図書館をつくる

OCLC News 第52号

2021.07.02
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OCLC News 第52号
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目次

– OCLCメンバーと情報の専門家に向けた週間ニュースOCLC Abstractsより –
OCLCが日本の図書館に新しい国家的目録プラットフォームを提供
オハイオ州ダブリン 2021年6月17日

日本の国立情報学研究所(NII)は、同研究所の次期図書館メタデータインフラとしてOCLCを選択しました。OCLCは、日本国内の1,300以上の図書館に対して、既存のシステムであるNACSIS-CAT/ILLの新しい基盤として総合目録による目録作成環境を提供します。

1985年にサービスを開始したNACSIS-CAT/ILLは、日本の大学図書館などで広く利用され、1,300万件の書誌レコードと1億4,700万件の所蔵レコードが収集されています。OCLCが開発した汎用性の高いメタデータプラットフォームが、新しいNACSIS-CAT/ILLシステムのインフラとなります。

このプロジェクトは、現在2年間の導入期間を開始したところで、2023年の第1四半期にシステムを稼動させる予定です。OCLCは、新システムでMARC21や日本独自のフォーマットであるCAT-Pなど、複数のメタデータに対応できるようにすることで、国際的なコミュニティとのメタデータの交換に道を開きます。また、この新システムは、日本での新しいILLサービスのためのデータインポートおよびエクスポートを容易にします。

NIIアーキテクチャー科学研究系の相田健人教授は、「科学情報のグローバル化とデジタル化が加速する中、NIIのメタデータサービスが日本の図書館コミュニティや利用者のために近代化されることは重要です。新しいシステムは、発見とアクセスを大きく向上させると確信しています」と語りました。

OCLCの日本における販売パートナーである紀伊國屋書店は、OCLCおよびNIIと密接に協力してこのプロジェクトを推進しています。

OCLCの社長兼CEO、スキップ・プリチャードは、「OCLCは、NIIと協力して、さまざまなメタデータに対応できる最新の目録インフラを構築できることを光栄に思います。我々は50年以上にわたり、図書館のメタデータに関する取り組みの最前線にいます。今回のプロジェクトにより、1,300の図書館が日本国内だけでなく、世界各国と知識を容易に共有できるようになるでしょう。この重要なプロジェクトでNIIと提携できることを嬉しく思います。」と述べています。

この目録作成プロジェクトは、メタデータシステムの進化において重要な時期に行われています。昨年、OCLC Researchは「Transitioning to the Next Generation of Metadata」を出版し、メタデータサービスがどのように 「次世代のメタデータ」に移行しているかを明らかにしました。この新しい目録インフラを通じて日本の図書館の蔵書を公開することは、世界規模での協力の機会を増やすことになるでしょう。

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ページを見つけて、スキャンして、戻すだけ:電子的資料提供の為のモバイルスキャニングステーション
Page, scan, send, re-shelve: A mobile scanning station for ILL electronic document delivery service
―OCLC Resource Sharing Conference 2021 WebSeriesより―

Xuan (Lily) Pang, Lara J. Beserock, Ashley Monahan

最新のリソースシェアリング事情を共有するthe 2021 OCLC Resource Sharing Conferenceが、今年もオンラインで開催されています。3月から6月にかけて行われる6つのバーチャルセッションから、第一回目のセッション” Page, scan, send, re-shelve: A mobile scanning station for ILL electronic document delivery service”をご紹介します。

このSession 1では、フロリダ大学(University of Florida)に属する以下三名のプレゼンターが、電子的な方法で複写資料を提供する際の、スキャンワークフローを大幅に省力化する、モバイルスキャニングカートを考案し使用した体験を共有します。

プレゼンター:

  • Xuan (Lily) Pang, フロリダ大学アクセス・リソース部門長
  • Lara J. Beserock, フロリダ大学図書館アシスタント
  • Ashley Monahan, フロリダ大学ILLアシスタント

フロリダ大学のGeorge A. Smathers図書館のアクセス・リソースシェアリング部門のプロジェクトチームは、電子的方法による資料提供のスキャンワークフローを省力化するモバイルスキャニングカートを作成し、その効率性をテストする為の助成金を受け取りました。このモバイルステーションの使用はおそらく、書架のすぐそばでスキャンできる米国学術図書館界唯一の方法です。このカートを使えば、一人のスタッフが全ての紙媒体の資料のデジタル化を行う為、コロナ禍にある今、スタッフ間でコロナウィルスを拡散させるリスクを減らすことができます。このプレゼンテーションでは書架のすぐそばでスキャンするアイディア、プロジェクトの成果、実際に使った上での発見がハイライトされています。リソースシェアリングのベストプラクティスについて再考すべく、モバイルテクノロジーの活用について議論を始めましょう。

開発されたモバイルスキャニングカート

イントロダクション

フロリダ大学(University of Florida)とは?

