図書館をつくる

NACSIS-CATの NCR2018 適用開始から6ヶ月 その意義と課題を考えてみよう !

2025.04.30

はじめに

国立情報学研究所 (NII) が運営する国内最大の総合目録データベースサービス「NACSIS-CAT」は昨年 (2024年) 10月31日、適用する目録規則を『日本目録規則2018年版 (NCR2018) 』へ切り替えました。本日(2025年)4月30日、適用開始から6ヶ月を迎えました。紀伊國屋書店では全国の大学図書館の目録業務を受託しNCR2018による目録作業を毎日行っており、また一方で、NACSIS-CAT/ILLシステムの構築と運用を受託していることから、裏方としてもNCR2018適用に際してのシステム開発に携わってきました。

本稿では、1章でNCR2018とはどのような規則か概観したうえで、2章から4章までNACSIS-CATのNCR2018適用に至る経緯と趣旨を振り返り、5章でその概略を整理し、6章と7章で目録業務の実務的な視点と、また長らくNCR2018適用の経緯をウォッチしてきた観点から、その意義と課題を考えます。2章から4章の経緯の記載は長くなるため、急がれる方は飛ばしていただいても構いません。尚、本稿は筆者の私見と責任に基づき記載するものです。

1. 『日本目録規則2018年版 (NCR2018)』とは何か?

図書館では所蔵する資料の目録作成の際、目録規則に準拠して目録データ(や目録カード)を作成します。その際、国内の多くの図書館が利用する『日本目録規則』が2018年12月、31年振りに改訂され刊行されました。『日本目録規則』を英語で「Nippon Cataloging Rules」と称することから略称を「NCR」と呼び、2018年版であることから「NCR2018」と略されます(以降、NCR2018と記載)。それまでの『日本目録規則』は1987年版 (NCR1987) でした。NCR1987は図書館を含め社会の電子化が未成熟の時代に作られた規則ですので、紙の目録カードの作成と利用を前提としていました。しかし最新版のNCR2018は図書館の目録がコンピュータのデータベースで管理されることを前提としており、従来の構成や考え方から大きく変わった内容となっています。

NCR2018の特徴として、『日本目録規則2018年版』の序説では13点が挙げられていますが、ここでは主要な3点について取り上げます。

(1) 国際標準に準拠した「FRBR」(Functional Requirements for Bibliographic Records 書誌レコードの機能要件)の概念モデルを基本としています。図書館の目録や全国書誌に記述される書誌レコードに何が求められているのか、利用者の観点に立って単純なモデル化をしたものがFRBRであり、1998年に刊行されました。それ以前からモデル化の考え方はありましたが、FRBRでは利用者の視点から見直したことが大きな特色で、書誌的な実体として「著作」、「表現形」、「体現形」、「個別資料」を定義し、その属性や関連性を定義しています。「著作」という抽象的な概念を定義し書誌レコードに組み込み、情報探索の際に利用者の利便性が向上していくと考えられています。

(2) 国際的なデファクトスタンダードともいえる新たな目録規則『RDA』(Resource Description and Access = 資料の記述とアクセス。以降、RDAと記載) との相互運用性(作成したデータが交換可能になること)が考慮されています。RDAは、それまで英米圏を中心に広く使われ、国内でも洋書の目録作成の際に使用されてきた『英米目録規則 第2版』(AACR2 = Anglo-American Cataloging Rules 2nd Edition)の後継となる規則です。「目録」の用語が外され、図書館の蔵書目録を作成する規則から、広く情報資源を発見するための作成指針へと発想が大きく転換しています。RDAも前述のFRBRの概念モデルを基本としており、2000年代の英米圏の図書館関係者の間での長い議論の末、2010年6月に刊行されました。日本の国立国会図書館でも2013年4月から外国刊行の洋図書等の目録作業でRDAを採用しています。

(3) 日本の諸事情を考慮した規則となっています。日本の出版状況や目録業務の慣行からNCR1987の規定を継承した方が良いと判断された項目(例えば、書誌階層構造の考え方や、和暦の扱い、日本語特有の「ヨミ」に関するルールなど)について、RDAと異なる場合でも採用されています。RDAに準じて変更した多くの箇所でもNCR1987の方式を「別法」として残しています。

