「以前は書店で選書ツアーが出来ていたけれど、コロナ禍が始まってからは出来なくなってしまった…」そんな図書館は多いのではないかと思います。金城学院大学様(愛知県名古屋市)では昨年、電子図書館サービスLibrariEを利用した学生選書を実施されました。本記事は、学生選書の事例を中心に、新型コロナウイルス流行下での図書館の取り組みについて金城学院大学様がまとめられた貴重なレポートです。ぜひご一読下さい。
※金城学院大学様 電子図書館サービスLibrariEはこちら
※金城学院大学様 学生選書テーマのひとつ「贈る本」に添えるメッセージはこちら(PDF 2.06MB)
※紀伊國屋書店ウェブストアでの案内はこちら(紙版/Kinoppy電子書籍版)
(紀伊國屋書店 デジタル情報営業部)
LiLianの紹介
【石田翔子(図書館職員)】
LiLianとは、金城学院大学図書館の学生ボランティア「ライブラリーサポーターズ」の愛称です。2008年度に10名で発足し、現在では、学部問わず1年生から4年生までの計30名の学生が所属しています。
主な活動は、選書会や館内展示、機関誌の発行、学祭での古本市などの開催です。
学外活動も行っており、2014年度には、紀伊國屋書店名古屋空港店とのコラボ企画展示も開催しました。2015年度からは、近隣の公共図書館とコラボして展示やイベントを開催しています。
大学図書館にとってのLiLianは、図書館と学生を繋げてくれる存在です。
職員と学生は、年齢の差もあり、職員にとって「当たり前」なことが、学生には伝わらないということもあります。そんな時に、気軽に学生目線の意見を聞くことができるLiLianの存在は、とても大きいです。館内ポスターの色味だけでも、今の学生の感覚を取り入れるかどうかで効果が変わってきます。
また、LiLianの活動を通じて、他の学生や教職員が図書館をより身近な存在に感じてくれるようになり、図書館の企画に興味を持ってもらえることも増えました。
LiLianが、発足当初から続けているイベントが、「店頭選書会」です。選書会は、春と秋の年2回開催しており、実際に書店に赴き、学生一人あたり1万円分の読書向けの本を選書しています。開催都度学生を公募して選書会を開催する大学がほとんどですが、金城学院大学図書館では、LiLianだけが参加することができます。それは、読書のためとは言っても、大学図書館に入れる本を高い志を持って選書してもらうためです。現在は1回の選書会で150冊以上の選書をしています。
選書した本は、学生が作成したPOPを付けて館内で展示をします。展示は、LiLianの選書会担当を中心に企画しています。
2011年度からは、選書会毎にテーマを設け、より洗練された展示ができるようになりました。例えば、「カラーパレット」というテーマの選書会では、本の内容だけではなく、本の表紙の色に注目し、棚に配置したときの色味を考えて選書するという企画にも挑戦しました。
発足時から2019年度まで継続していた「店頭選書会」ですが、2020年度初めて、新型コロナウイルスの影響で中止となりました。
選書会に限らず、2020年度前期は、ほぼ学生の対面での活動がストップしている状態でしたが、そんな中でも新入生がLiLianに加入し、活動開始を心待ちにしてくれていたのが職員の励みにもなりました。
2020年度前期 学生の状況
【高坂日菜子さん】
授業は、ゼミ以外すべてリモートでした。屋外に出るのが怖く、ずっと自宅にこもっていました。当時は大学図書館は休館でしたが、たとえ開館していても、みんなで共有する本を触るのが怖く、気持ち的に利用することはできなかったです。今は除菌ボックスも設置され、利用する側も気を付けて本を扱うようになったので、当時のような怖さはなくなりました。レポートを書く際は、CiNiiをフル活用して、ネット上で読める論文を参考にしました。
LiLianメンバー 高坂日菜子さん
【野田明日香さん】
大学がある名古屋に出るのも不安で、地元のみで行動していました。
幸い地元の公共図書館が、蔵書数も多く、除菌対策が徹底されていたので、レポート用の資料はそこで入手していました。
【後藤里彩さん】
実習が多い学科だったので、不安はありましたが、大学には通っていました。
私もレポートを書く際は、ネット上で読める論文を参考にしました。
LiLianメンバー 後藤里彩さん
【山田有理奈さん】
私もゼミ以外はすべてリモートで、家族以外とはほぼ話さない生活が続いていました。対面で行われたゼミも、コロナ対策が万全で、ゼミ仲間と会話することもありませんでした。
