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【洋古書】アリストテレス16世紀刊本:グルシ改訳『オルガノン』、『ニコマコス倫理学』ほか

ルネサンス期ヨーロッパにおけるアリストテレス研究の成果、16世紀ラテン語訳刊本と注解書コレクション

関連ワード:アリストテレス ギリシア哲学 ルネサンス 刊本 古典学 古書 洋書  更新日:2024.10.22

ルネサンス期にはイタリア、フランスでアリストテレスのほぼ全著作のラテン語訳が刊行されていますが、いわゆるキケロ主義の人文主義者ペリオンによるラテン語訳に対し、それらを批判的に検証し補正を加えた版も次第に流布するようになりました。16世紀後半における脱キケロ主義の標準的テクストとみなされるようになったグルシ(Nicolas de Grouchy)によるラテン語訳著作とストレバエウスによる政治学・経済学著作ラテン語訳、16世紀初頭のトロンベタによるアリストテレス注解本をご紹介いたします。

*個別のお見積り、お問合せは弊社各営業所、またはこちらまでご連絡ください。

  1. グルシ改訳 アリストテレス『オルガノン』1553年版
  2. グルシ改訳 アリストテレス『ニコマコス倫理学』1560年版
  3. グルシ改訳 アリストテレス『自然学』ほか1562年版
  4. ストレバエウス訳 アリストテレス『政治学・経済学」1554年・1552年版
  5. トロンベタ『アリストテレス形而上学註解』1504年版

—以下、「紀伊國屋書店 古書目録 2020」より—

アリストテレス《オルガノン》グルシ改訳1553年版
ARISTOTELES.  Aristotelis Logica, ab ervditissimis hominibvs conversa.  Porphyrij Institutiones ad Chrysaorium.  Aristotelis Categoriæ, seu prædicamenta.  [Peri hermeneias], id est, de interpretatione, liber.  Priorum analyticorum, libri ii.  Posteriorum analyticorum, libri ii.  Topicorum, libri viii.  De reprehensionibus sophistarum, liber.  Lvtetiae, apud Vascosanum, 1553.

¥880,000

4to, seven parts in one; leaves 24 (i.e. 14); 22; 16; 71, (1) blank; (4), 62; 100; 32 (i.e. 42); text printed in Italic letters, some woodcut initials in text; each title-leaf to the second to sixth parts with imprint dated 1554 (the general title and the title-page to the last part dated 1553); some minor ink stains to the edges, a couple of tiny round wormholes on fore-margin of the last two parts (without affecting the printed letters); bound in a contemporary Parisian binding of brown calf, covers panelled in blind with central lozenge and cornerpieces in gilt (worn), spine with small tools stamped in gilt in compartments, rubbed, joints and spine ends neatly restored; copious contemporary manuscript marginalia throughout to Part 1 to 3 as well as some leaves in Parts 4 and 6, contemporary ownership inscription of Gidius Gillardus to the title-page of Part 6 and another calligraphic inscription (“Guillard”) to the title of the initial part.  Cf. Cranz-Schmitt 108.214A, 108.214B, 108.234A, 108.234B, 108.234C, 108.234D, 108.214G.

ルネサンス期のヨーロッパでアリストテレスの著書がいかに多くの読者を獲得していたか、それはシュミットの画期的な研究などによって今日では広く知られています。イタリアの人文主義と新プラトン主義との影響関係は単にルネサンスの代表的な相貌の一つに過ぎず、アリストテレスの研究は神学者・古典学者たちがこぞって取組む対象でした。中世以来神学の牙城として名高いパリ大学でもアリストテレスの読解は学生の中心的な課題の一つでしたが、十六世紀末にカソーボン編全集が登場するまで信頼に足るギリシャ語原典を参照することは容易ではありませんでした。つまり当時のほとんどの読者はラテン訳のテクストを手にしたことになります。

中世におけるコルプス・アリストテリクムを構成したのは、主にグロステストとメルベケのギヨームによる逐語訳でした。ルネサンスの新たな訳者たちは、難解な既訳に代えてラテン修辞に則った明快なアリストテレスの訳文を創出しようとします。レオナルド・ブルーニによるニコマコス倫理学などの新訳は、ラテン語としてこなれた語彙を優先して採用し、原典を文あるいは句単位でラテン語に置換する手法を用いることにより、新たな翻訳の規範となりました。

