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【洋古書】フィオーレのヨアキム《黙示録註解・十弦琴》初版、偽フィオーレのヨアキム《教皇預言集》レジセルモ編初版

後世の西欧の歴史観に密かに影響を与え続けた修道士ヨアキムの主著

関連ワード:キリスト教 予言 古書 教会改革 洋書 異端思想 神秘主義 黙示録  更新日:2025.09.06

中世の神秘思想家、預言者ヨアキムの代表作と、そのヨアキムの著作として後世に刊行された偽書、ともにルネサンス時代の刊本です。

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1.フィオーレのヨアキム《黙示録註解・十弦琴》初版
2.偽フィオーレのヨアキム《教皇預言集》レジセルモ編初版

—以下、「紀伊國屋書店 古書目録 2020」より—

【洋古書】フィオーレのヨアキム《黙示録註解・十弦琴》初版
IOACHIM FLORENSIS. Expositio magni prophete Abbatis Joachim in Apocalipsim. Cui adiecta sunt, eiusde[m] Psalteriu[m] decem cordar[um] opus p[ro]pe diuinu[m], Lectura ite[m] perlucida in Apocalipsim Reuere[n]di magistri Philippi de Mantua. Uenetijs, in calcographia Francisci Bindoni & Maphei Pasyni sociorum impressum; expensis vero heredum Octauiani Scoti, 1527, die vero xvii mensis aprilis.

¥880,000

4to, leaves (32), 280, (11) Tabula, colophon & Registrum, (1) blank; title printed in red and black within three woodcut borders and a bishop’s coat of arms with initial F. E. in woodcut at bottom, borders repeated at the beginnings of the Expositio (with title printed in red) and of the Psalterium decem; several large illustrations and diagrams in woodcut in text, some woodcut initials on criblé background; light thumbing and dampmarks to the initial few leaves, with their edges creased and chipped at margins, a paper repair to the upper margin of title-leaf (no loss), light waterstaining to the last several leaves, occasional light browning and sporadic foxing; bound in contemporary calf, covers panelled in blind, centre- and cornerpieces in blind, ties missing, sometime rebacked and recornered; overall a well-thumbed, but good attractive copy with wide margins (some leaves with deckle edges); occasional contemporary manuscript marginalia, library stamp of the Jesuits in Marseille to the title-page. Adams B1940; Essling II. 653-4; Sander 3603; EDIT16 CNCE23221.

フィオーレのヨアキムは十二世紀のシトー会修道士。1135年頃カラブリアのチェリコに生まれ、父と同じくコゼンツァの宮廷で公証人となったのち、パレルモでシチリア王の宮廷に仕えますが、回心して世俗を捨て、エルサレム巡礼から帰ると隠者となります。その後シトー会に加わって聖職者となり、コラッツォの修道院長に任ぜられたものの、これらはいずれも自らの意思に反することだったと伝えられます。彼は自らの聖書研究と著書執筆のため、院長の職責を免除するよう教皇に願い出ており、1188年六月ようやく職を解かれています。翌年からコゼンツァに建設を開始したフローレ修道院は、ヨアキムの修道院改革の理想を具現化したものでした。

ヨアキムはその預言によって生前から高名でした。英国王リチャード一世や神聖ローマ皇帝ハインリヒ六世も彼の言葉をもとめてヨアキムを訪ねたとされます。ルキウス三世から「啓示により見たままに」著述する許可を得たヨアキムは、1183年から翌年にかけてカザマーリの修道院に籠り三つの主著の執筆を開始していますが、推敲を重ねた末生前に完成されたのは、第一部にあたる『新・旧約聖書の調和について』 Liber de Concordia Novi ac Veteris Testamenti のみでした。ヨアキムの特異な釈義学と歴史神学が端的に提示されたこの著作は、教皇イノケンティウス三世の裁可を得るべくヴァティカンへ送られました。

1527年ヴェネツィアのフランチェスコ・ビンドーニが刊行したこの版は、ヨアキムの三つの主著の残る二つ、すなわち『黙示録註解』と『十弦琴』 Psalterium decem chordarum とを収録しています。『黙示録註解』は「疑いも無くヨアキムの傑作である。冗長で難解だが、しかし体系的に組織され巧みに構成された歴史神学が、聖書の最後の、そして修道院長にとっては最も深遠な巻の逐語的註解として展開されている。ヨアキムの先にもあとにも『ヨハネの黙示録』の註解は数多あり、同じぐらい長いかより長いものもあるが、ヨアキムの註解より重要なものはない」(バーナード・マッギン)。また三部作の中でも「他の二作よりやや遅く着手した『十弦琴』は聖霊降臨祭の日の幻視の産物であり、『詩篇』の註解と、三位一体の神秘に関する論考の間に位置する。ヨアキムは、御父に捧げられ、琴の形象(figura)を論ずる最初の巻をカザマーリで終えたと述べている。御子に捧げられた第二巻は『詩篇』を構成する百五十という数の神秘的な重要性を検討している。そしてごく短い、聖霊に捧げられた第三巻は詩篇の唱え方を論じている。第二巻・第三巻は二年ほど遅れて、1187年頃までに完成されている」(同上)。

