人文社会系研究

Web版「群書類従」活用法第1弾『そうめん探求』

2019.10.02

日本研究に必携の一大叢書「群書類従」(全133冊、3750書目)をデジタル化し、2014年10月に ジャパンナレッジ電子書籍プラットフォームで配信を開始した【JKBooks群書類従(正・続・続々)】。

古代から近世末期まで、歴史・文学・宗教・言語・風俗・美術・音楽・遊芸・教育・道徳・法律・政治・経済・社会・その他各分野にわたる全書目を分類収録し、日本文化を研究するうえで基本図書となる一大叢書のデジタル版公開5周年を記念し、改めてその魅力をご紹介します。

■そもそも群書類従(正・続・続々)とは

『群書類従』『続群書類従』は、塙保己一(1746-1821)が古典研究に於いて重要かつ基本となる資料を蒐集して編纂した叢書です。『続々群書類従』は、塙保己一の『群書類従』『続群書類従』にならって、正続『群書類従』に漏れた資料を収録したものです。

■Web版群書類従を使ってみる!

では、web版群書類従を使うと、なにが分かるのでしょうか。実際に使ってみましょう。
今回、調べてみるのは、夏の風物詩「そうめん」です!
まずは、「Japanknowledge」搭載のコンテンツで下調べをしてみましょう。

『日本国語大辞典』には、次のようにあります。

そう‐めん[サウ:]【索麺・索麪・素麺】

解説・用例〔名〕(1)(「さくめん」の変化した語)小麦粉に水と塩とを加えてこねた種に、植物油を塗って細く引き伸ばして日に干したごく細いうどん状の麺。茹(ゆ)でたり煮込んだりして食べる。七夕祭の供物、盂蘭盆(うらぼん)の贈答にも用いられる。(以下略)

なるほど、そうめんにも、索麺・素麺・索麪などの表記があったようです。
「七夕祭の供物、盂蘭盆(うらぼん)の贈答にも用いられる」ともありますね。
では、web版群書類従を検索してみましょう。「索麺・素麺・索麪」の3つの表記を検索語に入れて、「or」の条件を入れて、検索を実行します。全部で51件(「素麺」30件、「索麺」16件、「索麪」5件)ヒットしました。まずはこちらをご覧下さい。

「索麺売。これはふとざうめむにしたる。」
(「七十一番歌合」538ページ)

【出典】「七十一番歌合」室町末期の歌合形式をとった職人尽絵。画は土佐光信。
編者は東坊城和長(1460-1529)か。『群書類従28 雑部』所収。

今でも続いているそうめんの製法ですね。室町時代の書物に描かれたもので、こうした製法が500年以上前にさかのぼることがわかります。「そうめん売り」という職業もあったようです。

さまざまな「メン」たち


それでは、そうめんとは具体的にどのような食べ物だったのでしょうか。

「麦とはむし麦の事也、素麺を熱く調へたる也、ぬるくしたるを、ぬる麦、ひやしたるをひや麦と云、素麺は小麦の粉にて、細く縄のごとくこしらゆるゆへ、本名をむぎなわと云也、むぎなわを略してむぎと計云也、又そば切などのごとく細く切てこしらへたるをば、きりむぎと云なり、」
(「条々聞書貞丈抄」589ページ)

【出典】「条々聞書貞丈抄」:伊勢貞丈作の殿中における武家の故実礼法を説いた書。『続々群書類従7 法制部2』所収。

そうめんは小麦の粉を細く縄のようにこしらえたもので、本名を「むぎなわ」といい、略して「むぎ」ともいうとあります。そうめんをぬるく調理したものが「ぬる麦」、冷やしたものが「ひや麦」、そば切のように細かく切ったものが「きりむぎ」ともあります。ゆで具合や切り方で名称が違ったようで、日本人ならではの多彩な食文化が垣間見られます。ちなみに、そうめんを熱いまま提供したものは「あつむぎ(むしむぎ)」と呼ばれたことが、次の資料からわかります。

「四献〈むしむき〉(略)むしむぎは素麺をあつく調たる也、あつむきとも云、」
(「条々聞書貞丈抄」576ページ。同上)

ここでは、「むしむぎ」は、武家の行事で4番目に提供された料理でした。


次は応用編レシピです。温かいまま食べる「ニュウメン」です。

「にうめん まづ素麺をみじかくきりゆで候て。さらりとあらひあげをき。たれみそにだしくはへふかせ入候。小な。ねぶか。なすびなど入てよし。うすみそにても仕立候。胡椒さんせうのこ。」(「料理物語」367ページ)

【出典】「料理物語」:料理の材料及び方法を説明した書。寛永20年(1643)成立。『続群書類従19下 遊戯部 飲食部』所収。

そうめんを短く切って、さらりと洗いあげる。具材にはねぎ(ねぶか)、なすびなどをいれ、うす味噌仕立てでもよい、とあります。調味料として、胡椒(唐辛子のことか?)や山椒も入れたようです。

「玉子素麺 たまごをあけ。よくかきあはせ。白ざたうをせんじ。其中へ玉子のからにてすくひ。ほそくおとし候なり。取あげよくさましてよし。」
(「料理物語」368ページ。)

玉子をよくかき回し、白砂糖を入れ、細くして、冷まして食べる……。これはいわゆるそうめんではなく、「鶏卵素麺」とよばれる洋菓子のようです。現在も博多名産の一つとしてあるようですね。

そうめんの歴史


では、そうめんの記述はいつ頃からみられるのでしょうか。
Web版群書類従では、次の記述が一番古い記載となります。

「御記云。寛平二年二月卅日丙戌仰善曰。正月十五日七種粥。三月三日桃花餅。五月五日五色粽。七月七日索麪。十月初亥餅等。俗間行来以為歳事。自今以後。毎色弁調。宜供奉之。于時善為後院別当。故有此仰。」(「年中行事秘抄」482ページ)

