最近では、「読む」ことだけでなく「書く」ことも支援する大学が増えてきました。私どももまた、図書館としてそれを担いたいという思いがありましたので、他部署の協力も得ながら「ライティング支援」を始めました。本学では、英語のライティングと日本語のライティングを、それぞれ分けてサービス提供しています。7フロアを有する図書館のうち、英語の多読書が12,000冊ある「ライフデザイン・スタジオ」があり、そことリンケージする形で英文添削サポートデスク「Writing Plaza」を開講しています。外部講師を採用し、1セッション15分をWEBで予約、英語の文章を採点してもらうという支援です。そして1階の参考図書コーナー近くのレファレンスデスク―レファレンスデスクと言っても一般の学生には通じないので、本学では「学修・研究支援カウンター」という名前を付けているのですが―その一角に、日本語ライティング支援デスクを置いています。こちらは1セッション30分、次に予約が入っていなければ延長可能です。英語・日本語どちらも、授業との連携を特に重視しています。ただ開設しただけではとても学生は来ませんので、例えばレポートを課している授業や教員と連携して、「ライティング支援デスクで一旦チェックを受けてから提出」とすることで、鈴なりの状態を維持しています。ここで日米の差が出て面白いのですが、英語のネイティブ講師は休憩時間なしでひっきりなしに予約が入っていると休ませろと激怒するのですが、日本の講師は疲弊感を全身に漂わせながらそれでも黙って仕事をしており、対照的で面白かったです(笑)。今では休憩を挟みながら、日本語・英語ともにライティング支援を続けています。
これは直接的には書く力に結びつくものではないのですが、兵庫教育大学さんのキャンパスには、図書館と隣接したところに「教材文化資料館」という施設があり、毎回魅力的な展示をされています。私が伺った時に拝見した「ノート指導」という企画展示が非常に素晴らしく、本学には教職を目指している学生も多いので、ぜひ巡回展示をさせてほしいとお願いしたところ快諾いただき、兵庫教育大学さんとの連携展示ということで、本学でも「ノート指導」展を開催する運びとなりました。
スライドには挙げていませんが、創作絵本を制作する「未来造形」という授業があり、その中で人気のあった絵本については、本学の蔵書として受入れをしています。OPACで学生の名前を入れて検索すると、著者としてヒットします。きちんとバーコードやラベルも貼って受入れをしており、学生はちょっとした作家気分を味わえます。いつかここから絵本作家を輩出できたらいいなと思っておりましたら、本当に絵本作家が生まれまして、「be絵本大賞」という賞で秋元康さんらに大絶賛されて優勝した卒業生が誕生しました。このように一生涯の仕事として創作活動までする学生が生まれたということを、館員一同大変喜んでおります。
3つ目、日本を代表する書評紙「週刊読書人」の中に「書評キャンパス」という連載記事があり、「大学生に書評を書かせよう」という読書人さんにとっても初挑戦のコーナーを作っていただきました。各大学の図書館から推薦された学生に、1,200字の書評を書いてもらう。私どもが紀伊國屋書店さんに寄稿する場合は無償であることも多いのですが、ちゃんと3,000円の原稿料も出ます(笑)。一般に流布している新聞に載るということで、学生のモチベーションたるや半端なく、掲載された学生は「一生の思い出になります」と言って大喜びします。こういったアウトプットの場を提供することも、図書館としては大切なことではないかと思っています。
世の中には就活、婚活、妊活など色々ありますが、本学では読書活動を「読活」と名付けて、読活プロジェクトなるものを展開しています。本学の図書館は4年前に大改修を行ったのですが、先ほどご紹介しました「読書に関わるアンケート調査」の中で寄せられた要望のうち、「今解決できる懸案事項については全て解消させよう」ということで実現したのが、現在の図書館です。
貸出スタンプラリーも展開しています。貸出1回につき1スタンプを押すのですが、女子学生はこういうのが大好きです。ポイントが集まったら大学のオリジナルグッズ、このグッズを考えるのも我々図書館員なのですが、ぬいぐるみや折り畳み傘、ちょっといいブックカバーなどを進呈しています。どういった形であれ本に親しむ・活字に親しむ経験をしてもらえればいいじゃないか、という思いでの活動の一端です。
