近年、学生への就活支援は大学の大きな課題となっています。以下ではそのニーズに応えるデータベースの活用法を、具体例を交えつつディープに解説します。
本稿は、去る7月30日・8月3日、東洋経済新報社とプロネクサス社が東京・大阪の2会場で開催した大学職員向けの就活支援セミナー”就職支援に役立つデータベース活用法2018″の中から、東京会場での両社の対談のセッションを抜粋したものです。
東洋経済デジタルコンテンツ・ライブラリー(以下、DCL)とは
「週刊東洋経済」、「会社四季報」、「就職四季報」など、東洋経済新報社の主要刊行物を検索・閲覧できるデータベース
eolとは
有価証券報告書など、国内株式公開企業を中心とした企業情報を総合的に配信するデータベース
情報源の性質が違う
プロネクサス社・伊藤:先ごろeolとDCLの両方を導入しているH大学で、両者をどう連携させたら企業研究に効果的かという切り口でセミナーを実施したところ好評でして、本日は皆様にいくつか効果的と思われるeolとDCLの併用パターンをお示しできればと考えております。最初に両者のポジショニングや特質について、簡単に解説します。
東洋経済新報社・西村:両者の違いですが、まず情報源の性質が異なります。
企業に関する情報をざっくり分けると、企業が自ら発信する情報と第三者が発信する情報に分かれます。前者の一つにeolが収録する有価証券報告書があり、後者の一つにDCLが収録する経済誌の記事があります。
大学の教室で学生に説明する時は、前者はあなたの書いた自分史、後者は記者である私があなたの人生をまとめた記事、という風にこの違いを説明します。自分で書くものは非常に詳細なものとなります。生まれた時の体重とかセンター試験で何点を取ったかとか、たくさんの一次情報があるからですね。ただ私が彼について書く場合には違うアプローチをします。高校時代の恩師や部活のチームメイトに取材をして、他の人との比較や第三者的な見解を踏まえたうえで、彼がどんな人間なのかを記事にすると思います。
彼の膨大な一次資料のデータを求める人は自分史を読むでしょうし、そうではなく、彼は他人からどう見られているのか、彼の評価を知りたい人は私の書いたものを参照するでしょう。この二つはどちらが優れているというものではなく、性質が異なるということです。
ただ、記事について言うと、その価値は評価と格付けにあります。人間、自分のことは自分でわからないのと同様に、企業も特徴や課題というのは第三者の方が見えてくるものなんですね。記者は業界全体を俯瞰し、たくさんの会社を取材し、他社と比較分析するので、評価と格付けが出来るんです。
(左:プロネクサス社・伊藤氏、右:東洋経済新報社・西村氏)
雑誌記事と有価証券報告書、それぞれの得意分野は
西村:次に、コンパクトにまとまり一覧性の高い雑誌と比べて、有価証券報告書と言うのは非常に膨大です。大きい会社の有価証券報告書だと100ページくらいあって、図書館で全部出力するとなると大変な事になります。雑誌記事はコンパクトですし、図表や写真などが豊富で、解説記事が充実しています。また、DCLでは異なる情報源に取材した複数の媒体を横断検索して、一つの企業を多面的に見ることができます。
伊藤:eolは、とっつきにくい数値情報がグラフなどでビジュアル化されているので見やすいのと、時系列比較が容易という特長があります。また、有価証券報告書には目次が必ずありますが、これはほとんどの企業で共通なので、ライバル企業の同じ目次を並べて比較することもできるんです。
西村:企業研究で有用とされる会社四季報も万能ではありません。四季報の構造は、よく幕の内弁当に喩えられます。実際には膨大な量のデータがありますが、全部見るのはとても大変なので、3ヶ月に一回、読者のために重要な部分だけを切り出してパッケージにするのが『会社四季報』なんです。いわば、氷山の一角というか、一種の「企業情報ダイジェスト」なんですね。パッケージであるが故に見やすいのですが、盛り込める情報の量が限られるというウィークポイントがあります。
