人文社会系研究

世界初の絵入り新聞 The Illustrated London News ~ 図版例・検索のヒント・検索語例~

2020.07.13

The Illustrated London News (ILN)は、世界初の全面イラスト入り週刊新聞として1842 年に創刊されました。

初期ヴィクトリア朝時代から160 年にわたり、イギリスを中心に、世界中の文化、政治、社会の問題を、印象的な図版と共に伝え、人々のニュースに対するイメージに絶大な影響力を誇りました。ILN が伝える数々の歴史的な出来事、ユニークな図版をGale提供、The Illustrated London News Historical Archiveデータベースで検索してみましょう。

災害

ILNは創刊以来、鉄道事故、炭鉱事故、運河事故、サッカー競技場の事故、船舶座礁事故、地震など、多くの事故や災害を報じました。安全対策の変遷もみてとることができます。

ハンブルク市の大火災

1842年5月14日に創刊されたILN第一面では、5月5日に発生し、2日間にわたって燃え続けたドイツの港町ハンブルク市の火災をとりあげています。

ILNの特徴ともいうべき初期の挿絵は、画家がスケッチした細密線画を木彫り職人が彫り、印刷したもので、原版木に貼られた絵を6ないし8分割、多い時には12分割し、複数の木彫職人が各ブロックを彫り上げ、再び組み合わせて1枚の原版としました。

The Illustrated London News Historical Archiveでは、挿絵の細部まで確認できるよう、画面上で自在に拡縮表示を指定することができます。版木の継ぎ目の痕跡が一切見えない精緻なILNの図版をお楽しみください。

検索のヒント:

探している記事の掲載号がわかっている場合は、Browse By Date が便利です。

タイタニック号

図版入りのニュース報道を使命としたILN は、その報道に様々な工夫をこらしました。時には、誰も目撃していない出来事の現場を報道しなければならないこともありました。タイタニック号の事故の第一報がイギリスに到着した時、出来事の詳細が伝わってこなかったため、ILNでは、タイタニック号がぶつかったであろう大きな氷山の写真を掲載しました。

検索のヒント:

Advanced Search画面では、図版入りの記事を検索条件に含めることができます。

アイルランドのジャガイモ飢饉

飢饉で苦しむ人々、亡くなった人の葬儀の様子、農地から追い出される小作人、枯死したジャガイモなど、当時の様子をILNの図版が伝えます。

検索のヒント:

出来事の検索には、Advanced Search画面で、出来事を示す検索語と出版年月日をあわせて指定した検索が有効です。

公衆衛生

19世紀後半、大英帝国の繁栄の影で都市の生活環境は悪化し、コレラの流行や平均寿命の低下という形で都市労働者階級にしわ寄せがおよびました。ILNの図版は、悲惨な都市の生活環境と衛生改革による生活環境の改善のプロセスを雄弁に伝えています。

ファッション

ILNでは最新の流行を紹介する記事を「〇月のファッション」としてしばしば掲載しました。また、パリのファッションの紹介にも力を注ぎました。挿絵から当時の流行を追跡することができます。

※ILNのファッション記事に焦点をあてたカタログはこちら

ブランド戦略の変遷

同一企業の年代の異なる広告を辿ることで、企業のブランド戦略の変遷を追いかけることができます。

広告からは、企業のブランド戦略の変遷のみでなく、プロダクトデザインの移り変わりを追いかけることもできます。例えば1910 年前後に広告が掲載されていた真空掃除機(vacuum cleaner)は、普及するにつれ、広告は掲載されなくなりました。台所関連では、初期の頃にはポットや鍋など台所用品の関する広告が数多く掲載されていましたが、1980 年代に入ると、ライフスタイルやキッチン付アパートホテルの広告もみられるようになります。

※ILNの広告に焦点をあてたカタログはこちら

検索のヒント:

Advanced Search画面では、広告に限定した検索が可能です。

検索語例:

  • LIBERTY(高級百貨店リバティ)
  • VIYELLA(イギリスの復職ブランド、ビエラ)

ビクトリア朝の建築物

帝国の最盛期を迎えたビクトリア朝時代、建築の分野では、産業革命の結果、鉄を材料とした橋梁、鉄道駅、工場、倉庫といった実用建築が急速に発展しました。また、教会をはじめとした多彩なゴシック建築が流行します。

