これからの学び

イベントレポート:2025年9月開催「一人一台端末を活用した『自立した学習者』育成のための学びの現代化」

2025.11.21

2025年9月、宮城県・せんだいメディアテークにて、中学校・高等学校の教職員向けイベント「一人一台端末を活用した『自立した学習者』育成のための学びの現代化」を、株式会社ネットアドバンスと株式会社紀伊國屋書店の共催により開催しました。

本イベントでは、宮城県仙台第二高等学校(仙台二高)校長の早坂重行先生と、宮城県仙台向山高等学校(仙台向山高校)主幹教諭の早坂晴子先生にご登壇いただき、宮城県内の高等学校の先生を中心に約75名の学校関係者の方々にご参加いただきました。
イベント当日の様子をお届けします。

 

※本イベントのアーカイブ動画は下記からご視聴ください。

【仙台ICT活用セミナー】「一人一台端末を活用した『自立した学習者』育成のための学びの現代化」

基調講演:早坂重行校長「一人一台端末を活用した『自立した学習者』育成のための学びの現代化」

早坂重行校長からは一人一台端末が普及している現代の学校教育の在り方について、ご講演いただきました。

早坂校長は冒頭で、「GIGAスクール構想」によって整備された一人一台端末が、高等学校の現場で本当の意味で活用されているか、という点を問題提起しました。また、板書の代用としてPowerPointなどのスライドが使用されている現状は、生徒や教員の負担の軽減につながるツールかもしれないが、「学びに向かう力」(『平成30年度高等学校学習指導要領』より)の育成に寄与できていないのではないか、と述べました。

生徒が「学びに向かう力」を育成させていく事例として、早坂校長の前任校である宮城県宮城野高等学校で取り組まれた「DX・地域連携事業」の様子を紹介しました。生徒が主体的に行動し、その中で大学生から教わったり、小学生に教えたりしている姿がとても印象的でした。早坂校長は、熟達者と未熟達者の対話の中に成長があり、熟達者(=教師)が適切なタイミングで働きかけることが重要だと述べました。

また、教師と生徒が学びあっていくために、従来の知識注入型授業(教師⇒生徒の一方向での授業)ではなく、先生がICT端末とそれを扱う生徒の間にゲートキーパーのような役割で支援していくこと、「自立した学習者」育成のための「足場づくり」をしていくことのできる、双方向での授業モデルを提案しました。

講演の最後に校長先生として、保護者の方々にICT端末を購入してもらっているからこそ、それを活用できるようなメソッドやツールを取り入れるなどして、学習を発展させていくべきだと語りました。

事例紹介:早坂晴子先生「JKS×学びのアップデートの実践紹介~総合的な学習の時間・授業・キャリアプランニングでの活用~」

早坂晴子先生には、「ジャパンナレッジSchool」の活用方法について「探究学習」、「進路学習」、「教科学習」の3つの観点からご紹介いただきました。

早坂晴子先生は、一人一台端末で教室の外との世界とつながることのできる昨今に、「信頼できる情報」とつながる難しさという面が教育においては課題になっていると指摘しました。解決策として仙台向山高校では、「信頼できる情報」にアクセスすることができる「ジャパンナレッジSchool」に注目。宮城県内で初めての導入校となりました。

1.総合的な探究の時間・「向陵Plearning(プラーニング)」での活用

「向陵Plearning」では「本を伝え合う」、「体験」、「ともに学ぶ」の3つの柱を大切にしており、「本を伝え合う」では新書を用いたビブリオバトルやブックトークなどの活動を行っています。その中で、新書・文庫が860冊以上収録されている「ジャパンナレッジSchool」も活用されています。

また、探究学習では「問い」を見つけるとき、そして情報との出会いの場として利用されています。漠然とした疑問を文章で検索できる「セマンティック検索」は、「問い」を見つけることができる、という点で評価していただきました。

2.授業での活用・「QUEST冊子プロジェクト」での活用

仙台向山高校では「QUEST冊子プロジェクト」という独自の資料と、「ジャパンナレッジSchool」を使用し、生徒の「自立した学習者」の育成や個別最適な学びに向けた取り組みを行っています。「自立した学習者」の育成のために、「モデリング(方法の提示)」、「コーチング」、「足場かけ(できないところの支援)」、「フェーディング(課題・自学での活用)」の4つのステップを大切にしながら実施していると説明しました。

国語の授業では古典の多読を課題として出しており、そこでは「ジャパンナレッジSchool」に収録されている『日本古典文学全集』や『ビギナーズ・クラシックス』を使用。『国語便覧』を開いて、さらに深掘る生徒もいると述べました。

「QUEST冊子プロジェクト」では、「教科書課題の読解」、「探究課題」、「応用課題」で「ジャパンナレッジSchool」の利用を促しています。同サービスは「調べる力」、そして「読む筋力」の成長をサポートする役割を担っています。

早坂晴子先生が作成したワークシート

3.キャリアプランニング・小論文(志願理由書)指導における活用

ネットニュースを開いても自分の興味関心のあるニュースしか出てこないフィルターバブルの中で、生徒を大学の総合型選抜に立ち向かえるようにするために、仙台向山高校では、「ニュースレポート」という課題を出しています。

「ニュースレポート」では、生徒自身で関心のあるニュースを選び、要約します。それから同一テーマを記した他紙の情報を要約。その後、「ジャパンナレッジSchool」を活用してニュースの深堀りをします。最後に蓄えた情報を自分の言葉で分析や考察を述べます。それにより、志望分野に詳しくなり、自分が何をしたいかがより見えてくる。「要約する力」や「文章力」の育成にも効果的な課題となっています。