ジョアシャン・ペリオンはこうした新訳の特徴を徹底して追及したといってよいかも知れません。ベネディクト会士ペリオンはコルムリーの出身、1542年パリ大学で神学博士の学位を得て教授となります。1540年ポルピュリオスのオルガノン『入門』、ならびにカテゴリー論、命題論とニコマコス倫理学の翻訳を上梓したのを皮切りに、トピカ、詭弁弁駁論、政治学、霊魂論と続き、1548年にはオルガノン全訳を完成、1550年には自然学小論集、生成消滅論、天体論、自然学、さらに1552年には気象論を公刊。遅れて1556年には形而上学もパリで出版され、動物学をのぞくアリストテレスの全著作をほぼ網羅するに至っています。頑迷なまでのキケロ至上主義者であったペリオンは、ギリシャ文献のキケロによる翻訳を諳んじ、アリストテレスのテクストに対してもキケロの言い回しをほぼ機械的に当て嵌めていくことでキケロ風の文体による翻訳を仕上げていきました。文脈を無視し、原典の文意を把捉することを第一義としないペリオンの翻訳は、ほどなく多くの批判にさらされ、パリの版元はペリオン訳を絶版とするに至りました。代わって登場したのはニコラ・ド・グルシが訳文に補正を加えた改訂版です。

グルシは1509年ノルマンディーの出身です。彼が哲学を修めたのはパリ大学のサント=バルブ。ディオゴ・デ・ゴウヴェアが辣腕を奮い、人文主義的な教育プログラムが導入されたこの学院は、イグナチオ・デ・ロヨラをはじめ多くのポルトガル人学生が在籍し、イエズス会濫觴の地となったことでも知られます。グルシが1534年ボルドーの学院に招かれたのはディエゴの甥アンドレの斡旋でしょう。アンドレの弟アントニオ・デ・ゴウヴェアによるペトルス・ラムス論駁に参じ、グルシの学識が広く知られるようになったのもこの間のことです。1547年アンドレとともに移ったコインブラの学院では論理学を講じていますが、アリストテレス翻訳の最初の成果として、分析論後書と詭弁弁駁論の新訳を同地の書肆から世に送ったのは1549年。その再版をパリのヴァスコザンが上梓したのは、彼がノルマンディーに帰った1550年のことでした。ヴァスコザンはさらにペリオン訳の改訂をグルシの手に委ね、1551年から翌年にかけてオルガノンの残り(ただし分析論前書はペリオン訳ではなくフィルマン・ドゥーリによる訳稿の改訂)に加え、政治学をのぞく全ペリオン訳のグルシによる改訂版が刊行されています。グルシはペリオンの文体上の特長は保持しつつ訳文に大幅な斧正を施していますが、ごく短期間に仕上げられたことからも想像できるように全面的な改訳ではなく、タイトルによっては一部の訳語や表現に手をいれたに過ぎず、ペリオンの齎した誤謬を洩れなく除去するには至っていません。とはいえグルシの改訂版はパリを中心に広く流布し、十六世紀後半における標準的なアリストテレスのテクストを提供することとなりました。

上掲のオルガノンはグルシによる改訂訳。書誌的には七冊の合綴本で、第一冊にポルピュリオスのオルガノン『入門』 Isagoge、第二冊以降は順にカテゴリー論、命題論、分析論前書、同後書、トピカ、詭弁弁駁論。第一冊のタイトル頁は総合タイトルとなっており、Logica の標題のもとにこれらの書名が列挙されています。ポルピュリオスとカテゴリー論・命題論・トピカはペリオン訳のグルシによる改訳。分析論前書はフィルマン・ドゥーリ(ドゥリウス)訳のグルシ改訳。分析論後書・詭弁弁駁論はグルシ自身の訳になります。