米国の公立大学のうち6位にランクインし、ラテンアメリカ及びカリブ海地域に関する所蔵で有名です。生徒数:56,079名、教職員:2,803名の規模を持ちます。

George A. Smathers Librariesとは?

北米研究図書館協会(ARL)メンバーで、6つの図書館からなります。
スタッフの内訳:職員:90人、専門職員・技術職・事務職員等:209人、学生アシスタント:327人
所蔵の規模:紙媒体:6,170,000、電子書籍:1,500,000、論文:62,668

ILLの利用状況:パンデミック以前と比較し、大幅に拡大

新型コロナウィルス感染拡大前の2019年3~8月と2020年3~8月を比較すると、特に受付リクエスト数が大幅に増加しています。

  •  依頼リクエスト数(Borrowing Requests): +6.15%
  •  Document Delivery へのリクエスト数: +5.12%
  •  受付リクエスト数(Lending Requests): +65.35%

プロジェクトの概要

何故書架のそばでスキャンするのか?

このモバイルスキャニングステーション開発のプロジェクトは、以下の背景から発案されました。

  • 図書館のリノベーションに伴う作業スペースの縮小。
  • 資料をスキャンの為に移動させる労力・時間を減らしたい。
  • 年間で一万冊もの資料をILLリクエストの為に移動させている。
  • 資料をスキャンして戻すまでに、多くの場合3日間かかっている。

プロジェクトのゴール

  • 所蔵資料が書架を離れる時間を最小化する。
  • 書架に戻す作業のエラー削減。
  • 利用者が資料にアクセスできることを確実にする。
  • 資料のスキャン作業に使われていた場所を有効活用する。
  • ワークフローの効率化。
  • スタッフの作業時間節約と費用削減。

モバイルステーションのデザイン、開発、テスト

開発の事前準備

モバイルスキャニングステーションの開発にあたり、以下のテストを行い、また用意をする必要性がリストアップされました。

  • パワーカートの移動性テスト。
  • 書架の間の通路の幅の測定。
  • 複数メーカーのモバイルカートを比較。
  • 図書館のIT部がラップトップPCと膝ペダル(両手を資料を押さえるのに使ってスキャンする為)を提供。

スキャナー、ソフトウェアのリサーチ

  • スキャナー選定の確認事項:スピード、重さ
  • ソフトウェア選定の確認事項:ページの周縁切り落とし、写りこんだ指の消去、スリップ上のバーコード読み取り

スキャナー、PCの電源のリサーチ

電源選定の確認事項:

  • 最低でも数時間の稼働時間を要する。
  • 再充電可能。

結果としてNewcastle Systems Power Pack Seriesが選択されました。電源は53ポンド(約24kg)と重量があることに留意が必要です。

カートのセットアップ時の工夫

カートに機器を搭載し、テストする過程で、カート本体の金属がスキャナーの光を反射して画像の読み取りに支障が出ることが判明しました。よってスキャナー本体に付属していた資料を置く台は使用できず、代わりに黒のマットを引き、またカートの天面に反射を抑える黒いテープを貼ることとなりました。

モバイルステーションの概要

比較検討の結果、以下の写真のようなモバイルスキャニングステーションが完成しました。
スキャンの為に資料が書架から取り出された際は、写真右側のようなサインを代替として入れておきます。これにより、資料が書架にない理由を図書館利用者が把握できるとともに、スキャン後の返却も容易になります。

モバイルスキャニングステーションの写真

モバイルステーションにかかった費用

Item Total
スキャナー(Fujitsu ScanSnap SV600 Scanner/Software) $2,985
カート(Balt Height Adjustable 2 Retractable Shelf Laptop AV Cart) $360
電池(NewCastle System PowerPack 4.0 with 40AH Battery) $885
SUBTOTAL $4,230

プロジェクトの査定

プロジェクトの査定

モバイルスキャニングステーションの利用開始後、本プロジェクトのゴールが達成できたか否かに加え、以下の事項についても検証が行われました。

  1. スキャンして書架に戻るまでの時間
  2. 電子的方法による資料複写提供と貸借のターンアラウンドタイム
  3. 紙媒体資料を書架に戻すまでの労働コスト
  4. スキャンのハードウェアとソフトウェアの比較
  5. 書架のそばでスキャンが完了した率