NCR2018の意義はどういった点にあるのでしょうか。NCR2018を編集した日本図書館協会(以降、JLAと記載)の目録委員長を務める渡邊隆弘氏(帝塚山学院大学教授)はNCR2018の刊行後、「つながりをもった目録へ」とその趣旨を説明しています。「あくまで私見」としながらも、大きなキーワードとして「関連」と「機械可読性」の二点を挙げ、「システムが自動処理できる形でデータ相互につながりあうことが、NCR2018の最も重要なところだ」と述べています。詳しくは下記の文献をご参照ください。

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2. NACSIS-CATとは? NCR2018適用の検討と決定

「NACSIS-CAT」は国立情報学研究所が運営する日本最大の総合目録データベースシステムです。全国の大学図書館が参加するオンライン共同分担目録方式によって1985年から総合目録データベースを構築しています。2025年3月現在、参加機関は1,352機関、総合目録データベースに登録されたデータ件数は2025年4月20日現在、図書書誌データは約1,355万件、図書所蔵データは約1億5,000万件、雑誌書誌データは約37万件、雑誌所蔵データは約455万件、著者名典拠データは約187万件、著作(統一書名)典拠データは約4万件に上ります。NACSIS-CATの書誌データは「CiNii Books(大学図書館の本を探す)」へ毎週連動し、国内外の幅広い方たちの資料検索や所蔵調査に利用されています。

NACSIS-CATの目録データが準拠する目録規則は、これまで和書は『日本目録規則 1987年版改訂3版』 (NCR1987) 、洋書は『英米目録規則 第2版』 (AACR2) でした。2010年代に入って英米圏でのRDAの普及や国内でのNCR改訂の検討が進む中、「これからの学術情報システム構築検討委員会」(※参照。以降「これから委員会」と記載)ではNACSIS-CATへのRDA導入を検討してきました。その結果、2019年2月、正式な方針として同委員会が「これからの学術情報システムの在り方(2019)」を公表し、メタデータ高度化の進むべき方向として、RDAとNCR2018への対応を検討し、「新たな国際標準への対応について検討を行う」ことが示されました。

※これからの学術情報システム構築検討委員会とは?
「大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所と国公私立大学図書館協力委員会との間における連携・協力の推進に関する協定書」に則り設けられた「大学図書館と国立情報学研究所との連携・協力推進会議」の下に、同協定書の第2条第1項に掲げる事項のうち、(3)「電子情報資源を含む総合目録データベースの強化」に関する事項を企画・立案し、学術情報資源の基盤構築、管理、共有および提供にかかる活動を推進することを目的として2012(平成24)年に設置された組織です。「これから委員会 委員会概要」 https://contents.nii.ac.jp/korekara/about  (2025年4月24日参照)

この方針を受け、2019年4月より「これから委員会」の下の部会「システムワークフロー検討作業部会」で新たな目録規則の検討が開始され、2022年2月に「これからの学術情報システムのメタデータ収集・作成方針について(案)【ドラフト版】」が公開されました。パブリックコメントの募集後、2022年11月に「これからの学術情報システムのメタデータ収集・作成方針について(2022)」が発表され、この方針の中で「図書館員とエンドユーザである利用者の双方にとってわかりやすく,豊かな目録の構築を目指すべきという立場から,和書・洋書を問わず,『日本目録規則2018年版』(NCR2018)を適用すべきである」とのNCR2018適用の方針が示されました。

そこではNCR2018を適用する理由や判断として、主に次の3点が挙げられました。

(1) RDAとの相互運用性の点で。「総合目録としての「NACSIS-CAT」は国際的なデータの流通や連携を踏まえた,多様なデータを扱える相互運用性の高い目録規則が必要とされる状況にある。その一助となるのが,「日本目録規則2018年版」である。NCR2018は欧米を中心に広く利用されている国際的な目録規則「RDA」を受けて,日本の資料に向けて作成されたものである。いわば,かかる目的の達成には最適の目録規則であり,これを今後のNACSIS-CATでどのように適用するかについて検討する必要がある」(*用語を一部略)

