これからの学び

学生の読書習慣育成に向けた「MWU電子図書館」の構築について【前編】―紀伊國屋書店電子書籍セミナー2017〈京都会場〉より―

2017.11.06

-武庫川女子大の「攻める」図書館-

2017年10月17日、京都で開催された“紀伊國屋書店電子書籍セミナー「本当に使われる電子図書館とは」”において、武庫川女子大学附属図書館・川崎安子氏より、「電子図書館の導入による学生の読書習慣育成に向けた実証実験について」という題目でお話をいただいた。本講演は大変好評で、「非常にアイデア豊富に、学生に向けて積極的に働きかけをされていることに感銘を受けた」「電子書籍を導入することによって広がる可能性に魅力を感じた」といった多数の反響をいただいた。その大変興味深い内容を、数回に分けて掲載させていただく。
前編では、電子図書館の話の前に、川崎氏が驚嘆すべき熱意と創意工夫でいかに学生のニーズを掴み(と言うか、ニーズを創り出し)且つ学内外の社会的要請に応え続けることで図書館のステータスを向上させておられるか、いくつもの具体例をご紹介する。

(紀伊國屋書店 電子書籍営業部 今井)

 


0.はじめに-武庫川女子大学の紹介
皆さんこんにちは、武庫川女子大学附属図書館の川崎と申します。今日はこのようなお話をさせていただく機会をいただき、ありがとうございます。本日は、“学生の読書習慣育成に向けた「MWU電子図書館」の構築について”というテーマでお話をさせて頂きます。先ほどご紹介がありましたLibrariEを、今年度より本学で導入致しました。その事例をご紹介させていただきたいと思います。

本学のことをご存知ない方もいらっしゃるかと思いますので簡単にご紹介させていただきますと、武庫川女子大学は6学部14学科・短大7学科を備え、2年後の2019年に創立80周年を迎える総合大学です。学生規模は、国内女子大の中では最大で12,000人を擁しています。

こちらが図書館HPのトップページです。メニューがずらっと並んでいますが、本学のマスコットキャラクター「Lavy(ラビー)」の左横に「MWU電子図書館」というリンクが貼ってあり、ここが電子図書館への入口になっています。先程、LibrariEはOPACとの連携が可能というお話がありましたが、本学はわざとOPACとは連携させずに、別建ての電子図書館という形で運用しています。

本学では図書館としてどういう取り組みをしているのかと言いますと、まず一番に「①活字に触れる、楽しむ」ということ、最終的には「②良き読者を育てる」ということ、「③書く力を身につける」ということ、そして「④読活プロジェクト」、の4つを挙げることができます。また、最近特に大学に求められている「⑤地域貢献」。こういったことを視野に入れて、活動を展開しています。

 

1.活字に触れる、楽しむ

まず「活字に触れる・楽しむ」というところですが、私どもは毎年全学生を対象にした「読書に関わるアンケート調査」というWEBアンケートを取っています。毎日新聞社さんが毎年実施されている「読書世論調査」の質問事項に合わせたアンケートを作成しており、本学の学生と全国平均の間にどのような差異がみられるかという点をチェックしています。本学の学生に関しては、「放っておいても本を読む」読書習慣のある学生と、「まったく活字に親しみのない学生」、この二極化が非常に顕著に表れている事が特徴として言えます。

その中で、「放っておいても本を読む学生」は放っておいても足繁く図書館に来てくれるのですが、この「活字に親しみのない学生」たちに対してどういったアプローチをしていくべきなのか、それを考えた時に、この「活字に触れる、楽しむ」という枠組みで、まず「卒業生コーナー」というものを作りました。現代俳句協会の元会長である宇多喜代子さんや、ライトノベルで人気の高殿円(たかどのまどか)さん、最近のヒットメーカーで「イヤミス(=読んで嫌な気分になるミステリー)の女王」と言われている湊かなえさんといった方々が卒業生におり、そういったOGの方々の作品を読んでもらいたいと思い、コーナーを作りました。これは大ヒットで、学生たちも「卒業生だったんだ!」と興味を持ち、「本に親しむ」というきっかけ作りが実現していると思います。

そして2つ目、「現代女性作家コーナー」というのを設けています。アンケートを取りますと、学生から「もっと普通の小説を入れてほしい」という要望が毎年あります。ただ、大学としては学術書を中心に購入したい。小説の類は図書館で買いたくないという思いがありました。ただ、これだけ小説を望む声があるのなら、一定のルールを決めて購入しようと方針を改め、「現在国内で活躍している女性作家で、かつ文庫化されているもの」という制限を設けて収集しました。先週文藝春秋さんが出された「図書館は文庫を買うな」というコメントに真っ向から反対するようですが(笑)、本学では文庫を買っています。女子学生は色々な荷物を鞄に一杯詰めて大学に来ていますので、同じ内容でハードカバーと文庫があったら、確実に文庫を選びます。そういった学生のライフスタイルを考えたときに、やはり文庫というのは無視できない形態です。
選書にあたっては、WEBアンケートの中で学生に自分の推薦するお勧めの作家・作品は何かを尋ねて、そこから全て拾って選書しています。このコーナーは非常に人気となり、立ち上げた初年度の貸出件数は1万件に達しました。見逃せないのが、図書館で借りて読んだことで、手元に置いておきたいとその本を購入する学生が出てきたことです。「本当に面白かったら自分でも買います」と学生は言っています。そういった事例も見られるコーナーになりました。

