植民地の視点から見た脱植民地化資料群
世界各地を植民地支配した欧米諸国では第二次大戦後、人文学研究が植民地支配と共犯関係にあった知の枠組として西洋中心主義を厳しく批判しました。この動きは近年では高等教育にも及び、教育カリキュラム自体に潜む西洋中心主義を克服する試みが「カリキュラムの脱植民地化」の掛け声の下で進められています。
研究・教育を支える史資料に目を転じると、図書館や文書館は所蔵資料の地域別バランスを見直す必要を早い時期から自覚し、「蔵書資料の脱植民地化」の掛け声の下、旧植民地の史資料の蒐集に乗り出し、蔵書資料の西洋中心主義を克服しようと試みています。「脱植民地化」は植民地の政治的独立という20世紀に実現した歴史的事実だけでなく、旧宗主国の制度や歴史認識に潜む植民地制度の負の遺産を克服する現在進行形の試みとして、今もアクチュアルな課題を突き付けています。
Decolonization – The Politics of Independence in Former Colonial Territories
Decolonization – The Politics of Independence in Former Colonial Territoriesは、英国植民地の独立運動に関する史料群を電子化して提供します。その際、植民地の視点に立った歴史認識に寄与すべく、独立運動を推進した植民地の指導者、政治団体、政党が残した記録を収録することに努めました。収録資料はロンドン大学図書館(コモンウェルス研究所旧蔵)、ロンドン・メトロポリタン大学労働組合会議図書館、オックスフォード大学ナフィールド・カレッジという英国の三つの学術機関の所蔵資料で、いずれも英国の旧植民地の資料蒐集に尽力した機関や個人のコレクションです。
- 収録文書:書籍、パンフレット、タイプ打ち原稿、手稿(フルテキスト検索に対応)(約 25 万ページ)
- 収録資料の期間:19世紀末から2010年代(大半は20世紀半ば)
- 収録資料の言語:英語が大半、その他フランス語、英国旧植民地・英連邦構成国の諸言語
- 原資料所蔵機関:ロンドン大学図書館(Senate Library)、ロンドン・メトロポリタン大学労働組合会議図書館、オックスフォード大学ナフィールド・カレッジ
- 機能:ページ送り、画面拡大・縮小、全画面表示、輝度・コントラスト調整のビューワ機能の他、印刷、PDFファイルのダウンロード、OCR/HTR テキストのダウンロード、書誌自動生成、書誌情報のエクスポート、メール送信、Google / Microsoft ログインとクラウド連携を実装。別契約のテキストマイニングツール Gale Digital Scholar Lab でもご利用になれます。
文書表示画面では手稿資料を含め、文書イメージとOCR/HTRテキストを左右見開きで表示することができます。
詳細検索画面では、文書が主に取り上げている地域を指定した検索が可能です。
ロンドン大学コモンウェルス研究所旧蔵政治パンフレット集成
ロンドン大学コモンウェルス研究所(Institute of Commonwealth Studies)は英国旧植民地関係資料の中では特に政治関係の資料が充実しています。同研究所は、アフリカ関係の資料蒐集を推進するイギリスの図書館・文書館連携機関、アフリカ関係図書館・文書館連合(SCOLMA)の加盟館でもあり、連合の中での役割分担として労働組合や政治関係の資料を集中的に蒐集してきました。
本コレクションはアフリカに加え、西アジア、南アジア、東南アジア、太平洋地域、オセアニア、カナダ、カリブ海地域を含む60ヵ国以上の政治団体、政党、労働組合の綱領、選挙用マニフェスト、規約、パンフレット、ニュースレター、通信文、ポスター等を収録します。これらは短命印刷物で長期的保存を想定していなかったため、入手が困難なものばかりです。全体で20万ページに及ぶ本データベース最大のコレクションです。資料の大半は多くの植民地が独立を実現した1960年代から70年代にかけてのもので、地域的には南アフリカ、インド、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが高い割合を占めています。
Muungano Wa Wazalendo Wa Kukomboa Kenya. Kenya Register of Resistance 1986. 1987. MS Political Pamphlets from the Institute of Commonwealth Studies: Kenya PP.KE.MWA.3. Senate House Library, University of London.