(2) Web上の学術情報資源の共有を促進していく点で。「書誌データの再利用性を高めるためには他の書誌データや図書館の外のデータとリンクが可能なメタデータを注記ではなくIDのリンクで表現する必要がある。NACSIS-CATでは,これまでも著者IDとのリンク等で上記を実現してきたが,ワークフロー部会としては,書誌データ作成にNCR2018を適用することで,IDとリンクを付与する対象を著作の典拠データ,関連指示子等へ拡大していくべきと考える」

(3) 日本語以外の言語資料(洋書)についてRDAを採用せず、NCR2018を適用する理由としては、参加する図書館の負担軽減を挙げています。「ワークフロー部会では当初,AACR2の後継にあたる準国際的な目録規則であるRDAの採用について検討を行った。しかしRDAはIFLA LRMへの対応等の改訂が頻繁に行われており,多くの大学図書館の加盟するNACSIS-CATにおいて頻繁な改訂への適用は大きな負担となることが見込まれる。一方でNCR2018はRDAの根幹的な部分との互換性を備えていることから,MARC21形式の海外の書誌データの受け入れや,今後NCR2018に基づいて作成した書誌データを海外に提供することも可能であると判断した」

そして今後の進め方として、NACSIS-CATでのNCR2018を適用した書誌データ作成のため、「より細かな指針を定めた適用細則案を作成し,2022年度中の全体公開を目指す」との具体的目標が設定されました。

尚、2022年2月公開の「メタデータ収集・作成方針について(案)」では「2023 年度にNCR2018 の適用を開始することにより,より豊かな目録,図書館職員のみならず,エンドユーザにわかりやすい目録を目指していく」と、NACSIS-CATのNCR2018適用開始の目標は2023年度に設定されましたが、2022年11月発表の「メタデータ収集・作成方針について」では適用日程は削除され、「適用細則案」の公開日程のみに目標が限定されました。

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3. NCR2018適用に向けた準備-1 「適用細則」の公開

2022年2月24日、「NCR2018適用細則案」が公開され、パブリックコメントが募集されましたが、これは「メタデータ収集・作成方針について(案)【ドラフト版】」の公開と同時期でした。募集期間は2022年2月25日から3月25日の約1ヶ月間とされました。「総説・属性総則」、「和図書」、「和逐次刊行物」、「関連」、「付録」の5ファイルが公開されましたが、各ファイルに記載される情報量に驚かされた参加図書館は多かったことでしょう。

「適用細則」とは、NCR2018の本則または別法の選択方針(適用する/適用しない)を示したもので、NACSIS-CATの適用細則案は国立国会図書館作成の「NCR2018適用細則」を参照し、用意されました。原則的にNCR2018の本則または別法が採用されますが、条項によって独自規定が設けられ、任意規定が細かく定められています。

国会図書館の「適用細則」はNCR2018の「条項番号」と「見出し」そして「適用/非適用」の項目から成り比較的シンプルですが、NACSIS-CAT「適用細則案」は国会図書館の細則表をベースに「NCR2018規則本文」とNACSIS-CATでの「適用/非適用」とその「理由」が記載され、精細な内容となっています。読み解くことに苦労する細則表ですが、NACSIS-CATが共同分担目録であることから、参加図書館が理解を共有するために必要な形式だったと考えられます。

NCR2018適用によって大きく変わることが、必要に応じて「適用細則」を参照し、NCR2018を適用するか/しないか、を考慮しながらの作業となることです。従来のNACSIS-CATの目録データ作成は、基本となる目録規則を理解したうえで、データ作成の原則と考え方を示す「目録情報の基準」をもとに、データの記述方式や記述文法等が詳述された「コーディングマニュアル」を参照し作業していました。この作業に「適用細則」への適宜での参照が加わります。