3つ目としては、小説をもっと入れて欲しいという声にさらに応えた形になるのですが、芥川賞・直木賞・本屋大賞など国内の主要な30の文学賞を受賞した約10年分のハードカバー作品をまとめて置いています。右側のスライドの通り、本学では帯つきでブッカーをかけています。帯は、学生に対しても訴求力がある非常に大事な情報源ですので、昔の大学図書館、今も一部の図書館さんでは、カバーは全て外して並べていらっしゃるところも多いとは思うのですが、帯も大事な作品であるという考えの下、すべて帯つきでブッカーをしているのが特徴です。

2.良き読者を育てる
このように、「たとえ話題性のある本から入ったとしても、まずは活字に親しんでもらう」ことを企図して、図書館内のあちこちに様々なコーナーを設置しています。
この後出版社との協業など、そういった話にも及ぶかと思うのですが、我々としてはやはり、良き読者を育てていく、というところに着目し、「卒業後も日本の活字文化を支えてくれる担い手になってほしい」との期待を込めて、「良き読者を育てる」ことについても取り組んでいます。

本学には附属の保育園や幼稚園があり、0歳児から、その親御さんも含めたすべての園児・生徒・学生が大学図書館を利用できるようになっています。そこで、1999年アメリカ発祥の「R.E.A.D.プログラム」という、小さいお子さんが訓練を受けた犬に絵本を読み聞かせる読書活動を行っています。最初にこれを大学側に説明した時、「えっ?誰に?」「犬に。」「誰に?」「犬に。」というやりとりを3回繰り返したのですが(笑)、本当に賢いわんこ達です。どういうプログラムかと言うと、例えばアメリカの小学校で英語を母語としない子どもが、先生から「次読んで下さい、○○ちゃん」と指名された際、変なイントネーションで読んでしまったり、吃音でうまく話せなかったりして、クラスメートに笑われたことがトラウマとなり、人前で話すのが苦手になってしまうことがあります。ところが、この訓練を受けた犬と対面して読み聞かせをすると、何をしゃべっていようが、トチろうが、一生懸命その子の目を見てじっと聴いてくれる。それを繰り返し重ねることで、子どもたちはいつの間にか臆することなく話せるようになり、コミュニケーションスキルも上がっていくということが実証されているプログラムです。それを、私どもは大学図書館として国内で初めて取り組ませていただきました。ありがたいことに、このドクタードッグを養成しているNPO法人が阪神間には非常に沢山あったことも幸運でした。活動の様子は多くの新聞社・テレビ局に取り上げていただき、先般も読売新聞の一面で特集を組んでいただきました。

そして、2つ目は大学生・短大生・卒業生向けなんですが、2014年度より「作家と語る」というイベントを毎年やっています。WEBアンケートを基に人気のある作家さんをお招きし、学生と作家のトークセッションを披露します。初回は、『バッテリー』などを書かれたあさのあつこさん。2回目が時代小説家の髙田郁さん。第3回が小川洋子さん。そして今年第4回は桐野夏生さんにお越しいただきました。いずれの作家さんも、「ただの講演であれば引き受けないけれども、若い世代の学生さんとのトークセッションということでしたら」とお引き受けいただくことが多いです。学生側にとっても、一介の学生の身分でプロの作家さんと話すような機会はまずありませんので、しっかり準備をして、本を読み、その上で作家さんと話すという得難い経験をすることで、参加する学生が非常に成長してくれるプログラムになっています。2回目にお越しいただいた髙田さんは、現在執筆されている『あきない世傳 金と銀』シリーズのヒロインを武庫川流域津門村出身という設定で書いてくださり、私は川崎“安子”という名前ですが、丁稚の中に“安吉”という人物を登場させてくださり、江戸時代の文献を集めるのに本学図書館の資料も提供させていただきました。そして先週土曜日(10/14)、再度髙田さんをお招きして、「作家と図書館」というテーマで司書課程の学生と阪神間の図書館員の皆様を対象に、トークイベントを実施しました。

続いて「良き読者を育てる」3点目、これはどこの図書館さんもやっていらっしゃることだと思いますが、新聞書評のコーナーを設けています。本学には司書課程で学ぶ学生が500名近くおりますので、彼女たちに課題として「学術書」のPOP作成をさせています。放っておいても読まれる人気の作品については、あえて司書が動く必要はない。普通に書架に並んでいるだけでは誰も手に取らないような、興味を喚起しないような学術書をいかに利用者に繋げるかが大学図書館員の使命のひとつである、と考えています。
司書課程の学生には、上級生の立場で「この学術書はレポート作成に役立った」とか、「これは〇〇の授業で本当に使える学術書だった」と思うものを、後輩に薦めるつもりで書いてください、と伝えています。これが大ヒットし、常に貸出し中という状況です。このような「学術書を紹介する」という経験は、図書館で提供できる学修プログラムのひとつであると実感しています。

 

(武庫川女子大学 附属図書館 川崎安子)

 

【中編】に続く