人文社会系研究

幻のNCCOコレクション:刑法改革資料、裁判記録、犯罪者実録、通俗小説に見る19世紀の犯罪と刑罰

2020.12.09

19 世紀の犯罪と刑罰に関するデジタル・コレクション

政治、経済、国際関係、社会、文学、宗教、芸術、科学、技術が大きく変化した19 世紀、犯罪と刑罰の領域にも変革の波が押し寄せました。

Crime, Punishment, and Popular Culture 1790-1920は、アメリカの刑務所や監獄規律協会が発行した報告書、18世紀から20世紀前半までの250年間に亘る英米の刑事裁判資料、19世紀における欧米各国の刑法改革資料を通して、犯罪と刑罰の世界に生じた変容のプロセスをたどるとともに、通俗小説や回想録を通して、犯罪と刑罰をめぐる大衆の想像力の深層に迫る電子コレクションです。

※本データベースのタイトル表記では、”1790-1920″となっていますが、その前後の時代の資料も収録されています。

幻のNCCOコレクション

Galeでは、長い19世紀の資料をテーマ毎に12のアーカイブに分けてご提供するデータベース・シリーズNineteenth Century Collections Online (NCCO、ネコと読みます)をご提供しています。Crime, Punishment, and Popular Culture 1790-1920は、長い19世紀とその前後の時代を犯罪という側面からとりあげる資料群として、当初NCCOシリーズの1つとして商品化が予定されていました。最終的には単独のデータベースとしてリリースされましたが、NCCOとの親和性が極めて高いデータベースです。

19世紀の刑務所改革に迫る一次資料群

本データベースが収録する1番目の資料群は、ペンシルベニアやニューヨーク等の刑務所、監獄規律協会発行の報告書等、19世紀の刑務所改革の実態に迫る資料群です。

啓蒙主義の影響の下、18世紀後半から19世紀にかけての欧米では、従来の身体に苦痛を与える身体刑から自由を束縛する自由刑へと、刑罰の改革が進みました。刑務所への収容が一般的になるにつれ、人々の目は刑務所の劣悪な環境に注がれるようになり、囚人の更生に適した刑務所とは何かという問題意識の下、数々の刑務所改革が実施に移されます。アメリカでは、クエーカー教徒の主導の下、囚人の更生に望ましいとの考えから、独居房へ隔離する刑務所の建設が進みました。

250年間に亘る犯罪と刑事裁判資料の一大コレクション

本データベースが収録する2番目の資料群は、イギリスとアメリカの刑事裁判資料です。

窃盗、恐喝、強盗、殺人から扇動、通貨偽造、さらには艦船反乱、逃亡奴隷隠匿まで、膨大な数の刑事事件について、起訴から証言、証拠、弁論、判決までの過程を詳細に辿り、18世紀から20世紀前半までの250年間に亘る犯罪と刑事裁判の全貌を明らかにします。犯罪の発生原因を追求する刑事裁判の資料は、犯罪と刑罰の歴史を超えて民衆の世界を垣間見せてくれます。

19世紀の刑法改革資料

19世紀には、欧米諸国で刑法が改革され、刑法典が整備されました。本データベースが収録する3番目の資料群は、フランスとイタリアを中心とする欧米各国の刑法改革資料です。フランス革命期の刑事裁判所資料、19世紀のフランス刑法のモノグラフや教科書、19世紀のイタリア刑法学の文献等を通して、犯罪と刑罰に関する19世紀の法学に接近します。

伝説的犯罪者や西部開拓時代の有名キャラクターを主題にした通俗小説や回想録

19世紀には犯罪者を主題にした通俗小説や回想録が多数出版されました。犯罪者は大衆の想像力に強く訴え、その後の探偵小説に大きな影響を及ぼしました。また、アメリカでは西部開拓者の中から、後の西部劇や小説にインスピレーションを与えるアメリカン・ヒーローの原型が現れました。