4年前の改修前は、ヘビーユーザー向けの図書館、まさに象牙の塔の図書館でしたので、来館者数は横ばい、あるいは微減の状態だったのが、改修後の初年度は入館者数前年比180%、貸出冊数は160%増という結果が出ました。現在もその数字は維持しており、今なお入館者数は前年比110%、貸出冊数は120%増を実現しています。「そりゃそうやろ、あんだけちゃらちゃらした本ばっかり入れて、そら貸出冊数上がるやろ」と思われるかもしれませんが、蓋を開けてみると、学術書も確実に借りられていることが判明しました。これはすごく大きな成果で、やはり読書レベルは段階を踏んでいくものですから、4年目を迎えてようやく取り組みが結実してきたなと思っているところです。
そして、今年度MWU電子図書館を構築したわけですが、これまでの本学の図書館では、学術書の電子書籍を何百タイトルと購入しても全く使われない、といった状況が続いていました。唯一英語の多読書だけは、「留学から帰ってきた学生たちに洋書のブックレビューをさせる」という課題を与えるなど、授業との連携を行っていたので爆発的な利用があり、1ヶ月で1,500ダウンロードを突破して、今までにない利用状況に驚きました。やはり、あまり使われない資料というのは授業・教員との連携が本当に必要だなと実感した次第です。
相変わらず一般の小説や資格を取るための問題集・対策本などのリクエストは毎年ありましたから、図書館を改修するとき、資格や就活対策の本だけを約1万冊集めた「ライフデザイン・スタジオ」というフロアを作りました。複本は買わずに、全種類を網羅するつもりで収書しています。これはなぜかというと、学生から「書店に行けば自分が取りたいと思う資格の問題集は沢山ある。ただ、そのうちの1冊をその場で選んで買うとなると、どれを買ったらよいかわからずストレスを感じる」という声が多く聞かれました。ではそれを選ぶためのベースとなる環境を図書館で用意してあげて、色々試す中で自分に合った1冊を見つけたら、それをポケットマネーで買って必読書にしたらいいじゃないか、という意図で開設したフロアです。しかし、どれだけ揃えても、まだまだ資格や就活本を入れて欲しいという声が続いていました。小説も然りです。
加えて、教職支援課という教職課程を履修している学生を支援する部署が、全国の教員採用試験の過去問を集めたオリジナルのデータベースを構築していたのですが、非常にデータが重くて使いづらく、これを何とかしたいと常々相談を受けていた、という背景がありました。
そんな中で大学として進めていたのが、このスマートキャンパス計画です。新聞や車内広告にも入れましたので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、「どんどんICT化を進めて、学生にも慣れ親しんでもらう」という取り組みです。おかげで図書館内でもサクサクとWi-Fiにアクセスできるようになり、「この環境を生かして電子図書館を構築するように」という指令が下されました。確かに、容量無制限のドライブや卒業後も使える生涯メールアドレスの利用など複数のメリットがあり、色々展開できる環境が整っていると思っていました。
とはいえ、実は昨年度に初めてLibrariEをご紹介いただいたとき、司書課程の授業でもお試しで1ヶ月ほど使わせていただきましたが、読書習慣のある学生にとっては電子書籍に対して嫌悪感があるようで、私たち図書館員も「電子図書館は不要」と考える意見が多数を占めました。
ところが、折角予算も付けると言われましたので、まずは実証実験という形で学生の反応を見ましょうということになり、学生たちに「実証実験参加者を募集します」と、教育支援システムで公募を行いました。そうすると意外だったのが、薬学、食物栄養、看護など理系の学生たちが手を挙げて、参加したいと表明してくれたのです。私にとっては目から鱗が落ちる事実でした。
(武庫川女子大学 附属図書館 川崎安子)
【後編】に続く
※本稿は、「紀伊國屋書店電子書籍セミナー2017〈京都会場〉―本当に使われる電子図書館とは―」(2017年10月17日)におけるご講演の一部である。【前編】はこちら