最終的にNACSIS-CATのNCR2018適用細則の確定版の公開は適用開始1ヶ月前の2024年10月1日でした。細則ファイルは「総説・属性総則」、「図書」、「逐次刊行物」、「個人・家族・団体」、「典拠形アクセス・ポイント(著作・個人・家族・団体)」、「関連」、「付録」の7つの構成となりました。最新の適用細則は「コーディングマニュアル」の第51章として公開されています。

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4. NCR2018適用に向けた準備-2 「目録情報の基準」と「コーディングマニュアル」の公開

2023年12月22日、前述したNACSIS-CATの目録データ作成のための「目録情報の基準(以降、「基準」と記載)」と「コーディングマニュアル(以降、CMと記載)」についても改訂案が公開され、パブリックコメントが募集されました。CMの章ごとに二段階に分かれ、1回目は2023年12月22日から2024年1月31日、2回目が2月19日から3月18日の期間でした。また同時に「適用細則案」もパブリックコメントを受けた改訂版が公開されました。このときも膨大な情報量の公開となり、1ファイルの「基準」はともかくとして、合計22ファイルになるCMのすべてを確認できた方はほとんどいなかったことでしょう。

改訂の大きなポイントは、①NCR2018を新たに適用すること、②和資料と洋資料の目録規則を統一すること(図書だけではなく雑誌<逐次刊行物>も統一)、③従来の「統一書名典拠」を「著作典拠」と名称を変え、その作成範囲を追加すること、にありますが、マニュアルの改訂箇所の詳細が示されなかったため、どの箇所がどう変わったのか、新旧のCMを比較する必要が生じました。(新しいCMの顕著な変更点については、蟹瀬智弘氏が2024年10月時点の情報をもとに下記の文献で整理されています)

2024年2月26日、「基準」とCMの改訂案説明会がオンラインで開催され、改訂案のポイントの説明と質疑応答がされました。この説明会ではNCR2018適用開始のスケジュールはまだ示されませんでした。

NCR2018適用予定のスケジュールの変遷を振り返ると、前述の2022年2月公開の「メタデータ収集・作成方針について(案)」では「2023 年度にNCR2018 の適用を開始」とされ、2022年11月15日の「これから委員会」主催の図書館総合展フォーラムの一コマ「日本目録規則2018年版の新NACSIS-CAT/ILLへの適用」では「2024年度当初からNCR2018の適用(予定)」と示されました。2023年度に入ってからは、5月29日開催のNII学術情報基盤フォーラムで「2023年度秋頃」の「基準」とCMの公開、同年の冬頃の改定案の説明会の開催が案内されましたが、NCR2018適用日程は「時期未定」とされました。

適用開始の正式な発表は2024年6月12日開催のNII学術情報基盤フォーラムの場で「2024年10月頃 *NACSIS-CATのシステム改修の完了時期により変更の可能性あり」と示されました。翌月の7月12日に適用開始は「令和6(2024)年10月31日(木)に決定」したと案内されました。

そしていよいよ、2024年9月9日に新しい「CM」と「基準」が公開され、2024年9月13日には「コーディングマニュアル・目録情報の基準改訂説明会」が開催されました。前掲の渡邊隆弘JLA目録委員長の講演「日本目録規則2018年版(NCR2018)とは?何を変えようとするのか」の後、「基準」、「CM(図書・雑誌)・(典拠と関連)」、「NACSIS-CATのNCR2018対応」の説明と「お役立ちツール」の紹介がされました。この説明会はNACSIS-CATのNCR2018適用に関する網羅的な説明で、質疑応答も含めてアーカイブ配信されています。NACSIS-CATのNCR2018適用を理解するための入門編として好適な内容となります。

尚、2024年10月30日まで適用されていた「CM(CAT2020対応版)」と「基準 第5版」は下記のURLから参照ができます。

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5. NACSIS-CATのNCR2018適用 その概要

