人文社会系研究

欧米一次資料を通して見る<フェミニズムの誕生>

2020.06.24

世界有数の図書館、公文書館等が所蔵する19世紀の貴重な資料から史料的価値の高いものをデジタル化して提供するデータベース、Nineteenth Century Collections Online (NCCO)。今回は、その中からWomen and Transnational Networksをご紹介します。

19世紀のジェンダーと階級問題

19世紀においてジェンダーと階級の問題は、参政権、女性教育、産児制限、文化、移民その他、多くの文脈で論争を巻き起こしました。Women and Transnational Networksでは、定期刊行物、書籍、手稿、日記、報告書、図版、写真など、広範囲に亘る一次資料を通して、18世紀後半から20世紀初頭の女性参政権の時代に至るまでの期間にジェンダーと階級に関わる様々な問題に焦点を当てます。ヨーロッパや北米だけでなく、日本を含む欧米以外の地域の実情も取り上げます。

日本関連の記事の例

左から
・日本の女性の権利についての雑誌記事(The Woman’s Journal, June 26, 1875)
・日本の結婚についての雑誌記事(Woman’s Missionary Advocate, January 1892)
・日本の女子教育についての雑誌記事(Woman’s Missionary Friend, June 1897)
・シドニー・ルイス・ギューリック『働く日本の女性』(1915年刊)
・W.M. ローレイス『日本の結婚式』(1888年刊)

収録コレクション

女性史コレクション(History of Women

Women and Transnational Networksの中核をなすコレクションです。本コレクションは女性史研究が活況を呈し始めた1970年代の後半、マイクロフィルムで刊行されました(刊行元:Research Publications)。女性史資料で著名なアメリカの図書館の所蔵資料を基に構成されていますが、中でもハーバード大学ラドクリフ研究所附属シュレシンジャ―図書館(Schlesinger Library at Harvard University)とスミス・カレッジ所蔵ソフィア・スミスコレクション(Sophia Smith Collection at Smith College)は女性史資料所蔵機関として全米の双璧と言われています。女性参政権運動、労働法、財産権、反奴隷制、女性教育、衣服改革、禁酒運動、宗教等の広範な問題が取り上げられており、質量とも屈指の女性史コレクションです。

  • 年代:17世紀-20世紀初頭
  • 言語:英語、仏語、独語、伊語、西語
  • 原本所蔵機関
    • ハーバード大学ラドクリフ研究所附属シュレシンジャー図書館
    • スミス・カレッジ所蔵ソフィア・スミスコレクション
    • スワースモア大学附属図書館ジェーン・アダムズ図書館
    • ニューヨーク公共図書館
    • ボストン公共図書館
    • プリンストン大学附属図書館ミリアム・ホールデンコレクション
  • 収録内容:書籍8,500点、パンフレット2,000点、定期刊行物117点
    • 定期刊行物:
      • L’action féminine (1909-1915)
        女性参政権のための全仏女性会議(Conseil National des Femmes Françaises)の公式機関紙
      • Zeitschrift für Sexualwissenschaft (1908)
      • Anti-Polygamy Standard (1880–1883)
      • The Comic Offering, Ladies’ Mélange of Literary Mirth (1831–1835)
      • Gallery of Fashion (Apr. 1794–May 1801)
      • The Operatives’ Magazine (Apr. 1841–Mar. 1842)
      • Woman’s Work in Heathen Lands (1883–1890)
      • Woman’s Journal (1870–1917)
        女性参政権運動家のルーシー・ストーン(Lucy Stone)とヘンリー・ブラックウェル(Henry Blackwell)らが創刊
      • Woman’s Suffrage Journal (1871–1890)
        イギリスの女性参政権運動家リディア・ベッカー(Lydia Becker)が創刊
    • 手稿:80,000ページ(大半は日記)
      • エレン・ライト・ギャリソン(Ellen Wright Garrison、米国の女性権利運動家)
      • エレン・デイ・ヘイル(Ellen Day Hale、米国の画家)
      • アイネズ・ヘインズ・アーウィン(Inez Haynes Irwin、米国の女性参政権運動家・作家)
      • クララ・モリス(Clara Morris、米国の女優) 他
    • 写真:799枚
      • 女性史に名を残す人物の肖像、第一次大戦中の従軍看護婦や女性労働者、ネイティブアメリカ人の女性、世界各国の女性の雇用労働者、レクリエーションを楽しむ女性、女性参政権運動家など、様々な視点から切り取られた女性たちの肖像を収めます。論文への掲載、授業での配布資料など、研究・教育用にお使いいただけます。

左から ジェーン・アダムズ / スーザン・ブランネル・アンソニー / アリス・ストーン・ブラックウェル /
女性参政権の獲得に向けてニューヨーク5番街をパレードする女性たち(1910年10月29日)

新聞 [英語、仏語]