本データベースの4番目の資料群は、ヴィドック、ディック・ターピン、ジョナサン・ワイルドら伝説的犯罪者を主題にした通俗小説や回想録、バッファロー・ビルやキット・カーソンら西部開拓時代の有名キャラクターを主題にした通俗小説です。

収録コレクション

アメリカ

Nineteenth Century Crime: Literature, Reports, and True Crime from the American Antiquarian Society
19世紀の犯罪:アメリカ稀覯書協会所蔵

  • 年代:1750年-1923年
  • 収録資料:モノグラフ、マニュスクリプト
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:アメリカ稀覯書協会

18世紀半ばから20世紀初頭にかけてのアメリカにおける犯罪や刑罰に関する歴史資料、犯罪、冒険、戦争をテーマにした小説、判例や法令等の法律資料等を収録します。

18世紀後半から19世紀前半にかけて、各地で”penitentiary”(贖罪施設)と呼ばれる刑務所が設立され、19世紀後半になると近代的な更生施設が設立されました。

犯罪や刑罰に関する歴史資料としては、州が運営する初期の監獄の状況を記述したもの、独房監禁の拡張を説いたもの、警察の活動を報告する資料、懲役の実態を詳細に記述したもの、精神障害者の隔離施設の建設を説いたものなど、多岐に亘ります。

Nineteenth Century Crime

左:ニューヨーク州立シング・シング刑務所(Sing Sing State Prisons)
右:イースタン刑務所設計プラン

Nineteenth Century Crime3

左:リンカーン暗殺事件の裁判記録の冒頭ページ
右:暗殺現場の位置関係を再現したダイアグラム

Nineteenth Century Crime4

イギリスの有名な犯罪者名鑑ニューゲート・カレンダー

伝説的犯罪者を主題にした作品。
左:『ヴィドック回想録』挿絵(クルックシャンク)
中:シルヴィオ・ペリコの『回想録』
右:『ディック・ターピンとジャック・シェパードの生涯』

Journal of Prison Discipline and Philanthropy, 1845-1920
監獄の規律と慈善雑誌

  • 年代:1845年-1920年
  • 収録資料:雑誌
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:Primary Source Media

フィラデルフィア公立刑務所待遇改善協会(後のフィラデルフィア刑務所協会)の機関紙と所蔵資料を収録します。

同協会は、フィラデルフィア公立刑務所の収監者の待遇を改善するために、ベンジャミン・フランクリンやベンジャミン・ラッシュらフィラデルフィアの啓蒙市民により1787年に設立されました。

1845年には、囚人の取扱に関する様々な問題を広く一般に周知することを目的として、機関誌「監獄の規律と慈善雑誌(Journal of Prison Discipline and Philanthropy)」を創刊しました。同誌は、犯罪や刑罰に関する理論的考察、監獄の状態に関するルポルタージュ、囚人からの書簡、会員の刑務所訪問記など、様々な記事を掲載したほか、女性、青少年、精神障害者の囚人の取扱について問題提起を行ない、独居房、死刑、陪審員制度、独房監禁、刑務所創作教育、模範囚の刑期短縮、囚人の社会復帰計画などの問題に考察を加えています。また、ジョン・ハワードやメアリー・カーペンターらイギリス人の監獄改革論や、アイルランド、ロシア、ベルギーの監獄制度についても議論・分析しています。

独居房

独居房

The Cleveland Workhouse and House of Refuge and Correction Records, 1855–1950
クリーブランド感化院、難民収容所、矯正記録、1855-1950

  • 年代:1855年-1950年
  • 収録資料:マニュスクリプト114タイトル
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:Primary Source Media

Criminal Case Files of the U.S. Circuit Court
米国巡回裁判所刑事裁判ファイル

  • 年代:1789年-1897年
  • 収録資料:マニュスクリプト
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:米国公文書館