ロンドン・メトロポリタン大学労働組合会議図書館所蔵マージョリー・ニコルソン文書
マージョリー・ニコルソン(Marjorie Nicholson)は労働党と近い関係にあった社会主義者で、フェビアン協会植民地局や労働組合会議に勤務した経歴を持ちます。労働組合会議(Trades Union Congress, TUC)は 19 世紀後半に創設された労働組合の全国組織で、植民地との関係も深く、金銭的支援や労働組合の組織・運営法の伝授という形で植民地の労働者や労働組合の支援活動を行ないました。ニコルソンも植民地の労働組合運動に関する知見を深め、インドのジャワハルラル・ネルー、トリニダード・トバゴのエリック・ウィリアムズ、シエラレオネのシアカ・スティーヴンス、ケニアのトム・ムボヤ、シンガポールのリー・クアンユー、ガーナのクワメ・ンクルマら、後に独立運動の指導者になる人々と交友関係を結びました。
収録資料はニコルソンが引退後に蒐集に尽力した資料で、労働組合会議の組織、労働組合会議の国際会議や植民地諮問委員会(Colonial Advisory Committee)の議事録や文書の他、国際自由労働組合総連盟(International Confederation of Free Trade Unions, ICFTU)、国際労働機関(ILO)、王立西インド委員会(West India Royal Commission)のような労働組合会議と関わりの深い機関の文書、イギリスとコモンウェルス諸国における協同組合運動、植民地の福祉と開発、強制労働、労働組合運動と汎アフリカ主義に関する文書が含まれています。
地域別にはアフリカではガーナ、シエラレオネ、カメルーン、ナイジェリア、タンザニア、ケニア、ウガンダ、スーダン、ガンビア、南アフリカ、ローデシア(ジンバブエ)、チュニジア、エジプト、アジアではインド、ビルマ、セイロン、マラヤ、シンガポール、カリブ海地域ではジャマイカ、バルバドス、トリニダード、ガイアナ、バハマ、オセアニアではオーストラリア、ニュージーランドに関する資料が収録されています。
イギリス労働組合運動と植民地解放運動の邂逅が生んだ貴重な資料群です。
South Africa – Background. 1947-1951. MS Marjorie Nicholson Papers from the Trades Union Congress Library Subject File [968]/1. The Trades Union Congress Archive, London Metropolitan University.
オックスフォード大学ナフィールド・カレッジ所蔵アフリカ労働組合文書集成
オックスフォード大学ナフィールド・カレッジ(Nuffield College)はアフリカ関係図書館・文書館連合(SCOLMA)の加盟館として、アフリカの労働組合の資料の蒐集に努めてきました。
本コレクションはアフリカの労働組合運動に関する文書、パンフレットを集めたものです。労働組合の会議録、規約、刊行物、新聞記事切抜き、マニフェスト、演説等を含みます。
収録年代は1949年から1969年までの期間で、言語は英語とフランス語です。対象の国・地域はケニア、タンザニア、ガーナ、ナイジェリア、カメルーン、シエラレオネ、セネガル、ガンビア、ギニア、ガボン、ウガンダ、ガンビア、スーダン、アンゴラ、ボツワナ、ニヤサランド、ベチュアナランド、スワジランドで、全アフリカ労働組合連合(All African Trade Union Confederation)、ガーナ労働組合会議、ナイジェリア労働組合会議、鉄道アフリカ組合(ケニア)、鉄道アフリカ組合(ウガンダ)、ガーナ鉱山労働者組合、国際自由労働組合総連盟(ICFTU)等の団体が取り上げられています。
Diouf, Vermot-Gacuhy, and Brun. La Question des Salaries au Sénégal. 1965. MS Papers of African Trade Unions: Supplementary Material Box 11 U1. Nuffield College Library, Oxford University.
植民地の視点から英国植民地の脱植民地化プロセスに迫る、画期的な資料群です。
関連情報のご案内
- 2022年2月22日(水)開催「脱植民地化:旧英国植民地・英連邦における政治・独立運動 紹介ウェビナー」
(センゲージラーニング株式会社)
センゲージ ラーニング株式会社サイトはこちら
紀伊國屋書店サイトはこちら
お問い合わせはこちら