人文社会系研究

『Web版 鎌倉遺文』に続く、平安時代の史料集『Web版 平安遺文』

2023.06.15

2023年3月、『Web版 平安遺文』がJKBooks(ジャパンナレッジLibと同一プラットフォームで利用できるデータベース)で提供開始されました。2018年~2019年にかけてリリースされた『Web版 鎌倉遺文』に続く「遺文シリーズ」の第二弾です。

『平安遺文』とは

『平安遺文』は、故・竹内理三博士(元東京大学史料編纂所所長、東京大学名誉教授、早稲田大学名誉博士)の編纂により、20年余の歳月をかけて刊行された史料集です。わが国の平安時代史研究に飛躍的な発展をもたらし、史学史上に名を成しました。

平安時代の古文書5,343通を年代順に網羅集成した古文書編(1巻~10巻)と総目録・解説・索引を掲載した11巻がまず発売され、のちに金石文編、題跋(だいばつ)編、索引編2巻が加わり全15巻となりました。今回リリースした『Web版 平安遺文』は、古文書編を改訂した「新訂版古文書編」全11巻を底本としています。

平安時代の古文書の多くは、平安京の所在地たる山城国(京都府)と大和国(奈良県)の寺社に遺されたものが中心となります。竹内博士は、『類聚三代格』のような当時の編集物に収録された古文書からはほとんど採用せず、東北から九州までの散逸を免れた古文書を博捜し、『平安遺文』としてまとめました。

デジタル化の道のり

竹内博士の志を継承し研究資産のデジタル化に対応するべく、東京大学史料編纂所で1996年に書籍版の『平安遺文』をもとに「平安遺文フルテキストデータベース」が作成・公開されました。その成果をもとに東京堂出版から1998年に『CD-ROM版 平安遺文』が刊行されました。

CD-ROM版 の刊行以降も、東京大学史料編纂所はCD-ROM版の誤入力や、典拠情報が新たに判明したら修正を行い、データを更新してきました。今回配信する『Web版 平安遺文』は、その成果を反映させたデータベースとなります。

版面PDFを収録(CD-ROM版との違い)

JKBooks『Web版 平安遺文』の一番の特長は、「検索」と「版面の閲覧」を同じ画面上で行えることです。具体的にどういった点が便利になるのか、ご紹介します。

古文書には、異筆(本文を書いた人とは別の人の筆跡)や朱筆(朱く書かれた文字)、割注(文章の途中に小さい文字で入れられた注釈)など、「本文」にあたる部分のほかにもさまざまな書き込みがあります。

そういったオリジナルの古文書にある書き込みなどの記載意図については、それを書いた当時の人間以外にはわからず、研究にあたる部分になります。『平安遺文』は、編纂者である竹内先生が意図的に入れた注釈(傍注)以外、原則、原本である古文書通りに翻刻されています。(※なお、翻刻とは、以前JKBooks『Web版 史料纂集』の連載でご紹介したとおり、筆によってくずし字で書かれた原本を、研究で活用しやすいように、文字起こしして活字化することを指します。)

その正確な翻刻が表現されているのが書籍版の版面で、これがWeb版にも搭載されています。図1は、Web版を検索した後に表示される本文画面で、右側に版面PDFへのサムネイルが表示されます。

図1:JKBooks『Web版 平安遺文』の本文画面

版面PDFのサムネイルをクリックすると、図2のように版面PDFを確認することができます。

図2:JKBooks『Web版 平安遺文』の版面PDF

図3は、図2の一部を拡大したものです。黄色く囲っている小さい文字や、赤く囲っている小さい文字などがありますが、版面PDFは原本を忠実に翻刻されていますので、文字の大小などが一目でわかりやすいというメリットがあります。

図3:JKBooks『Web版 平安遺文』版面PDFの一部拡大

一方で図4は過去に発売されたCD-ROM版の、図3と同じ文書を示す箇所です。図3(Web版)では原本と同じく小さい文字で書かれていた箇所が、図4(CD-ROM版)では本文と同じ大きさで書かれていることがわかります。CD-ROM版では、文字のサイズを変更して表示させることが難しかったためで、異筆や朱筆、傍注や割注の判断がCD-ROM上では困難でした。

図4:CD-ROM版『平安遺文』の本文画面

そのため、CD-ROM版しかなかった当時では、CD-ROMでまず検索を実行し、その後に紙の書籍で版面を確認するなど、パソコン画面と紙の書籍を都度行き来する必要がありました。Web版では、検索と版面の確認をすべて同一画面で行えますので、研究の効率が飛躍的に向上します。

挿図や系図も参照可能

CD-ROM版では再現不可能だったWeb版ならではのメリットとして、他にも、挿図や系図などを同時に表示し参照することも可能となっています。

図5:系図が掲載されている例

「日本古文書ユニオンカタログデータベース」とのリンクを実現

東京大学史料編纂所の「日本古文書ユニオンカタログデータベース」へのリンクも実現しています。日本古文書ユニオンカタログデータベースに登録されている刊本、写本、史料画像などの情報を簡単に参照することが可能です。

図6:日本古文書ユニオンカタログデータベースとのリンク機能

さまざまな検索機能

収録文書すべての全文検索が可能です。『Web版 平安遺文』の個別検索画面では、文書名や文書番号、典拠、本文に限定して検索することもでき、複数語句を組み合わせて検索することもできます。

また、年月で絞り込むことができる他、『Web版 平安遺文』と『Web版 鎌倉遺文』の両方を契約していれば、『Web版 平安遺文』と『Web版 鎌倉遺文』を横断検索をすることができます。例えば図7は、田に課せられた税を指す「租」という言葉で検索した例です。平安遺文では187件、鎌倉遺文では46件ヒットしています。

このように、ある言葉がどの時代の古文書に出てくるか、簡単に調べることができます。

図7:ジャパンナレッジ「遺文シリーズ」の詳細(個別)検索画面

「遺文シリーズ」のさらなる展開

Web版・遺文シリーズは、第一弾として『Web版 鎌倉遺文』が2018~2019年に発売済み、今年2023年に発売した『Web版 平安遺文』が第二弾となります。今後は『Web版 南北朝遺文』の発売も予定されており、古文書の網羅的な検索が可能になります。今後のさらなる展開にぜひご期待ください。

商品カタログページ

(紀伊國屋書店 デジタル情報営業部)