本コレクションは、連邦裁の第2巡回区控訴審(ニューヨーク南部)、第3巡回区控訴審(ペンシルヴァニア)、第4巡回区控訴審(メリーランド)のうち、1790年から1845年にかけて行われた刑事裁判の資料を収録します。訴状、口頭弁論、宣誓供述書、事実認定などが含まれます。海賊行為、公海上の船舶における暴動、奴隷貿易、逃亡奴隷の隠匿、通貨偽造や文書偽造、偽証、郵便物窃盗、扇動、密輸、司法妨害、合衆国の友好国への侵略共謀など、当時の社会で大きな関心を呼んだあらゆる犯罪が対象となっています。また、船舶の不法な艤装や武装、無免許通商、関税の脱税などに関する裁判も含まれています。

本コレクションには、海上での犯罪に関する裁判記録が多数収録されていますが、これは19世紀前半のアメリカにおける海事活動の重要性を示しています。公海上の犯罪が発生した地域は、フランス、メキシコ、キューバから南米スペイン領(現ベネズエラ)、アフリカ海岸まで広範囲に及びます。また、裁判資料からは、船長による船員の鞭打ちや拘留のための船舶内の営倉など、当時の船舶生活の一面を知ることもできます。さらに、奴隷輸送船の状態に関する記録も含まれています。

FBI File on Sacco/Vanzetti
サッコ・バンゼッティ裁判FBIファイル

  • 年代:1921年
  • 収録資料:マニュスクリプト
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:Primary Source Media

本コレクションは、イタリア生まれのアナーキスト、ニコラ・サッコとバルトロメオ・バンゼッティの裁判に関するFBIのファイルを収録します。

サッコとバンゼッティの支援者(支援委員会)による物的証拠の公開請求と、請求を拒否する連邦政府の根拠に関し、FBIと司法省内部で行われた議論を明るみにします。内部メモの一つによれば、エドガー・フーバーFBI長官は、サッコとバンゼッティの有罪はマサチューセッツ州だけに関わることであり、事件に関するFBIのファイルは事件そのものには何ら関係を持たないものである旨、報道機関向けに声明を出すよう、ジョージ・ファーナム司法長官代理に要請するとともに、支援委員会の委員を国外退去させるために法的根拠を探るよう依頼していたことが記録されています。

本コレクションは、ヨーロッパの共産主義者と無政府主義者によるサッコ・バンゼッティ事件への報復爆撃事件を受けて、アメリカ大使館を監視していた秘密情報員からの報告、事件の新聞報道の切り抜きも収録されています。

Trial and Execution of Sacco and Vanzetti
サッコとバンゼッティの裁判と処刑

  • 年代:1920年-1926年
  • 収録資料:モノグラフ
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:Primary Source Media

Conspiracy Trials in America, 1919-1953
アメリカにおける共産主義裁判

  • 年代:1919年-1953年
  • 収録資料:マニュスクリプト
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:Primary Source Media

20世紀初頭、アメリカでは共産党が台頭する一方で、共産主義者に対する弾圧や訴追が広範囲に発生しました。本コレクションは、アメリカ政府の共産党とその支持者に対する告発と訴訟の記録を収録します。

ロシアへのアメリカ軍の派遣を批判するパンフレットを流布したことによりアナーキスト、ジェイコブ・エイブラムズらロシアからの移民が扇動罪で告発された「エイブラムズ対合衆国」裁判(1919)、医師徴募法の下で軍隊に徴募された医師が、過去に共産党員であったことがないとの申立てを行なうことを拒否したために勤務を許されなかった「オーロフ対ウィロビー」裁判(1953)の下級審の訴訟記録・最高裁での申立と上訴趣意書と意見、20人の共産主義者が政府の転覆を図ったとして訴えられ、著名な弁護士クラレンス・ダロウが弁護に立った「イリノイ対ロイド」裁判(1922)の裁判記録の抄録、共産主義を支持する著作を出版したとして「ハワイの7人」が訴えられた「合衆国対フジモト」裁判(1952)の記録などが収録されています。

Files of the Department of Justice: Judge Isaac C. Parker
司法省アイザック・パーカー判事ファイル

  • 年代:1875年-1896年
  • 収録資料:マニュスクリプト
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:米国公文書館