レポート用の資料は、ネット上で読める論文で足りない時は、安全性が高い電子書籍を購入していました。
LiLianメンバー 山田有理奈さん
初めての電子書籍の選書
2020年秋、初めて LibrariE を利用した選書を行いました。
【吉岡亜佳音(図書館職員)】LibrariE の導入について
大学への登校が難しい状況で、自宅からもアクセスできる電子書籍が急速に脚光を浴びました。中でも「LibrariE」は、下記3点が学生のニーズに合っていたため導入を決定いたしました。
1)学外からも利用可能
2)利用方法が簡単 「ログインする」「借りる」「読む」のシンプルボタン
3)読書向けの資料が充実
本学でも電子書籍は揃えておりましたが、学内からしかアクセスできない資料もあります。その点「LibrariE」は、すべて学外からも利用できるのが大変魅力的です。
また利用方法が簡単で、「ログインする」「借りる」「読む」の3つのボタンで完了するので、説明を受けなくても、スムーズに利用できます。
【石田翔子(図書館職員)】LibrariE を利用した学生選書について
万全の感染対策をして学生に活動してもらう方法を模索した結果、電子書籍の学生選書を開催することとなりました。
様々な電子書籍がありますが、金城学院大学では、読書用の選書を目的としているため、「読書向けの本を多く取り揃えていること」「書影から本を選ぶことができるため、学生が感覚的に選びやすいこと」「学生が自宅から選書できること」を重視し、紀伊國屋書店LibrariEによる「リモート選書会」を開催することに決めました。
【野田さん】
LiLianの選書会主担当として、選書会の企画、選書方法の説明、POP作成指示、展示まで全て行いました。2020年度前期は、ずっとイベントがない中で、新メンバーにとっては初めてのLiLianイベントでしたので、選書方法の案内も、みんなが分かりやすいように入念に準備をしました。伝えることが多かったのですが、業務連絡のようにならないよう「ワクワク感」が伝わるように心がけました。
電子書籍の選書の感想
【高坂さん】
店頭選書の場合、ブラウジングしているうちに、求めているものがみつかりますが、電子書籍の場合は、必ず検索が伴い、適切なキーワードを入力する必要があるので大変でした。最初のうちは、作家名(有川浩さん、東野圭吾さんなど)でも検索していましたが、ヒットしないことが多かったので、作家名で検索することは途中であきらめました。
選書サイトのトップページが、書店の棚のように、ジャンル分けされていると、もっと探しやすくなるのではと思いました。
【後藤さん】
私は分類番号を使って検索しました。高坂先輩がおっしゃるように、トップページが十進分類法やよく検索するテーマ(レシピ本、日本の小説、写真集等)で、ジャンル分けされていると便利だと思います。
【山田さん】
初めての電子書籍の選書ということで、難しいイメージがあり、選書方法のマニュアルを読みこみました。実際に選書してみると、操作そのものは困りませんでした。店頭選書の場合は、ブラウジングしているうちに、普段は手に取らないジャンルの本を選書できましたが、電子書籍の場合は、検索して自分から探し出さないといけないので、自分の好みに偏ってしまう傾向にありました。
【野田さん】
操作そのものは苦労しませんでしたが、ブラウジングして探せないので、そういった点では検索に時間がかかりました。また、紙の本の場合は、本の装丁も選書ポイントで、眺めているだけでワクワクしますが、そういったワクワクが電子書籍の選書ではありませんでした。小説は作家名で検索すると、入っていないことが多々ありましたが、分類番号で検索して、小説全体から探すことで、今まで手に取ったことがない作家さんとの出会いがありました。
2回目の電子書籍の選書
2021年春、2回目のLibrariEを利用した選書を行いました。
【高坂さん】
私達は、選書した本のPOPを作成し展示しているのですが、やはり紙の本が置かれていないと利用者の目になかなか留まりません。そのため、2回目の選書会では、電子書籍とその書籍の紙バージョンも購入することにしました。現在、展示中ですが、紙の本を置くことで、利用者の目に留まりやすくなりました。