【出典】「年中行事秘抄」:年中行事を古書の引用により説明した書。鎌倉時代の初期の成立か。『群書類従6 律令部 公事部』所収。

冒頭の「御記」とは、宇多天皇(867-931)の書いた日記のことを指します。その宇多天皇の日記に、7月7日の七夕の節句で、そうめんが提供される、という記載があったことが確認されます。

そうめんが「七夕祭の供物」だったことは冒頭で紹介した『日本国語大辞典』に記載がありましたが、この資料から平安時代にまでさかのぼる料理だったことがわかりました。ちなみに、『日本国語大辞典』では、いくつかそうめんの用例を挙げていますが、そのうち最古の用例は鎌倉時代末(「金沢文庫古文書」)です。ここで紹介した群書類従の事例は平安時代ですから、300年ほどさかのぼらせることができそうです。ちょっとした「発見」かもしれません。

一方で、こんな「宮中作法」もありました。

「内裏仙洞ニハ一切ノ食物ニ異名ヲ付テ被召事也。一向不存知者当座ニ迷惑スベキ者哉。飯ヲ供御。酒ハ九献。餅ハカチン。味噌ヲハムシ。塩ハシロモノ。豆腐ハカベ。索麪ハホソモノ。松蕈ハマツ。鯉ハコモジ。」(「海人藻芥」108ページ)

【出典】「海人藻芥(あまのもくず)」:室町時代の有職故実を中心とした随録。応永27年(1420)成立。『群書類従28 雑部』所収。

宮中では、食べ物に別の名称を付けて呼んだといいます。そうめん(索麪)は「ホソモノ」。ちなみに「塩」はシロモノ、豆腐はカベだとか。「迷惑」と一刀両断しているように、儀式の現場では混乱していたのでしょう。

プレゼント・特産品となったそうめん

素麺は贈答品としても用いられました。

「自禁裏折三合〈饅頭一合。茶子一合。(結花付之。)素麺一合。有台。画図。〉被下。殊勝者也。」(「看聞御記」永享6年(1434)4月28日条。201ページ)

【出典】「看聞御記」:後崇光院貞成親王(1372-1456)の応永23年~文安5年の日記。『続群書類従 補遺2下』所収。

 天皇(禁裏)より日記の記主(貞成親王、1373-1456)に「プレゼント」があり、その一つとして、そうめんがみえます。天皇から下賜されるほどのものですから、貴重な食べ物だったのでしょうか。いろいろな地域でそうめんが特産品となったこともわかります。

 「一素麺御肴に進上に成候哉。御門跡かたより自然は御進上候。一乗院白為御生見玉【七月五日也】。御樽の御肴素麺一折。蓮若根一折。御樽三荷御進上候つる。又能登より輪島素麺【能登ノ名事】箱に入て。通作【修理】御進上候。其外は不及見候。但精進方よりの御肴に参候哉不存候。」(「伊勢貞助雑記」97ページ)

【出典】「伊勢貞助雑記」:伊勢流の武家故実の口伝書。伊勢貞助著。元亀元年(1570)頃成立。『続群書類従24下 武家部』所収。

「輪島素麺」が箱入りで進物とされたとあります。輪島(石川県能登半島北部)は現在でもそうめんの特産地です。

「朝比奈粽【チマキ】、伊予素麺、川俣芋茎、福智山蕨粉【ワラヒノコ】、横須賀卜治【シメヂ】、稲荷山松茸、東条烏頭、勢州糸和布、松尾梨子、小布施栗、(略)」
(「自遣往来」704ページ)

【出典】「自遣往来」:江戸幕府の正月の規式・諸国土産の進物類及び江戸方角等を記した書。江戸時代初期成立。『続々群書類従10 教育部』所収。

伊予(愛媛県)の特産として、そうめんがみえます。ちなみに、横須賀のシメジも特産に挙げられています。意外。
……まだまだ興味は尽きませんが、このあたりで紹介を終わりにしようと思います。

まとめ

群書類従(正・続・続々)は、日本の文化を知る上で基本的な資料叢書であり、多くの読者が利用してきた書物です。利用者はたいてい、各書目にふされた「部立て(テーマ)」を手がかりに、自分の関心のあるテーマを1頁ごとめくって、目当ての語句を探す、というのが一般的な使い方でした(これを「メクリ」といいます)。

①『群書類従28 雑部
②『続々群書類従7 法制部2』
③『続群書類従19下 遊戯部 飲食部
④『群書類従6 律令部 公事部
⑤『続群書類従 補遺2下 看聞御記
⑥『続群書類従24下 武家部
⑦『続々群書類従10 教育部

そうめんという食文化を調べようとした場合、当然ながら、「③飲食部」に入っているかもしれない、という予測は立ちます。

ところが、全文検索をしてみると、①雑部、②法制部、③飲食部、④公事部、⑤看聞御記、⑥武家部、⑦教育部、などなど、「意外」な部立て(テーマ)の書物にも入っていることが分かりました。
いうまでもなく、全文検索による最大の利点は、「検索したい語句に瞬時にたどり着けること」でしょう。これまで見ることのなかった史料も含めて、目的の語句へ即座にたどり着く――これこそ、デジタル化による醍醐味であり、最大の利点といえるのではないでしょうか。

ぜひとも一度このWeb版群書類従を使ってみてください。いままで書籍版で慣れ親しんできた史料群であっても、全文検索できることで、たくさんの「新発見」に出会えることと思います。

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※この記事は2014年に「教育と研究の未来」の前身である「KINOLINE」に掲載された記事に加筆・修正を加え再掲載したものです。

(紀伊國屋書店 書籍・データベース営業部)