一方で、19 世紀初頭に流行したギリシア趣味は建築にも大きな影響を与え、ギリシアの建築様式を取り入れた古典主義(新古典主義)も隆盛しました。さらにルネサンス様式、バロック様式など、様々な様式の建築が、芸術・文化施設、カントリーハウス、行政庁舎、教会、商業施設、ホテル等で、競うように建設されました。これらの建築物の図版がILNには豊富に記録されています。

また、ビクトリア朝期に落成、開業し、現在ロンドンのランドマークとして親しまれているロイヤル・アルバート・ホール(Royal Albert Hall of Arts and Sciences)、チャリング・クロス駅(Charing Cross)、タワーブリッジ(Tower Bridge)、ヴィクトリアタワー(Victoria Tower)などの建築物を見出しに含む記事を検索することで、落成当時の情景を知ることができます。

※ILNの建築関連の図版に焦点をあてたカタログはこちら

検索のヒント:

Advance Search画面では図版のキャプションからの検索が可能です。

パナマ運河

1880 年にフランスが建設に着手してから、1914 年にアメリカの手により開通するまでの苦難の道のりを図版入りで克明に記録します。

王室報道

成婚、各地訪問、葬礼、周年記念式典など、ILNは王室の動向を重点的に報じました。中でもヴィクトリア女王の即位50周年(1887年ゴールデン・ジュビリー)と即位60周年(1897年、ダイアモンドジュビリーは、ILNの一連の王室報道のハイライトといってよいほど、多彩な報道を見せました。

世界初の万国博覧会

1851 年にロンドンで開催された世界初の万国博覧会は、160年にわたるILNの歴史の中でも、最も多くの紙面を割いて報道した出来事です。準備段階から図版入りの報道を独占したILNは、万博報道によりジャーナリズム界での確固たる地位を築きました。

検索語例:

  • ”GREAT EXHIBITION”(ロンドン万国博覧会)

演劇

舞台装置・装飾・道具立てに凝ったことでも知られるビクトリア朝期の劇場の様子をみるのにILNは格好の資料です。特に、写真が普及する1880年より前の図版の記録は貴重です。

※ILNの演劇関連の記事に焦点を当てたカタログはこちら

検索のヒント:

作品名や劇場名からの検索をお試しください。

検索語例:

  • “ROMEO AND JULIET”(ロメオとジュリエット)
  • HAMLET(ハムレット)
  • “PHANTOM OF THE OPERA”(オペラ座の怪人)
  • “DRURY LANE THEATRE”(ドルリー・レーン劇場)
  • “HAYMARKET THEATRE”(ヘイマーケット王立劇場)
  • “ROYAL OPERA HOUSE”(ロイヤル・オペラ・ハウス)

人気のオペラ歌手、ミュージックホールのスター、バレリーナ、ハリウッド映画スターの写真・図版やプロフィールも多数掲載されています。

検索語例:

  • “NELLIE MELBA”(オペラ歌手ネリー・メルバの写真・図版入り記事:図版のキャプションからの検索)

産業革命の面影を伝えるイギリスの遺産

蒸気機関(steam engine)、運河(canal)、道路、鉄道(railway)、橋(bridge)、上下水道(aqueduct、sewer)、製鉄所(iron manufacture)、炭田(coal field)など、交通基盤から施設まで、イギリスには産業革命の面影を今に伝える数々の産業遺産が遺されています。これらの遺産の当時の姿をILNでは豊富な図版で記録します。

検索語例:

  • BRIDGE
  • “COAL FIELD”

旅行

1851年にロンドンで開催された世界初の万国博覧会に際し、トーマス・クック(Thomas Cook)は、安価な交通手段とロンドンでの宿泊を組み合わせた団体ツアーを企画し、大成功をおさめました。

その後もヨーロッパ旅行等を次々と企画し、特権階級が独占していた「旅行」を、大衆の手の届くものにしました。世界初の近代的旅行代理店、トーマス・クック社の広告戦略、アイデンティティの変遷、企画旅行の内容などをILNの紙面からみつけることができます。

