これからの学び

「まるで幽霊の手に動かされているような」:CIAの監視と近代ロボット工学の出現

2020.02.14

From Computing and Artificial IntelligenceFrom Computing and Artificial Intelligence

robotという単語は、チェコ・スロバキア語の単語robotnikからきており、「強制労働」(forced labor)あるいは「奴隷」(slave)を意味します。実際に、1920年にカレル・チャペックによってrobotという単語が作りだされたときから、人々はロボットを恐れ、ロボットについて空想しました。宇宙家族ジェットソン※1にでてくる家庭用掃除ロボットのロジーや、スター・ウォーズに登場するC-3POのような友好的なものは、我々の生活を楽にしてくれます。しかしその有用性の陰には、悪意の可能性、すなわち人間に似せて作ったこれらの機械が我々を攻撃しうるという疑いがひそんでいます。ブレードランナー※2は、ロボットに依存しすぎると、ロボットではなく我々が真の奴隷になりうることをたくみにとらえました。

※1 米国、カナダのテレビアニメ
※2 SF映画

大衆文化が、オートメーションに対する社会の矛盾した感情を反映している一方で、ロボット工学や人工知能といった科学分野は、より明確に前進してきました。ロボットは、不格好で不器用な機械から、荷物を配送し、床を掃除し、日用品を製造するみばえがよく有能な装置へと変わってきました。これらの機械が我々の生活により深く浸透するにつれ、我々はどのようにしてここにたどりついたか、という疑問は、科学史家その他の研究者にとってますます関連の深いものとなります。いかなる哲学的、学的、文化的な進歩が我々が今住んでいる自動化された世界へと導いたのでしょうか。

1950年代から1990年代にかけて、CIA(中央情報局)の一部門は、これらの疑問にリアルタイムで答える世界中の出版物や報道を監視、記録し、英語に翻訳しました。Computing and Artificial Intelligence: Global Origins of the Digital Ageに収録されるこれらの報告書は、家事から宇宙探索、国際的諜報活動にいたるまでのロボット工学の適用範囲について、それが約束するものと脅威の両方をとらえます。

もっと愉快なエピソードの1つは、ソビエトの雑誌Tekhnika Molodezhi(若者むけのテクノロジー)の1967年号の記事です。ここでは、モスクワのデパートのショウウィンドウで、クリスマスキャロルをうたったり、パイプをふかしたりするようデザインされたFather Frostと呼ばれる愉快なロボットについて語っています。設計者が家庭でくつろいでいるとき、「反抗的なロボット」(rebellious robot)は、オーバードライブを引き起こす予想外のサージ電流を受け、あらゆるところに飾りを投げ散らし、ロボットを取り押さえるために派遣された役人を怖がらせ、大暴れしました。

この話がただの笑い話として書かれたのか、教訓として書かれたのかは定かではありません。仮に後者であったとしても、その教訓は、馬の耳に念仏でした。1960年代や1970年代に出された他の報告書は、ロボット工学が導きうる可能性を熱く語っています。例えば、ソビエト連邦で発行された出版物は、海底からの映像を記録し、環境関連のサンプルを収集しうる深海ロボットの開発に注目しています。モスクワで刊行されたEkonomicheskaya Gazeta(経済ガゼット)に掲載されている記事によれば、「科学や工学の近代の成果のおかげで」(Thanks for modern achievements of science and engineering)「数十億年もの間隠されてきたものを「見る」ことが可能になりました」。(it has become possible to ‘see’ what has been covered for billions of years.)

科学の進歩を容易にすることに加え、技術者たちは、戦争の一面を変えうるものとしてロボットを構想しました。ドイツで刊行された1964年のArmee Rundshcau(軍事レビュー)は、コンピューターが既に航空機関砲を操作していると記載しています:「まるで幽霊の手に動かされているように、自動的に標的を追尾している。」(automatically track[ing] the target, as if moved by a ghostly hand.” The ever-increasing speed of modern military machines meant that “human capacity simply is no longer good enough to react this quickly.) 近代軍事設備は加速化し続け、もはや人類の能力ではここまで早く反応することは不可能です。」(human capacity simply is no longer good enough to react this quickly.)

1988年に東京で開催された知能ロボットシンポジウムで発表された2つの論文は、さらに多くのロボットの活用方法について記載しています。ある文書は、原子力発電所で「労働者の代わりに、放射性環境での検査や簡単なメンテナンスを行う」(carry out inspection and simple maintenance in a radioactive environment in place of workers.)ことができる可能性があるロボットについて記述しています。

マツダ株式会社の従業員が記載した別の文書では「工場の敷地や建物間を移動する自動走行車両への適用を意図した実験的乗り物、知的移動ロボット」(an experimental vehicle, which is an intelligent locomotive robot intended for application as an autonomous land vehicle to move within factory sites and buildings.)という、今日の自動運転車の先駆的存在らしきものが取り上げられています。

これらの2つの記事は、Computing and Artificial Intelligenceに含まれるその他の数多くの記事と同様、新たなロボットのシステム構成、ハードウェアやその他の構成部分の詳細を記述しています。CIAは、早くも1985年には、情報収集に人工知能を組み入れ始めており、これらの記事はCIAにとって重要な情報源の可能性を秘めていました。現在、軍部、CIAの両方が国家安全保障を拡大するためにドローンその他の自立操作マシンを用いる中、これらの記述はこの状況へと我々を導いた倫理やテクノロジーを垣間見る機会を研究者たちに与えています。

Computing and Artificial Intelligence: Global Origins of the Digital Ageは、新しいOrigins of Modern Science and Technologyシリーズのユニークな5つのデジタルコレクションの1つで、各コレクションは文理両分野における情報の宝庫です。さらに詳しいことを知りたい場合は、紀伊國屋書店までお問い合わせください。

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Krista Langlois
(翻訳 紀伊國屋書店 書籍・データベース営業部)