トークセッション:【先生×学生対談】「自立した学習者の声」

休憩をはさみ、引き続き早坂晴子先生をファシリテーターとして、東北大学教育学部の学生2名、仙台向山高校の生徒4名にもご登壇いただき、トークセッションを実施しました。6名の学生は東北大学SCC(Student Community College)というコミュニティに属しており、その活動内容について詳しくお話しいただきました。

1.SCCでの活動と仙台向山高校の取り組み

SCCとは、世代や肩書にとらわれず、多様な人々が情報を共有し学び合えることをミッションに掲げて活動している団体です。仙台向山高校とは、「東北大SCCインターンシップ」や「問いの立て方講座」等の企画で交流があったこともあり、今回の講演が実現しました。

「東北大SCCインターンシップ」では、東北大生が”センセイ”として前に立ち、仙台向山高校の生徒は”セイト”として授業を受ける、というようにそれぞれが「先生役」「生徒役」として参加。 ”セイト”である高校生は講義後、インタビューなどを通してレポートを作成しました。参加した生徒は、”センセイ”の趣味から始まる授業の面白さと、学びのつながりを実感したそうです。一方で、大学での探究活動と高校での探究学習でのレベルの違いを感じた、との意見もありました。その他、話し方や国語力、探究の奥深さについてなど、様々な学びがそこにはあったようです。

「問いの立て方講座」は、仙台向山高校の生徒が、宮城県宮城野高等学校「探究道場」での発展的な学びを生かして、”センセイ”として授業を行った一例です。「問いを立てる」という行為は単純に思えるのに、意外に難しいことだという気づきから始まりました。はじめは放課後に20名ほどで行った講座でしたが、最後は高校2年生全体で講座を実施し、「問いを立てる」とは何なのかを詳しく説明した、と語りました。

2.生徒の「ジャパンナレッジSchool」評

「ジャパンナレッジSchool」について生徒は、『日本古典文学全集』を古文の予習に、『学習まんが 日本の歴史』を日本史の勉強の息抜きに、新書や辞書を自学自習になど、様々なシーンで自主的に利用してくれているようです。「使わないともったいない」「圧倒的な情報量」などの言葉もあり、実際に日頃から利用する生徒の声はとても貴重なものとなりました。

生徒たちの声からは、予習・復習や調べ学習、読書など日常のいたるところで活躍するポテンシャルがうかがえました。

参加者の声

今回のイベントは盛会のうちに終了し、参加された県外の「ジャパンナレッジSchool」導入校の先生からは「自県でも開催してほしい」といったお言葉をいただきました。また、宮城県内の同サービス未導入の高校様からは、「詳しい説明を聞きたい」との要望が複数ありました。

まとめ

早坂晴子先生の「ジャパンナレッジSchool」活用法については、現在導入校の先生方にとっても、導入を検討されている先生方にとっても、とても有意義なイベントになったと思います。仙台向山高校の生徒の評価にもある通り、同サービスの自学自習での活用方法は十人十色で、今日注目されている「個別最適な学び」に最適なツールです。

早坂晴子先生は講演の最後に「導入校が増え、活用の仲間を増やすことが大事」と述べていました。各県、各地方で導入を検討いただき、情報交換ができるようになれば、おのずと輪も広がっていくのではないでしょうか。

最後のプログラムでは、東北大学の学生と仙台向山高校の生徒に登壇いただきました。取り組まれている内容やそれをステージの上でお話ししている姿は非常に立派で、まさしく「自立した学習者」であると感じました。

本イベントは、「自立した学習者」育成のために一人一台端末を今後どのように活用していくか、教師が生徒とどのように関わっていくかを考える上での一助になったかと思います。せっかくの一人一台端末、生徒の学習に寄与する形で活用するために、「ジャパンナレッジSchool」をはじめとした外部のツールやメソッドの導入なども検討いただけたら幸いです。

ご登壇者のプロフィール

早坂重行先生

宮城県仙台第二高等学校 校長。東北大学教育学部、筑波大学大学院修士課程、東北大学大学院教育情報学教育部博士後期課程修了。博士(教育情報学)。
研究領域は、学校経営、教師の働き方、教師教育、言葉、教育情報、国語教育など。

ご紹介(外部サイト)
東洋経済education×ICT 2025/08/07公開
進学実績が光る東北の名門・仙台第二高校が進める「学びの現代化」とは
https://toyokeizai.net/articles/-/893593

早坂晴子先生

宮城県仙台向山高等学校主幹教諭(国語科)。外部との連携や探究活動にも力を入れている。東北大学大学院教育情報学教育部博士課程後期3年の課程修了。博士(教育情報学)。専門はコミュニケーション教育・表現教育。

ご紹介(外部サイト)
“国語辞典の読み比べと辞書作りで学ぶ、日本語の奥深さ”(ジャパンナレッジSchool公式サイト)

「ジャパンナレッジSchool」とは

出版各社から提供された中高生の学習に役立つ辞事典や参考書のほか、新書、文庫、雑誌、また統計資料、地図などを一括検索・閲覧できるインターネットサービスです。全68種類、1,000冊以上の信頼できるコンテンツを、お使いの端末でいつでもどこでも利用することができます。生徒の学習利用のみならず、教員の教材作成や研究にもご利用いただけます。

ジャパンナレッジSchool

 

(紀伊國屋書店 学校教育営業部 宇尾)