本コレクションは、1875年から1896年までアーカンソー州西部地区とインディアン地区の連邦地方判事の職にあったアイザック・パーカー判事の書簡と文書を収録します。パーカー判事は、その任期中に多くの無法者が絞首刑に処せられたため、西部劇では「首吊り判事」の異名をもちますが、実像は複雑で、もともと前任者の時代の汚職により地に墜ちた裁判所の評判を回復するために着任したと言われています。パーカー判事の管轄下にあったインディアン居住区では、ネイティブ・アメリカン法がインディアンに、連邦法が開拓者向けに適用され、複雑な法的状況が現出していました。

本コレクションは、アメリカのフロンティアで司法を運営するという歴史的にも特異な経験を記録しています。また、パーカー判事が判事者の更生にも力を入れ、刑務所の環境改善、刑事司法制度の改革、ネイティブアメリカ人の権利拡張に努めたことをも示しています。さらに、パーカー判事が「首吊り判事」として知られるようになった160件の死刑判決の判決文も収録されています。

Letters Received by the Department of Justice from the Territory of Dakota
ダコタ準州から米国司法省宛てに送られた書簡

  • 年代:1871年-1884年
  • 収録資料:マニュスクリプト
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:米国公文書館

Nineteenth Century Crime: Manuscripts and Ephemera from the American Antiquarian Society
19世紀の犯罪:アメリカ稀覯書協会所蔵マニュスクリプト・エフェメラ

  • 年代:1750年-1923年
  • 収録資料:マニュスクリプト27タイトル
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:アメリカ稀覯書協会

本コレクションは、弁護士、警察、保安官の記録、法案や法律、判例、経理資料、証拠や証人リスト、裁判に関する書簡等、個人、町、郡、州の法律文書を多岐にわたって収録します。不当解雇、名誉毀損、過失等の不法行為の裁判に提出された証拠類も収録されています。多くの裁判記録は、当時の未開発地域に居住する市民が直面する苦境を再現します。事業経営に関する係争や証拠類は、商業史や経営史の研究にも有益なものです。

Nineteenth-Century Crime and Policing: Monographs and Newspapers from the Library of Congress
19世紀の犯罪と警察:米国議会図書館所蔵モノグラフ・新聞コレクション

  • 年代:1866年-1923年
  • 収録資料:モノグラフ、定期刊行物
  • 言語:フランス語、スペイン語
  • 原本所蔵機関:米国議会図書館

19世紀のアメリカでは、大都市への大量の移民の流入と西部フロンティアの急速な拡大により犯罪が急増、その結果、刑法が整備され、警察、監獄、法執行機関が創設されました。本コレクションは、犯罪や警察の活動を記録する新聞や書籍を収録します。1845年に創刊されたThe National Police Gazetteは、「悪事さまざま(Vice’s Varieties)」「殺人と自殺(Murder and Suicide)」「この邪悪な世の中(This Wicked World)」などのコラムでニューヨークの犯罪を取り上げました。The Illustrated Police Newsは、センセーショナルな記述と挿絵で読者の関心を引きました。

Nineteenth Century Crime8

Pinkerton’s National Detective Agency Records, 1853-1999, Letterpress Books and Miscellaneous Reports
ピンカートン探偵事務所記録集

  • 年代:1853年-1920年
  • 収録資料:マニュスクリプト
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:米国議会図書館

ピンカートン探偵事務所は、リンカーン大統領暗殺計画を突き止め、未然に防いだことで有名なアラン・ピンカートンによって1850年に創立されました。事務所は発展するにつれ、重大事件に関わりを持つようになります。ピンカートンは南北戦争中、北軍情報局のトップの任に就いたのをはじめ、史上初の列車強盗犯の捕獲、シカゴ大火災後の略奪の防止、ジェシー・ジェームズ、ブッチ・キャシディ、レノ・ブラザーズ、ワイルドバンチらの悪漢の捕獲など、精力的に治安活動に取り組みました。ピンカートン事務所は、組合破りや反労働組合活動でも有名になりました。

