人文社会系研究

連載:諷刺漫画の代名詞『パンチ』が写し取った近現代社会

2021.05.07
punch historical archive

センゲージ ラーニング社が提供するデータベースPunch Historical Archive 1841-1992は、イギリスの諷刺漫画雑誌『パンチ』(Punch)の創刊号から最終号までを、初めてデジタル化し、全文検索を可能にしたものです。

諷刺漫画誌の代名詞『パンチ』

19世紀半ばイギリスで創刊された雑誌『パンチ』は、世界各地の同類の刊行物の誕生を促した諷刺漫画誌の代名詞的存在です。創刊当初は、ストレートに貧困を告発する記事を載せるなど、熱い政治の時代にふさわしくラディカルに時代に切り込んだものの、急進主義運動が挫折し、社会が安定期を迎え、経済的繁栄を謳歌するようになると、穏健な立場から社会を観察するようになります。

19世紀イギリスでは多くの諷刺漫画誌が創刊されますが、『パンチ』ほどの長命を得た雑誌は他にありません。当代一流の挿絵画家、作家を起用したこと、時代のテイストを鋭敏に掴んだ有能な編集長がいたこと、通常の雑誌のほか毎年合本やパンチ暦を発行することで読者への浸透を図ったこと、初期の「シャツの歌」に代表されるヒット作が多かったこと、手頃な値段で提供したことが、長く刊行された理由として挙げられますが、何よりも、諷刺の矢を放つ場合でもイギリスのミドルクラスのモラルを踏み外すことがなかったことが挙げられます。

イギリス文化をこれほど体現する刊行物は他になく、研究用資料としてはもちろん、イギリス文化理解の比類のない資料として、その教育的効用は計り知れません。

世界的な諷刺漫画誌をデータベース化

1901年から 1992年の最終号までがデジタル化されたことにより、創刊から終刊までの全記事が初めてフルテキスト検索が可能になりました。このデータベースでは毎週発行された号に加えて、「何年前の今日」や社会風俗に関する寸言を配し、挿絵を盛り込んだパンチ暦(アルマナック)、年刊合本用の序文や索引、特別号も搭載されています。

匿名寄稿者を検索可能に

『パンチ』の多くの記事は発行当初、匿名(あるいはペンネームかイニシャル)で発表されたため、記事の原本を見ても著者名が判別できないケースが多くあります。今回デジタル化に当たり、リヴァプール・ジョン・ムアーズ大学(Liverpool John Moores University)との提携の下、『パンチ』編集部に保管される寄稿者台帳を基に著者名を明らかにし、メタデータに付与することによって、著者名での検索を可能にしました。