グルシのオルガノンは現存する合綴本ごとに各篇の刊行年が異なり、恐らく販売時の在庫状況を反映しています。確認できる最も初期の形態はイェール大学バイネッキ図書館蔵本 (1993 279) で1551年ヴァスコザン刊、ただし命題論は1552年の刊記となっており、分析論後書は1550年版が含まれています。ヴェネツィアのマルチアーナ図書館蔵本 (107.D.77) も1551年刊、命題論と分析論後書は1552年刊。ボードリアンのバイウォーター旧蔵本 (Byw.B.1.17) ではポルピュリオス、カテゴリー論、詭弁弁駁論のみ1551年刊で、残りは1552年の刊記が付されています。恐らくヴァスコザンは分析論後書と詭弁弁駁論の1550年版残部に、残る五篇の1551年版(命題論のみ1552年初刊か)を組合わせて最初に発行し、以降在庫が無くなったタイトルを随時再版したのでしょう。上掲本は初期の再版に相当し、第一冊と第七冊の刊記は1553年、残りの刊年は1554年。七篇いずれもクランツ=シュミットには著録されていない版です。

同時代の牛革装(補修あり)。ポルピュリオス、カテゴリー論、命題論にはほぼ同時代と思われる草書体による多くの書込みが余白と行間に見られます。そのほか分析論前書冒頭ならびにトピカ第一巻から第三巻冒頭にかけても同様。第一冊と第六冊のタイトル頁に恐らく同一人物の署名があり、本文の書込みもギディウス・ギラルドゥスすなわちジル・ギラールの筆跡になるものでしょう。本文要旨や注釈で余白を埋め尽くし、行間にはパラフレーズを詰め込んだ、こうした書込み本の存在はもとより一つの時代や地域に限定されるわけではありませんが、十六世紀半ばのパリを起源とするものが少なからず現存するのも事実です。アリストテレス以外にも、キケロやプリニウスといった大学での講読に用いられたテクストがより安価な八折版ではなく、余白が豊かな四折版でパリの書肆から刊行されたこと自体、受講生の書込みを前提としていたといってもよいでしょう。

同時代の筆跡による大量の書込みが加えられたアリストテレスのパリ刊本はフランス内外に散見します。オルガノンに関しては、バイネッキのバーナード・ローゼンソール・コレクションに含まれる (Rosenthal 6) 1553年ヴァスコザン版(カテゴリー論・命題論・分析論後書は1554年、分析論前書は1552年、トピカと詭弁弁駁論は欠)、ペンシルヴァニア大学図書館所蔵 (GrC Ar466 Ef17 1556) の1556年ヴァスコザン版(分析論前書は1558年、同後書とトピカは1557年)を特徴的な例としてあげておきましょう。こうした手書きの註解の中には複数人の筆跡が判別され、所有者・読者による筆録とは単純に認めがたいケースもある一方で、筆記者と講師と双方の氏名が記録されているものも現存します。今後上掲本と同様の、同時代の書込み本に関する組織的な調査・研究により、当時のパリ大学におけるアリストテレス講読の現場を窺い知ることも可能となりましょう。

アリストテレス《二コマコス倫理学》グルシ改訳1560年版
ARISTOTELES.  Ad Nicomachum filium de moribvs, qvae ethica nominantur, libri decem, Ioachimo Perionio interprete, per Nicolaum Grouchium correcti & emendati.  Parisiis, apud Thomam Brumennium, 1560.

¥660,000

4to, leaves (8), 134; text printed in italic letters; 11 woodcut initials in text; upper corner of the title leaf and lower corner of the last leaf clipped (no loss of text); faint dampmark to lower margin throughout, occasional thumbing and soiling, lower corner of a few gatherings chipped and worn (not affecting text or manuscript marginalia) but overall a good copy, bound in contemporary calf, covers panelled in blind, gilt centre- and corner-pieces to the covers, sometime rebacked with sheep leather, leather title label to the spine, rubbed, rather worn along extremities and corners, free endleaves missing; copious marginal and interlinear manuscript annotations throughout the text, some scribbles in ink on pastedowns, contemporary ownership inscription of Johannes Arnolet(?) on recto of fol. 23 and rear pastedown.  Cf. Cranz-Schmitt 108.420, Mortimer (French) 41.

