BBC の高級誌
The Listenerは放送番組のテキストを永続的に保存することを目的として 1929年に創刊されたイギリス放送協会(BBC)の雑誌です。同じくBBCが発行するRadio Timesが大衆向けの雑誌であるのに対して、The Listenerは広範な知的オーディエンスを読者とするBBCの高級誌です。イギリス論壇、文壇での知名度は抜群で、The Spectator、New Statesmanと並ぶ三大論壇誌の一つと称されたこともあります。BBCの抜群のブランド力を背景に、多くの作家、批評家、芸術家が引き寄せられるようにThe Listenerに集いました。
センゲージラーニング社Galeが提供するThe Listener Historical ArchiveはBBCが発行した週刊誌The Listenerを原本に忠実に再現したウェブ版で、全文検索が可能です。
初期の放送番組に関する唯一の記録資料
放送初期の番組を記録したテープは、再利用されることが多かったため、残っていないケースが多く、テキストの形で残っているスクリプトが唯一の資料です。BBCの初期のラジオ、テレビ番組の内容を知るにはThe Listenerを参照するしか方法はありません。記事は大半がラジオ、テレビ番組のスクリプトや番組評で、放送番組に関わりを持たない記事は全体の約10%です。
エドワード8世退位スピーチ(1936年12月16日)
左:1939年9月7日号表紙
右:第二次世界大戦勃発に際しての国王ジョージ6世のイギリス国民向けメッセージ(1939年9月7日)
※法的な理由で搭載されていない記事があります。
文芸誌・書評誌としてのThe Listener
The ListenerはBBC放送番組の記録資料であると同時に、文芸誌、書評誌として大きな足跡を残しました。多くの作家がThe Listenerに作品を発表しました。また、BBCが放送したインタビュー番組のスクリプトも掲載されました。中でも、1950年代のキングズリー・エイミス , 1960年代のナボコフ, 1970年代のI.マキューアン、ソルジェニーツィンのソ連追放後初めてのインタビューが有名です。
ソルジェニーツィンへのインタビュー(1974年7月4日)
The Listenerには多くの批評作品も掲載されました。後に『言語と沈黙』に収録されるジョージ・スタイナーの『言葉からの退却』は、BBCの第三プログラムで放送されたものがThe Listenerに二回に亘り掲載されたのが初出です。その他、『青髭の城にて』など、スタイナーの重要テキストがThe Listenerには掲載されています。
ジョージ・スタイナーによる『言葉からの退却』(1960年7月14日)
しかし、The Listenerと最も関わりが深かった作家を一人挙げるとすれば、おそらくE.M.フォースターでしょう。1930年頃から1970年頃まで実に40年間に亘るThe Listenerでのその批評活動は、書下ろしの書評からラジオ番組での作家論、『インドへの道』刊行25周年を機に再訪したインド紀行など多方面に及び、まさにThe Listenerの看板作家として健筆を揮いました。
E.M.フォースター「25年後のインド」(1946年1月31日)
広範なテーマ:政治、経済から科学技術、文学、芸術、大衆文化、宗教、旅行、料理、ガーデニング
書評や文芸関係の記事だけでなく、国民医療サービス(NHS)の開始を告げるアトリー首相の国民向け演説、経済学者ケインズの時論、物理学者ロバート・オッペンハイマーの講義、美術史家ケネス・クラークの記念碑的「文明」シリーズ講義、動物学者デヴィッド・アッテンボローの講義など、The Listenerが掲載した記事は広範なテーマに及びます。
アトリー首相「新しい社会保障と市民」(1948年7月8日)
ケインズ「金融はどれほど重要か」(1942年4月2日)
戦時下のThe Listener
1930年代から40年代にかけての総力戦の時代、メディアは戦時統制下に置かれました。1936年に始められたテレビ放送が国防上の理由から中断させられると、BBCラジオが情報のライフラインとしてイギリスの国民生活を支える上で大きな役割を果たしました。BBCは対外宣伝放送に知識人をはじめ多くの人々を動員しましたが、中でもジョージ・オーウェルの活動は有名です。またBBCは、疎開児童向けに教育番組を提供することによって教材の不足を補い、一般市民の生活に役立つ番組を提供し、物資や食糧の欠乏を補いました。
料理のレシピなど戦時下の生活情報を提供した週刊コラム。(1942年8月6日の連載より)
戦後もタイトルを変えて続けられ、The Listenerの長期連載記事になりました。
The Listenerで活躍した寄稿者(一部)
【 作家 】 |
【 文芸批評家・演劇批評家 】 |
ヘンリー・キッシンジャー |
【 社会学者・経済学者 】 |
ピーター・アクロイド |
テリー・イーグルトン |
バーバラ・キャッスル |
ベアトリス・ウェッブ |
アンナ・アフマートヴァ |
レイモンド・ウィリアムズ |
ヒュー・ゲイツケル |
アンソニー・ギデンズ |
クリストファー・イシャウッド |
フランク・カーモード |
ジョージ・ケナン |
ジョン・メイナード・ケインズ |
イーヴリン・ウォー |
ジョージ・スタイナー |
アレック・ダグラス=ヒューム |
アーネスト・ゲルナー |
ヒュー・ウォルポール |
ケネス・タイナン |
