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【洋古書】ルソー《新エロイーズ》初版、ルソー《学問芸術論》初版・ほか

18世紀最大のベストセラーを刊行当時の趣そのままに味わえる初版本、およびルソーの出世作となった論文

関連ワード:18世紀思想 フランス文学 古書 啓蒙 洋書 社会思想  更新日:2025.10.17
    1. ルソー《新エロイーズ》初版
    2. ルソー《学問芸術論》初版・ほか

繊細な感情、内面に呼応する自然の描写、社会批判、宗教論-同時代の読者を魅了し、ゲーテ、スタンダール、トルストイ達にも大きな影響を与えた『新エロイーズ』、1761年刊行の初版本。2種類存在する初版本のうち、本書は第二巻から第五巻の各巻タイトルページと最終ページに異なる銅版のヴィニエットと銅版装飾が置かれた稀少な版です。

『学問芸術論』は、1750年にディジョンのアカデミーの懸賞論文で一等賞をとり、その年のうちに刊行された出世作。『人間不平等起源論』や『社会契約論』へと続く、ルソーの思想の萌芽であり、出版と同時にこれを論駁する著作も多数発表された話題作。

 

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—以下、「紀伊國屋書店 古書目録 2020」より—

ルソー《新エロイーズ》初版
ROUSSEAU, Jean-Jacques. [Julie, ou la nouvelle Heloïse.] Lettres de deux amans, habitans d’une petite ville au pied des Alpes. Recueillies et publiées par J. J. Rousseau. A Amsterdam, chez Marc Michel Rey, 1761.

¥660,000

 

12mo, six volumes; pp. (16), 407, (1) publisher’s advertisements; (4), 319, (1) advertisements; (4), 255, (1) advertisements; (4), 331, (1) blank; (4), 311, (1) advertisements; (4), 312; title printed in red and black, engraved vignette on title-page of each volume, engraved vignette to the last page of text in Vols. 1-5; the final gathering of vol. 1 in uncorrected state (p. 389 with the readings ‘necéssaire’, ‘plus loi-‘ and ‘pas assé’, p. 398 ‘effarée’); occasional light thumbing and soiling, sporadic mild browning and foxing, bound in contemporary mottled calf, red morocco title label to the spines (missing in Vols. 3 and 4), corners and spine ends worn, joints partly split, front joint of the initial volume cracked but sound. McEachern 1B; Gagnebin 1B; Quérard VIII. 195; Dufour 87; Cioranescu 54803; Sénelier 362; Tchemerzine-Scheler V. 537-8; Le Petit pp. 560-2.

 

ヨーロッパに夥しい涙の洪水を齎したルソーの書簡体小説。『新エロイーズ』の名を以って今日知られますが、上掲本のように初版のハーフ・タイトルは「ジュリー、あるいは新エロイーズ」、二色刷のタイトル頁には「アルプス山麓の小村に住む二人の恋人の書簡集」と記されています。

 

アムステルダムのレーのもとで初版四千部が刊行にいたる、その主たる経緯は1925年に刊行されたダニエル・モルネの校訂版で明らかにされていますが、さらなる詳細についてはマケクランの書誌を参照。部数の半分はパリに送られ、その販売にあたったエティエンヌ=ヴァンサン・ロバンはまた、マルゼルブの意向をうけた検閲版の出版をも行っています。今日「ロバン版」と呼ばれるものがそれ。本書の爆発的人気は初版やロバン版、海賊版・偽版を含め、1761年の刊記をもつ版だけで十一種類におよぶ事実に伺えましょう。

 

初版の第一巻最後の折丁には誤植の有無によって二種の刷りが区別されますが、上掲は最初の形態。なおかつての書誌類は、第一巻に二葉からなる誤植訂正一覧を含むとしましたが、この誤植表はパリのデュシェーヌが印刷したものと考えられ、マケクランによればパリの国立図書館本にしか見られません。またグラヴロの銅版挿画十二点を含むものも現存しますが、これもデュシェーヌの上梓になり、レーの初版本と書誌的には無関係。

 