ヨアキムの歴史神学は世界の歴史を父と子と聖霊の三つの時代に区分し、新たな聖霊の時代が将来すると預言することで信仰の歴史的発展を唱え、アウグスティヌス以来の終末論に見られる、閉じられた伝統的歴史観を打破するものとなりました。そしてアンチキリストが跋扈する現代を経て、新たな時代には霊的な修道会がこの世を支配することになるというヨアキムのヴィジョンは、中世の神秘主義や異端思想に甚大な影響を及ぼしたばかりでなく、近代以降も教会改革運動の重要な源泉となり続けています。

彼の歴史思想は没後直ちに広まることはありませんでしたが、十三世紀中葉フランシスコ会に伝わって先鋭化し、1256年には事実上異端の烙印を押されることとなります。聖霊派は、フランチェスコの説く清貧をついには否定しさったヴァティカンこそがアンチキリストであると断じ、ヨアキムの名を借りた多くの偽書があらわれることとなりました。

1527年版『黙示録註解』を上梓したフランチェスコ・ビンドーニとその義父マッフェオ・パジーニは、十六世紀前半のヴェネツィアを代表する印刷工房に数えられます。ビンドーニが父アレッサンドロの印刷事業を受継いだのは1523年。これがパジーニと共同の事業となるのはその翌年のことで、以後1551年まで少なからぬ刊本が世に送り出されています。彼らの商標は大天使ラファエルですが、その刊本にトビアがラファエルの手を引く木版商標が登場するのは後年のことか。1527年に刊行された本書のタイトル頁は黒赤二色刷り。三方は木版飾り枠に囲まれ、下端には司教の紋章が木版で示されていますが、同じ紋章は『黙示録註解』本文冒頭の木版飾り枠にも見られ、いずれも “F E” のイニシャルが加えられています。これは枢機卿ヴィテルボのエギディウスの紋章。本書の巻頭には編者であるアウグスチノ会修道士、シルヴェストロ・メウッチ(ないしメウッチョ)がエギディウスに宛てた献呈の辞が置かれています。教会改革に積極的だった枢機卿エギディウスはカバラに深い関心を抱いていたことでも知られますが、アウグスチノ会の精神的支柱であり1507年から総長の任にありました。

ヨアキムの著作をすべて上梓することを目指したメウッチは、1516年の『キュリロス書註解』、『エレミヤ書註解』ならびに1517年の『イザヤ書註解』をヴェネツィアのソアルディから刊行、ただしこの三つは今日いずれもヨアキムの真作とは考えられていません。さらに1519年には『新・旧約聖書の調和』を刊行しています。これらの出版の背景にはアウグスチノ会における聖堂参事会と隠修士会との対立が指摘されますが、『黙示録註解』はエギディウスの慫慂に応じて上梓されたもの。

これらのうち、『イザヤ書註解』1517年版、『エレミヤ書註解』1525年第二版、ならびに上掲『黙示録註解』1527年版については、偽書とされる Praemissiones が加えられています。それは真作『形象の書』 Liber Figurarum で展開された預言の図像化の「アンソロジー」(リーヴズとヒルシュ=ライヒ)であり、かつてはむしろ Praemissionesの方こそ真作と考えられていました。この版では二つに分け、『黙示録註解』と『十弦琴』それぞれの本文の前に置かれています。リーヴズらによれば伝存する写本では多いもので十一の図を収録しますが、刊本ではそれより少なく、三つの重なり合った輪 (fol. A3r)、Misterium Ecclesiae (fol. A3v) や七頭の竜 (A4v)、プサルテリウム (FF2r)、エゼキエルの車輪 (FF2v) の五点、それに七つの封印やトランペットなどを一頁に収めた図 (A4r) も含まれます。鷲の図も『十弦琴』の本文中に見られる (fol. LL4r) ものの、付随するテキストは写本のそれと異なります。

なお本書には日付の異なる三つの奥付があり、『黙示録註解』末尾のそれは1527年二月七日付け。『十弦琴』本文末尾では同年三月十八日、『十弦琴』目次末尾(最終葉)の奥付は同年四月十七日となっています。
同時代の牛革装、背などに補修。巻頭数葉に軽微な汚損があり、タイトル葉上部余白に補修があります。

