルの委嘱による特徴的な製本であり、ひらにはその紋章が金箔押し。恐らくはロジャー・ペインの手になるものと推定されます。テンフォードの旧家に生まれたウッドハル (1740-1816) はウィンチェスター校からオクスフォードに進み、詩人として少なからぬ作品を発表。エウリピデス全作品の翻訳も手掛けています。その初期刊本を中心とした蔵書は高い質を誇るもので当時から垂涎の的となり、1886年に及んで競売で散逸しました。ウッドハル旧蔵書には、見返しに購入先や価格、日付、製本代金などが書き記されているものが少なくありませんが、上掲本には「完本」とのみ書き込まれています。

エティエンヌ《フランス語のギリシャ語との合致に関する考察》第2版 1569年
ESTIENNE, Henri.  Traicté de la conformité dv langage françois auec le grec, diuisé en trois liures, les deux premiers traictent des manierees de parler conformes: le troisieme co[n]tient plusieurs mots françois, les vns pris du grec entierement, les autres en partie: c’est à dire, en ayans retenu quelsques lettres par lesquelles on peult remarquer leur etymologie.  A Paris, par Robert Estienne, 1569.

¥440,000
8vo, pp. (36), 171, (1) blank; title with woodcut Estienne device (Schreiber 27), five woodcut initials in text, ornamental headpiece at the beginning of text; faint waterstains on upper margin, else a very fine copy, unwashed, bound in navy morocco by Duru (stamped on fly-leaf with the date 1854), edged gilt, spine gilt in compartments, covers panelled with triple fillet, title lettered in gilt on spine, gilt roll-tools on dentelles, marbled endleaves.  Adams S1794; Schreiber 240; Renouard p. 171.  

エティエンヌ《イタリア化したフランス語に関する対話》初版
ESTIENNE, Henri.  Devx dialogves du nouueau langage François, italianizé, & autrement desguizé, principalement entre les courtisans de ce temps: de plusieurs nouueautez, q[ue] ont accompagné ceste nouueauté de langage: de quelques courtisanismes modernes, & de quelques singularitez courtisanesques.  [Geneva, Henri Estienne, 1578].

¥770,000
Small 8vo, pp. (32), 623, (1) blank; faint (occasionally visible) waterstaining on lower portion of text, one or two tiny wormholes to the initial one third of text, touching letters but without affecting sense; overall a very nice bright copy in mid-eighteenth century mottled calf, spine gilt in compartments, with red morocco title label on spine, very slightly worn.  Renouard p. 146; Schreiber 203; Cioranescu 9606.  

アンリ・エティエンヌによるフランス語擁護三部作の第二。「エティエンヌが本書で糾弾するのはパリの宮廷人が気取って使う、イタリア語から借用した表現の流行である。これはエティエンヌからすればフランス語を粗悪にする行為だった。直接の主題は言葉に関するものだが、著者はさらにアンリ三世とカトリーヌ・ド・メディシスの治下における宮廷生活を精彩とともに描き出しており、本書の非常に興味深い部分を占めている。そもそもフランス語の『イタリア化』はカトリーヌ・ド・メディシスが間接的な原因となったものだった」(シュライバー)。

ジュネーヴでエティエンヌ自身が上梓した刊本ながら無刊記。ジュネーヴ当局の出版許可を得たのち本文に更なる修正が加えられたため、刊本における変更が発覚するとエティエンヌは訴追を免れるべく、ジュネーヴからパリへ逃れています。この初版が今日極めて稀覯なのは、書肆の在庫が当局に差押えられたためとも言われます。翌1579年ならびに1583年にアントワープの「ギヨーム・ニルグ」なる版元から十六折版再版が上梓されていますが、ルヌアールはエティエンヌが匿名で刊行した可能性を示唆しています。

十八世紀中葉の牛革装。軽微な水染みやわずかな虫損はあるものの、保存状態は総じて良好。

エティエンヌ《フランス語覚書》初版
ESTIENNE, Henri.  Hypomneses de gall[ica] lingva, peregrinis eam discentibus necessariæ: quæda[m] vero ipsis etiam gallis multum profuturæ.  Autore Henr. Stephano: qui & gallicam patris sui grammaticen adiunxit.  Cl. Mitalerii Epist[ola] de vocabulis quæ iudæi in galliam introduxerunt.  [Geneva, Henri Estienne], 1582.

¥440,000
8vo, two parts in one, pp. (16), 215, (1) blank, (4), 11 Epistola Mitalerii, (1) blank; 3-109, (16) index, (1) blank; the initail leaf of the second part removed as usual; woodcut Estienne device (Schreiber 16) on title, a woodcut headpiece (used twice) and a tailpiece (thrice repeated) in the initial part; some woodcut initials in text; some dampmarks in the preliminaries of the initail part, affecting text but legible, a short clean tear at the top of the first two leaves touching letters but without loss (the title-leaf with neat repair); light waterstain on lower margin, sporadic faint thumbing and spotting; a good copy in late nineteenth century Spanish quarter sheep, title gilt on spine (lightly rubbed); a few ownership inscriptions on title (faded).  Renouard p. 149; Schreiber 210; Cioranescu 9641. 

本書は「アンリ・エティエンヌの実用的フランス語文法であり、主として外国人を対象としつつ、フランスの読者にも向けられたものであった。正確な発音と正書法に重点が置かれ、さまざまなフランス語方言についても興味深い考察が加えられている。文法に続き、フランス在住のユダヤ人によってヘブライ語からフランス語に導入された語彙に関する短論文 De vocabulis quae Iudaei in Galliam introduxerunt が収録されている。これはクロード・ミタリエの手になるものである」(シュライバー)。

後半にはアンリの父ロベールの執筆になるフランス語文法が加えられています。ロベールは Traicté de la grammaire françoise を1557年に自ら上梓しており、翌年アンリによるラテン語訳 Gallicae grammatices libellus も公刊されています。本書に収録されるのはこの1558年ラテン語版であり、書誌的には再発行にあたります。ロベールの文法書は「ローザンヌとジュネーヴでプロテスタントの外国人学生に用いられるべく書かれたものだった。ラテン語版は売行きが悪く、1582年に至ってもアンリ・エティエンヌはまだかなりの部数を在庫としていた。Hypomneses にこれを加えて(ただし二十四年も昔の刊行年を記したタイトル頁は切除したうえで)製本させるのに十分な数だったのである」(同上)。なお Gallicae grammatices libellus には1569年パリのロベール・エティエンヌ(二世)が上梓した再版もありますが、1558年版と書誌的特徴を共有するものではありません。

稀覯。十九世紀後半の背革装。

(学術洋書部)