図書館をつくる

オンライン資料を活用した業界・企業研究に活かすデータベースセミナー~神奈川大学図書館インタビュー

2020.10.26

売り手市場と言われた昨年度までとは異なり、就活セミナーや面接もオンライン上での開催が主要になるなど、就職活動は過渡期を迎えています。このような状況のなか、神奈川大学では8月から図書館主催でオンライン資料を活用した業界・企業研究のためのデータベースセミナーを行っています。コロナ禍における大学図書館の現状と図書を活用した業界・企業研究について図書館総合サービス課の小池孝昌さんに伺いました。

―――本日はよろしくお願いします。本題に入る前にまずは、普段のお仕事内容について教えてください。

小池孝昌さん(以下、小池):神奈川大学図書館は主に資料の購入やテクニカルサービスを担当する資料サービス課と、利用者向けのサービスを行う我々総合サービス課に分かれて運用しています。今回のようなガイダンスですと、利用者教育にあたるため我々で担当しています。

【大学図書館のいま】

――昨年までと大きく様変わりしていると思いますが図書館は現在どのような運用をされていますか。

小池:基本的には休館というかたちになっています。ただ、教員に関しては予約制をとって限定的に利用可能としています。学生に対しては学位論文に取り組んでいる大学院生に同じように(予約制をとって)極めて限定的に利用していただいていますが、基本的には入館禁止となっています。

ですので代替として本、資料を配送するサービスやメールを使ってレファレンスを行うようなサービスを展開しています。未定ではありますが後期に関しては段階的に入館可能な対象者を増やす計画をしています。

――制限があるなかでの運営ですが困っていること、気にされていることはありますか。

小池: 今後、いよいよ学生の入館がはじまると一般的な商業施設のように体温測定ですとか、滞在時間の管理ですとか、施設や備品の消毒、こういったことをしなくてはいけないなと思っています。全く経験がないことなので、返却された本をどうするかなど、図書館特有の事情も気にしています。

【図書館を利用する就活生の現状】

―――では本題の業界・企業研究についてなのですが昨年までの状況と最も大きく違う点はどのようなところでしょうか。

小池:やはり、セミナーなどを対面で開催できないというところですね。例年は夏季インターンシップ時期の前に3年生向けに1回行うのと、あとは秋学期に行うのとで少なくとも年2回はデータベースセミナーを実施してきました。その際は大教室を借りて100人規模で行っていました。
それがオンラインになってしまったということで学生にきちんと伝わっているのか、という点がなかなか難しいなぁというところです。

―――具体的に学生などから質問や要望などはありましたか。

小池:最近は徐々に減ってきましたが電子資料についてはリモートアクセスで利用できるか否かという問い合わせが多く届きます。しかしながら実は現物の本の問い合わせも多いのです。「この本を就活で使いたいので貸してほしい」という問い合わせが何件かありまして、配送するというサービスを行いました。本の配送サービスを行うきっかけはそういった就活生からの要望でした。

また例年ですと自宅にパソコンがない学生が大学のパソコンを借りてエントリーシートを準備したり、企業へのメールを書いたり、WEBテストを受けたりするケースもありましたので、入構制限を緩和してほしいという希望はありましたね。

―――後学期に学生にも少しずつ図書館を開放していくというお話でしたが、資料閲覧でなく、就活等の用途でも利用可能ですか。

小池:大学院生と学部4年生で卒論を書く学生が主になりますが、徐々に対象範囲を広げていく検討を進めています。

【セミナーについて】

―――オンラインデータベースセミナーについて昨年までと比べて応募者層に変化はありましたか?

小池:昨年までは就職課と協働体制ということで基本的に就活生のみを対象としていましたが、今回は図書館単独での開催なので、学年を問わず参加可能としました。それもあってか学部1,2年生の参加が非常に多かったなと思いました。年々感じているのですが早い年次から就活の準備を行う学生は増えてきていると思います。コロナの件もあるのでなおさら心配になっている学生も多いのだと思います。

一方予想外だったのはあまり4年生からの応募がなかったということです。就活の目途がついているのか全く目途がついていないのか理由は分からないのですが想定よりも少なかったですね。

―――今の4年生については企業を調べる段階は終わっていたのかもしれないですね。では次に実施されているオンラインセミナーの内容について教えていただけますか。

小池:応募した学生だけがアクセスできるページに企業研究や就活に役立つデータベースの講習動画をおいています。全体の概略、データベースの基本的なところを説明しているのが大体15分、リモートアクセスの仕組みや接続方法が10分、ここまでが事前準備編です。それ以降は1つのデータベース当たり30分ほど解説しています。動画だけではなく単独でも十分使えるレベルのPDF資料も用意しています。場合によっては動画を見ず資料だけを見ても自分で操作可能になるような内容です。

〇各データベースの特徴や活用事例を紹介したセミナー資料の一部をご紹介。

―――データベース一つにつき30分ですとかなりの分量になりますね。

小池:例年ですとデータベース1つに対し20分くらいの説明を目途にしていますが、一人一人のペースで今日はeol、今日は東洋経済デジタルコンテンツ・ライブラリー、と区切れるよう意図的に長くしています。

 


有価証券報告書を中心に企業の公開情報を収録する総合企業情報データベースです。毎日更新される株価情報など最新の情報も搭載し経済学・経営学の研究にご利用いただけるほか就活の企業研究の場面でも活用されています。