Action Sociale De La Femme Et Le Livre Française

  • 年代:1936年-1940年
  • 言語:フランス語
  • 原本所蔵機関:米国議会図書館

Britannia: Official Organ of the Women’s Social and Political Union

  • 年代:1912年-1918年
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:米国議会図書館

女性参政権の獲得を目指し、エメリン・パンクハースト(Emmeline Pankhurst)以下のパンクハースト家の女性たちによって設立されたイギリスの戦闘的団体「女性社会・政治同盟」(Women’s Social and Political Union)の機関紙。エメリンの長女、クリスタベル・パンクハースト(Christabel Pankhurst)が編集長。創刊時の紙名は「サフラジェット(Suffragette)」名だったが、「ブリタニア(Britannia)」と統合され、1915年10月1月号より「ブリタニア」に紙名変更された。

Britannia

Britannia創刊号第一面のイラスト。
自由党・労働党・アイルランド国民党連立政権に立ち向かう「女性社会・政治同盟」。
キャプションには「女性参政権法案が下院を通過せずに会期が終了するのであれば、
連立政権が解消し、議会が解散するのは早ければ早いほど、よい」とある。

Suffragist

  • 年代:1913年-1921年
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:米国議会図書館

女性参政権の獲得を目指してアリス・ポール(Alice Paul)とルーシー・バーンズ(Lucy Burns)により設立されたアメリカの団体、女性参政権のための議会同盟(Congressional Union for Woman Suffrage)の機関紙。機関名は後に全米女性党(National Woman’s Party)に変更される。

Suffragist

Suffragist創刊号の第一面。
イラストは「選挙もうまく行き、関税問題も片付き、通貨も順調だ。
次に議会に諮る重要問題を考える時だ」と言う大統領に対して、女性選挙権こそが次の重要問題と女性が訴えている場面。

Votes for Women

  • 年代:1907年-1918年
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:米国議会図書館

女性参政権運動の二大勢力の一つ、「女性参政権協会全国同盟」(National Union of Woman’s Suffrage Societies)の穏健な姿勢に不満を募らせたパンクハースト親子は、「言葉でなく行動を!」をスローガンに掲げ、女性参政権に社会の関心 を集めるために、雑誌でアジテーションを展開した。本誌は先に挙げた「サフラジェット」とともに、パンクハースト親子が依拠した雑誌。当初、フレデリックとエメリンのペシク=ローレンス(Pethick-Lawrence)夫妻が資金援助者・共同編集者として関わっていたが、パンクハースト率いる「女性社会・政治同盟」が急進的になるにつれ、1912年、パンクハーストと袂 を分かった。新聞の発行には関わり続けていたものの、「暴力なき戦闘性」をスローガンに女性参政権の獲得を目指した。

左:クリスタベル・パンクハースト / 右:エメリン・ペシク=ローレンス

Woodull & Claflin’s Weekly

  • 年代:1870年-1876年
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:米国議会図書館

女性によって経営されたアメリカの週刊新聞。女性の権利の拡大を唱えた。ヴィクトリア・ウッドハル(Victoria Woodhull)により創刊。本紙は女性として初めて大統領に立候補したウッドハルの大統領選へのキャンペーンの媒体ともなった。長老派教会牧師として名説教者としてうたわれたヘンリー・ウォード・ビーチャー(Henry Ward Beecher)の不倫告発はセンセーションを巻き起こし、ウッドハルは共同編集者のテニー・クラフリン(Tennie C. Claflin)とともに、猥褻罪で逮捕された。この告発は、同紙が唱道した女性の労働や選挙権の改革とともに、自由恋愛や性教育の問題にも社会の関心を向けることに寄与した。

ヴィクトリア・ウッドハル

ヴィクトリア・ウッドハル

雑誌

Life and Labor:The Journal of the American National Women’s Trade Union League (生活と労働:全米女性労働組合連盟雑誌)

  • 年代:1911年-1921年
  • 言語:英語

女性労働者の労働条件の改善、組合への加入、労働法の制定、女性教育の促進を目的として創設された「全米女性労働組合連盟」の公式機関誌。1911年1月に創刊。連盟は、マーガレット・ダイアー・ロビンズ(Margaret Dreier Robins)の指導の下、8時間労働の獲得を目指してストライキを支援、その活動から国際女性衣料労働者連合や衣料労働者組合などの組織が生まれた。また、性別を理由とした投票権の制限を禁じた米国憲法修正第19条の制定に向けての運動も展開した。これらの連盟の活動を克明に記録したアメリカ女性史の第一級の歴史資料を収録。

