人文社会系研究

【連載】『史料纂集』校訂者が語る「ジャパンナレッジ版」の現在と未来 第2回

2026.04.24

2025年11月に図書館総合展で、東京大学史料編纂所の井上聡先生と、東京大学大学院博士課程の室伏奏楽氏をお招きし、『ジャパンナレッジ版 史料纂集・群書類従』が拓く史料学 -紙とデジタルの交差点-というオンラインフォーラムを開催しました。本連載※では井上聡先生の講演を編集・抜粋してお届けします。

※室伏氏の講演レポート記事と、本連載の第1回目はこちらで公開しております、ぜひご覧ください。

ジャパンナレッジ版『群書類従』・『史料纂集』とは

井上先生の講演の前に、ジャパンナレッジ版『群書類従』『史料纂集』についてご説明します。

 

『群書類従』や『史料纂集』は古代から近世までの歴史史料を翻刻(=くずし字で書かれた史料を活字化)した史料集です。

これらを、辞書・事典のデータベース「ジャパンナレッジLib」のプラットフォーム上で、全文検索と紙面画像の閲覧を可能にしたのがジャパンナレッジ版『群書類従』『史料纂集』です。

「ジャパンナレッジ版」は「ジャパンナレッジLib」の追加コンテンツ(買切型)として大学や公共図書館等の法人様向けに提供しています。

 

現在、ジャパンナレッジ版『史料纂集』は全7期の完成を目指し毎年続編を刊行しており、2026年1月にジャパンナレッジ版『史料纂集第4期』がリリースされました。今回のフォーラムはそのリリースを記念して開催したものです。井上先生の講演では、「ジャパンナレッジ版」が研究や史料集編纂の現場でどのように役立つかをご紹介いただきました。どうぞお楽しみください。

デジタルアーカイブの普及のなかで

ここから先は、私が史料を編纂するという立場にも立っているということで、お話を進めたいと思います。

 

現在、デジタルアーカイブというものが様々な機関で発展しております。史料編纂所もそうですし、国会図書館や国立公文書館、国立歴史民俗博物館など、様々なところから古文書のもしくは古記録の原本の写真を見ることができます。このような、私の学生時代には考えられなかった環境が整備される一方で、ジャパンナレッジのように紙の書籍ベースだったものがデジタルベースに切り替わっていく。これらを1台のパソコンで家にいながら見られるということは、本当に革命的な状況だと思います。

 

ただ、いろいろな技術が発展してくる中で、これまで私たちが触れてきた紙の書籍が、実は非常に有効で、よくできているものだということを、強く意識するようになりました。紙の書籍というのは版面(=紙面)、つまり二次元平面で、クリックしてもどこかへ飛んでいかない。紙をめくるしかないという、限られた構造になります。そうであるがゆえに、この二次元平面にいかに情報を配置するかという工夫が、百何十年という経験のもとに詰め込まれているということが、デジタル情報の発展によってかえって浮び上がってきているのではないかと思っています。まだまだ本は死んでいないと言ってよいでしょう。

紙面に施された細やかな工夫

例として、史料編纂所から公開されている安保文書の影写本(原本を人の手で書き写したもの)の画像をお見せします。

これは鎌倉時代に幕府が出した命令書です。これをジャパンナレッジのフルテキストデータで閲覧すると、任意の文字検索ができますし、文書を時代順に並べられるといったメリットもあり、リンクを介して様々な世界へとつながっていくことができます。

 

 

その一方で、デジタル情報にはまだ上手く盛り込むことができない、あるいは盛り込むと煩雑で逆に伝えにくくなってしまうという部分が、存在しています。

影写本の画像の右に『史料纂集古文書編 安保文書』の同じ文書の部分の版面を示しています。ここには、原史料の情報――竪紙(たてがみ)という形式とか、大きさはどれぐらいとかいった情報が示されています。それから一行目が少し虫食いで壊れていますが、こういったところをどう表現するかという工夫がなされています。たとえば、虫食いの場合は四角形を入れて、おそらく実際にはこういう文字だったのではないかという文字を右側に示す、などというルールをいろいろ決めて作っているのです。

 

また、文書の最後にサインがあります。鎌倉幕府の執権という、権力者が書いた「花押」というものになりますが、これも本にするときは画像で入れようとすると手間がかかります。それではどうするのかというと、「(花押)」と示した後に番号を振って、巻末に収録した花押一覧と比べられるようにしています。

 

このような配置などのきめ細やかな工夫は、もちろんデジタルにも組み込める部分は多いけれども、いろいろ煩雑になってしまい、パッと見て直感的には分かりにくくなるというのが現状です。
こういった部分で、紙面というのはまだまだ有効であるということになるのかなと思います。

 

加えて、編者・校訂者はいろいろな知識や情報を版面の中に入れています。
たとえば、文書というのは当時からしばしば写しが作られるものなのですが、その文書が原本なのか写しなのかといったような判断も、活字にすると見た目では分からないので注記を入れてゆきます。
それから、古文書の中に少し違う墨色の文字が混じっているというケースがあります。それがその文書を書いた本人の筆なのか、それとも後から別の誰かが書き入れた別筆なのか、そういった判断も注記しています。

 

デジタルデータの有効性だけに注目するのではなくて、版面とともにセットで見ていくということが、実は非常に重要なポイントになります。
ジャパンナレッジの画面では、たとえば左側に史料纂集の『勘仲記』という日記の版面が、右側にテキストデータが表示されています。このように両方を一緒に見られる、すなわちデジタル情報で補いきれないものを左側の版面で見て確認できるということ、このハイブリッドさがジャパンナレッジ版の強いポイントではないかと考えています。両方のいいところをしっかりと使っていただけると、私も校訂者としてとても嬉しく感じます。

 

 

データベースの有効性 ―編纂者としての視点―

私のような史料を編纂する立場の者が、ジャパンナレッジ版は非常に便利だなと思う点があります。少し専門的な話になりますが、古文書に名前をつけるときに、たとえば「下知状(げちじょう)」とか「下文(くだしぶみ)」とかの呼称がいろいろあって、同じような機能を持った文書でも時代によって呼び方が違うこともあり、どう名付けるか判断に迷うケースがあります。そこで、その呼び方がどこで変わるのかということを検索して、その傾向が分かると、とても便利で役に立つのです。

 

それから、これは「こだわり」になってしまいますが、文書にサイン(花押)が据えられていたり署名があったり、封をしてあったりというのがありますが、これを史料集の版面でどのように表現するかということはいろいろな作法があり、実は編纂・校訂をしている時に非常に悩ましいものです。
そこでジャパンナレッジを検索すると、結果が一覧データとして出てくるので「この編者はこういうふうにやっているんだな。じゃあ自分はこうしよう」とか「この時代のこの種の文書はだいたいこのあたりに花押を配置するのが一般的だ」といったように、版面をデザインする上で重要な参考資料になるのです。

 

デザインというのは決して無意味なものではなくて必ず意味を持っています。古文書では、たとえばサインの位置には重要な意味があります。それを本の形で活字にした時に、的確に伝えるためにはどのように配置すればよいかということを、先人たちが作ってくれた何百冊分ものデータを簡単に比較しながら検討できるということは、私たち編者・校訂者にとっては大きな意味があり、ありがたいのです。

 

データベースは、利用者もしくはその利用者と資料とをつなぐ図書館員の方々に大きなメリットをもたらすというだけではなく、私たちのような編纂者にとっても大きな意義があるということをお伝えしておきたいと思います。

 

連載第2回はここまでとなります、次回もどうぞお楽しみください。
 

(デジタル情報営業部)