本コレクションは、事務所がミッドウェスタン鉄道を保護し、フロンティアで名声を馳せていた初期のニューヨーク事務所の運営の実態を記録するほか、他の探偵事務所との競争の中での宣伝活動なども収録します。鉄道会社の労働組合会議、組合幹部名など、組合活動を監視した記録も収録されています。

Wood Detective Agency Records, 1865-1945
ウッド探偵事務所記録集

  • 年代:1865年-1945年
  • 収録資料:マニュスクリプト、写真
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:ハーバード大学法律図書館

Western Americana: Frontier History of the Trans-Mississippi West
西部開拓:ミシシッピ川流域西部の開拓史

  • 年代:1800年-1930年
  • 収録資料:モノグラフ
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:Primary Source Media

本コレクションは、19世紀半ばから20世紀半ばにかけて、西部フロンティアを開拓した伝説的人物らの自伝や伝記、彼らを主題にしたフィクションを収録します。盗賊、殺人、先住民の征服に関する通俗的な物語がコレクションの主要な内容です。

Nineteenth Century Crime9

左から:西部開拓史上の有名人物を紹介する著作 / バッファロー・ビル(Buffalo Bill) / ダニエル・ブーン(Daniel Boone) / ワイルド・ビル(Wild Bill)

イギリス

Crime, Criminology and Civil Liberties: Archives of the Howard League for Penal Reform, The Howard Journal
犯罪、犯罪学、市民の自由:ハワード刑事改革連盟アーカイブ、ハワード・ジャーナル

  • 年代:1921年-1976年
  • 収録資料:雑誌
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:Primary Source Media

イギリスのハワード刑事改革連盟は、世界最古の刑事改革の団体で、ハワード協会と刑事改革連盟が1921年に合併する形で創設されました。本コレクションは、1921年から1976年までの同連盟のアーカイブ資料を収録します。

コレクションの中核をなすのは、刑務所改革運動のパイオニア、ジョン・ハワードに因んで命名された連盟の機関紙、ハワード・ジャーナルです。同誌は予防拘禁、懲役刑、自殺、独房監禁、グループワーク、治療共同体、精神疾患の治療、矯正、刑期満了後の更正指導、刑務所内の食事、死刑など、刑罰の哲学的側面や実務的側面を扱う記事を多数収録するほか、刑務所におけるアルコール中毒者、性犯罪者、少年、児童、母親の処置についても考察を加えています。

また、海外への関心も高く、アメリカ、カナダ、インド、中国、プロシア、ロシア、ハンガリー、ビルマ、南アフリカ、ニュージーランドの刑罰制度の比較が試みられています。さらに、刑事制度の当事者である警察、公選弁護人、刑務所内の医者や精神科医についても考察が加えられています。記事以外では、イギリスやその他の国々の犯罪統計を収録しています。

Crime and the Criminal Justice System: Records from The U.K. National Archive
犯罪と刑事司法システム:イギリス公文書館所蔵記録集

  • 年代:1780年-1932年
  • 収録資料:モノグラフ、マニュスクリプト
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:英国公文書館

18世紀初頭のイギリスでは、犯罪の大半は当事者間で私的に扱われ、一部の重大犯罪に限り、裁判所に持ち込まれました。しかし18世紀末、犯罪の水準がエスカレートするにつれ、刑事司法制度の近代化が推進されました。

本コレクション収録資料は、裁判所や刑務所、治安維持当局の内情に迫り、刑事司法制度が近代化したプロセスを詳細に解き明かします。刑務所囚人総覧(Calendars of Prisoners)という台帳には、囚人毎に、年齢、職業、教育水準、犯罪、判決、宣告された刑、収容刑務所名が記載されています。そのほか、特定の事件に関する裁判所意見を時系列に並べた台帳、陪審員の台帳、特定の刑務所の囚人台帳、殺人事件の摘要、刑の宣告に関する裁判所への勧告など、様々な資料を収録します。さらに、1859年のアイルランド警察操典には、分隊隊形から敬礼まであらゆる項目の解説が記載されており、巡査や治安判事の業務を規制する法律を集めた『王立アイルランド警察法集成 1836-1885』がこれらを補います。

