人文社会系研究

連載:風俗画報でみる日本近代の観光【前編】

2018.07.03

Web版風俗画報は、ジャパンナレッジが提供する電子書籍プラットフォームJKBooks上で、我が国最初のグラフ雑誌「風俗画報」を提供するデータベースです。明治22(1889)年創刊、518冊からなる「風俗画報」は、わが国最大の風俗研究誌としても知られています。

風俗画報に掲載されている図版や記事をご紹介する本企画、今回は観光に関する特集をお届けします。

各地の名所図会

みなさんは名所図会(または名勝図会など)と言う言葉を知っていますか?
江戸時代から刊行され、各地の名所旧跡などを図入りで紹介したものです。
旅行案内書としても活用されました。

風俗画報には「新撰東京名所図会」64冊,「東京近郊名所図会」17冊の東京の名所図絵をはじめ、京都、横浜、鹿島、香取、秋田男鹿、伊豆七島、沖縄、など各地の名所図会が特集号として出されています。
その中からテーマ別に面白い図版をご紹介しましょう。

旅館、ホテル、温泉

中禅寺湖畔旅館の図 日光大観 436 大正1年8月30日

古くから避暑地として栄えていた中禅寺湖畔に並ぶ旅館が描かれています。
画像では見にくいのですが、奥に「レイキサイドホテル」も載っています。
外国人旅行者が早くから沢山訪れていた日光らしく、明治27年に創業されたホテルです。


恵比寿楼全景並ニ同旭の間の図 江島鵠沼逗子金沢名所図会 明治31年8月20日

江戸時代に創業され今も残る旅館の図です。
絶景の眺望と料理の新鮮さで記事の中では「江の島第一の旅館」と称えられています。


向嶋有馬温泉之図 新撰東京名所図会第14編隅田堤之部下 明治31年6月25日

向島にある秋葉神社の境内にあった温泉施設です。
有馬温泉から湯花を持ってきたという人口温泉場で料理や釣りも楽しめたそうです。
現在のスーパー温泉のようなものでしょうか?

神社・寺

由緒があり、現在に至るまで沢山の人が訪れる鹿島、香取神宮についてはそれぞれを中心にした名所図会が出ています。その中から両神宮のスケールの大きさを伝える図をご紹介します。

官弊大社鹿島神宮之全図 鹿島名所図会 明治39年8月25日


香取神宮境内の図 香取名所図会 明治31年7月25日


他の著名な寺や神社も当時の様子を見ることが出来ます。
参道に広がる茶屋やお土産物屋について紹介されている記事も沢山見受けられます。
食事やお土産が観光の大きな楽しみだったのは今と変わらないようです。

池上本門寺御会式ノ図 東京近郊名所図会第10巻南郊の部其4 明治44年2月15日


深川不動尊朔日諸人参詣するの図 新撰東京名所図会第10編深川公園全 明治30年11月25日


鎌倉長谷寺の図 鎌倉江の島名所図会 明治30年8月25日

当時の観光スポット

大仏及び精養軒の図 新撰東京名所図会第1編上野公園之部上 明治29年9月25日

上野公園に現在も残る精養軒と現在は無くなってしまった大仏の図です。
「いかにも旅行者」という人達が描かれていて、観光スポットらしさを感じます。


団子坂の図 新撰東京名所図会第50編本郷区之部其3 明治40年11月25日

団子坂の菊人形は秋の東京の定番観光スポットだったそうで、風俗画報の中でも多数の記事や図が載っています。この図は新撰東京名所図会に載っているものです。 頭と手足は人形、身体は菊の花で作られていて歌舞伎や戦争の様子を再現して見せたそうです。 図の中ののぼりに演目が書かれていますね。


伊勢佐木町の夜景 横浜名所図会 明治35年10月5日

伊勢佐木町には劇場や寄席があり大変賑わっていたようです。他の地域の夜景を描いた図と比べてみるとモダンな感じが伝わってきて、当時の横浜が先端を行っていた様子が良く分かります。

 

明治・大正時代の日本の観光地の様子がみなさんにも伝わりましたでしょうか?当時の人達もこれらの図版を見て各地のイメージを膨らませ、名所図会片手にその土地を訪れたことでしょう。また、図版の中にはその当時の人々や町の様子が生き生きと描かれています。人々の服装や建物に注目してみても面白いですね。

またこの度、紀伊國屋書店 、エディションシナプス 、不二出版と共同でツーリズム・観光学に関する史料出版目録を作りました。Web版風俗画報以外にも多数商品が掲載されていますのでぜひご覧ください。送付ご希望はお問い合わせページからお申込みください。

次回も引き続き観光に関する図版をご紹介します。

(株式会社ゆまに書房 第一営業部 河上 博)
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