『新エロイーズ』初版本は二種類が区別され、タイトル頁と本文最終頁の装飾にヴァリアントが存在します。ガニェバンならびにマケクランの分類でA種とされるもののタイトル頁には、第一・第六巻のみペトラルカの詩句(ソネット二百九十四番から)をあしらった銅版装飾が置かれ、第二巻から第五巻は簡素な活版の装飾模様。B種では第一巻・第六巻はA種と共通ですが、第二巻から第五巻については各巻異なる銅版のヴィニェットがタイトル頁に見られます。また第一巻から第五巻の本文最終頁にB種では各巻異なる銅版装飾が置かれていますが、A種では同じ箇所に活版の装飾模様が見られます。

 

B種の本文末尾に見られるヴィニェットのうち、第一巻のそれは1737年、第二巻は1729年、第三巻は1728年の日付が入っており、いずれも製作年代が三十年以上遡るものであることがわかります。当時の印刷慣習からすれば、印刷の途中で簡素な活版装飾からより手間のかかる銅版装飾に変更されるとは考えにくく、むしろ最初に使用していた銅版装飾に何らかの不都合が生じたため活版装飾に代えられたと推測するのが自然でしょう。かつてデュフールならびに(モルネの校訂版からすでに四半世紀を閲しているにも関わらず)セヌリエがB種をもって初版としたのはその意味で当然と思われます。

 

現存する書簡から、著者ルソーと出版者レーとの間に校正刷が往復するのと同時に、『新エロイーズ』に加えられるべき装飾が論点となっていることが確認されます。ルソーはレーが提案したヴィニェットを拒否し、現在A種に見られる装飾で決着したのは事実ですが、現存する二種の先後関係についてはマケクランも言及していません。

同時代の牛革装。稀少、B種はことに稀れ。

ルソー《学問芸術論》初版・ほか
ROUSSEAU, Jean-Jacques. Discours qui a remporté le prix a l’Académie de Dijon. En l’année 1750. Sur cette question propose par la même Académie: Si le rétablissement des sciences & des arts a contribute à épurer les mœurs. Par un citoyen de Genève. A Genève, Barillot & fils, [1750].
[Bound with:]
LESZCZYNSKI, Stanisław, and Joseph de Menoux. Réponse au Discours qui a remporté le prix de l’Académie de Dijon. [Paris, Noël-Jacques Pissot], 1751.
[Bound with:]
ROUSSEAU, Jean-Jacques. Observations de Jean-Jacques Rousseau, de Geneve, sur la Réponse qui a été faite à son Discours. [Paris, Noël-Jacques Pissot], 1751.
[Bound with:]
BORDE, Charles. Discours sur les avantages des sciences et des arts, prononcé dans l’assemblée publique de l’Académie des sciences & belles-lettres de Lyon, le 22 juin 1751. Avec la Réponse de Jean J. Rousseau. A Genève, chez Barillot & fils, 1752.

¥550,000

 

8vo, four works in one volume; pp. (6), 66; 34; 62, (2) blank; (2), 130; the initial work with engraved frontispiece (by Ch. Baquoy) and woodcut vignette on title-page; contemporary mottled calf, gilt, joints cracked, corners and spine ends worn; occasional faint waterstaining, mild browning throughout. Quérard VIII. 192-3, 209; Dufour 13, 23, 24; Sénelier 240, 249, 256; Cioranescu 54709, 56763, 54718 & 56767; Tchemerzine-Scheler V. 525; Cohen-de Ricci 902-3; cf. Gagnebin & Raymond edd., Oeuvres complètes III. pp. 1854-6 (No. 2).

 

ルソーの出世作である『学問芸術論』はディジョンのアカデミーへ提出された懸賞論文。1749年に出されたアカデミーの課題は「学問と芸術の復興は人間の習俗を改善したか否か」というもので、ルソーの強烈な否定的回答は翌年七月に一等を与えられました。この『学問芸術論』は受賞と同年に刊行され、ルソーの文名を一躍高めています。ジュネーヴのバリロ刊と記した刊記は偽りで、ディドロがパリの印刷者ピソに上梓させたと伝えられます。上掲は広く初版本として通行するものですが、書誌的には第二版。タイトル頁のヴィニェットが異なり、本文の誤植箇所に若干の異同がある以外は折丁の数なども共通しており、時間的に初版とごく近いものと考えられます。

 

上掲は同時代の合綴本で、ポーランド国王スタニスラフ・レシチニスキによる論駁ならびにルソーの反論、それにシャルル・ボルドの批判といった三つの関連書をあわせて製本しています。これら三つもパリのピソの刊行かと推定されるもの。

(学術洋書部)