トーマス・クック社以外にも、キュナード社(Cunard)の大西洋横断(transatlantic)客船、ホワイト・スター・ライン社(White Star Line)の創立、エドワード朝の豪華客船(luxury cruise)等、旅行産業の成長と旅行の普及を物語る数々の記事・広告・図版がILN に掲載されています。

広告が取り上げる対象も、不快な列車の旅から豪華クルーズやオリエント急行での快適な旅へと、時代と共にかわっていきます。

※ILNの旅行関連の記事に焦点を当てたカタログはこちら
※ILNの世界各地の風物を取り上げた記事に焦点を当てたカタログはこちら

開国直後の日本

開国後の日本の状況を伝える図版が多数掲載されています。

※ILNの日本関連記事に焦点を当てたカタログはこちら

検索語例:

地名は、現在の表記と異なるケースも多くみられます。

  • HYOGO OR HIOGO(兵庫)

写真家ベアトが撮った19 世紀の日本の風物

イタリア生まれのイギリスの写真家フェリーチェ・ベアト(Felice Beato)は、1863年から21年間在日し、日本の風物や出来事を撮り歩きました。彼が撮った日本の写真を下絵としたイラストがILNに掲載されました。

ILN で活躍した画家たち

ILNは、多くの才能ある芸術家やデッサン画家を育成してきました。スコットランドの画家で、ILNに戦場のスケッチを多数提供したWilliam Simpson、1861年に来日し、幕末維新期の日本の事件や風俗を、挿絵と通信文で伝えたCharles Wirgman、クリミア戦争、フランス2月革命を経験し、その情景をILNに伝えた画家Constantin Guys、諷刺画家Harrold William、Thomas Nastなどの画家たちが、戦争、王室・皇室の出来事、科学的発明、探検等の様々な事柄を挿絵の中にとりあげています。

挿絵を描いた画家の名前は記事中に記載されていない場合もありますが、挿絵のキャプションや記事本文などから特定できる場合もあります。

文学

ILNは時事問題だけでなく、短編小説、連載小説などフィクションも多数掲載しました。

寄稿者にはチェスタトン、ウィルキー・コリンズ、コンラッド、コナン・ドイル、ハーディ、ヘンリー・ジェイムズ、キップリング、サマセット・モーム、ジョージ・メレディス、R.L. スティーヴンソン、トロロープ、H.G. ウェルズなどの有名作家の他、スティーヴン・クレイ、ホーソーン等のアメリカ人作家、女性作家もいます。

また、作家のプライベートな生活もしばしば取り上げられました。

ILNの背景を知る

最後に、The Illustrated London News Historical Archiveが提供するEssaysコーナーをご紹介します。

トップ画面右上のResearch Toolをクリックし、Essaysを参照してみましょう。

Essays では、データベースを利用する上で役立つ知識や背景情報を紹介した以下のエッセイを掲載しています。各エッセイで取り上げられている記事は、記事イメージを表示するためのリンクが用意されています。

  • The Illustrated London News and Public Health(ILN と公衆衛生)
  • The Illustrated London News and Travel(ILN と旅行)
  • The Illustrated London News and the Theatre(ILN と劇場)
  • Advertising in the Illustrated London News(ILN に掲載された広告)
  • Representing the Victorians – Illustration and the Illustrated London News(ビクトリア朝の表現 – 図版とILN)
  • The Illustrated London News: Celebrities and Gossip Columns(ILN:有名人とゴシップ記事)
  • The Illustrated London News and Disasters(ILN と災害)
  • The Illustrated London News and Photography(ILN と写真)
  • The Illustrated London News and Literature(ILN と文学)
  • The Illustrated London News and Archaeology(ILN と考古学)
  • The Illustrated London News and Exhibitions(ILN と展覧会)
  • The Illustrated London News and Museums(ILN と博物館)
  • The Illustrated London News and our Note Book(ILN と”our Note Book”)
  • The Illustrated London News and Sport(ILN とスポーツ)

The Illustrated London News Historical Archiveを通じて、ILNの魅力あふれる記事と図版をおたのしみください。

(書籍・データベース営業部 伊佐)

『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』小史(センゲージ ラーニング株式会社作成)はこちら