【洋古書】偽フィオーレのヨアキム《教皇預言集》レジセルモ編初版
[Ioachim Florensis, pseudo-]. Vaticinia siue prophetiæ Abbatis Ioachimi & Anselmi Episcopi Marsicani, cum imaginibus ære incises, correctione, et pulcritudine, plurium manuscriptorum exemplariu[m] op[er]e, et uariaru[m] imaginu[m] tabulis, et delineationibu[s], alijs antehac impressis longe præstantiora. Vna cum præfatione, et adnotationibus Paschalini Regiselmi. Venetiis, apud Hieronymum Porrum, 1589.

¥418,000

4to, 70 unnumbered leaves, lacking the terminal two blank leaves; engraved title, engraved portrait of Joachim (fol. c4r), 30 engraved illustrations for Vaticinia and 3 other engraved illustrations in text; text in Latin and Italian except the epistle dedicatory by the editor in Latin; a few minor stains to the initial leaves, mild browning and occasional light foxing, two text leaves (B2.3) with some creasing affecting text and the illustration (no loss); a good copy in early eighteenth century vellum on boards, manuscript title to the spine, covers lightly warped. Adams J213; Landwehr (Romantic) 415; EDIT16 CNCE35558.

フィオーレのヨアキムの名のもとに広く流布した預言集。ヨアキムはアンチキリストが跋扈する現代を経て聖霊の時代が到来すると唱え、霊的な修道会による導きを預言したことで有名ですが、その影響は十三世紀中葉のフランシスコ会で顕在化し、聖霊派の思想的柱梁となりました。フランチェスコの清貧の理想をそのまま具現化しようとした聖霊派は、自らをヨアキムの説く霊的教会の先兵と見做し、現実のヴァティカンをアンチキリストと断じる一方で、未来の救世主たるべき天使的教皇の出現を予期しました。

この『教皇預言集』は聖霊派がヨアキムの名を借りて著した少なからぬ文書の一つで、ヨアキムがこの世を去ってほぼ一世紀後に成立したと考えられます。聖霊派は1294年、ケレスティヌス五世によってフランシスコ会の新会派として認められたものの、教皇はわずか五ヶ月で退位。後継ボニファキウス八世の弾圧を受けた聖霊派はギリシャに逃れています。三十の預言から構成される『教皇預言集』のうち、現在後半に位置する十五の預言はニコラウス三世からベネディクトゥス十一世に至る各教皇の肖像、ならびに将来すべき天使的教皇の一群を描き、標語とともに示したもので、1304年に死去したベネディクトゥスの在世時に成立したと考えられます。前半に位置する十五の預言はこれより時代が下り、弾圧された聖霊派残党によってトスカーナ地方で書かれたもので、マルシコの司教アンセルムスを著者に擬しています。マージョリー・リーヴズは1356年以前の成立と推定。これもニコラウス三世に始まる歴代教皇の図像集ですが、第十五図は竜の姿をしたアンチキリストとして描かれ、後半の預言とは対比的に「未来にあらわれるであろう一連の天使的牧者を思い描くことはない」(リーヴズ)。

十四世紀後半から二つの預言集はまとめられ、多くの写本によって流布しています。刊本は1515年ボローニャで上梓、五年後ヴェネツィアで再版が登場しました。いずれも教皇の図像とヨアキムの肖像とを木版挿画で収録しています。またイタリアではナポリで1585年に銅版挿画入り羅伊対訳版が刊行されました。この1589年ヴェネツィア版は、パスカリーニ・レジセルモが多くの写本・刊本を校訂し、イタリア語対訳を加えたもので本文には多くの異文が加えられています。後半はレジセルモによる註解。なおリーヴズは「レジセルモが三つの預言文書を本書の末尾に加えた」云々と記していますが、これは正確ではなく、1589年版に見られるのはパルメリウスの Rota のみ。1625年パドヴァで再版本が刊行された際、エギディウス・ポロヌスとヨアキムとに擬せられるグレゴリウス十四世までを描いた二種の教皇預言が書肆の手で追加されており、リーヴズの言及は1625年版(ないし1646年ヴェネツィア再版)に依拠するものでしょう。

十八世紀前半と思しきヴェラム装。1589年版には一部の枚葉紙について組版が異なるヴァリアントが存在し、EDIT16 は「指紋」の異なるA・B二種を区別しています。上掲はB種。本来巻末の二葉は白紙ですが、上掲本では製本の際に切除されたと見られ現存しません。

(学術洋書部)