このデータベースは世界初の挿絵入り週刊新聞 Illustrated London News（ILN）を創刊号から最終号まで紙面イメージで収録するもので、歴史、ジャーナリズム他、様々な学問分野でご活用いただいています。ここでは多彩な記事の中から、建築史関連の挿絵をピックアップしてご紹介します。

世界初の挿絵入り週刊新聞イラストレイテッド・ロンドン・ニュース

世界初の挿絵入り週刊新聞イラストレイテッド・ロンドン・ニュース（ILN: Illustrated London News）は、1842年に英国で創刊されました。ILNが誕生した19世紀後半は、欧米各地で様々な新聞・雑誌が発行された時期で、ILNと同時期に英国のPunchやフランスの L’Illustration等の絵入り定期刊行物も刊行されました。それらの定期刊行物の中で、木口木版の表現力を遺憾なく発揮して多くの読者を獲得しました。

写真も普及しておらず、旅行も一般的ではなかった時代から、ILNは、世界のあらゆる地域の出来事や風物を視覚的にとりあげ、読者へ世界への窓をひらいてきました。ここでは、Gale提供、The Illustrated London News Historical Archiveデータベースに収録されたILNの数々の記事の中から、英国と日本の建築物・建造物の図版の一部をご紹介します。

ILNとイギリスの建築

大英帝国の最盛期を迎えたヴィクトリア朝時代、中世への関心が文学や芸術の分野で沸き起こりました。

建築の分野では、産業革命の結果、鉄を材料とした橋梁、鉄道駅、工場、倉庫といった実用建築が急速に発展しました。また、教会をはじめとした多彩なゴシック建築が流行します。一方で、19世紀初頭に流行したギリシア趣味は建築にも大きな影響を与え、ギリシアの建築様式を取り入れた古典主義（新古典主義）も隆盛しました。さらにルネサンス様式、バロック様式など、様々な様式の建築が、芸術・文化施設、カントリーハウス、行政庁舎、教会、商業施設、ホテル等で、競うように建設されました。

ヴィクトリア朝は、建築批評、建築ジャーナリズムが盛んだった時代として知られていますが、ILNも、ヴィクトリア朝の建築批評、建築ジャーナリズムの一翼を担いました。

“Dunrobin Castle.” Illustrated London News, 28 July 1855

ダンロビン城 ：
サザーランド卿が各地に有していたカントリーハウスのうち、スコットランドのカントリーハウス。

“The Great Palm-Stove at Kew Gardens.” Illustrated London News, 2 Sept. 1848

パーム・ハウス：
造船技術を取り入れた曲線的な外観が特徴的なキュー・ガーデンの温室。ヴィクトリア朝期の鉄とガラスの建築物として有名。

“The New British Museum.” Illustrated London News, 13 Jan. 1844, p. 28.

大英博物館

“Todmorden Townhall and Fielden Statue.” Illustrated London News, 17 Apr. 1875

トッドモーデン市庁舎：
ヴィクトリア朝期の古典主義様式を代表する建築

“The New Roman Catholic Cathedral at Westminster.” Illustrated London News, 2 Jan. 1904

ウェストミンスター大聖堂：
イングランド屈指のカトリック教会建築

“The Royal Exchange.” Illustrated London News, 24 Aug. 1844

王立取引所：
シティの記念碑的建築。新古典様式

“The New Free-Trade Hall at Manchester.” Illustrated London News, 11 Oct. 1856

自由貿易会館（マンチェスター）：
新古典様式に取って代わり流行したルネサンス様式の傑作

“Keble College, Oxford.” Illustrated London News, 26 Aug. 1876

オックスフォード大学キーブル・カレッジ：
石造りのカレッジしかなかったオックスフォード大学における初めての煉瓦造りのカレッジ

“The Savoy Hotel.” Illustrated London News, 26 Oct. 1889

サヴォイ・ホテル：
電気照明、多数のバスルーム付客室など、高級ホテルの代表

日本の建造物・施設

幕末期以降、ILNの特派員が日本に送られ当時の社会状況や慣習、風物を世界中に伝えました。そこには日本の建築物も描きこまれており、現存しない建物も含まれます。時代と共に日本の風景が遷り変る様子、そして諸外国から見た日本の姿が記録されています。

“Railways in Japan.” Illustrated London News, 2 Sept. 1876

大阪-神戸間に鉄道開通

“The Mikado’s Naval Academy and the First Japanese War-Hospital.” Illustrated London News, 2 Apr. 1904

海軍兵学校

“Yokohama, Japan.” Illustrated London News, 12 Sept. 1863

横浜

“Anti-Earthquake Architecture: Japanese Principles of Building.” Illustrated London News, 22 Sept. 1923

日本の建造物の耐震構造

“An Artistic Sacrifice to Japanese Patriotism: Mr. Okura’s Famous Museum at Tokyo, Said to Have Been Offered to Augment the War Fund.” Illustrated London News, 5 Mar. 1904

大倉喜八郎博物館

“The Royal Park, Tokio, Japan.” Illustrated London News, 6 July 1889

“Tokyo, Capital of Japan, Recently Subjected to Heavy Air Attacks.” Illustrated London News, 24 Feb. 1945

丸の内鳥瞰図：空襲の標的

ILNに掲載されている数々の図版の中から、ごく一部をご紹介しました。さらに多くの図版がILNに掲載されており、Galeのデータベース、The Illustrated London News Historical Archive 1842-2003でご覧いただけます。

• The Illustrated London News Historical Archiveについて詳しくはこちら
• The Illustrated London News Historical Archiveの他の記事はこちら
• 『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』小史（センゲージ ラーニング株式会社作成）はこちら
• お問い合わせはこちら

（紀伊國屋書店　デジタル情報営業部）