2024年10月31日に適用開始となったNACSIS-CATのNCR2018適用の概要として、本稿では大きく5点を挙げます。

  • (1) 準拠する目録規則を統一し、和資料と洋資料をNCR2018に統一すること。
  • (2) NACSIS-CATのデータ形式(CATPフォーマット)は変更しない(コードの追加は行う)
  • (3)  NCR2018へ依拠すること。※主な内容としては下記
  •  a.目録作成の際の情報源を変更する。優先情報を規定する。(例:図書のタイトルはタイトル・ページが優先情報源となる)
  •  b.目録作成用の略語は使わない。(例:「et.al.」→「and・・・others」、洋書では「p.」→「pages」)
  •  c.「資料の種別(機器・キャリア・表現種別)」をNOTE(注記項目)に記録する。
  •  d.NCR2018の用語に変更する。 (例: 「統一標目形」→「典拠形アクセス・ポイント」、「標題紙」→「タイトル・ページ(裏も含む)」、「付記事項」→「識別要素」等)
  •  e.統一書名典拠データセットを「著作典拠データセット」に変更する。
  •  f.著者名典拠データに「家族」を新設する。
  • (4) 2020年8月3日開始のNACSIS-CATの運用変更(「CAT2020」)方針を維持すること。(例:VOL積み書誌の禁止、並立書誌の許容、異なる目録規則の許容等々)
  • (5) 2024年10月30日以前の書誌データにはNCR2018を遡及的に適用しない。書誌データの作成日付 (CRTDT) でNCR2018か以前の目録規則に準拠かどうかを識別する。

新規で追加されたコードは3項目があります。

(1) 出版版等の役割表示コード (PUBF) に「「d(頒布表示)」、「p(制作表示)」、「c(著作権日付)」が追加されました。従来はコード無し(出版表示)と「m(製作表示)」コードがありました。「製作」と「制作」は読みが同じですが、「製作」は刊行物に対する印刷・複写・成型等の役割、「制作」は非刊行物に対する書写・銘刻・作製・組立等の役割のことです。

(2) その他のタイトル (VT) の種類コード (VTK) に「ET(先行タイトル)」、「LT(後続タイトル)」が追加されました。一般の図書では該当しませんが、「ET」は更新資料(加除式資料等)に用い、「LT」は雑誌の書誌に用いられます。

(3) 件名の種類コード (SHK) に「N(家族名)」が追加され、著者名典拠データの属性コード (TYPE) に「f(家族)」が追加されました。「家族」とはNCR2018で新設された概念で、家族であることを示す複数の個人を表す実体となります。例えば、豊臣家やケネディ家 (Kennedy) 等です。

また、上述の出版等の役割表示コードの追加の他、出版日付の書き方が変更されました。複数の出版事項 (PUB) フィールドを作成する場合、それぞれの出版表示・頒布表示等に対応した日付を、該当するPUB フィールドに記録します。役割が同一のPUB フィールドが複数ある場合、最後の出版者等に続けて記録します。

  •  例: PUB:東京 : 東京朝日新聞社
  •     PUB:大阪 : 大阪朝日新聞社 , 1931.1

その他、出版日付・頒布日付等と著作権日付が異なる場合は、PUBフィールドを繰り返して著作権日付を記録するようになりました。その記録に際しては、役割表示コードに「c(著作権日付)」を記録します。

  •  例: PUB:London : Penguin Books , 2018 # 空値
  •     PUB: , c2017 # c

NACSIS-CATのNCR2018適用でデータの見え方として最も特徴的な点が、「表現種別」、「機器種別」、「キャリア種別」の資料の種別を注記することになるでしょう(紀伊國屋書店内では「NCR2018注記」と通称しています)。「表現種別」とは表現形の種類を表す種別で、「機器種別」と「キャリア種別」は体言形の種類を表す種別です。NACSIS-CATではそれらをまとめて注記 (NOTE) フィールドに記録します。洋書の場合、目録用言語が英語になるため、英字で「Content Type」、「Media Type」、「Carrier Type」の用語を使います。例を挙げると下記となります。

  •  例: NOTE:表現種別: テキスト (ncrcontent), 機器種別: 機器不用 (ncrmedia), キャリア種別: 冊子 (ncrcarrier)  ※(目録用言語は日本語)
  •  例: NOTE:Content Type: text (ncrcontent), Media Type: unmediated (ncrmedia), Carrier Type: volume (ncrcarrier)  ※(目録用言語は英語)

