人文社会系研究

『ジャパンナレッジ版 史料纂集』で意外な発見!大学院生によるHow to 文献調査

2025.12.25

「Web版 史料纂集第4期」がJKBooks(法人向け買切データベース・ジャパンナレッジLib上で利用可能)で2026年1月にリリースされることを記念して、2025年11月11日に図書館総合展でフォーラムを開催しました※。現役大学院生である室伏奏楽氏(東京大学大学院博士課程)による講演をお届けします。

 

※本フォーラムの動画はこちらで公開しております。

はじめに

はじめに、本日お話しさせていただく内容を簡単にお伝えします。今回は『ジャパンナレッジ版史料纂集』の使い方の一例を、利用者の立場から紹介させていただきます。

 

まず私の自己紹介をさせていただきます。私は大学院にて日本古代史を専攻しておりまして、特に平安時代の財政制度や流通制度の研究に取り組んでおります。本日お話しする内容も古代史の研究に関わるものになっておりますが、他分野の研究や図書館のレファレンスにおいても活用できるものであるかと思います。

日本古代史の研究の進め方

具体的な内容に入る前に古代史の研究環境について簡単に説明させていただきます。

 

古代史の研究において必要とされる史料として代表的なものを挙げると、法律書である「律令」や『日本書紀』や『続日本紀』といった奈良時代・平安時代に作成された6つの国史である六国史、平安時代の貴族の日記である古記録などがあります。

 

これらの史料を精読し、研究に利用していくのが基本ではあるのですが、古代史の場合、他の時代と比べて史料数が少ないといった現状があります。そこで新しい素材を探す作業の一つに、後世の史料から古代の記述を探し出す、というものがあります。これらは逸文(いつぶん)と呼ばれます。わかりやすくいうと、例えば、平安時代に書かれたと思われる史料が、災害や戦乱により現在は失われてしまっているが、室町時代までは恐らく残っていて、室町時代の史料の中で言及されている。その室町時代の史料を読むことで、平安時代に関することがわかる…ということです。普段は自分が研究する時代の史料を見ることが多いですが、そういった逸文がある可能性があるため、自分が研究する時代より後の時代の史料を見ることもあります。

 

今回はこの作業の助けとなるような『ジャパンナレッジ版史料纂集』の使い方を二つご紹介します。

調査法①史料名で探す

最初にご紹介するのは、史料名で探す、という方法です。さきほどご説明したように、歴史史料のなかには、その史料が書かれる以前の書物や文書を引用しているケースがあります。引用のされ方には様々な形式が存在しますが、その中の一つに史料名を記して引用する、という場合があります。今回はその史料名を頼りに、ジャパンナレッジで検索をかけて、調査してみたいと思います。

調査の前に――下調べが肝心

では事例の一つとして律令の条文を探してみたいと思います。先ほどお伝えしたとおり、律令とは古代の法律書で、条文とは法律などを箇条書きにした文です。

 

律は現代の刑法、令はその他の内容、現在でいうと民法や行政法を規定したものです。調査の前提として律令はいくつかの編目で構成されています。例えば考課令(こうかりょう)という編目がありますが、これは現代において公務員の人事評価がなされるように、古代の官人の勤務評定に関する規定が含まれた編目です。このような情報は調査の事前準備として知っておく必要があります。たとえば、ジャパンナレッジでは『国史大辞典』といった辞典類が提供されています。そのような事典であらかじめ基礎的な知識を得ることができますので、事前準備に活用できると思います。例えば『国史大辞典』を見てみると、考課令がどのような編目であるか、どのような語彙が登場するかなど、基本的な知識を知ることができます。

 

また律などは一部の条文が伝わっている他は、原史料は失われていますが、他の史料から推測・復元するという作業が行われており、現在では多くの条文が復元されています。ただ、なかには復元する文字などで議論が続いているものもあるため、その復元根拠となる史料を探すことがあります。このような作業をジャパンナレッジの検索によって効率化できると考えています。

戦国時代の日記に引用される古代の史料

古代の土地の売買について研究したいが、基本史料の調査はひとまず終えたので、後世の史料に調査範囲を広げてみたいと思っていると仮定します。

 

すでに刊行されている『ジャパンナレッジ版史料纂集』古記録編(平安時代から戦国時代までの古記録が検索可能)で、「田令」という単語で検索してみます。田令とは、令(現代でいうと民法・行政法)のなかで、田地の面積の単位や班給(国が人々に田地などを分け与えること)の手続きなどを規定する編目です。

 

検索してみると18件ヒットした結果がでます。

 

 

【図1】『ジャパンナレッジ版史料纂集』、検索語「田令」の検索結果

 

【図1】の赤い丸で囲った部分が今回の検索でヒットした件数になります。また中央から下部にかけて、該当する文字を含んだ史料と記事が表示されています。今回は赤い四角で囲った『守光公記』(もりみつこうき)の記事を取り上げたいと思います。

 

『守光公記』は戦国時代の公卿である広橋守光(ひろはしもりみつ)の日記です。日記(古記録)とはいうものの、これは現代で私達がその日に起こったことを書き連ねるというよりは、子孫への伝達という意味があります。

 

【図2】『ジャパンナレッジ版史料纂集』、『守光公記』永正14年(1517)4月28日

 

 

ここでは永正14年(1517)4月28日の記事がヒットしました。日付(廿八日)の下に、「自両局到来」とあります。両局(2つの役所)から文書が届いたという意味で、役所とはここでは外記(げき)と弁官(べんかん)を指します。

 

その次に「田畠宅地売買事」からはじまる文書が引用されています。届いた文書というのは土地の売買に関する調査報告書です。

 

