エツ・イナガキ・スギモト(杉本鉞子)英文著作集(復刻集成版 全5巻 + 別冊解説)
Collected English Works of Etsu Inagaki Sugimoto
監修・解説:植木照代(神戸女子大学名誉教授)
2013年11月刊行 判型:A5判(第1-4巻)、 A4判(第5巻) 総頁数:1,700頁
ISBN 978-4-86166-158-7
(Edition Synapse) -JP-
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1925年米国で出版されるや一躍ベストセラーとなり、世界7ヶ国語に翻訳された『武士の娘』の著者エツ・イナガキ・スギモト[杉本鉞子;1873(明治6)年~1950(昭和25)年]の初の英文著作集です。
- 代表作A Daughter of the Samurai(邦訳『武士の娘』)をはじめ、『成金の娘』、『農夫の娘』など、米国で発表した英文作品すべての初版をカラー図版も含め復刻集成します。
- A Daughter of the Samuraiは、ニューヨーク・ジャパンソサイエティーが限定発売した初版特別版にそれ以降の版のカラー図版を加えて復刻。合わせて、米国移住後に発表した米国地方新聞の連載記事、雑誌Asiaに10回にわたり連載された『武士の娘』初出時の記事、そして全作品の英米新聞の書評や関連記事も収録します。
- 別冊中ではアジア系アメリカ文学を研究課題としてきた監修者の視点から、日本およびアメリカにおけるスギモト作品の受け止め方を再評価し解説、さらに『婦人之友』の中の杉本鉞子自身によるアメリカ生活を語った連載記事を掲載しています。
ジャポニズムブームが去り、1924年の排日移民法の成立などで在米日本人、日系人を取り巻く環境が厳しくなる一方だった時代に出版されたスギモト作品が、何故欧米一般読者に広く受け入れられたのか? 第二次世界大戦中にもかかわらず米英で出版されたGrandmother O Kyo(『お鏡お祖母さま』)をニューヨークタイムズ紙やロンドンタイムズ紙はどのように受け入れたのか?・・・日米文化比較・日米文化交渉史、多文化研究など、様々なテーマの研究資料・文献として利用可能な作品集です。
杉本鉞子英文著作集を推薦する。
亀井俊介(東京大学名誉教授)
杉本鉞子著A Daughter of the Samuraiの翻訳『武士の娘』をはじめて読んだ時の興奮は、いまも思い出す。私は田舎の高校の多分2年生だった。敗戦からまだ間がなく、貧しい日々の中でアメリカにあこがれ、本を読みあさってアメリカを探っていた。そして小さな古本屋でこの本を見つけたのだ。戦争中の出版でぼろぼろの本だった。が、夢中になって読んだ。戊辰戦争で敗れた越後長岡藩の家老の娘の自伝物語だが、アメリカ人に向かって、武士の精神や生活を語り、日本の社会を語り、結婚して渡米して味わったカルチャー・ショックを語り、人間の「生」を語っていた。アメリカ体験談も新鮮だったが、私は同時に、アメリカ人になったつもりで日本の話を楽しんでもいたと思う。語り口調の翻訳もすばらしかった。
それから間もなく、ルース・ベネディクトの『菊と刀』を読んでいたら、日本の文化を説明するのに『武士の娘』からの引用がたっぷりなされているのに出くわし、驚くと同時に喜んだ。アメリカにも、自分と同じ体験をした読者がいる!という発見をした思いだった。
日本人が英語で書いた自伝というと、私はすぐに内村鑑三のHow I Became a Christian『余は如何にして基督信徒となりし乎』を思い浮かべる。これは見事な精神史でもある。それから日本語で語ったものだが、すぐれた英訳のある『福翁自伝』The Autobiography of Fukuzawa Yukichi(英訳は福沢の孫で鉞子の娘と結婚した清岡暎一)。これは血湧き肉躍る時代史でもある。この2巨人の本の間に『武士の娘』は控えめに位置する。作者はつつましい女性で、ただ懸命に生きた。が、そのつつましさよって、身近な出来事がこまやかに描写され、これは魅力あふれる生活史ともなっている。
杉本鉞子はこの本の評判に支えられ、A Daughter of the Narikin『成金の娘』、A Daughter of the Nohfu『農夫の娘』の「娘3部作」、および日中戦争の深まり行く時代を背景に「兵士の祖母」を語る佳作Grandmother O K yo『お鏡お祖母さま』といった英文小説をあらわした。どれもいまでは稀覯本である。
(学術洋書部)