
株式会社紀伊國屋書店は、2024年9月から2025年3月にかけて実施された京都女子中学校・高等学校様の「オープンライブラリー」構築プロジェクトに携わる機会をいただきました。今後類似の取り組みを検討されている教育関係者様に向けて、プロジェクトの概要及び特徴、運用システムの工夫をご紹介いたします。
プロジェクトの概要
このプロジェクトでは、12万冊におよぶ既存蔵書の中からおよそ5万冊を選書し、2025年3月竣工の新校舎「飛翔館」へと移設しました。 新校舎では日常的に生徒が本と出会える環境を構築し、読書習慣のない生徒にも自然に本へ手を伸ばしてもらうため、従来型の図書館ではなく「オープンライブラリー」として、校内各所に書架を分散設置しています。
配架にあたっては、1階には学校の理念に基づく独自分類エリアを設け、2階および3階には日本十進分類法(NDC)に基づいた一般配架エリアを展開しました。 これにより、探しやすさと出会いやすさの両立を図り、さまざまな関心層の生徒に本が届く構成としています。
配架における特徴
新校舎の1階では、京都女子中学校・高等学校様の建学の精神である「自己へのめざめ」「他者へのめざめ」「社会へのめざめ」を、新ライブラリーが掲げる「きづく」「まなぶ」「つながる」という概念に組み合わせるかたちで、9つの独自分類テーマを設定しました。
さらに、学校様が京都市中心部に位置し、仏教とのつながりが深いことを踏まえ、京都文化と仏教、学校ゆかりの人物を扱うテーマとして「みやこのあゆみ」を加え、全体で10テーマとしています。各テーマの名称は敢えて抽象的なものとし、それぞれの棚に分野を跨いだ図書を横断的に配架しています。
このような構成により、特定のジャンルの書架だけでなく、複数のテーマ棚へのブラウジングが自然と促される仕組みになっています。思いがけず手に取った一冊が、新たな関心の芽を育てる——そうした偶然の発見を大切にした配架設計としています。
また、各テーマ棚には生徒自身が作成した図書紹介POPを設置しました。自分たちが推薦したい図書に自ら解説やコメントを添えることで、生徒間の対話や交流のきっかけにもなっています。POP作成にあたっては当社店舗スタッフによる講習会を実施し、デザインや配色のレクチャーを行いました。
ICタグによる蔵書管理の導入と運用
今回のプロジェクトでは、図書を校舎内に分散して配置する構成上、従来のバーコード型の蔵書管理ではなく、ICタグを用いた蔵書管理システムを導入しました。各図書にUHF帯ICタグを貼付し、非接触型のリーダーで複数冊を一括で読み取ることで、貸出・返却・蔵書点検といった一連の作業の効率を、大幅に上昇させています。図書館スタッフの負担軽減につながるのみならず、図書が校舎の各所に配置されている環境においても、正確かつ柔軟な蔵書管理を維持することが可能です。
隣接する京都女子大学図書館においてもICタグシステムを導入しているため、将来的には中高-大学間の相互利用等も対応できる仕様となっています。
おわりに
今回のプロジェクトは、図書移設という枠を超えて、学校という空間全体に“本のある日常”を浸透させる試みでもありました。生徒との協働を通じた配架設計と、ICタグシステムを活用した効率的な運用という二つの軸によって、校舎のいたるところに「学びの入口」が存在する、新たな図書環境を創り出すことができました。
本記事が、図書移転や図書環境の刷新を検討されている方々の一助となれば幸いです。
京都女子中学校・高等学校 新校舎について
2025年度より新校舎での学びがスタートしました。新しい校舎は、西日本エリアの私立中学校・高等学校では初の『ZEB Ready』認証を取得。効率の高い設備機器の採用や太陽光発電パネルの設置、建物全体を活用した自然換気システム等を取り入れることで、1次エネルギー消費量を50%以下まで削減することができます。
【ZEB (Net Zero Energy Building)とは】
「ZEB」とは、年間の1次エネルギーの収支をゼロにすること、つまり省エネによってエネルギーを削減し、創エネによって使う分のエネルギーを賄い、エネルギー消費量を実質ゼロにすることを目指した建物のことを指します。
(紀伊國屋書店 京都営業部 滋野)