人文社会系研究

【連載】研究が変わる!参考調査の常識も変わる!JKBooks『Web版 史料纂集』:第三回 研究者の立場から見た利便性

2023.02.20

2023年1月10日に、JKBooks「Web版 史料纂集」がリリースされました。これを記念して、リリース2カ月前の2022年11月10日に、佛教大学 飯野氏、八木書店 柴田氏、八木書店 杉田氏、ネットアドバンス 田中氏を迎え、図書館総合展でトークイベントを開催しました。「史料纂集」はどんな資料なのかという入門的な話題から、全文検索を実装したジャパンナレッジ版の使い方、書籍版との違い、図書館におけるレファレンス対応の具体例まで、幅広く解説しています。

イベントの動画はこちらで公開しておりますが、そのうちの一部を抜粋の上編集し、連載記事としてお届けします。第一回では、古記録(日記)に書かれている古代・中世の天文現象を、第二回では古記録や古文書(手紙の類)の史料翻刻についてご紹介しました。今回は、八木書店出版部の編集者であると同時に、大学院博士課程(日本古代史)に所属されている現役の研究者でもあります杉田氏から、Web版の魅力をお話頂きます。

【杉田 建斗 氏】
株式会社八木書店出版部。大学院博士課程にも所属。専門は日本古代史。ジャパンナレッジ版「史料纂集」開発担当者の一人。学術出版の編集者と日本史の研究者、両方の視点と専門的知見から編集、開発に携わっている。

用例を迅速に収集 ― 研究のスピードが変わる

杉田氏:それでは、ここからは「Web版 史料纂集」につきまして、制作の担当をしております八木書店の杉田より発表をさせていただきます。

「Web版 史料纂集」は、前回、柴田より紹介がありました「史料纂集」書籍版の紙面と紙面に掲載されている翻刻の全文テキストデータを足したものとで構成されています。実際の閲覧画面は図1の通りになります。

図1:「Web版 史料纂集」の本文画面

画面左側に書籍版の紙面の画像を表示し、それに対応するテキストを右側に表示するという形になっています。簡単に使い方をご紹介いたします。

「Web版 史料纂集」は、ジャパンナレッジLibというプラットフォームで公開されています。「史料纂集」を「詳細(個別)検索」で選んだ場合、次の画面(図2)が表示されます。全文テキストデータが公開されているので、自分が調べたい言葉がどれだけ出てくるかということを調べるのに向いています。ここでは試みに「即位」という言葉で調べてみた事例をご紹介いたします。

図2:「Web版 史料纂集」の詳細(個別)検索画面

まず入力欄に「即位」という言葉を入力して「検索」ボタンをクリックします。そうしますと、全部で417件ヒットします。

「Web版 史料纂集」は本文だけでなく、標出や解説もテキストデータ化されておりますので、特に絞り込まずに検索をすると標出や解説に記載されている言葉もすべてヒットします。しかし、用例や事例を収集したい時には標出や解説は必要なく、本文のみを取り出したい。そういった時は、画面左側のファセットを活用して、本文だけ検索という絞り込み検索を行うこともできます。また、日記の一文ごとに古記録(日記)が書かれた日付を登録しておりますので、日付を指定して、「何年何月何日から何年何月何日までの記録だけを取り出す」という絞り込み検索をすることも可能です。その他、時代別の絞り込み検索や、書名別の絞り込み検索をすることもできます。用例を収集するスピードが格段に向上します。

図3:「Web版 史料纂集」のファセット例

テキストデータをコピー&ペースト ― データの入力・加工作業からの解放

こうして記事を絞り込んだ上で、検索結果をクリックしますと、実際の閲覧画面(図1)に飛びます。語句検索を行った場合は、検索語句が黄色くハイライト表示され、自分の知りたい語句がどこに登場するのかを一目で確認することができます。

また、テキストデータを選択してコピー&ペーストができるので、論文・レポート等に引用する際にも、便利です。一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、論文に用例を引用する際、正字(旧字)で書かれた書籍を見ながら、旧字に対応する新字に頭の中で置き換えて、記述するという作業が必要で、これは結構時間がかかります。一方、Web版のテキストデータは新字で提供されるため、こうした地道な作業から研究者は解放され、より創造的な研究活動に時間を充てることが可能になります。

Web版を活用する

以上、簡単に「Web版 史料纂集」の使い方について説明いたしました。実際に動かしてるところをお見せした方がわかりやすいかと思いますので、もう少しだけご紹介させていただきます。第一回にて柴田の方から天文の話がございましたが、2日前(2022年11月8日)に月食が起きたということで、ここでは試みに「月食」で検索をかけてみたいと思います。

まず「月食」という言葉を入力し、検索ボタンを押します。そうすると全部で16件ヒットすることがわかります。用例・事例検索で必要なのは本文部分だけですので、ファセットで「本文」を選びます。絞り込んだ上で、試しに検索結果の一つを開いてみます。そうしますと、左側に書籍版の紙面の画像が表示されます(図4)。

図4:「Web版 史料纂集」の本文画面

この紙面画像は大きくしたり小さくしたりすることができ、前のページ、次のページへの行き来も容易にできます。印刷・保存もできますので、家にいながらにして電子書籍のように「史料纂集」の紙面を見ることが可能です。さらに、右側のテキストデータ、これは先ほど申し上げたようにコピー&ペーストができ、「月食」という文字が黄色くハイライト表示されております。

研究者の立場から

「Web版 史料纂集」を実際に検索してみましたが、最後に研究者の立場から、書籍版と何が違うのか、Web版では何ができるのかを簡単にまとめます。

何といっても一番の魅力、意義といえば「史料纂集」が初めて電子化し、これによってオンラインで閲覧が可能になったということが挙げられます。「史料纂集」は「群書類従」「国史大系」「大日本史料」「大日本古記録」等と並ぶ重要な史料叢書の一つであり、その「史料纂集」が初めて全文電子化したことで、研究者の方、それ以外の方も含めて、非常に利便性が高まったのではないかと思われます。「群書類従」等のJKBooksやジャパンナレッジLibの収録コンテンツ「日本国語大辞典」等とも連携しており、オンラインで手軽に出典に基づいた文献調査ができるようになります。

さらにもう一点。全文テキストデータによる検索が可能になったということが挙げられます。「史料纂集」は昔の記録ですので、歴史あるいは文化を研究する方にとって意味のある史料集です。また、古い記録には天文や、疾病・医療・災害等々、様々な学問分野に関わる語句が出てきます。従って、図書館の司書の方々がレファレンスでご活用いただいたり、他の学問分野の研究者の方々や学生の方々が用例調査で利用いただくこともできます。

また、本自体は失われていながらその断片が逸文(いつぶん)として残る古い史料が発見しやすくなると考えられます。通常、歴史を研究する際には自分の研究の時代に関わる範囲で史料を読むことになりますが、この「Web版 史料纂集」は、第1期としてリリースする平安・鎌倉・南北朝時代の部分を端緒として、今後全6期で近世までも含めてデータ化する予定で、そのため時代を限らずに全文検索ができるようになります。そうしますと、後ろの時代の史料に先例・逸文として引かれている古い史料を見つけられやすくなり、新しい研究もできるようになるのではないかと考えております。「Web版 史料纂集」が研究のさらなる発展に寄与できるのではないかと期待しています。

今回は、Web版の開発者であり、現役の研究者でもある、八木書店の杉田氏にお話頂きました。次回は飯野氏(佛教大学図書館)を交えたトークセッションをお届けします。ぜひご期待ください。

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(紀伊國屋書店 デジタル情報営業部)