人文社会系研究

【連載】『史料纂集』校訂者が語る「ジャパンナレッジ版」の現在と未来 第3回

2026.05.08

2025年11月に図書館総合展で、東京大学史料編纂所の井上聡先生と、東京大学大学院博士課程の室伏奏楽氏をお招きし、『ジャパンナレッジ版 史料纂集・群書類従』が拓く史料学 -紙とデジタルの交差点-というオンラインフォーラムを開催しました。本連載※では井上聡先生の講演を編集・抜粋してお届けします。

※室伏氏の講演レポート記事と、本連載の第1回~2回はこちらで公開しております、ぜひご覧ください。

ジャパンナレッジ版『群書類従』・『史料纂集』とは

井上先生の講演の前に、ジャパンナレッジ版『群書類従』『史料纂集』についてご説明します。

 

『群書類従』や『史料纂集』は古代から近世までの歴史史料を翻刻(=くずし字で書かれた史料を活字化)した史料集です。

これらを、辞書・事典のデータベース「ジャパンナレッジLib」のプラットフォーム上で、全文検索と紙面画像の閲覧を可能にしたのがジャパンナレッジ版『群書類従』『史料纂集』です。

「ジャパンナレッジ版」は「ジャパンナレッジLib」の追加コンテンツ(買切型)として大学や公共図書館等の法人様向けに提供しています。

 

現在、ジャパンナレッジ版『史料纂集』は全6期の完成を目指し毎年続編を刊行しており、2026年1月にジャパンナレッジ版『史料纂集第4期』がリリースされました。今回のフォーラムはそのリリースを記念して開催したものです。井上先生の講演では、「ジャパンナレッジ版」が研究や史料集編纂の現場でどのように役立つかをご紹介いただきました。どうぞお楽しみください。

史料データベースの未来 ―構造化と機械学習の時代―

最後に今後の展望と課題ということで、ここから先、私たち史料編纂所もジャパンナレッジと同様のデータベース事業を進めていく上で考えるべきポイントだろうと感じているところを述べさせていただきます。

 

現在提供されているデータベースシステムというのが非常によくできている、素晴らしいということは前回までに述べた通りです。さらに今後を見据えていくと、テキストデータはやがて構造化データというものへシフトしていって、いずれ機械が自らデータを読んで理解して解釈してくれるという可能性があると思っています。

 

最近はAIという言葉をよくお聞きになるかと思いますが、ChatGPTのような人工知能が様々にアシストしてくれるようになるということです。LINEでも自分で返信内容を書かなくても操作一つで来信に合わせた返答をしてくれるという機能を最近見つけてびっくりしましたが、このような機能が史料データベースにも付加されてくると、専門的なリテラシイの無い方でも、自分が気になっている言葉を検索をして「これは何だろう?」といった時に、AIが「さらにこういう情報がある」とアシストしてくれる。そういう機能が強い要望として出てくるのではないかと思います。

 

そうしたものに対して、私たち人文系の研究者は今まで少し引き気味でいたわけですけれども、これからは前に向かって進んでいかなければいけないだろうと考えています。そうしたアシスト機能がジャパンナレッジや史料編纂所のデータベースにも搭載されるというようになれば、皆さんの史料データベース利用へのハードルも下がってくるのではないでしょうか。

 

“閃き”は紙の本から

とはいえ紙の書籍が持つ有効性というのは、なくならないと私は考えています。というのは、やはり閲覧をする上での便利さです。たとえば3ページ目を見ていて50ページ目を同時に見るといった、複数ページを比較しながら読んでゆく場合の閲覧性・一覧性といった部分は、やはり紙の本が優位で、まだデジタルには置き換わらないだろうと感じています。

 

それからセレンディピティ効果という、自分が探している文脈とは違うものを偶然目にしたときに、そこから閃きを得たり新しい研究につながっていったりということが、文系理系にかかわらずあるそうです。データベースというのは大概目的を絞って検索するもので、期待する結果を求めて、それにふさわしい検索語句を入れ試してゆくものです。他方、なんとなく見ていたら閃くという体験は、私たちの五感を通じた刺激に拠るものですから、デジタルではなかなか超えられないだろうと思っています。
私たちは、本を持ち紙面を見る、そしてデータを見るという二つの作業を繰り返しながら知識や知恵を深めていくことが、今、求められているのだろうと感じています。

他のデジタルサービスとの連携

今後、ジャパンナレッジのような商業ベースのシステムが整備されて、それが多くの人々に利用されることで、さらに使い勝手のいいシステムに発展していくことと思います。
一方、史料編纂所のデータベース群は、専門家が作っているのでどうしても作り込みすぎてしまって、どう使ったらいいか分からないということが起きる。またデータベースが30個もあることから、「私が知りたいことを調べるためのデータベースがどれなのか、それを調べるためのデータベースを作ってくれ」というような皮肉を言われてしまう時もあります。
これはやはり、私たち研究者がデータベースをそれぞれの研究目的のために作り込んでしまうところに拠るのでしょう。民間のインターフェースの良さと、我々の専門性というのは、どこかでクロスマッチさせていくことが今後必要ではないかなと思っています。

 

ジャパンナレッジで「安保」という人名を調べると安保氏が検索結果に出てきます。これを、たとえば史料編纂所の、私が今担当している花押データベースでも同時に検索できて、この人の花押はこれですよということが一度に分かれば便利ですよね。

 

 

もちろん史料編纂所だけではなく、その他のいろいろなデータベースとの連携が可能になれば、ジャパンナレッジというプラットフォームがハブになり、それぞれの研究分野のより深いところに入っていきやすくなるのではないかと思います。そうなると史料編纂所データベースのアクセス数も増えますから大変ありがたいことになります。将来はぜひそういった方向で展開していただけたらなという希望を持っております。

 

将来の展望を含めいろいろなお話をさせていただきましたが、皆さんには少しでもジャパンナレッジを使っていただいて、その有用性というものをご自身で確認していただけたらなと思っております。

 

本連載は今回で最終回となります。ご覧いただきありがとうございました。
 

(デジタル情報営業部)