ペリオンによる『ニコマコス倫理学』のラテン訳は1540年、シモン・ド・コリーヌの上梓した四折版が初刊。グルシの改訳は1552年パリのヴァスコザンが刊行。クランツとシュミットの書誌は1560年パリ版としてトマ・リシャールが刊行した四折版を著録していますが、上掲トマ・ブリュマン版は異発行本か。なおモーティマーは1560年版をグルシ改訳の第二版としていますが、これ以前にも1554年ヴァスコザン版など複数の版が存在します。

同時代の牛革装(背は後年の補修)。タイトル葉と巻末最終葉の余白の一部が切除されていますが本文の欠損はありません。本文第23葉表と裏見返しに見られる同時代の署名はジャン・アルノレか。同名の人物として1490年生まれのヌヴェールの学院長が知られますが恐らく別人でしょう。第三巻、第九巻、第十巻の一部を除き、本文にはほぼ全頁にわたって多数の書込みが行間・余白に記されています(本文一葉の余白に小さな破れがあり、その箇所の書込みは失われています)。これもアルノレの手になるものでしょう。

アリストテレス《自然学》ほか・グルシ改訳1562年版
ARISTOTELES.  De natura, aut de rervm principiis libri viii.  Ioachimo Perionio interprete, & per Nicolaum Grouchium correcti & emendati.  Parsiis, ex typographia Thomæ Richardi, 1562.
[Bound with:]
De Cælo libri iiii.  Ioachimo Perionio interprete: per Nicolaum Grouchium correcti & emendati.  Parsiis, ex typographia Thomæ Richardi, 1562.
[Bound with:]
Liber de mundo, ad Alexandrum Macedoniæ Regem, Gvlielmo Bvdæo interprete.  Parsiis, ex typographia Thomæ Richardi, 1563.[Bound with:]
De ortu & interitu libri duo, Ioachimo Perionio interprete: per Nicolaum Grouchium correcti & emendati.  Parsiis, ex typographia Thomæ Richardi, 1562.
[Bound with:]
Meteorologicorum libri qvatvor.  Ioachimo Perionio interprete: per Nicolaum Grouchium correcti & emendati.  Parsiis, ex typographia Thomæ Richardi, 1562.
[Bound with:]
De animo, libri iii.  Ioachimo Perionio interprete: per Nicolaum Grouchium correcti & emendati.  Parsiis, ex typographia Thomæ Richardi, 1562.
[Bound with:]
Libelli, qui parua naturalia vulgò appellantur.  Ioachimo Perionio interprete: per Nicolaum Grouchium correcti & emendati.  Parsiis, ex typographia Thomæ Richardi, 1562.

¥440,000

Together seven volumes bound in one; leaves (4), 116; 63, (1) blank; 16; 36; (4), 70; 48; 74 (i.e. 72); text printed in italic; woodcut printer’s device to each title-page; 35 woodcut initials (4 nine-line initials and 1 six-line initial on criblé background); 7 woodcut diagrams to the fifth volume (one replaced by a manuscript overlaid) and another in the last volume; faint dampmarks towards the end, occasional light thumbing and a few marginal paper faults, but generally a very good, sound copy, bound in contemporary calf, covers panelled blind, traces of clasps and catches, rubbed and lightly worn, top of spine missing, lower end of spine restored, edges darkened; contemporary manuscript marginalia and interlinear notes throughout the text (except De Mundo, Book 4 of Meteorologicorum, De Motu animalium and De Respiratione) as well as front free endpaper; ownership stamp of Hyacinthe Binet to the title of the initial volume.  Cranz-Schmitt 108.453C, 108.453D, 108.453E, 108.453F, 108.453G; cf. 108.415B and 108.444B.

アリストテレスの自然学に関する諸著を収めた合綴本。含まれる七巻は順に自然学・天体論・宇宙論(偽書)・生成消滅論・気象論・霊魂論・自然学的小論集であり、コルプス・アリストテリクムのうち自然学と心理学とに関する論文を網羅しています。いずれもペリオン訳をグルシが改めたもの。ただし宇宙論はペリオン、グルシいずれも翻訳を手懸けておらず、ギヨーム・ビュデ訳が採録されています。

同時代の筆跡による書込みはほぼ全編にわたって確認されます。例外的に何の書込みも見られないのは天体論第三巻と宇宙論、気象論の第四巻、ならびに小論集に含まれる「動物運動論」と「呼吸について」のみ。また気象論には七つの木版挿図が含まれていますが、そのうち一つは筆写で改められたものが貼り重ねられています。

アリストテレス《政治学・経済学》ストレバエウス訳
ARISTOTELES.  Aristotelis Politica, ab Iacobo Lodoico Strebaeo à Græco in Latinum conuersa.  Quibus acceßit, quid inter eundem Strebæum, & Ioachimum Perionium non conueniat in Politicon Aristotelis interpretatione.  Lvtetiae, apud Vascosanum, 1554.
[Bound with:]
Aristotelis et Xenophontis Oeconomica, ab Iacobo Lodoico Strebæo è Græco in Latinum conuersa.  Lvtetiae, ex officina Michealis Vascosani, 1552.