また選書会では、毎回、テーマも設定しているのですが「どういった本が電子書籍にむいているか」をメンバーと話し合い、「すきま時間」と「食」をテーマに選書することにしました。「すきま時間」にした理由は、電子書籍の場合、長時間の読書よりも、すきま時間に気軽に読むほうが向いているという意見が多かったためです。私達は今、リモートで授業を受けていますが、リモートだとうまく休憩時間を取ることができないため「ちょっとした休憩時間に読める電子書籍を案内し、リフレッシュして欲しい」という思いもあります。
「食」をテーマにした選書POP展示
「すきま時間」をテーマにした選書POP展示
【後藤さん】
LibrariEで選書した本は、専用サイトから利用することになります。図書館には50万冊近い本がありますが、専用サイトで読める本は、私達が選んだものだけです。利用者からしたら「とても少ない」と感じる冊数しかありません。
2回目の選書会では、登録冊数を増やすため、提供価に着目し、1冊の上限価格を設定しました。出版社の中には、紙の本とあまり変わらない価格で提供してくれているところもあるので、そのこともメンバーに伝えました。また、2年で消滅しない、ライセンス販売型のものを多く選書することにしました。
私は選書会のテーマとして「食~レシピ本~」を提案しました。コロナ禍で外食が減り、自炊が増え、自炊デビューした学生も多くいます。これを機会に食生活を見直して欲しいと思いました。今は料理レシピサイトも充実していますが、初心者には、分量の表記が正確なレシピ本の方が、再現性が高い料理が作れます。また、料理のコツや豆知識も書かれていたりするので、そういった点にも注目して欲しいです。
利用促進について~利用が伸びない理由~
【後藤さん】
誰でもが知っている目玉作品が少ないので、トップページを一目見て、その先に進まない人が結構いると思います。最新作を並べれば、目玉作品になるかもしれませんが、新作は提供価が高くて、選書対象になりません。今後の利用につながる目玉商品を、安価で提供してもらえると嬉しいです。
「試し読み」が推奨されていますが、「試し読み」が付いている書籍と、付いていない書籍があります。私たちはその理由(ライセンス販売型には試し読みボタンがない)がわかりますが、理由を知らない利用者は混乱していると思います。
ライセンス販売型の書籍であっても、「試し読み」がついていると、利用方法が統一されてわかりやすいです。
【高坂さん】
通信環境によっては、読み込みが遅いので、そこが改善されると利用が増えると思います。
学校も通学時の電車内も、Wi-Fiが混み合っているのでサクサク動きませんでした。ダウンロード形式にして、オフラインでも読めるといいですね。
小説はスマートフォン対応になっている分、改行で気になる点があります。また、何度もページをめくる必要があり、自分がどれくらい読んだのかも一目でわからないため、読みづらいです。
【山田さん】
図書館のメディアというと、図書(紙媒体の本)、新聞、雑誌がありますが、電子書籍も、メディアの1つであるということがあまり浸透していないのではないかと感じています。
~どうPRしたら女子大生に響く?~
【野田さん】
「いつでも読める」だと逆に読まないので、期限付きであることを逆手にとって「期間限定」を売りにしてみると女子大生に響きそうです。
【山田さん】
最近の政治動向を調べる際には新聞を使用するように、“〇〇を調べたい、〇〇を読みたい時には電子書籍を使用する”というようなPRをしていくと良いと思います。
電子書籍のメリットは、持ち運びが便利ということなので、重たい辞書、写真集、画集は、電子書籍を使用するのが1番便利なように思います。レシピ本も、電子書籍がむいていますね。紙の本ですと、ページをしっかり開かないと閉じてきてしまいますが、電子書籍ですと、該当ページを開いたまま料理ができて便利です。
【後藤さん】
私たちは普段スマートフォンで、横書きの文章を読んでいるので、小説も横書きで表示されると、読みやすいのかもしれません。
~今後のデジタルライブラリーをどのように育てていきたいですか~
【山田さん】
やはり利用者を増やしたいですね。この春の選書会では、冊数の増加に力を入れましたが、今後、よりデジタルライブラリーを普及させるためには、利用者のニーズに合わせた選書を行っていく必要があります。電子上では、小説よりも、文字情報の少ない絵本やレシピ本の方が読みやすいという利用者の声を選書に反映させ、これらの本を積極的に増やしたいです。
利用者に寄り添った選書をして、デジタルライブラリーが多くの人に利用してもらえるよう、しっかりと宣伝をしていきます!
(寄稿:金城学院大学 図書館)