Nineteenth Century Crime7

囚人の年齢、収容前の職業、犯罪、判決、宣告された刑、収容刑務所名等を囚人毎に記載した囚人台帳

Law, Crime, and Society in Hanoverian England: The Old Bailey Proceedings, 1714-1820
ハノーヴァー朝イングランドにおける法、犯罪、社会:オールド・ベイリー裁判記録集

  • 年代:1714年-1834年
  • 収録資料:モノグラフ132タイトル
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:Primary Source Media

18世紀のイギリスでは、軽微な犯罪に対する死刑適用の是非、烙印、公開鞭打ち、公開絞首刑のような罪人に恥辱の感覚を抱かせる目的の刑罰の効果の有無など、刑法改革が盛んに論じられました。また、1742年には警察の起源とされるボウ・ストリート・ランナーズがロンドンに創設されました。

本コレクションは、1714年から1834年までのオールド・ベイリー(中央刑事裁判所)の刑事裁判の記録を収録します。軽微な窃盗から強盗、恐喝、殺人、さらには扇動罪や艦船反乱罪まで、記録された犯罪は多岐に亘ります。また、各々の裁判について、告発から提出された証拠類、証人の証言、判決による結審までの全過程が記録されています。

これらの裁判記録は、法制史の資料であるとともに、加害者や被害者が置かれた生活環境や犯罪の動機を明らかにすることを通じて、同時代の民衆社会を垣間見せる社会史の資料としても貴重なものです。

ヨーロッパ

Crime and Justice in Europe: Manuscripts from the British Library
ヨーロッパにおける犯罪と刑事裁判:大英図書館所蔵マニュスクリプト集成

  • 年代:1786年-1900年
  • 収録資料:マニュスクリプト
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:大英図書館

本コレクションの中心資料はイギリスの巡回裁判の訴訟名リストで、手書きの注釈も含まれます。注釈には事件の目撃者証言、刑務所委員会の委員名もあり、19世紀イギリスの裁判の実情や求刑する治安判事の思考プロセスが垣間見える貴重な資料です。

コレクションの中には、自然の光が浴びられる刑務所建設案などの人道的刑務所改革案のほか、女性用の囚人服など、刑務所の生活をあらゆる点から照射する資料を含みます。

また、警察の起源とされるボウ・ストリート・ランナーを創設した刑法の改革者、サー・ジョン・フィールディングが執筆した「ロンドン近郊20マイル以内での窃盗防止案」(1751)、「ニューカッスル公により着手された警察の起源と効果」(1758)のほか、大陪審、治安判事、浮浪罪、刑務所改革などに関するパンフレット類を収録します。

Crime and Justice in Europe: Monographs and Ephemera from the British Library
ヨーロッパにおける犯罪と刑事司法:大英図書館所蔵モノグラフ・エフェメラ集成

  • 年代:1675年-1923年
  • 収録資料:モノグラフ
  • 言語:英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語ほか
  • 原本所蔵機関:大英図書館

本コレクションは、19世紀の刑法と刑事手続に関するヨーロッパ各国の著作約1,000タイトルを収録します。1900年のスイス民法典起草案、イタリアの1844年民法・刑法・教会法・商法・行政法に関する勅令、マックス・ロデリッヒ(Max Roderich)の『犯罪と刑罰:興味深い警察・刑事事件集成』(1850)、1868年イタリアで開催された法医学の専門家のための刑法典に関する会議での講演集、宗教家ジョージ・エドワード・ビーバーによる自殺に関する説教、ドイツの犯罪小説コレクション、ニュージーランドの未開種族による殺人と肢体切断を描いた『人喰い人種による殺人(Murders by Cannibals)に関する図版入りのブロードシートなど、大衆レベルで広範囲に受容された資料も収録されています。

Nineteenth Century Crime10

左から:『1792年8月17日の法令により設立された刑事裁判所紀要』
『1793年3月10日の法令により設立された革命犯罪裁判所紀要』
ギー=ジャン=バティスト・タルジェ『刑法典草案の考察』
ジョセフィーヌ・マレ『刑務所における女性』