「週刊東洋経済」「就職四季報」「会社四季報 業界地図」など東洋経済新報社が発行する経済・ビジネス・企業情報誌を検索・閲覧できるデータベースです。就職活動やレポートをはじめ多方面でご活用頂けます。


―――今回セミナーで取り上げられているeol、東洋経済デジタルコンテンツ・ライブラリーのどのような点を重視してご紹介されていますか。

小池:電子資料ということで、やはり紙ではできない検索機能が重宝しています。同じことを紙で実現しようとするとすごく難しいと思うのですが、そういった全文検索がどのデータベースでも簡単にできることはいい点です。利用しているか否かは別として、紙の就職四季報や業界地図などはそういったものがあるというのはどの学生も知っているので、それと別に検索機能が搭載されたデータベースもあるんだよ、と伝えることを重要視しています。あとはVPN等によるリモートアクセスで学外からも利用できますよ、ということも必ず紹介しています。

―――データベースには膨大な量の情報が含まれていますから検索機能は重要ですよね。eolと東洋経済デジタルコンテンツ・ライブラリーそれぞれから得られる情報の違いについてはどう思われますか。

小池:はい、僕自身が学生の時もそうでしたがやはり非常に多くの学生が企業の採用ページを見ています。それだけではなく第三者視点として時に批評も含む雑誌などマスメディア情報をみて、精査していく必要がありますね。一方eolに搭載されている有価証券報告書については企業自身が作っているけれども国に提出する書類ですので自分たちにとって都合の悪い点も包み隠さず書かなくてはいけない、そして様式が共通で企業ごとの比較がしやすいというところで、非常に特徴のある資料なのでぜひ使ってほしいという話をしています。

―――先ほど対面ではないので相手の反応が見られないところをデメリットの一つとして挙げていただきましたが他にオンライン開催のメリットデメリットがあれば教えていただけますか。

小池:そうですね、メリットとしては普段日時を決めて開催しますとアルバイトやサークル活動があるため、なかなかタイミングが合わないという意見はよく聞きましたので、いつでも好きな時に見られるというところでしょうか。動画なので一時停止や一旦戻るなど自分のペースで見られるというところもメリットの一つです。デメリットは終わった後に質疑応答の時間が設けられない、というところです。代替としてメールでの対応もしていますがなかなか後日質問をくれる学生は多くはないですね。

セミナーに限らないところで、対面では交通費の負担がかかっていましたが、オンラインだとその必要がなくなるのでメリットを感じている学生はいるようです。コロナ禍に限らずオンライン上での説明会は今後も実施していただくといいのではと思いました。

―――これを機に設備を整えたというも企業も多いようです。状況は変わってしまいましたがこの状況だからこそできることはあると感じますね。先ほど就活関連の本の配送ということがありましたがオンラインセミナー以外の取り組みはありますでしょうか。

小池:現段階では行えていませんが後期には就職課と組んでなにかできないかということは考えています。今回実施した内容を就職課にも見ていただいてそのなかで後学期は共催でもいいのではという話し合いをしています。また、ホームページやSNSで就活向けの資料を紹介し、貸出配送サービスの利用促進を行うことを検討しています。

【今後の支援】

―――最後に改めてオンライン資料の活用についてご意見伺えますでしょうか。

小池:個人的に就職活動は企業に向けて自分をアピールするだけではなくその企業で自分が働けるのかを見極めることも非常に大事だと思っています。そうするとコロナ禍という状態ではあるのですが企業のことをしっかり調べないといけない、いい企業だと思って入ったけれどもイメージと違ったということもあり得るので。

それこそ例年であればOB訪問ですとか説明会や社内見学に足を運んだりできるのですが今年はそれができないまま、学生によってはその会社のオフィスに一度も入らないまま内定して入社するケースもあると聞きます。そういったことを考えると実際に現地で得られるものとは違いもあるかと思うのですけれども今利用できる資料を使って業界研究、企業研究をしっかりとやってほしいと思います。そのためにオンライン資料は必須ですし非常にありがたいものだと感じています。

―――最後に学生が業界・企業研究に活かせる図書館の利用について心掛けていることはありますか。

小池:私はこの図書館に着任したのがだいたい5年くらい前なのですが最初の年から就職に関連するお仕事をさせてもらっていて毎年ブラシュアップをさせたいなと思い、キャリアカウンセリングについても学んできたのですが、今一番重要視しているのは「学生の主体性」です。

就職課や大学の先生から言われたから就職活動する、誰かに言われたから企業を調べる、業界について調べる、というのではなくて、自分がどうなりたいのか、自分の将来というものを考えて、なりたい自分になるにはどういった情報が必要なのか、何を知ればなれるのか、その情報を手に入れるためにはどういったツールでどのように検索すればいいのか、そういったことを自分で感じてほしいなと思っています。

そのためセミナーの中身も単なる企業紹介ではなくて、「こういう風に意図して検索を行うとこういった結果が得られる」、では「その結果をどういう風に生かしていこうか」、という繋がりをうまくわかってもらえるような内容にしたいと思って作っています。なかなかそううまくはいかないので苦戦はしていますが。

―――データベースを使って何をするのか、という目的意識の重要性に改めて気づきましたし、主体性というのはやはり重要なキーワードだと思います。本日はありがとうございました。

実施日:2020年8月27日、Web会議システム使用
聞き手:紀伊國屋書店