Life and Labor 1919年6月4日、憲法修正第19条に署名する下院議長

Our Corner

  • 年代:1883年-1888年
  • 言語:英語

The Reply

  • 年代:1913年-1915年
  • 言語:英語

The Woman Worker 1908-1910

  • 年代:1908年-1910年
  • 言語:英語

The Reply

  • 年代:1913年-1915年
  • 言語:英語

書籍、パンフレット

British Birth Control Material at the British Library of Political and Economic Sciences: 1800-1947
(ロンドン政治経済学院(LSE)所蔵イギリス産児制限資料集)

  • 年代:1800年-1947年
  • 収録数:212タイトル
  • 言語:英語
  • 原本収録機関:ロンドン政治経済学院(LSE)附属図書館

時代的背景とコレクションの概要

産児制限が本格的に社会問題として認識されるようになったのは、20世紀に入ってからである。19世紀のイギリスでは空前の規模で人口が増加するが、産児制限の問題は、マルサスが警鐘を鳴らした人口問題から派生して多少言及されたに過ぎず、社会問題としての認識は遅々として進まなかった。その中にあって、1828年に刊行されたパンフレット『すべての女性のための本:あるいは、愛とは何か?(Every Woman’s Book; or, What Is Love?)』は、労働者階級に向けて明確に避妊を論じた貴重な例外である。

医学界が、女性の健康を害するとして避妊の問題に口を閉ざす中、1877年にチャールズ・ブラッドロー(Charles Bradlaugh)とアニー・ベサント(Annie Besant)は、19世紀前半に刊行されたアメリカの医者の手による一冊の本を復刊した。本書『哲学の果実:あるいは、結婚した若い人々のための私的手引き(Fruits of Philosophy; or, The Private Companion of Young Married People)』は、医学の立場から避妊の問題を論じており、その復刊の狙いは、出生率の制限と猥褻取締法への挑戦にあった。本書の出版により、ブラッドローとベサントは告発されたが、訴訟の過程が広まるにつれ、二人の思惑通り、本書は広く読まれるようになった。ベサント自身も『人口の法則:人間の行動とモラルに対するその帰結と関係(The Law of Population: Its Consequences and Its Bearing upon Human Conduct and Morals)』を出版し、ベストセラーになる。

翌年には、ロバート・オーウェンの息子、ロバート・デイル・オーウェンが、人口の抑制を社会福祉の問題として論じた『道徳の生理学:人口問題に関する簡潔で平明な論考(Moral Physiology; or, A Brief and Plain Treatise on the Population Question)』を復刊、その廉でロンドンの出版社が訴えられ、広く社会的関心を集めた。

本コレクションは産児制限が社会的に受容される素地を作った出版物など、産児制限を歴史的にフォローする場合に不可欠の書籍を収録する。

British Birth Control Material at the British Library of Political and Economic Sciences

手稿

The Diaries of Elizabeth Fry, 1797-1845(エリザベス・フライの日記)

  • 年代:1797年-1845年
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:クエーカー教徒宗教友の会(Religious Society of Friends)図書館

Mary Braddon Archive(メアリー・ブラッドンアーカイブ)

  • 年代:1800年-1900年
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:カンタベリー・クライスト・チャーチ大学附属ヴィクトリア女性作家国際センター

収録内容:扇情小説で有名なヴィクトリア朝のベストセラー作家ブラッドンのメロドラマの脚本、初期の詩、未刊行作品を含む小説のための執筆ノート、日記、家計簿、自身と家族の写真、自身と娘による素描、未刊行小説の草稿、短編小説、自伝的エッセー。

Myrtilla Miner Papers(マイアティラ・マイナー文書)

  • 年代:1800年-1900年
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:米国議会図書館

Papers of Carrie Chapman Catt(キャリー・チャップマン・キャット文書)

  • 年代:1904年-1947年
  • 収録数:手稿30篇(356点、17,394ページ)
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:米国議会図書館

アメリカの女性参政権運動の指導者、全米女性参政権協会(National American Woman Suffrage Association)会長、女性有権者同盟(League of Women Voters)初代会長のキャリー・チャップマン・キャット(1859-1947)の文書(書簡、論文、演説、写真、日記)。

Papers of Elizabeth Cady Stanton(エリザベス・キャディ・スタントン)

  • 収録数:手稿3篇(153点、6,767ページ)
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:米国議会図書館

アメリカの女性参政権運動の指導者、エリザベス・キャディ・スタントン(1815-1902)の文書(演説、書簡)

左:キャリー・チャップマン・キャット / 右:エリザベス・キャディ・スタントン

Quaker Women’s Diaries: 18th-19th Centuries(18世紀、19世紀女性クエーカー教徒の日記)

  • 年代:1700年-1900年
  • 言語:英語
  • 原本所蔵機関:クエーカー教徒宗教友の会(Religious Society of Friends)図書館

Women and Transnational Networksは、18世紀末から20世紀初頭に至るフェミニズム誕生の経緯を同時代の女性による書籍、パンフレット、新聞、雑誌、手稿を通して明らかにします。

(センゲージ ラーニング株式会社)

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