人文社会系研究

ロンドン・タイムズを創刊号より収録するデータベース:The Times Digital Archive その1

2021.12.01
Times Digital Archive

The Times Digital Archive

センゲージ ラーニング社Gale提供、The Times Digital Archiveはイギリスの新聞、ザ・タイムズ(ロンドン・タイムズ)の創刊号以降の記事を発行時の紙面イメージに忠実に電子化、フルテキスト検索を可能にしたものです。

1785年から2019年までを収録します。数年後に数年分の記事がまとめてサプルメントとして刊行される予定です。

※ 1978年12月1日から1979年11月12日まで、労使紛争のため発行が停止されました。また、ごく一部、権利関係で収録されていない記事があります。

機能

印刷、ダウンロード、メール送信、書誌生成とエクスポート、ブックマーク、各種ビューワ機能(ページ送り、拡大・縮小、輝度・コントラスト調整、全画面表示)を実装しています。

国内外の時論、公論に大きな影響力を及ぼした新聞界の巨人

創刊当時は数ある日刊紙の一つに過ぎなかったタイムズは19世紀前半、進取の精神に富むオーナーと編集者の下、機械式印刷機や自前の特派員網といった新機軸を取り入れることで、多くのスクープを手掛け、社会の中で発言力を増す新興ミドルクラスの世論を代弁する形で発行部数を伸ばしました。19世紀半ばには、その影響力は政権を崩壊させるほどの大きなものになり、米国のリンカーン大統領をして「ロンドン・タイムズの影響力は世界最大級である」と言わしめ、他紙には到達できない特権的なポジションを新聞界で獲得するに至ります。

その後、19世紀後半から 20世紀にかけて、安価なペニー新聞や大衆紙が登場すると、今度は、ゴシップ記事などで部数を伸ばす大衆紙とは一線を画し、高級紙市場という新しい市場を見出し、国内ではエリート層向けのクオリティー・ペーパーとして世論を導き、国外では世界のタイムズとして、時論、公論に影響を及ぼしました。

The TImes 1

タイムズが独占を享受しているとの批判に論説で反論(January 11, 1850)
タイムズが独占を享受しているとの批判を受けての論説。現在享受している地位は発行部数最大のタイムズを広告主が選択した結果にすぎず、不当に得た地位ではないと反論。他の日刊紙を合わせたよりも多くの税金を払っていることなど、メディア史的にも重要な情報を含む。 

臨場感ある議会情報

タイムズが創刊された18世紀後半、議会の演説を新聞で報道することに対する規制が緩和され、議会情報が新聞メディアの新しいコンテンツとして俄かに注目を集めます。自前の議会記者を擁していたタイムズの速記録は、議会の現場の雰囲気をよく伝える記録としての価値をもっています。

The TImes 2

第二次世界大戦終結(May 8, 1945)
ドイツ軍が降伏、ヨーロッパでの戦争の勝利が確定したことを伝える記事。

国際情報の宝庫

タイムズの傑出した特徴の一つとして、外国記事の充実が挙げられます。外国記事といえば外国の新聞記事を翻訳して掲載することに過ぎなかった19世紀初頭すでに、自社の海外通信網を備えるまでになり、その情報収集能力を頼んで、外国情報をタイムズに照会する政府関係者もいたほどです。その後、タイムズの海外特派員はイギリス国内外の世論形成に影響を及ぼし、大英帝国のメディアとしての権威と名声を高めることに貢献しました。

タイムズの国際記事は、現代の研究者が19世紀以降の国際政治の動向を知る上での情報の宝庫です。

Times Digital Archive1

日英同盟(February 25, 1902)
タイムズはイギリスと日本の接近に向けて世論を喚起し、日英同盟のゴッドファーザーと呼ばれた。記事は同盟締結を歓迎する論説。

論説と投書欄

論説を抜きにタイムズを語ることはできません。国内外の時論、公論に対するタイムズの影響力とは、その論説の影響力であり、時に政権の崩壊をもたらし、国際政治の動向を左右することもありました。タイムズの論説は、近代以降のメディアと社会の関係史を跡付ける豊富なケーススタディーを提供します。

また、国内外の政治家や知識人から無名の市民まで、多くの人が声を寄せたタイムズの投書欄も見逃すことはできません。現代の視点から見てマイナーな出来事にむしろ大きな反響が寄せられるなど、タイムズの投書欄は時代の空気を伝える格好のバロメーターであり、歴史資料としての有用性は際立ち、多くの歴史研究者によって引用されてきました。

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ダービー首相が議会でタイムズを批判、それを受けて論説を掲載(February 6, 1852)
報道の自由、政府と新聞の関係を定式化した、タイムズの歴史の中で最も有名な論説。近代ジャーナリズム史上の記念碑的テキスト。

人物情報の宝庫

訃報欄の充実はイギリス高級紙が誇る特徴です。特にタイムズの訃報記事は同紙の看板記事として読者の人気が高く、中には記事のレベルを超えて作品の域に達しているものもあり、書物として再刊されるものも少なくありません。過去の訃報記事は、現代の伝記情報からは欠落した事実を掘り起こす手がかりを提供するだけでなく、現代とは異なる視点の下に人物を捉えることを可能にする歴史資料です。

タイムズには1880年前後からほぼ毎日訃報記事が掲載され、本データベースに収録される訃報記事は約 17万件に及びます。これら著名人の訃報記事に、一般人の結婚、子供の誕生、死亡に関する短報、政府、軍隊、大学、教会、財界の人事情報を加えれば、これだけでタイムズは人物情報の宝庫です。

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ジョン・レノン死去(December 10, 1980)

近代英語形成の最大級の功労者

ジャーナリズム言語は、学術言語、文学言語と並び、近代英語の形成に大きく貢献しました。とりわけ現代世界において言語市場に占めるジャーナリズム言語のウェイトが一層高まる中で、新聞に代表されるジャーナリズム言語は言語学的にも重要な研究素材を提供します。とりわけタイムズは、オックスフォード英語辞典(OED)収録言語の典拠数で全体の 1.2% を占め、シェイクスピアやウォルター・スコットら英文学のビッグネームを抑えて堂々の 1 位、初出語の典拠数でも『フィロゾフィカル・トランザクションズ』、チョーサー、ジョン・トレヴィサ(14世紀の翻訳家)に次ぐ 4 位を占める事実(2010年時の調査による)が雄弁に物語る通り、近代英語形成の最大級の功労者と言っても過言ではなく、英語史研究にとっても欠くことができない資料です。

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OED 刊行開始(November 30, 2010)
OED 収録の語彙の出典数でタイムズが1位、初出例の出典数でも4位であることを伝える記事。

次稿より、ザ・タイムズが報道した歴史的な出来事の数々をご紹介します。

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