イベントでは、埼玉県立浦和第一女子高等学校(以降:浦和一女)で学校司書を務める木下通子(きのした みちこ)先生に、コロナ禍を経て全国的に活発化してきた「ICT活用」を軸に、学校図書館での探究学習支援や、ご所属校での取り組みについて、たっぷり90分間お話しいただきました。
内容(リンクをクリックすると該当セクションへジャンプします)
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- 図書館の授業利用を定着させるには1年生の時期が重要~浦和一女図書館の取組~
- 知りたい気持ちはくすぐって湧きあがらせるもの~生徒へのはたらきかけ~
- 教員と「本」でつながり、「本の専門家」と認識してもらう~先生・学校へのはたらきかけ~
- ICT環境の整備、図書館から発信する情報について~イベント後の質問~
- おわりに
1.図書館の授業利用を定着させるには1年生の時期が重要
浦和一女図書館の取組
現在、浦和一女図書館から紙で案内を出しているのは図書館通信「らいぶらりー」のみ。生徒の案内や連絡はオンラインで行っています。例えば督促はメールで、購入希望はGoogleフォームで受け付けています。
「授業での活用」について、実際の1年生のスケジュールを紹介しながら、1年生の時期に「クラウド検索を使う習慣」を身に付けることが重要とご指摘いただきました。
入学前説明会から7月まで、授業の中で蔵書クラウド検索を利用する機会を毎月設けている
イベント後半では、事前にいただいた質問や、会場からの質問に答えながら、ICT導入後の生徒の変化や、教員とのコミュニケーションの取り方についてお話しいただきました。その一部を紹介します。
2.知りたい気持ちはくすぐって湧きあがらせるもの~生徒へのはたらきかけ~
ICT導入後の変化の様子や、アナログ資料との両立をどのようにされているか聞きたいです。また、ICT導入によって生徒にどのような力を付けさせればよいとお考えですか(事前質問)。
(木下先生:以降みちねこさん)ICTを活用した探究学習支援を行うにあたって、担当教員と「インターネットを使わずに、まず、本を使わせよう」と考えた。クラウド検索の使い方を教えたことで、書庫にある蔵書も調べることができ、結果として貸出数は増加した。
司書自身もカウンターにずっといるのではなく、タブレットで調べながら書架を回り、生徒を案内できるようになった。ICT導入によって自分に必要な情報を取ってくる検索能力が身についてきた。
生徒の「知りたい気持ち」はどのように育てていくのでしょうか(事前質問)
(みちねこさん)「知りたい気持ち」は、くすぐって湧きあがらせるもの。
一人ひとりがもっている漠然とした疑問に対して問いかけを繰り返すことで本当に知りたい事がはっきりしてくる。その手伝いをするのが司書や図書館の仕事。
3.教員と「本」でつながり、「本の専門家」と認識してもらう~先生・学校へのはたらきかけ~
教員に図書館を活用してもらうにはどうしたらいいでしょうか(事前質問)
(みちねこさん)浦和一女もかつては授業利用がほとんどなかったが、まず先生と「本」でつながることを意識した。授業に関係ない趣味の小説をお勧めするなど、身近な話題を通じて司書が「本の専門家」であることを教員に知ってもらうことが大事。そうすることで学校内でも「授業で図書館にくる」機会を作ってもらうよう教員に働きかけやすくなったし、司書としての自信にもつながった。
授業で出される課題が毎年異なったり、直前に知らされるため、関連図書の案内が間に合いません。どのように先生から情報を得て、本を整備しているのか、コツを知りたいです。(会場からの質問)
(みちねこさん)毎年およその実施時期がつかめているならば、
司書の方から教員へ「そろそろ課題の時期ですか?どんなテーマを予定していますか?」と積極的に聞いた方がいいとと思う。文部科学省による
「第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」」でも司書が教員と積極的にやり取りすることが求められている。
公立校では、予算が少ない中で電子図書館やクラウド検索の導入が難しいです。(オンラインからの質問)
(みちねこさん)予算の増額は自分から要求していかないと実現しない。ただ、図書館が使われている、ということがわからないと要求も難しい。だからこそ貸出数の増加や授業利用の回数など、図書館がたくさん活用されていることを数字でアピールできるようにしていくことが大事。
会場・オンライン含め約60名に参加頂きました
4.ICT環境の整備、図書館から発信する情報について~イベント後の質問~
イベント後のアンケートでお寄せいただいた質問への回答をご紹介します。
※木下先生からの励ましの言葉も含め、全てそのまま載せています。
授業で活用してもらうために学校図書館に備えたい機器・ICT環境はどのようなものでしょうか。現状、Wi-Fiやタブレットどころか学校図書館のホームページや、スクリーンもプロジェクタも電子黒板もありません。近隣校では、図書の電算化すらまだで、LANも整備されていないところもあります。
(みちねこさん)本校図書館では大きなスクリーンと、プロジェクターも入っています。そのほか、パソコンも。公立か私立学校かによるでしょうが、公立学校だとよけい、自治体に働きかけてICT環境の整備をしてもらう必要があると思います。ギガスクール構想に図書館が取り残されます。
web情報の見極めについて、図書館でどのように紹介・支援しているのか教えていただけますと幸いです。
(みちねこさん)責任をもって書かれている情報か、引用や参考文献が明らかにされているか、最新の情報か。ドメインをちゃんとみること。広告が多いサイトには気を付ける。
①督促状は学校図書館でも個人あてにメールで発信していいのか?②その上での注意点は?③自分も利用者に向けて探究学習に役立ちそうな情報を発信したいが、他の方から得た情報をどう自分なりの表現にするか、またどの程度引用させていただくか線引きが難しく(扱う内容が探究学習なだけに)、二の足を踏んでいる状態でもどかしい。なにかよいアドバイスをいただけると幸いです。
(みちねこさん)埼玉県から付与されたメールアドレスを使って、埼玉県から付与された生徒のメールアドレスに督促と予約の連絡はメールで発信しています。個人アドレスですが、県が生徒の学習用に付与しているアドレスなので大丈夫だと思います。
自分なりの表現にすることについては、やってみていい塩梅をみつけるしかありません。生徒の様子をよくみて振り返ることが肝心。頑張ってください。
学校司書が複数の学校をかけ持ちし、毎日学校にいない場合も多いかと思います。司書教諭からみた場合、学校司書とどのような連携の方法が考えられるでしょうか。
(みちねこさん)学校司書にやってもらいたいことを明確化して伝えるといいと思います。ここは司書教諭がやるからこの部分はお願いという風に分担をしたらどうでしょう。
木下先生は毎日大変お忙しくされていますが、本を読む時間や資格試験等に費やす時間はどのように捻出されているのでしょうか。参考までに教えていただけるとありがたいです。
(みちねこさん)目の前のことをこなしながら、先のことも考えて動いているかもしれません。あと、なんでもかんでも引き受けないというのも大切かも(笑)
本は仕事として読んでいるところもありますねえ。本はながらじゃ読めないからなあ。読めば読むほど読むのは早くなります。あと、本が世界に引き込んでくれるのも大きいです。答えになっていなくてごめんなさい。
5.おわりに
昨年度から高校で必履修化された探究学習ですが、中学校、小学校でも今後ますます重要になっていくと考えられます。
そんな探究学習に学校図書館はどう関わっていけるのか?今回のイベントで木下先生がお話しされていた取り組み事例やアドバイスが、その疑問を解消する一助となれば幸いです。
<参考リンク>
・木下通子先生著作
<お知らせ>
イベントで触れられた関連サービス
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(紀伊國屋書店 学校教育ICT推進部)