Crime and Justice in Europe: Periodicals and Newspapers from the British Library
ヨーロッパにおける犯罪と刑事司法:大英図書館所蔵定期刊行物と新聞集成)

  • 年代:1800年-1923年
  • 収録資料:定期刊行物
  • 言語:フランス語、イタリア語
  • 原本所蔵機関:大英図書館

本コレクションは、1800年から1923年までのヨーロッパにおける犯罪と刑事司法に関する定期刊行物と新聞を収録します。コレクションの中心をなすのは、1850年から1876年にかけて刊行されたベネチアの雑誌L’Eco dei Tribunaliです。1848年の革命勃発を受け、法曹家の教育と一般人の啓蒙を目的に創刊された同誌は、刑法の自由主義的改革を主張しました。また、同誌は国家の検察と裁判官の人数が過剰であることを繰り返し指摘、実務的には、刑法典と民法典の改革案を公表、既存のイタリアの法律や改革案を他国の法律と比較する作業も行ないました。また、ベネチアの刑事裁判に関する統計や具体的な犯罪に関する研究も公表、イタリア刑法の改革を主導しました。同誌は、法律や抽象的理論だけでなく、実践的な情報の提供においても際立っていました。

Nineteenth Century Crime11

Wrongdoing in Spain and England in the Long Nineteenth Century
スペイン版チャップブック(スエルト)を収録

  • 年代:1670年代~20世紀前半
  • 収録資料:小冊子
  • 言語:大半はスペイン語(一部英語)
  • 原本所蔵機関:ケンブリッジ大学図書館、大英図書館

本コレクションは、イギリスのチャップブックとスペイン版チャップブックであるスエルト、合計約5,200冊を収録します。コレクションの大半をなすのはスペインのスエルトです。

元々愛好家が蒐集したものが、ケンブリッジ大学図書館と大英図書館に寄贈されたものです。その後、イギリスの芸術・人文科学研究会議(Arts and Humanities Research Council)が助成し、アリソン・シンクレア教授を代表者とする研究プロジェクト「1800年から1936年までのスペインにおける悪行」の一環として電子化と目録作成が行われました。電子化と目録作成に際しては、当初、コレクション収録資料から悪行に関わるものを選択することを想定していましたが、悪行の形態が非常に広範囲に及び、悪行に関わるものではない作品を除外することが困難であることが判明したため、コレクション全体を電子化、目録作成することになりました。大衆文化の実例を広範にカバーする作品群からは、個々の作品が作られた社会的文脈に関する情報も得られ、学術的に非常に有益な資料であることは衆目の一致するところです。

イギリスのチャップブックに相当するスペインのスエルトは、現代のイエロー・ジャーナリズムの先駆けをなすものであり、印刷も劣悪で、路上で売り買いされ、長く保存されることを意図したものではない、いわゆるエフェメラ資料ですが、世界有数の図書館の所蔵物となり、電子化された結果、17世紀後半から19世紀にかけてのスペイン大衆文化の重要な側面を垣間見ることが可能になりました。

オーストラリア

Queensland Police Gazettes
クイーンズランド警察新聞

  • 年代:1867年-1907年
  • 収録資料:マニュスクリプト
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:オーストラリア、クイーンズランド州立図書館

Queensland Police Gazetteはオーストラリア、クイーンズランドの地方警察の内部情報誌として1864年に創刊されました。本コレクションがカバーする19世紀後半は、オーストラリアが大きく変化した時期です。1867年、クイーンズランドは独立植民地になり、1901年にオーストラリアがイギリスから独立しました。同誌に掲載された犯罪一覧や逮捕状などの資料からは、転換期を迎えていたオーソストラリアで何が不法な行為と見なされていたのかを窺うことができます。

Crime, Punishment, and Popular Culture 1790-1920は、刑法改革資料、裁判記録から犯罪者実録、通俗小説まで19世紀の犯罪と刑罰に関するデジタル・コレクションです。

(センゲージ ラーニング株式会社)