人文社会系研究

書評誌のパイオニア~Times Literary Supplementをひも解く~

2019.12.10

創刊の経緯

イギリスの高級日刊紙ザ・タイムズ(The Times)が、議会休会中に議会関係の記事の欠落を埋めるために構想した文芸補遺欄が1902年1月、Literary Supplementとして始まりました。当初、ザ・タイムズの一部をなしていましたが、1914年2月19日号からは別刷りでも発行されるようになります。ザ・タイムズの一部と別刷りの形態が並行し、1914年3月12日号からは別刷り形態のみでの発行が始まり、現在に至っています。

1902年1月17日創刊号目次

 

書評誌のパイオニア

今でこそ書評誌は多く発行されていますが、Times Literary Supplement(以下、TLS)はアメリカのNew York Times Book Review(1896年創刊)と並ぶ書評誌のパイオニアとして、世界の知識人、批評家、作家、読書人の尊敬を集めてきました。

その書評は、一般にイメージされる書評とは大きく異なり、一つ一つの書評が長く、また一冊の書籍を取り上げる場合でも単なるその書籍に関する批評に止まらず、他の書籍にも言及し、書評というより、書評という形式を借りた論文に近かったといえます。名批評として長く後世に残るものも少なくありません。

カズオイシグロ『わたしたちが孤児だったころ』評(2000年3月31日号)

世界的な書評誌をデータベース化

センゲージ ラーニング社GaleのTimes Literary Supplement Digital Archiveは、TLSの創刊号以降のすべての記事を紙面イメージで提供するデータベースです。創刊号から2019年までの記事を提供しています。2020年以降は、2019年までのご購入者向けに、数年単位でご提供する予定です(任意購入)。

匿名記事の著者と記事を紐付け

TLSは創刊当初から、公正な議論を確保することを目的として書評は匿名で掲載するとの編集方針を堅持してきましたが、1970年代、著者名を明示するとの編集方針に転換しました。

TLSをデータベース化するに際して、タイムズ資料室に保存されているTLS原本(歴代編集者により記事の著者や原稿料が記入されていた)、編集日誌、週報など、使える資料はすべて使い、匿名記事の著者を突き止めることに成功し、匿名記事と著者を紐付けした上で、創刊号以来のすべての記事を著者から検索できるようにしました。

新たに著者が明らかになった記事は、特に著名な作家の場合は著作集に掲載されていない可能性があるため、作家研究、文学史研究にとって大きな意味を持つでしょう。

主要な記事寄稿者

以下の寄稿者は、創刊以来のTLSの寄稿者のごく一部です。名前の次に※印がある場合は、データベースに搭載されているその寄稿者の記事の全部あるいは殆どが、TLSが記事の寄稿者名を明記する方針に転換した1974年以前のものであること、つまり匿名で掲載されたことを示しています。

 

【文学】
Richard Edward Godfrey Aldington(※)
W.H.Auden(※)
Julian Barnes
John Bayley
Edmund Charles Blunden(※)
Anthony Burgess
Walter de la Mare(※)
Mary Duclaux(※)
Terry Eagleton
T.S.Eliot(※)
William Empson(※)
Dennis Joseph Enright
E.M.Forster(※)
George Sutherland Fraser(※)
Ian Hamilton
Seamus Heaney
Henry James(※)
F.R.Leavis(※)
Percy Lubbock(※)
Edward Verrall Lucas(※)
George Orwell(※)
Anthony Dymoke Powell(※)
Herbert Read(※)
I.A.Richards
Edgell Rickword(※)
Alan Ross
Lorna Sage
Thomas Seccombe(※)
George Steiner
Julian Symons
Anthony Thwaite
Arthur Bingham Walkley(※)
Virginia Woolf(※)
【書誌学】
John WaynFlete Carter(※)
Robert William Chapman(※)
Alfred William Pollard(※)
【歴史】
Denis William Brogan(※)
Edward Hallett Carr(※)
Lewis Bernstein Namier(※)
Simon Schama
A.J.P.Taylor(※)
George Macaulay Trevelyan(※)
Hugh Trevor-Roper
【軍事・諜報】
Cyril Bentham Falls(※)
Donald Harvey McLachlan(※)
James Richard Thursfield(※)
【美術史・美術批評】
Nikolaus Pevsner(※)
Edgar Wind(※)
【哲学】
Alfred Jules Ayer(※)
Isaiah Berlin
Gilbert Ryle(※)
Roger Scruton
Galen Strawson
【ジャーナリズム】
George Earl Buckle(※)
Valentine Chirol(※)

村上春樹『めくらやなぎと眠る女』評(2006年6月30日号)

これまで膨大に蓄積されてきた書評記事の数々をまずは縦横無尽に体感するために、そして冊子では実現不可能だった検索機能を駆使して、ぜひ“Times Literary Supplement Digital Archive”をご堪能ください。

(センゲージ ラーニング株式会社)

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