例えば、四季報の【特色】欄と【連結事業】欄を見てください。四季報で真っ先に見た方がよいと就活生に推奨している欄です。【特色】は43文字前後で簡潔にまとめたプロフィール記事、【連結事業】は事業構成のことです。企業が何で儲けているかをざっくり見るのに適しています。ただ誌面スペースの関係で、事業区分の名称がわかりにくい場合があります。代表的な例がS社ですが、「G&NS」、「HE&S」といったアルファベットの羅列で、これを見ただけでは分からない。
伊藤:ここでeolに切り替えます。有価証券報告書で【事業の内容】を見ると、四季報では略称で表記されていた「G&NS」や「HE&S」が何の事業を示すのかがわかります。略称だけ見ても分かりませんが有価証券報告書にはセグメントも詳しく載っていますのでこちらをみるといいと思います。
西村:このように四季報は便利な反面、手薄な部分がいくつかあります。「歴史」もちょっと弱いです。企業も人間も「今」だけを見るのでなく、どういう経緯で今があるかというのが非常に重要です。しかし四季報はどちらかというと個人投資家のための投資情報誌なので、業績予想など、未来の話の方に力点を置き、誌面の多くを割いています。
伊藤:いっぽう有価証券報告書には沿革という項目があります。ここを見ると企業の年表などが載っています。例えば家電メーカーとして知られるS社は元々シャープペンシルを作っていたんですね。これが社名の由来と考えられます。
次に、P社の有価証券報告書を見てみましょう。従業員の状況という項目には従業員数・平均年齢・平均勤続年数・平均年間給与などが載っています。ここでは事業区分ごとの従業員数の欄に注目します。P社というと一般的には家電メーカーのイメージですが、実はこのAというセグメントに、家電のセグメントの倍の数の従業員がいます。経営方針の項目を見てみると、対処すべき課題という箇所に、今後はB to CからB to Bの方向に進むと書いてあります。家電が頭うちだと言うニュースが昨今報じられていますが、P社は今後自動車関連のB to B事業、具体的にはリチウムイオン電池に力を入れようとしていることがわかります。ここでDCLの出番です。
西村:DCLで過去の記事を遡ってみると、P社が自動車業界で提携先を模索している動きが分かります。ニュースはナマモノなので、カバーするためにはやはり新聞や雑誌が必要です。
伊藤:有価証券報告書は1年に1回しか出ないので、ニュース性の高い情報はDCLで読むといいですね。
両者を組み合わせて踏み込んだ企業研究を
西村:最後にネガティブ情報の探し方についてお話しします。
不祥事をおこした会社は当然、謝罪や情報開示をしているんですが、自分の失敗を冷静に分析できる人間が少ないように企業もそうなんですね。不祥事をおこした企業は、自社の有価証券報告書において、どのように表現しているでしょうか。
伊藤:リスク情報や今後対処すべき課題の項目を見てみましょう。どうしても公式見解というか、当たり障りの無い記述に終始してしまいます。
西村:DCLで検索してみると、ブラック企業特集も載っていますし、書評が充実しているので、関連の本にたどりつくこともできます。経済誌は一般誌や新聞、TVなどマス媒体と比べて広告依存度が低いので、大企業に対しても公平な視点から批判できるんです。
このように両者を組み合わせることでより深い企業研究ができるのではないでしょうか。
(東京会場の様子)
いかがでしたか?セミナー演目のうちのごく一部を紹介しましたが、当日は著名な先生方による講演もあり、非常に示唆に富む内容でした。
就活生優位の売り手市場が続いていますが、大手企業や人気職種の競争率は依然高いままです。大手企業のみエントリーした結果内定ゼロの学生がいる反面、中小企業が人手不足という需要と供給のミスマッチが起きています。また情報の出所が不明確なネットの情報のみを参照し、企業研究や業界研究が疎かなまま就活に臨む学生もいます。
こうした状況の中、具体的なデータや正確性の高い情報を基にした就活指導が大学に求められていることでしょう。DCLやeolをはじめとしたリソースをぜひご利用頂ければと思います。
なお、DCLとeolご契約大学は学内セミナーを実施することが可能です。DCLとeolと有効な使い方や最新の就活情報を専門の講師が解説します。詳しくは紀伊國屋書店にお問い合わせください。
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