1) スキャンに要する時間は、日から分へと大幅に削減

スキャンにかかっていた時間は、以前は最頻値3日であったのが、最頻値3へと段違いに削減されました。

2)、3) ターンアラウンドタイムの変化、書架に戻すコスト

利用者の手元に資料が届くまでのターンアラウンドタイムは、以下のように削減されました。

オフィスにおけるスキャン モバイルステーションでのスキャン 削減された時間
電子的方法による複写資料提供 2.93日 2.37日 13.44時間
電子的方法による資料貸借 1.88日 1.21日 16.08時間

書架に戻す労働コストは1アイテムあたり0.31$と判明しました。

4) スキャンのハードウェアとソフトウェアの比較

スキャンのスピードは、今までスキャンルームで使用されていたスキャナーとそれほど変化はありませんでした。

オフィスでのスキャン モバイルステーション
ページ数 スキャン時間(分) ページ数 スキャン時間(分)
4月 1075 325
5月 1202 292 1382 330
6月 892 245 1982 507
7月 114 30 884 227
8月 1476 375
合計 4759 1267 4248 1064
スキャンのスピード 1267分=76020秒

15.97秒/ページ

1064分=63840秒

15.03秒/ページ

5) 書架のそばでスキャンが完了した率

およそ9割が書架のそばで完了しました。残り1割は、モバイルステーションのスキャナーの構造、もしくはソフトウェアの問題で、モバイルスキャニングカートでは完了しませんでした。

実際に使った上での発見と推奨する作業

スキャナーのソフトウェア、ScannX software basic packageについて

  • できるだけスキャンする本を平らにする為、本にはっきり折り目をつけるか、本の背がよく曲がることが必要であった。
  • ラップトップPCのスクリーンだと、スキャン結果一覧で表示できるページ数が少ない。
  • 後からスキャンし忘れたページを追加した場合、ページ順を直すツールを使うが、ページ数が多いとページ番号の表示が非常に小さくなり確認できないという問題があった。
  • 本のスキャン機能とドキュメントスキャン機能を行き来するのに不必要なクリック数が多い。

スキャン作業について

  • 写りこんだ指を自動で消去する機能に必要な白い作業用手袋を着用すると、ページをめくるのが難しく、またPCのタッチ部分が反応しない。
  • スリップを二度スキャンする必要があって非効率的。(オフィススキャンだと一度で済む。)
  • キーボードショートカットが使えず不便。
  • 左ページしかスキャンできない。

スキャナーFujitsu SV600 Overhead Scannerについて

  • 上から下へスキャンなので、ページのゆがみが目立つ。左から右ならその問題はないはずである。
  • カートで段差を越えたりすると、スキャナーアームの位置がずれて、直す際にスキャナの電源を一度落とす必要がある。

カートについて

  • 下部に収納があることによって、バッテリーの騒音を軽減することができた。
  • 段差があると、引き出しが飛び出してくることがある。
  • ハンドルがないので、動かしづらい。

バッテリーについて

  • 一度の充電で十分な稼働時間を確保できた。

推奨される事項と今後の課題

  • もしScannX softwareを使うならば、もっと良いパッケージプランを選択すべき。
  • キーボードショートカットが使えるソフトウェアを使う。
  • 写り込んだ指を消去する機能があるものを選ぶ。
  • 移動の利便性の為、ハンドルがあるカートを選ぶ。
  • キーボードショートカットが使えない場合は、ラップトップPCでなくタッチスクリーンが良い。
  • スキャン方向が上から下へでなく、左から右へのスキャンヘッドが良い。
  • プルスリップ用ポケットを付ける。

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リンク先はOCLC Community CenterのWSILL関連ページにつき、WorldShare ILLをご契約の機関のみご覧になれます。
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シリーズ:OCLCあの時この時 (2)
WorldCat ゴールドレコードをめぐって

OCLCの書誌データベース、WorldCatにはその他の書誌ユーティリティと同様、一意の管理番号=OCLC番号が機械付与されています。2021年2月現在、WorldCatの書誌レコード数は512,438,761、ディスカバリーのセントラルインデックス用のレコードにもOCLC番号が付与されますので、最新の番号は12億5千万番台(2021年6月22日現在)にもなります。OCLC番号の中にはきりのよい番号1,000,000番や10,000,000番も当然存在します。OCLCでは100万件ごとのMillionth Record、つまり「100万件ごとのキリ番」をGold Recordと呼び、入力した図書館に該当書誌レコードを刻印した盾を進呈する、というセレモニーがありました。以下はそのGold Recordをめぐるお話です。

OCLC Newsletter, No. 174 (July/Aug. 1988)では、サービス開始から17年経ったWorldCat (当時はOnline Union Catalog)を特集しており、その中の「ゴールドレコードの殿堂 (Gold Record Hall of Fame) 」という記事で100万番から1800万番までのゴールドレコード作成館を紹介しています。

