人文社会系研究

【連載】研究が変わる!参考調査の常識も変わる!JKBooks『Web版 史料纂集』:第一回 明月記に見る古代・中世の天文現象

2023.01.04
史料纂集アイキャッチ

2023年1月10日に、JKBooks「Web版 史料纂集」がリリースされます。これを記念して、リリース2カ月前の2022年11月10日に、佛教大学 飯野氏、八木書店 柴田氏、八木書店 杉田氏、ネットアドバンス 田中氏を迎え、図書館総合展でトークイベントを開催しました。「史料纂集」はどんな資料なのかという入門的な話題から、全文検索を実装したジャパンナレッジ版の使い方、書籍版との違い、図書館におけるレファレンス対応の具体例まで、幅広く解説しています。

イベントの動画はこちらで公開しております。そのうちの一部を抜粋の上編集し、連載記事としてお届けします。第一回では、史料出版のたたき上げである柴田氏が、史料纂集とはどういった資料かについてお話頂いたイントロダクションをお届けします。

【柴田 充朗 氏】
株式会社八木書店出版部。大学卒業後、続群書類従完成会に入社。以来、書籍版「正・続 群書類従」の改訂や「史料纂集」シリーズ、各種学術書の編集を担当。2006年に閉会後、八木書店に移籍。現在に至るまで書籍版「史料纂集」の刊行を統括。史料出版畑のたたき上げ。

『明月記』に見る、古代・中世の天文現象

柴田氏:まずは一般的に知られていそうな話題から始めてみたいと思います。
一昨日(2022年11月8日)は、皆既月食と惑星食が同時に見られるということで、たくさんの人が初冬の夜空を見上げて、天体ショーをご覧になったと思います。月で言いますと、平安時代中期に権勢を誇った藤原道長は「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」という、あの有名な歌を、自分を満月に例えて歌っていますが、平安時代の末期、その子孫の藤原定家も別の意味で空をよく眺めていたようで、自身の日記である『明月記』に月の記録をたくさん残しています。たとえば、寛喜2年(1230)11月8日の条に、当時客星(きゃくせい)と呼ばれた星の出現例がまとまって記載されております。それが超新星爆発を示す記録とされているのは、ご存知の方も多いかもしれません。

奇星現る

現存する『明月記』の原本の大部分は、京都の冷泉家時雨(しぐれ)亭文庫の所蔵で、国宝指定を受けています。今申し上げた客星出現例の手記も冷泉家所蔵本にあります。一方、今回紹介した「史料纂集」におさめられている『明月記』は、内閣文庫、現在の国立公文書館所蔵の「明月記目録」の記載です。寛喜2年11月に「奇星現る。先例を付す。」というふうに記載があるんですけれども、客星出現の先例の記載がここにあることが示されています。客星というのは、言葉の通り、それまで見えなかった星が急に明るく見えるようになって、また一定期間後に見えなくなる星のことと言われています。具体的には、彗星や新星、超新星のことを指していて、天文現象としてはそれぞれ別のものではありますが、これをまとめて、客星という言葉で表現しています。

数少ない記録

超新星は主に星の進化の最後の大爆発として記録されるそうですが、爆発後は中性子星やブラックホールが残って、私達が住む銀河系では100年から200年に一度の割合で起こるというふうに言われています。ところが、実際記録として判明してるのは7例しかなくて、そのうち3例が『明月記』に先例として記載されていることから、『明月記』と超新星爆発はセットでよく話題に上ります。

自然科学分野の仮説を裏付けた『明月記』

そうなった経緯ですが、1930年代に天文学者の間で、かに星雲は900年前の超新星爆発の残骸ではないかという国際的な論争が起こりました。それを裏付ける記録として、日本のアマチュア天文家である、射場保昭(いばやすあき:1894~1957)さんが、『明月記』の記載を国際的な学会に報告して認められたということがありました。これは自然科学分野の仮説を文献史料が裏付けた、今でいう文理融合の面白い実例です。また、参照された文献が古記録であったという点については今回ちょっと強調しておきたいところです。

「史料纂集」に見る、過去の天変地異・疾病

それでは次に、今回リリースする「Web版史料纂集」で過去の天変地異、疾病などのキーワードを検索してみましたので、こちらの表をご覧ください。日食や月食のヒット数について、その他検索方法については後ほど(連載第二回)杉田の方から、改めてご説明をさせていただきますが、この表だけでも天変地異や疾病など、いろいろな分野で活用できそうな記事が多く含まれていることをご理解いただけるかと思います。

史料纂集(表)

「史料纂集」の活用事例

近年では「史料纂集」の記述が、内閣府ですとか地方自治体のハザードマップの作成などに利用されております。特に津波到達点なども含めて、時代の下った近世史料になりますと細かく書いてありますので、そういったものが利用されています。

補完し合う同時代史料と編纂史料

文献史料は当時書かれた同時代史料と、後世になってまとめられた編纂史料に分けられます。例えばジャパンナレッジに収録されたタイトルでは、「群書類従」や「国史大系」収録の多くの書目については、これは編纂史料ということになります。「史料纂集」や近代の雑誌類、これは同時代史料であるといえます。「鎌倉遺文」はどうかというと、これは編年の史料集になります。後年に作られた編年の史料集ですね。さらに言えば、同時代史料は一次史料、後代に編纂された史料は二次史料という扱いになっています。研究者の先生方や学生さんは、一次史料である同時代史料をより重要視します。しかし二次史料・編纂史料、こちらの方も合わせて参考にして裏づけを取っていかなければいけませんので、これは相補い補完し合うものだというふうに考えています。

データベースの活用とこれからの調査・研究

導入の最後になりますけれども、先日とある文学系の学会で研究者の先生に伺ったお話があります。最近の研究発表で提出されてくる用例の数に人によってだいぶ差異が出てきたと。それは現在利用できるデータベースを活用しているかしてないかの違いが大きいんじゃないか。それが如実に用例の数として出てしまっているのではという先生のお話がありました。実際、調査や研究の場では、用例・事例を探すということが一番頻度の高い使われ方になってくると思います。ぜひいろいろな形で「Web版史料纂集」を使っていただければありがたいと思っています。

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(紀伊國屋書店 デジタル情報営業部)