¥330,000

4to, two volumes in one; pp. 8, 1-[272], (28) index; leaves (4), 1-4, 9-42, complete; text printed in italic; occasional faint foxing and browning, light dampmark to the upper margin of the initial few leaves (affecting letters), a very good copy in contemporary limp vellum, ties missing, early manuscript titles to the spine (faded), some soiling to the covers, spine darkened; sporadic ink scoring and manuscript paraph marks, copious contemporary manuscript marginalia and annotations between the lines to Aristotle’s Oeconomica; later ownership inscription of the Feuillants monastery in Asti to the title of the Politica and another Asti inscription to the front free endpaper (“Joannis Stephani Sicardi Astensis civis”).  Cranz-Schmitt 108.273H; cf. *108.217.

アリストテレスの『政治学』は国家を定義し、政体の分類と実際の諸国家の分析を経て最善の国家像を描き出した名著であり、家政・財政を論じた偽書『経済学』とあわせて現代にいたる社会科学の古典ともみなされます。

『政治学』はメルベケのギヨーム(ウィレム)によるラテン訳で中世に流布し、ルネサンス期にはレオナルド・ブルーニの新訳が登場して広く読者を得ていますが、十六世紀半ばにパリで複数の新訳が相次いで登場したのは、当時のパリ大学を中心にアリストテレスの研究と読解がいかに活況を呈していたかを示すものでしょう。

ストレバエウス訳はその最初のもので、1542年パリのミシェル・ヴァスコザン初刊。同書肆による1550年の再版があり、その間他の出版者から上梓されたものも確認されます。上掲の1554年版もヴァスコザンが刊行した四折本。訳者ストレバエウス (Jacques Louis d’Estrebay, 1481-1550) はフランス北方、現在ベルギーとの国境に位置するエストルベの出身。当時の代表的な修辞学者の一人に数えられ、ランスの学院で修辞学を講じ、のちにパリのコレージュ・サント=バルブで教鞭を執りました。

ストレバエウス訳が世に出た翌年、1543年にはジョアシャン・ペリオンの訳がパリで刊行されています。直ちにヴァスコザンは Quid inter Lodoicum Strebaeum et Ioachimum Perionium non conueniat in Politicum Aristotelis interpretatione と題する一書を上梓しました。これは第一巻から第三巻までの訳文引証からなり、その序にストレバエウスの名があることから、彼が自らの訳の優位性を示すために記した一編と思われますが、著録されている限りでは1543年版が唯一の版。

『政治学』1554年版のタイトルには、この二つの訳の比較が付篇として示されているにも関わらず、実際には含まれていません。1550年版のタイトルでも同様の言及があるものの、1554年版と等しく現存する大半は『政治学』単独で装本されており、同時代の装丁本や初期の所蔵来歴が明確なものに限定しても、訳文比較との合綴本は稀れ。ストレバエウス訳『政治学』を教科書として購入した当時の大学生たちにとって、恐らく訳文比較は無用の長物だったのでしょう。なおさらに1560年代にはドゥニ・ランバンのラテン訳も登場しますが、再版の数では先行する二種に及びませんでした。

アリストテレスの『経済学』三巻のうち、第三巻はギリシャ語原典が伝存していません。ストレバエウス訳は家政を論じた第一巻のみを収録、これにクセノポンの家政論を加えたもので、1543年ヴァスコザン初刊。同書肆から1544年の「第二版」に加え、1551年の再版も登場。上掲1552年版はアリストテレスの本文に第一から第四葉の数字が振られ、クセノポンの本文は第九葉からはじまるため、途中欠落があるかのようですが完本。1551年版を見ると、前付け四葉に続くアリストテレスには第五から第八葉の数字が付されており、恐らく1552年版を組付ける際にこの個所の葉数のみ誤って変更されたものと思われます。

ジャン・ド・ラ・バリエールが創設し、シトー会から独立したフュイアン修道会のアスティ修道院旧蔵。恐らく十七世紀後半と思われる署名がタイトル頁に見られます。なお『経済学』本文冒頭の行間に手書きの「要約」が加えられているほか、欄外注が散見します。『政治学』にも若干の書込みや下線が見られますが、いずれも本書と同時代のものでしょう。