その他、著者名典拠データの識別要素(生没年等の著者を識別する要素)の区切記号が変更されました。新規で作成する日本名の個人名の典拠データは、識別要素が「,△」(△は半角スペース)の区切記号に変わりました。ささやかに見える変更ですが、日本名以外の個人名(外国の個人名)と同じ形式のデータ形式に揃ったことになります。過去の典拠データは古い形式で残りますが、これからは世界中のデータとつながっていく意義があり、NCR2018の趣旨を反映する変更だったといえます。

  •  例: 村上,△春樹△(1949-)  → 村上,△春樹,△1949-

以上の内容は前述した2024年9月13日開催の説明会で解説されており、各資料へのリンクも掲示しますので、ご参照ください。また説明会の講師3氏によるポイント解説が『医学図書館』2025年3月号にも掲載されていますので、入手できる方は併せてご参照ください。

上記の変更に対応するためのNACSIS-CATのシステム改修がドキュメント類の改訂作業と同時に進行しました。現在のNACSIS-CAT/ILLシステムはOCLC社のメタデータ基盤サービス群「Syndeo」のコンポーネントである「Controlled Bibliographic Service (CBS) 」をベースに構築され、2023年1月31日から稼働しています。NCR2018適用に際する一連のシステム改修も紀伊國屋書店を窓口として、OCLC欧州の開発チームで実施されました。「CBS」システムでは内部的な書誌データを事実上の国際的スタンダードといえるMARC21フォーマットと互換性のある形式で保持しています。今回のNACSIS-CATに登録するデータの記録形式のNCR2018適用によって、国際化的なデータ連携への一歩がさらに進んだことになります。

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6. NACSIS-CATのNCR2018適用 その意義と課題-総論として

2024年10月31日のNACSIS-CATのNCR2018適用開始に至るまで、長く多難ともいえる道程でしたが、今日の時代に即し、国際化に対応したNCR2018への切り替えは不可避でした。適用に向けて関係された皆様方のご尽力ご苦労に対して、本稿でもまずは労いたいと思います。

洋資料についてRDAを採用せず、NCR2018を採用したことも現実的な選択だったといえます。RDAは日本語訳が出ておらず、参加図書館の多くの目録スタッフが日常的に参照することには無理があります。また改訂が頻繁に行われ、それを常時追い掛けていくことも日本国内の業務事情では困難だったでしょう。

しかし当のRDAが概念モデルの基本とするFRBRは2017年8月、さらに高次の概念参照モデル「IFLA LRM」に進展しています。このモデルでは「FRBR family」とも呼ばれる三つの概念モデル「書誌レコードの機能要件 (FRBR)」、「典拠データの機能要件 (FRAD) 」、「主題典拠データの機能要件 (FRSAD) 」を統合した高次のモデルとなり、Linked Dataとしての書誌データ利用が促進されるよう設計されています。RDAもこれを受けてIFLA LRMの考え方によって全体を組み替えた「RDA 3R」が2020年12月から公式版となっています。NCR2018が参照したRDAは既に旧版となっていることになります。このことは前述した渡邉隆弘JLA目録委員長も認識され、既に2017年に「NCR もいずれ対応を迫られる。それで終わりというわけでもなく,RDA を含め見直しは今後も行われうる。すなわち,NCR2018 年版は中長期に固定された規則ではありえず,刊行後も不断の更新を続ける体制が必要である」と予告しています。NCR2018の適用が始まり、現場ではそれに合わせるための努力が日々進んでいる最中ですが、心に留めたい予告です。

NACSIS-CATのNCR2018適用の説明会が2024年9月13日で、適用開始が10月31日でしたので、現場の目録スタッフが新しい規則に適応する期間が短すぎたことは否めません。またNIIではセルフラーニング教材の補足資料として「『日本目録規則2018年版』準拠後のNACSIS-CAT」を用意していますが、「目的編」が9分半程、「解説編」が26分程の説明となります。概要はつかめますが、この教材だけで目録作業の実務に入ることには無理があるでしょう。(尚、2024年11月19日の図書館総合展で、高野真理子氏がセルフラーニング教材についてユニークな解説をされています。映像も公開されていますので、ご参照ください)