OCLC Newsletter, No. 174 よりー16,000,000番記念の盾を持つシェリーさんはOCLCの遡及入力スタッフですが、たまたま1600万件目のレコードを入力しました

ゴールドレコードの栄誉を得るため、図書館の目録担当者たちはキリ番が近づくと色めき立ちました。ゴールドレコードをゲットするために知恵を絞る人たちの姿ががありました。3300万番のレコードを入力したイブリン・パイプさんは「3年ほど前から100万件目の記録に挑戦していたの。」3200万番を狙った際は「惜しくも32,000,001番。100万番に近づくためには、タイミングを合わせるのに時間がかかることがわかったわ。あとは運ね。」と語っています。(OCLC Newsletter, No. 217 (Sept./Oct. 1995))

運よくゴールドレコードを勝ち取ると、それをアピールしたいのが人情。400万番のレコードを入力したノースカロライナ大学グリーンズボロ校のエイプリル・リースさんは、Newsletterに掲載された後の号で「7-8月号の「ゴールドレコードの殿堂」の記事を見ていたら、400万件目の記事で、またしても間違った機関名、ノースカロライナ大学で紹介されてしまい、がっかりしました。この記録を作ったのはノースカロライナ大学グリーンズボロ校ですが、この州には、公式にはノースカロライナ大学という機関はありません。ノースカロライナ大学と書くとノースカロライナ大学チャペルヒル校だと思う人が多いでしょう。」と不満を投書しています。(OCLC Newsletter, No. 176 (Nov./Dec. 1988))

2500万番を入力したマサチューセッツ州のブランダイス大学図書館では最初からゴールドレコードを狙い、いよいよ2500万番が近づくとカメラマンがスタンバイ。PCの後ろに10人ほどの同僚が集まりその時を待ちます。そして、見事望み通りのゴールドレコードを勝ち取りました。

25,000,000番獲得!! (OCLC News, no. 195 (Jan./Feb 1992))

 

以下がゴールドレコード獲得者 (一部ですが…)、日付、該当レコードのタイトルです。

1,000,000番 ノースイースタン大学ボストンキャンパス図書館 1974年9月6日「Collier’s world atlas and book of facts」
2,000,000番 ボストン大学神学部図書館 1976年2月18日「The fundamentalist mind / by Vernon E. Mattson.」
3,000,000番 ニューヨーク州立大学ポツダムカレッジ図書館 1977年5月27日「More Irish street ballads / collected and annotated by Colm O Lochlainn.」

10,000,000番 カリフォルニア州立大学サンバーナディーノ図書館 1983年10月11日「Time perception : a function of sex and age / by Tina Podell Wein.」

20,000,000番 ダラスカレッジ図書館 1989年7月12日「Service manual, 2 thru V-6 models.」

30,000,000番 南イリノイ大学図書館 1994年3月22日「A comparative study of PC-based CAD/CAM 3-D solid modeling utilization in Illinois / by Michael J. Mulford.」

100,000,000番 Library Cconnectoin, Inc. 2007年3月29日「It’s a horse’s life! : advice and observations for the humans who choose to share it / Joanne M. Friedman.」

… この辺で止めておきます。

盾は2つ作成し、OCLCのゴールドレコードの殿堂にも飾られます。(OCLC News, no. 195 (Jan./Feb. 1992))

 

日本でゴールドレコードの栄誉に浴した図書館はあるのでしょうか…それが、あるのです。キリ番の中のキリ番、1,000,000,000 (10億番)は、千葉大学附属図書館から2017年にWorldCatに搭載した植物標本イメージ画像のメタデータ(リポジトリからのハーベストレコード)です。

1,000,000,000件目はヤンバルガラシ ハマガラシ

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#EngagedLibrariesでコミュニティエンゲージメント活動をシェア

OCLCでは、図書館スタッフに利用者サービスや様々な図書館主体の活動といったコミュニティエンゲージメント(community engagement)の成功例を共有してもらう、新たなソーシャルメディアキャンペーン、#EngagedLibrariesを行っています。

成功例を共有することで、コミュニティエンゲージメントの重要性について語る場に、貴館の貴重な一声が加わります。世界の図書館コミュニティにインスピレーションを与えられるよう、特に優れた例はOCLCのソーシャルメディアやウェブサイトでシェアさせて頂きます。

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貴館のコミュニティエンゲージメント活動の成功例を、以下の方法で是非世界の図書館と共有し、また世界の図書館からヒントを得て下さい。

  1. どのソーシャルメディアでシェアするか決定。
  2. ハッシュタグ#EngagedLibrariesとユーザー名@OCLCを必ず含めるようにする。





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(紀伊國屋書店 OCLCセンター)


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