トロンベタ《アリストテレス『形而上学』註解》ほか
TROMBETA, Antonius.  Opus in Metaphysica[m] Arist[otelis] Padue in thomistas discussum: cum q[uaesti]onibus perutilissimis antiquioribus adiectis in optima[m] seriem redactis: & formalitates eiusde[m] cum additionibus & dilucidatione diligenti exculte.  Venetijs, [Jacobus Pentius], 1504.
[Bound with:]
ZANE, Bernardus.  Tres methaphisicæ qvestiones.  De entis analogia.  De indiuiduationis principio.  De Vniuersalibus.  Impressum Venetiis, per Iacobum Pentium de Leuco, nono kal. Ianiaris, 1505.
[Bound with:]
PAULUS Soncinas.  Acutissime questiones metaphysicales.  Venetijs, mandato et sumptibus heredum Octauiani Scoti, p[er] Bonetum Locatellum, die secunda maij, 1505.

¥528,000

Folio, three works bound in one; leaves 111; (44); (4), 207, (1); the first and the third work printed in gothic letter in double column, the second work in roman type; some woodcut capitals in text; the initial work with the last blank leaf cut away and with one or two minor wormtracks to lower corner of a few leaves, occasional mild spotting, but generally a very good copy, bound in limp vellum of the seventeenth century, manuscript title to the spine, joints worn, top of spine chipped and worn, light soiling to the covers, spine darkened.  EDIT 16 CNCE33625; CNCE33630; CNCE4169.

十六世紀初頭のヴェネツィア刊本三点の合綴本。いずれも質疑応答の形式でなされた形而上学的考察で、アントニウス・トロンベタ(トゥベタ)の『アリストテレス「形而上学」註解』とベルナルドゥス・ザーネによる『形而上学三論』ならびにパウルス・ソンキナス(パオロ・バルボ)の『形而上学質疑』。

十五世紀後半から約一世紀にわたって隆盛を見た、パドゥアのスコトゥス学派の筆頭に掲げられるトロンベタ(1436-1517)はフランシスコ会士。1467年に神学博士となり、1469年から1511年までパドゥアで形而上学を講じました。当時の主流であったアヴェロエス的なアリストテレス理解に反対し、アゴスティーノ・ニフォに対して厳しい批判を展開したことでも知られます。トロンベタはアリストテレスの『形而上学』をめぐる質疑を Quaestiones quodlibetales metaphysicae として纏めていますが、ロールによればこれに新たな質問を追加し、註解書としての体裁を整えたものが本書。1502年ボネトゥス・ロカテルスが刊行したヴェネツィア版があり、上掲1504年ヴェネツィア版は第二版にあたります。印刷・出版者の名は記されていませんが、1495年以来この地で印刷に携わっていたジャコモ・ペンツィオの刊本と目されます。

ベルナルド・ザーネはヴェネツィア貴族の出身。教皇庁書記長に任ぜられ、さらに1503年にはスパラート大司教となりました。1524年歿。「存在の類比」・「個体化の原理」・「普遍概念」の三つの問題をめぐる形而上学的考察は、上掲1505年ヴェネツィア版が初刊にあたり恐らくは唯一の版。これもトロンベタと同じくジャコモ・ペンツィオの刊本。

パオロ・バルボはソンキーノの貴族の家に生まれたドメニコ会修道士。形而上学と神学をミラノ、フェラーラ、シエナ、ボローニャで講じ、1494年には神学博士の学位を与えられるとともにクレモナの修道院長に任ぜられたものの、同年八月に急逝しています。ヨハネス・カプレオルスの『命題集註解』の綱要を編纂したことからも明らかなように、バルボはトマス主義に属し、上掲はその主著と目されるアリストテレス『形而上学』講釈。ハインが著録する1496年版は恐らく実在せず、ヴェネツィアのベヴィラクアが1498年に刊行したもの(HC 12496*; Goff P-208)が初版。1505年スコトゥス版は第二版に相当し、その後1526年、1576年、1588年にもそれぞれ再版が上梓されていることからも十六世紀を通じて高い評価を受けたことが伺われます。

三点いずれも稀少。おそらく十七世紀のヴェラム装。

(学術洋書部)