  • 国立情報学研究所 「『日本目録規則2018年版』準拠後のNACSIS-CAT 目的編」(NACSIS-CAT/ILL セルフラーニング教材 補足資料) https://contents.nii.ac.jp/external/ncr2018_01/ (2025年4月24日参照)
  • 同上 「『日本目録規則2018年版』準拠後のNACSIS-CAT 解説編」(NACSIS-CAT/ILL セルフラーニング教材 補足資料) https://contents.nii.ac.jp/external/ncr2018_02/ (2025年4月24日参照)
  • 高野真理子「ポイント解説!NCR2018対応セルフラーニング教材(資料)」(図書館総合展2024 NIIフォーラム)2024.11.19 https://www.nii.ac.jp/event/upload/libfair2024_forum4_1.pdf 
  • 同上「ポイント解説!NCR2018対応セルフラーニング教材(映像)」(図書館総合展2024 NIIフォーラム)2024.11.19 https://youtu.be/1eagW1mAzWA
  • 同上「クイズで親しむNCR2018 クイズで利用者タスク:ポイント解説!NCR2018対応セルフラーニング教材(資料)」(図書館総合展2024 NIIフォーラム)2024.11.19 https://www.nii.ac.jp/event/upload/libfair2024_forum4_2.pdf
  • 同上「クイズで親しむNCR2018 クイズで利用者タスク:ポイント解説!NCR2018対応セルフラーニング教材(映像)」(図書館総合展2024 NIIフォーラム)2024.11.19 https://youtu.be/g45LG41Va5Y

適用開始後、参加図書館からはNIIのQ&Aデータベースには多くの質問や指摘が寄せられ、コーディングマニュアルの改訂も続いています。改訂の履歴が記録されていますが、ドキュメント類の準備でも時間が足りなかったことを示しているでしょう。また、図書・雑誌以外の和漢古書・教科書・視聴覚資料・電子ブック等の各種資料のNCR2018対応マニュアルが2025年4月24日現在、まだ公開されておらず、順次公開が望まれます。

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7. NACSIS-CATのNCR2018適用 その意義と課題-目録業務の現場から

最後に目録業務の現場の視点から課題を述べます。前章の通り、作業の実務者が望む教育機会が少ないことがありますが(紀伊國屋書店内では独自に専門講習を行いました)、以下では技術的な点について私見を述べます。

一つは、新たに記録することとされた「表現種別」、「機器種別」、「キャリア種別」のいわゆる「NCR2018注記」は紀伊國屋書店内ではひな型のEXCELリストを用意・共有し、そのリストから該当情報を目録データにコピーペーストして記録していますが、本来は機械的に(システム的に)付与されるべき情報でしょう。NACSIS-CATには資料種別コードとしてGMD(一般資料種別)とSMD(特定資料種別)のコードを持っており、NCR2018の資料種別と完全に対にはなりませんが、大部分は変換ができます。この機会にGMD/SMDのコード体系を整備し直す選択肢もあったでしょう。世界最大の総合目録データベースOCLC WorldCatの目録作業では接続するクライアントツールに資料種別フィールド (336, 337, 338) の生成ツールが標準装備されるほか、WorldCat側でも新規入力された目録データに対して336-338フィールドを追加するスキャンプログラムが実行されています。NACSIS-CAT業務としても、図書館システム側で実装することも含めて、今後に向けた課題となるでしょう。

二つめは、NCR2018適用の目録データかどうかをCRTDT(データ作成日付)項目によって識別する課題があります。作成日付が2024年10月30日以前であればNCR1987かAACR2の規則に準拠し、2024年10月31日以降であればNCR2018による目録データとなります。10月30日以前の作成データを修正する場合、必ず旧規則で行う必要があり、目録スタッフはNCR1987、AACR2、NCR2018の三つの規則に対応する必要が生じています。NCR2018によって過去データを修正できれば習得する目録規則は一つで済みます。その際、準拠した目録規則を記録すれば良いでしょう。

