人文社会系研究

英国政府の植民地政策と海外開発関係文書に見る農業経済と資源経済

2025.02.07

環境の歴史に関わる個人や団体や政府の文書を通して、19世紀以降の環境史を扱うアーカイブシリーズEnvironmental Historyの第2集Colonial Policy and Global Development, 1896-1993では、英国の植民地省、外務省、開発援助政策の所管官庁(海外開発省等)の文書を通じて、イギリス帝国の時代と帝国解体後の時代に英国が関わった世界各地の開発と環境の歴史に光を当てます。収録文書は天然資源、エネルギー、環境汚染、自然災害、都市化、気候変動等、途上国の環境問題を広くカバーしますが、農業経済や資源経済に関する文書も収録されています。

第二次大戦後、英国は国際収支の赤字とドル不足を解消する手段の一つとして植民地の一次産品の重要性を認識し、植民地の経済開発に向けて資金を投じました。中でも、農業は林業、家畜衛生と並び重点的な開発分野と見なされました。本アーカイブは近代的農業と伝統的農業の二重構造等、ヨーロッパ式の農業の導入により植民地農業の近代化・機械化・大規模化を試みた英国が直面した様々な問題を政策立案者、アドバイザー、政策施行者の文書を通じて明らかにします。また、マーケティングボード(Marketing Board)に関する文書は、英国政府による帝国内での農産物の流通促進策の実態に光を当てます。世界各地を植民地として支配したため、本アーカイブで取り上げられる植民地の一次産品は、木材、パームオイル、天然ゴム等の森林資源、石炭、鉄、錫、原油、ダイヤモンド等の鉱物資源から漁業資源まで、広範囲に及びます。植民地省が第二次大戦後に実施した経済調査(Economic Survey)にはこれらの資源に関する調査が含まれています。
農産物の生産と流通、各種資源の開発等、イギリス帝国における農業経済と資源経済を研究する上での貴重な一次資料集です。

収録文書のご紹介

植民地の伝統的農法

植民地では土壌浸食が深刻な問題として認識され、様々な対策が講じられた。本アーカイブには「Soil Erosion」というタイトルのファイルが多数収録されている。左は植民地省の農業顧問を務めたハロルド・テンパニーの報告書「英帝国における土壌保全の実情」(CO 852/1012/6)。右はアフリカの森林伐採と土壌侵食に関する研究委員会の1942年の議事録で、土壌侵食で荒廃した土地を耕作可能にする方法としてタウンヤ(Taungya)とよばれる現地の伝統的な農法が議題に挙げられている(CO 852/394/14)。

農業の二重構造

ローデシアの農業に関する専門調査委員会の文書で、現状は近代的な農業と伝統的な農業が併存していると分析した上で、将来の農業開発のための戦略を提言している(OD 25/1)。

農業生産増大のための肥料実験

英国は第二次大戦後、植民地における農業生産増大の切り札の一つとして化学肥料の導入を試み、各地で肥料実験を実施した。本アーカイブには「農業:肥料(Agriculture: Fertilizers)」「農業:肥料実験(Agriculture: Fertilizer experiments」というタイトルのファイルが多く収録されているが、上はザンジバルにおける実験結果をまとめたもの(CO 852/1007/2)。

植民地農業諮問委員会、機械化栽培

植民地省は1947年、アフリカで機械化栽培に関するパイロット調査を実施した。上はパイロット調査に関する植民地農業諮問委員会の議事録(CO 852/1005/1)。

戦後欧州復興とアフリカ木材生産

欧州経済協力機構の木材委員会によって1948年12月に作成された報告書では、欧州における木材の需要増が見込まれる中で、様々な需給ギャップ解消策が提言されているが、英国のアフリカ植民地では木材の生産設備への投資が実施されている状況が説明されている(CO 852/966/1)。

植民地資源の生産と輸出

英国が植民地で実施した経済調査(Economic Survey)には一次産品の生産と輸出に関する統計データも充実している。これは「植民地経済調査:タンガニーカ(Economic survey of colonial territories: Tanganyika)」というファイルの一部で、サイザル麻、綿花、ダイヤモンド、コーヒー、金、動物皮、穀物、米等の輸出量と輸出額、各種部門別の生産額を示したもの(CO 852/1034/4)。

マーケティングボード

植民地産品の貿易促進と消費拡大のために戦間期に創設された帝国マーケティングボード(Empire Marketing Board)は短命に終わったが、帝国内の物資の流通促進のための新たなマーケティングボードの設立の必要性が提言された(CO 852/190/10)。 この提言を受け、第二次大戦後にココア、コーヒー、サイザル麻、オイルパーム、シードなど、植民地産品を一括買付する専売公社としてのマーケティングボードが商品別に設立された。(CO 852/1227/4)。

Environmental History(環境史アーカイブ)シリーズについて

Environmental Historyは、環境保護に取り組んだ個人や団体や政府の文書を通して、19世紀以降の環境問題の歴史に光を当てるアーカイブシリーズです。
第1集は、米国の環境政策と環境保護活動に関連する、個人、団体、政府文書を収録し、第2集は、旧英国植民地の地域であるアフリカやアジア地域を対象として、環境史および開発政策に関する政府省庁の文書を収録します。

(センゲージ ラーニング株式会社)