人文社会系研究

連載:The Illustrated London Newsでみるバレンタインデー

2018.02.13

図版資料は、都市の景観、社会風俗、日用品などを視覚的に伝えるだけでなく、当時の集団的な無意識まで浮かび上がらせる貴重な資料です。歴史的な図版資料は日本でも多数発行されてきましたが、それを代表するのが「風俗画報」です。欧米の図版資料と「風俗画報」を比較することによって、一方の資料だけでは見えてこない部分が見えてくるかもしれません。

センゲージ ラーニング株式会社 Galeがデータベースで提供する欧米の図版資料と「風俗画報」を特定のテーマでご紹介する本企画、「風俗画報」では12月と1月のイベントとしてクリスマスとお正月をとりあげました。本稿ではイラストレイテッド・ロンドン・ニュース(The Illustrated London News, 以下 ILN) の記事から2月のイベント、バレンタインデーを取り上げたいと思います。

「風俗画報でみるクリスマスとお正月」はこちら

バレンタインデーと郵便局

以下にご紹介するのは、ロンドン・シティーのセント・マーティンズ・レ・グランドにあった中央郵便局の業務の光景を描いた挿絵です。記事によれば、当時イギリス国内で配達された郵便物の総数は9億通で、書籍等の印刷物から新聞、手紙まで、様々なものが配達されました。イングランドとウェールズの各都市には合計600の郵便局があり、ロンドンから各都市へ向けて、毎日1回から多くて8回、一定の時刻に郵便が発送されていました。

“The General Post Office” (February 13, 1875)

ところで、郵便業務が繁忙を極める時期がありました。2月14日のバレンタインデーです。古くから若い人々の間では、バレンタインデーにポストカードや贈り物を最愛の人に送る習慣がありました。この記事が書かれた1875年は2月14日が日曜日にあたり、日曜日の朝に大量の郵便発送業務に追われるのは好ましくないと考えた郵政省は、金曜日に投函することを呼びかける郵政長官名の通達を出しました。その2年前にはロンドンの中央郵便局だけでバレンタインデーのカードや贈り物を容れる郵便籠が300箱以上も必要になり、押印、仕分け、発送準備作業が夜を徹して行われました。もっとも、政府にとって収入源であったことも事実で、若者たちの無邪気な習慣が政府の歳入増に少なからず貢献していたというわけです。

“The General Post Office” (February 13, 1875)

バレンタインデーの象徴的存在、郵便配達夫

こうして、郵便配達夫はバレンタインデーに欠かせない存在となり、ポストカードや贈り物を家に届けに来る場面を描いたものがバレンタインデーを描いた挿絵の定番となります。

“St. Valentine’s Day” (February 14, 1863)

“Valentine’s Day” (February 15, 1868)

“Valentine’s Day” (February 10, 1872)

誤配が招いた喜劇

配達には誤配がつきものです。次の挿絵は、誤配が招いた喜劇を描いたスティーヴン・ダッドの挿絵です。1886年2月13日に掲載されました。もとは1枚の挿絵ですが、本稿では一段ずつ分けてご紹介します。

左:大枚をはたいて、最愛のミス・ジョーンズにバレンタインの贈り物を用意する若きスミサーズ。
中上:ミス・ジョーンズが気づくように、念入りに自分のイニシャルを入れる。
中下:
だが、贈り物を受け取ったのは、ミス・ジョーンズではなく叔母のミス・ジョーンズだった。
右:スミサーズ、翌日ミス・ジョーンズの家を訪問。最愛の人ミス・ジョーンズは冷たくよそよそしいが、叔母の方は気分が高揚している。

左:最愛の人は席を外す、スミサーズと叔母を後に残して。
中:贈り物を受け取ったことをスミサーズに告げる叔母のミス・ジョーンズは…
右:私はあなたのもの、あなた一人のものよ、と高らかに告げる。

左:二人の間にテーブルを置き、間違いを説明するスミサーズ。
右:叔母のミス・ジョーンズの破滅的な結末。

左:最愛の人に事の顛末を説明するスミサーズ。
右:平穏にミス・ジョーンズの家を辞するスミサーズ。

今回は、ILNに掲載された、バレンタインデーの心温まる、ときにユーモラスな挿絵をご紹介しました。ILNには、バレンタインデーに限らず、季節のイベントをとりあげた挿絵が多数掲載されています。日本の風習とは一味違う趣もみられる季節感あふれるILNの挿絵をおたのしみください。

(センゲージ ラーニング株式会社)

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