図書館をつくる

『日本目録規則』はどう変わったか 

2019.10.17

はじめに

日本の多くの図書館が目録を作成する際に参照している『日本目録規則』が31年ぶりに大きく改訂され、2018年版として2018年12月に刊行されました。資料の捉え方がこれまでの目録規則とまったく異なるので、図書館の現場ではとまどう声も聞かれます。何がどのように変わったのでしょうか。なぜ変わったのでしょうか。

 

そもそも目録規則とはなにか

図書館にどのような資料があるかを探すために目録が作られ、これにより端末で検索できるようになっています。インターネットを経由して図書館の外から検索できることも珍しくありません。

この目録には、資料のタイトルや著者名などが入力されていますが、標題紙にあるタイトルと奥付のものとが違っていたらどう入力したら良いでしょう。翻訳書の原書名はどう扱えば良いでしょうか。このように、どのような情報をどのように入力するかを決めておく必要があります。
これが目録規則です。
もともとはそれぞれの図書館ごとに、目録を作成する際の指針としてまとめられてきましたが、他の図書館の方針を参考にするなどして徐々に標準化が進められてきました。国ごとに標準化が進められるとともに、現在では国際的にみて標準的な目録を作成するための指針もまとめられています。この背景には、良い目録とは何かを考えた結果として標準的な方法に収斂してきたことと、作成する場合も使う場合も、どこでも同じような目録になっている方が便利であること、他方で国や文化によって言語や本の形態などが異なるので、まったく同じ規則を世界中で使用するのは無理があることが挙げられます。

 

これまでの目録規則

日本で現在広く使用されているのは『日本目録規則1987年版』です。これは、国際的な標準であるISBD(国際標準書誌記述)に準拠しています。全体は3部構成になっていて、第Ⅰ部「記述」、第Ⅱ部「標目」、第Ⅲ部「排列」となっています。第Ⅰ部「記述」には、タイトルや出版事項や形態など、資料の特徴を記録する方法が書かれています。1987年版が刊行された当時、まだ目録は目録カードに記録するのが一般的でした。カードには項目名などが書かれているわけではありませんので、記録する順番や項目間の区切り記号、表記の仕方を決めておくことが重要でした。

そして大量の目録カードの中から必要な資料を探すには、目録カードをあらかじめタイトル順や著者名順に並べておく必要があります。この、カードを並べるための見出し(標目といいます)に関する規則が第Ⅱ部に書かれています。そしてその見出しの順にカードを並べる際の規則が第Ⅲ部「排列」です。このように『日本目録規則1987年版』では(というよりカード目録では)、資料の特徴を記録しておいて、そのカードを探すために標目を書いてその順に並べることで、その図書館の目録が完成していました。目録はその図書館に所蔵している資料を表す完結した一つの世界だったのです。

また第Ⅰ部「記述」は、第1章「記述総則」に続いて、第2章「図書」、第3章「書写資料」、第4章「地図資料」、、、などのように資料の種類(資料種別といいます)によって章が分けられています。手元にある資料はいろいろな資料種別のものがありますので、例えば地図資料について記録する場合はその規則をまとめた第4章を見ればよい、というのは合理的な構成です。

このように、現在では目録はデータベースで管理することが一般的ですが、入力している情報は目録カードに記録していた頃とほぼ同じ内容を引き継いでいるのです。

 

新しい資料の捉え方

ところで、何か資料を探しているとき、探している資料とまったく同じでなくても良い場合もあります。たとえば単行本を探していたけれども、文庫本があるのなら文庫本で読もうとか、全集の一部として収録されているものでも良いとか、pdf版がDVDに収められているならそれを借りようとか、オンラインで読めるならそちらの方が良い、などです。

このように、同じ中身の資料がさまざまな形態の入れ物に収められていることがありますので、これらを検索するためには入れ物と中身を分けて記録しておくことが効率的です。特にデータベースで管理する場合には、ある中身についてのレコードを一つだけ作成しておいて、単行本という入れ物のレコードにリンクを貼って関連づけたり、文庫本やpdfファイルという入れ物のレコードにリンクを張ったりしておきます。これにより、ある中身について、どのような入れ物に収められている資料があるかがリンクを辿って一覧できるようになります。

また、もしかすると小説を探していたけれども映画化されていると知って映画を観たくなるかも知れません。これまでは、映画と原作の小説とはまったく別の資料として目録を作成した上で、この映画はある小説を映画化したものである、という情報を言葉で注記してきました。しかし映画と小説という異なる作品のレコードをあらかじめリンクしておけば、この小説が映画化された作品をリンクをたどって確実に表示することができるようになります。

 

新しい目録規則

このような検索が可能なデータを作成するため、国際図書館連盟(IFLA)は1997年にFRBR(『書誌レコードの機能要件』)という考えを発表しました。入れ物と中身を区別して記録した上で、他のレコードとリンクを張っておくことを意識した内容になっています。

『日本目録規則2018年版』はこのFRBRの考えに基づいて、第1部「総説」に続いて、第2部「属性」、第3部「関連」と続き、第2部はさらに第2章「体現形」、第3章「個別資料」、第4章「著作」、第5章 「表現形」という構成になっています。このうち、「体現形」と「個別資料」というのが入れ物についての記録で、「著作」と「表現形」というのが中身についての記録です。「体現形」の情報としては、タイトルや出版者、ページ数、大きさなどがあります。「個別資料」としては1冊1冊に貼られているバーコードの番号や請求記号などがあります。著作の情報で重要なのは著者や作曲者などで、「表現形」としては言語や翻訳者や演奏者を記録します。また、第3部「関連」では、中身と入れ物などの他のレコードや他の資料とリンクを張ることが考えられています。

 

なお、データベースのレコードは必要に応じて検索すれば良いので、カードのようにあらかじめ並べ替えておく必要はありませんから、排列の章もありません。そもそも、検索できる項目はタイトルと著者だけでなく、システムによっては出版者や出版年なども検索対象となっています。

 

新しい目録規則とオンライン目録

ただし、実際に目録データをどのように管理するか、またどのように表示するかは目録規則では決められていません。
目録カードの時代には、標準規格のカードに必要な情報を記録しておいて標目を入れて並べれば、どの図書館でも同じような目録を作成することができました。しかし、図書館管理システムの画面はシステムによって異なりますので、これからの目録はシステムによって大きく異なるものになる可能性があります。これまで目録情報が国際的に標準化されてきたメリットが失われると、図書館ごとに目録の画面がちがうことになって利用者にとって不便になることも考えられます。使いやすいシステムはどのようなものなのかについてはこれから考えなければならない課題です。

 

おわりに

このように、これまでとはまったく異なる、新しい資料の捉え方であるFRBRの考えに基づいて『日本目録規則2018年版』が刊行されました。ところがこのFRBRは2017年にIFLA LRM(IFLA Library Reference Model)として改訂されていますので、日本目録規則もあらためてこのIFLA LRMに準拠する内容に改訂される可能性があります。
次回はIFLA LRMをご紹介しつつ、目録がどう変わろうとしているのかを探っていきます。

(紀伊國屋書店 ライブラリーサービス営業本部 蟹瀬)