NACSIS-CATでは準拠する目録規則を注記 (NOTE) フィールドに記録できますが、上限16個のNOTEの1個を使うことになります。一方のMARC21フォーマットでは040フィールドに識別用のデータ項目があり、使用する目録規則を専用項目に記録し、そこで識別ができます(国立国会図書館が作成するJAPAN/MARCの場合、040 $eにNCR2018を表すコード「ncr/2018」を記録)。また、MARC21フォーマットの040 $bでは目録用言語を記録します。日本語では「jpn」、英語では「eng」等となります。NACSIS-CATも和資料の書誌は日本語、洋資料の書誌は英語を目録用言語とすることがCMで規定されていますが、データ上も目録用言語を宣言できることが望ましいでしょう。

NACSIS-CATのデータ上に目録規則や目録用言語の記録がスマートにできないことは、CATPフォーマットの拡張性がないこと、言わば限界を示しています。前述した「NCR2018注記」をする資料種別についても、MARC21では新設された336、337、338フィールドに記録しますが、NACSIS-CATではデータ項目を新設せず、既存のNOTEフィールドの一つを使って記録します。NOTEで繰り返しできるフィールド数は前述の通り上限16個ですので、そのうちの1個を必ず使う必要が生じます。

CATP形式の限界とMARC21形式への移行については、2章で挙げた「メタデータ収集・作成方針(2022)」でも掲出されています。各図書館が運用する図書館システムの制約から、当面の間はCATP形式の維持が必要としつつも、「長期的な視点から見ればMARC21に関する知識を身に着けることが目録担当者に強く望まれる状況にある」、「長期的には,共同利用システムと図書館システムとのデータ交換等においても,CATP形式からMARC21形式やその後継の枠組みに,段階的に移行していくべきである」との方針が示されています。

  • (再掲)これからの学術情報システム構築検討委員会 「これからの学術情報システムのメタデータ収集・作成方針について(2022)」 2022.11.1  https://repository.nii.ac.jp/records/2000925

尚、この方針の中で注目されることの一つが、電子ブックのメタデータ(目録データ)を作成する際、MARC21に倣って電子ブックのプラットフォームやプロバイダに依存しない「中立的な」書誌データの記述法(「PCC Provider-Neutral E-Monograph MARC Record Guidelines」)が妥当であり、「各ベンダーや出版社等のステークホルダーの関係者で協議を行い,同様の記述法を採用することが望ましいと考える」としている点です。(紀伊國屋書店では電子ブックKinoDenの目録データを「Provider-Neutral」の方針で作成しています)

その一方で「メタデータ収集・作成方針(2022)」では「本記述法には「物理的な資料」で言及されるNCR2018との整合性を取るという点に留意が必要であり(中略)今後の検討が必要である」としています。NCR2018は言わば「記述対象資料主義(コンテンツの一致より、入れ物の記述を重視)」であるともいえ、今後の電子ブックの目録データの標準化の際、この矛盾をどう乗り越えるのか、国際化の視点や利用するエンドユーザの視点からも注意していくことが必要でしょう。

そして、メタデータの国際流通やLinked Dataの観点からは、NACSIS-CATの「並立書誌」の存在が気に懸かります。並立書誌とは2020年8月3日のNACSIS-CAT図書書誌の運用変更 (CAT2020) によって生まれた、同一の資料に対して目録の採り方の判断の違いにより複数のデータ作成を許容する用語であり、またそれによって並存する書誌を指します。同じ図書資料でも複数の目録データが発生しています。日常的な目録業務やILL(図書館相互貸借)業務で、またデータ連携の際にも、データはユニーク(一意)であることが望ましいはずです。現場での目録作業としては、NCR2018適用後も並立書誌を軽々しく増やさない気概で業務に取り込んでいます。

上記でご紹介した以外に、参考となるWebサイトの情報を最後に掲載します。

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(紀伊國屋書店 カタロギングサービス部 佐藤高廣)

2025年4月24日記載