ヒュー・ダルトン |
ウィル・ハットン |
ヴァージニア・ウルフ |
ウェイン・ブース |
ネヴィル・チェンバレン |
ウィリアム・ビヴァレッジ |
キングスレー・エイミス |
ピーター・ブルック |
ウィンストン・チャーチル |
E.E. エヴァンズ・プリチャード |
マーティン・エイミス |
ベルトルト・ブレヒト |
エイモン・デ・ヴァレラ |
ルース・ベネディクト |
W.H. オーデン |
【 美術批評家 】 |
シャルル・ド・ゴール |
【 映画監督 】 |
アーサー・C. クラーク |
ケネス・クラーク |
イノック・パウエル |
ジャン・コクトー |
ジャーメイン・グリア |
エルンスト・ゴンブリッチ |
ロイ・ハッターズリー |
アルフレッド・ヒッチコック |
ジョージ・バーナード・ショー |
アンソニー・ブラント |
マイケル・ハワード |
【 科学者 】 |
スティーブン・スペンダー |
【 作曲家・音楽批評家 】 |
エドワード・ヒース |
デヴィッド・アッテンボロー |
ドロシー・セイヤーズ |
ダインリー・ハッシー |
マイケル・フット |
アレックス・コンフォート |
ポール・セロー |
ピエール・ブーレーズ |
ビーヴァーブルック卿 |
リチャード・ドーキンス |
ソルジェニーツィン |
フィリップ・ホープ・ウォーレス |
アナイリン・ベヴァン |
ジュリアン・ハクスリー |
キャロル・アン・ダフィー |
【 哲学者・社会批評家 】 |
トニー・ベン |
フレッド・ホイル |
G.K. チェスタトン |
ハンナ・アレント |
スタンリー・ボールドウィン |
【 ジャーナリスト・出版人 】 |
セシル・デイ= ルイス |
レイモン・アロン |
ラムゼイ・マクドナルド |
アリステア・クック |
ディラン・トマス |
A.J. エイヤー |
ハロルド・マクミラン |
グレース・ウィンダム・ゴールディー |
A. S. バイアット |
ノーム・チョムスキー |
オズワルド・モズレー |
クライヴ・ジェイムズ |
オルダス・ハクスリー |
アイザイア・バーリン |
デイヴィッド・ロイド= ジョージ |
ネッド・シェリン |
アンソニー・バージェス |
ダニエル・ベル |
【 歴史家 】 |
マーク・タリー |
ジュリアン・バーンズ |
スチュアート・ホール |
ジェフリー・エルトン |
ディンブルビー兄弟 |
シェイマス・ヒーニー |
バートランド・ラッセル |
E.H. カー |
ジェレミー・パクスマン |
テッド・ヒューズ |
メアリー・ワーノック |
デイヴィッド・キャナダイン |
ヴァーノン・バートレット |
メイヴ・ビンチー |
【 演出家・俳優 】 |
ロバート・コンクェスト |
リビー・パーヴス |
E.M. フォースター |
ノエル・カワード |
ヒュー・シートン=ワトソン |
ジョン・ハンフリーズ |
アーサー・ブライアント |
サイモン・キャロウ |
ラルフ・ダーレンドルフ |
イアン・ヒスロップ |
シルヴィア・プラス |
ジョン・ギールグッド |
A.J.P. テイラー |
メルヴィン・ブラグ |
マルコム・ブラッドリー |
ジョン・クリーズ |
エドワード・トムスン |
サイモン・ホガート |
マイケル・フレイン |
スティーヴン・フライ |
ヒュー・トレヴァー=ローパー |
マルコム・マゲリッジ |
ジョン・ベッジュマン |
スパイク・ミリガン |
ピーター・バーク |
エスター・ランツゼン |
アラン・ベネット |
【 政治家・外交官 】 |
ジェフリー・バラクロウ |
ジョン・リース |
ソール・ベロー |
クレメント・アトリー |
エイサ・ブリッグス |
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ウィリアム・ボイド |
アンソニー・イーデン |
アラン・ブロック |
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アラン・ホリングハースト |
コナー・クルーズ・オブライエン |
ピーター・ヘネシー |
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アイリス・マードック |
エドウィナ・カリー |
ジョン・ボスィー |
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フィリップ・ラーキン |
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エリック・ホブズボーム |
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サルマン・ラシュディー |
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ジョン・ル・カレ |
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ウィンダム・ルイス |
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多くの作家、知識人が寄稿、20世紀のイギリスにおいて知の羅針盤の役割を担った知る人ぞ知る教養雑誌が今に甦ります。
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