さて、では実際に内容を見ていきます。【図2】の赤枠の部分に「田令云」とありますので、これは報告書内で田令の条文が引用された部分になります。ここには「宅地、売り買わんことは、皆所部の官司に経れて、申牒して然る後にこれを聴せ」とあります。「宅地を売買する時には、所部の宮司(管轄する役所)を経て、申牒(申請)してから、許せ」と田令に規定されています、といった意味合いです。なお、史料にカタカナで書かれた部分がありますが、これは史料に書かれている読み仮名や送り仮名です。

 

次にこの条文について、他の本などで調べてみます。そうすると今回の条文は養老田令17宅地条と一致することがわかります。

 

また田令を引用したのちに、義解云とありますが、これは令の公定注釈書である『令義解』を引用しています。

 

またさらにみると、この調査報告書では、田令だけではなく、戸婚律も引用されています(【図2】青枠部分)。戸婚律は戸口や婚姻に関する刑罰法です。戸婚律は土地の売買には一見無関係なように思えますが、守光公記の記述を見ると、他人の土地を侵奪することを罰する規定があります。調べてみると、戸婚律のこの条文はすでに先行研究で復元されていますが、『守光公記』の記述が、新しい根拠として追加できる可能性があります。

色々なデータベースで追加調査

また今回取り上げた『守光公記』ですが、こちらは『ジャパンナレッジ版史料纂集古記録編第3期』に収録されています。さらにジャパンナレッジ外のデータベースではありますが、国立歴史民俗博物館の館蔵資料画像データベースで、史料画像を閲覧することができます。

 

また今回とりあげた事例に関連して、刊本で使用されている史料名を検索してもなかなかヒットしない場合もあります。そのような時にはジャパンナレッジでも提供されている、「国書データベース」を活用します。「国書データベース」で検索すると、調べた史料の別書名の項目があります。例えば史料纂集にも収録されている、平安時代の貴族・藤原行成の日記である『権記』を国書データベースで調べてみますと、別書名として行成卿記・権之記・藤原行成記といった書名があります。そこに書かれている名称を検索することで、ヒットする場合があります。

 

ここまで史料名を検索して文章を探すという方法をご紹介してきましたが、検索して終わりではありません。注意点として検索で見つけた文章を再度検証する作業が必要です。頻用している史料や引用されている内容を詳細に検討することが重要です。つまり、実際に研究で活用できるか確認する作業が必須であるといえます。

 

以上、戦国時代の古記録から古代の田令と戸婚律の逸文を探すことができました。どちらの条文もすでに知られているものではありますが、戸婚律については新しい根拠として利用できる可能性があります。このように後の時代の史料を検索することで、専攻する時代の史料をみつけることができるかもしれません。

調査法②年号で探す

次に紹介するのは、年号で検索する、という方法です。
前回は、後世の史料がそれ以前の史料を引用する際に、史料名を記す場合があると述べましたが、そのほかに年号を記して引用する場合があります。したがって、検索する時に、知りたい時代の年号を入力することで古い時代の情報を探すことができる、ということになります。

「先例」として引用される古代の史料

今回は平安時代中期の史料を集めたいと仮定します。平安時代の中期はまとまった史料が少なく、その時代の史料を探すという試みです。

 

それでは具体的にみていきましょう。今回は『ジャパンナレッジ版史料纂集』で平安時代968~970年頃の年号である「安和」を検索します。検索すると23件ヒットする記事がありました。

 

ヒットした記事を確認すると、例えば南北朝時代の貴族である洞院公賢(とういんきんかた)の日記の『園太暦(えんたいりゃく)』貞和5年(1349)9月7日条 がヒットしました。

【図3】『ジャパンナレッジ版史料纂集』、『園太暦(えんたいりゃく)』貞和5年(1349)9月7日

 

「古来当職人任大臣無饗禄例」とありますので、当職(大納言)から大臣に任じられた人で、饗禄(きょうろく)がなかった過去の事例という意味です。通常、大臣に任じられた際には盛大な饗宴を開きます(任大臣大饗)。また饗禄とは、「饗応して、参加者に与えられる禄物やそれを賜ること」という意味です。これらの事例の中に「粟田左大臣在衡公」の安和二年の事例が記されています(図3赤枠部分)。これは藤原在衡が大納言から右大臣に任じられた際の事例ですが、先例の一つとしてここに記されています。現代においても先例を重視する場面はたびたびありますが、前近代の人々もそれまでの事例を引用して、政務に備えていました。

 

前述のとおり、平安時代の中期はまとまった史料が少ないため、こうした後世の逸文も(今回の例では南北朝時代の古記録)当時をうかがい知ることができる貴重な史料です。

 

ここで、年号で検索することの利点をお話しします。年号で全文検索することで、知りたい時代の事例をより簡単に収集することが可能になります。またのちの時代の資料であっても、先例を多く引用する傾向がある史料を知ることができ、今後の調査に活用することができます。

データベース検索は文献調査の第一歩

では、最後に今回お話しした内容をまとめたいと思います。

 

『ジャパンナレッジ版史料纂集』で史料名や年号を全文検索することで、その史料や時代に関する新しい情報を得ることが可能になります。また『ジャパンナレッジ版史料纂集』の特徴として一括で複数の書目を検索できますので、作業の効率化につながります。

 

ただし、これらの作業を通じて得られた情報は、最終的には個別に追加調査・検討を行う必要があります。この作業を実施して、使える史料かどうかを判断します。煩雑な内容にはなりましたが、今回お話しする内容は以上になります。ありがとうございました。

 

 

【参考文献】

井上光貞ほか校注『律令〈日本思想大系3〉』(岩波書店、1976年)

 

(デジタル情報営業部)