図書館をつくる

目白大学特別企画展示・講演会「ライトノベルという出版メディア」レポート

2019.08.26

あなたはライトノベルを読んだことがありますか?

活字から離れていると言われている若者を中心に人気の広がっているライトノベル。
最近ではアニメや実写映画になるなど、多くの作品が親しまれています。

そんなライトノベルについて、7月20日(土)、目白大学新宿図書館にて講演会が実施されました。

その名も「ライトノベルという出版メディア―活字+ビジュアルの力が読者を掴む!?―」
講師は目白大学人間学部子ども学科専任講師の山中智省先生

ライトノベル研究の歴史、メディアとしてのライトノベルについて、お話を聞いてきました。

ライトノベルとは?

実は、未だに明確な定義が定まっていないというライトノベル。

「ライトノベルとは何か?」をめぐって、熱い議論が交わされることも少なくないそうです。

今回の講演会では、「主にマンガ・アニメ風のキャラクターイラストをはじめとしたビジュアル要素を伴って出版される日本の若年層向けエンターテインメント小説」がライトノベルとされていました。

日本では1970年代以降、若者向けのマンガ、アニメ、ゲームといったサブカルチャーが盛り上がりを見せていきます。また、やがて映画やテレビ、インターネットやSNS等、新旧の様々なメディアへ広く展開されながら、多種多様な作品が数多く生み出されていきました。

こうしたサブカルチャーやメディアとの親和性が高い小説の一群こそが、ライトノベル。

そして、その誕生と発展をきっかけに若者の活字文化は、徐々に変容を見せ始めます。

ライトノベルへの注目の高まり

2000年代前半。出版不況が続く中でもコンスタントに売り上げを伸ばしていたライトノベルは、その市場の大きさだけでなく、活字離れが叫ばれていた若者が実際に読んでいるということから、一気に世間の注目を集めていきます。なかには、若者を対象とした「これまでにないジャンルの活字文化」と評した新聞もあったようです。

また2000年代後半には、谷川流の『涼宮ハルヒ』シリーズ(角川スニーカー文庫)を京都アニメーションがアニメ化し、記録的な大ヒットを成し遂げたことで、ライトノベルはメディアミックスの原作を生む土壌としても話題になりました。そして現在、依然として年間2000点を超える数の作品が刊行され続けており、競争の激しい業界となっています。

一方で、2000年代には文学・文芸界でもライトノベルに注目が集まり始めます。

例えば桜庭一樹さん、冲方丁さん、有川浩さん。

いずれも直木賞など有名な文学賞を受賞したり、映像化された作品を生み出したりと著名な作家さんたちですが、彼らが実は、ライトノベル出身作家でもあったということをご存知でしょうか。「越境作家」と呼ばれる彼らはライトノベルからデビューした後、文学・文芸界でも評価の高い作品を書いて脚光を浴び、ジャンルを横断して活躍する次世代作家と見なされていったのです。

こうした盛り上がりを背景として、ついにライトノベルを対象とした研究が登場します。

その前段階として、現代日本社会におけるライトノベルの位置付けなどをめぐる批評ブームが起きており、この動きがアカデミックな分野から注目されるきっかけとなりました。

この頃、ライトノベルを対象とした学術研究の実践を目指す「ライトノベル研究会」が立ち上がり、山中先生もこの研究会を基盤として、これまで研究を続けてこられたそうです。

ライトノベル研究会が刊行した研究入門書『ライトノベル研究序説』(青弓社)では、次のようなライトノベルの捉え方を提唱しています。

「ライトノベルを、複数のジャンル、メディア、文化の要素を兼ね備えた〈複合的な文化現象〉として見てはどうか?」

つまりライトノベルは、マンガ、アニメ、ゲーム、小説のほか、オタク文化や同人誌文化、メディアミックスなど、多種多様なジャンル、メディア、文化の要素を包括した一つの文化現象として存在しているために、小説としての一面を捉えるだけでは不十分だということです。そして山中先生は以上の考えを踏まえ、「様々な要素を積極的に/戦略的に取り入れながら、多彩なコンテンツを生み出すことを可能にする出版メディア」として、ライトノベルを捉えています。

ライトノベルという出版メディア

ライトノベルを小説、あるいは文化現象としてのみならず、多彩なコンテンツを世に送り出すメディアとして見ることで、これまで以上にその動向を把握できるのではないか。

山中先生の着眼点はいよいよメディアに踏み込みます。

例えば、ライトノベルには公募新人賞が設けられており、かなりの数の作品が応募され、名作が生まれています。

また受賞できずとも、成長が見込まれる作家は拾い上げがあるなど、ライトノベルは「面白ければなんでもあり」というコンセプトのもと、多様な作家・作品を生み出すメディアとも捉えられます。

ライトノベルで読書能力が身につくのか、図書館でどう扱えばよいのか。

ライトノベルについて、いろんな面で悩んでいらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

是非はさておき、イラスト付きの本を読むのが普通の若者は、イラスト等が付いていることが苦ではない事がほとんどです。

ライトノベルの文学的な価値を見る議論がありますが、ライトノベルはもともと消費されるエンターテインメント。文学の基準だけで語ってよいのでしょうか。

若者世代に楽しまれるものとして作られているライトノベルは、読書の質や物語の再生産を促すほうに視点を広げるべきではないか。

そういう意見も次第に増えてきているようです。

意外に思えるかもしれませんが、ライトノベルの全てに新しさがあるわけではないのです。

若者むけ、挿絵付きの小説という点で見ると、ライトノベルのエッセンスは昔からあるもの。それらを次々に取り込んで作品を作っていくものがライトノベルです。

そのため、新しさというより、どう生み出されてきたのかという面をメディア史として見ていく視点が必要ではないかと、山中先生は考えています。

ライトノベルの始まり

ライトノベルが生まれてきた背景には、売り上げ増加を目指す商業的な理由だけでなく、活字離れが叫ばれる中、若者に小説の面白さを知ってもらいたいという発想があったそうです。

1988年に『ドラゴンマガジン』(富士見書房)という雑誌が創刊されました。

マンガ・アニメ風のイラストを多く掲載したビジュアル重視の構成ですが、実は文芸誌です。

これは、小説の面白さを知ってもらうため、ビジュアル要素を強めた文芸誌にし、小説の世界へ若者を引き込むきっかけになるよう作られました。

必ず活字の中のどこかにイラストを入れますが、読者の想像力を妨げないよう配慮するなど、あくまで小説を読むための補助要員として入れられていました。

こうした活字とビジュアルの絶妙な関係が若者の想像力を喚起するとともに、現在のライトノベルへと繋がるビジュアルエンターテインメントを誕生させたのです。

このようにライトノベルは、若者を小説の世界に誘うことを目的に、「活字+ビジュアル」の力を得て生み出されたのです。

現在では、多彩なコンテンツを世に送り出す出版メディアへと成長し、数多くの作家・作品を輩出し続けています。

ライトノベルについて考える際、私たちはその見た目だけ、従来の考え方だけで判断するのではなく、「今、ココ」の読者に合わせて生まれてきたという経緯を知った上で、これまでとは違った視点から見つめ直してみる必要があるのではないでしょうか。

こちらも山中先生監修の館内企画展示

目白大学新宿図書館HP
https://www.mejiro.ac.jp/library/shinjuku/event/open_lecture/

本文は山中先生にご監修頂きました。誠にありがとうございました。

(紀伊國屋書店 ライブラリーサービス部 佐藤)