主要な寄稿者

キングズリー・エイミス(Kingsley Amis) アラン・ハックニー
(Alan Hackney)
フランク・ミュア
(Frank Muir)
ジョーン・ベイクウェル
(Joan Bakewell)
ロイ・ハタズリー
(Roy Hattersley)
P.J. オルーク
(P.J. O’Rourke)
サー・ジョン・ベッジャマン
(Sir John Betjamin)
A.P. ハーバート
(A.P. Herbert)
マイケル・パーキンソン(Michael Parkinson)
メイヴ・ビンチー
(Maeve Binchy)
クィンティン・ホッグ(Quintin Hogg) シルヴィア・プラス
(Sylvia Plath)
バジル・ブースロイド
(Basil Boothroyd)
リチャード・ホガート
(Richard Hoggart)
アンソニー・パウエル
(Anthony Powell)
マルコム・ブラッドベリー
(Malcolm Bradbury)
P.M. ハバ―ト
(P.M. Hubbard)
ディリス・パウエル
(Dilys Powell)
メルヴィン・ブラッグ
(Melvyn Bragg)
バリー・ハンフリーズ
(Barry Humphreys)
J.B. プリーストリー
(J.B. Priestly)
フェントン・ブレスラー(Fenton Bresler) クライヴ・ジェームズ
(Clive James)
リビー・パーヴス
(Libby Purves)
アラン・ブライアン
(Alan Brien)
アンソニー・ジェイ(Anthony Jay) スタンリー・レイノルズ
(Stanley Reynolds)
シャーリー・ブルークス(Shirley Brooks) ダグラス・ジェロルド(Douglas Jerrold) ジョナサン・セール
(Jonathan Sale)
ティナ・ブラウン
(Tina Brown)
ルドヴィック・ケネディ
(Ludovic Kennedy)
ハリー・シーコム
(Harry Secombe)
アラン・コレン
(Alan Coren)
エリック・キーオン
(Eric Keown)
R.C. スクリヴァン
(R.C. Scriven)
ポール・デーン
(Paul Dehn)
マイルズ・キングトン
(Miles Kington)
ネッド・シェリン
(Ned Sherrin)
E.M. デラフィールド
(E.M Delafield)
E.V. ノックス
(E.V. Knox)
ミュリエル・スパーク
(Muriel Spark)
ピーター・ディッキンソン(Peter Dickinson) C.S. ルイス
(C.S. Lewis)
ウィリアム・サッカレー
(William M. Thackeray)
マーガレット・ドラブル (Margaret Drabble) R.P. リスター
(R.P. Lister)
ジェームズ・サーバー
(James Thurber)
メアリ・ダン
(Mary Dunn)
ハンフリー・リトルトン
(Humphrey Lyttleton)
ヒュー・トレヴァー=ローパー
(Hugh Trevor-Roper)
H.F. エリス
(H.F. Ellis)
ジョイ・メルヴィル
(Joy Melville)
E.S. ターナー
(E.S. Turner)
ペネロペ・フィッツジェラルド
(Penelope Fitzgerald)
A.A. ミルン
(A.A. Milne)
キース・ウォーターハウス
(Keith Waterhouse)
マイケル・フレイン
(Michael Frayn)
アンジェラ・ミルン
(Angela Milne)
ヒュー・ウェルドン
(Hugh Weldon)
クレメント・フルード(Clement Freud) リチャード・マレット(Richard Mallett) ジェフリー・ウィランズ(Geoffrey Willans)
デヴィッド・フロスト
(David Frost)
キングズリ・マーティン
(Kingsley Martin)
P.G. ウッドハウス
(P.G. Wodehouse)
ヴァージニア・グラハム(Virginia Graham) サマセット・モーム
(Somerset Maugham)
ウッドロー・ワイアット(Woodrow Wyatt)
ロバート・グレ―ヴス
(Robert Graves)
ロバート・モーリー
(Robert Morley)
D.B. ウィンダム・ルイス
(D.B. Wyndham Lewis)
ベニー・グリーン
(Benny Green)
シェリダン・モーリー(Sheridan Morley) B.A. ヤング
(B.A Young)
ジョイス・グレンフェルx(Joyce Grenfell) マルコム・マッグリッジ
(Malcolm Muggeridge)

主要な挿絵画家

ジョージ・アダムソン(George Adamson) ハリー・ハーグリーヴス
(Harry Hargreaves)
ポント[ギャビン・グラハム・レイドラー]
(Pont [Gavin Graham Laidler])
チャールズ・バルソッティ(Charles Barsotti) メリリー・ハーパー
(Merrily Harpur)
ケン・パイン
(Ken Pyne)
H.M. ベイトマン
(H M Bateman)
マイケル・ヒース
(Michael Heath)
アーサー・ラッカム
(Arthur Rackham)
ルイス・ボーマー
(Lewis Baumer)
ビル・ヒューイソン
(Bill Hewison)
ハリー・ラウントリー
(Harry Rountree)
ジョージ・ベルチャー(George Belcher) ジェラルド・ホフヌング
(Gerard Hoffnung)
レオナード・レイヴン・ヒル(Leonard Raven Hill)
ニコラス・ベントリー(Nicolas Bentley) マーティン・ハニーセット(Martin Honeysett) エドワード・リード
(Edward T. Reed)
アルフレッド・べストール(Alfred Bestall) トニー・ハズバンド
(Tony Husband)
フランク・レイノルズ
(Frank Reynolds)
ピーター・バーケット(Peter Birkett) レスリー・イリングワース(Leslie Illingworth) リンリ―・サンボーン
(Linley Sambourne)
クエンティン・ブレイク(Quentin Blake) チャールズ・キーン
(Charles Keene)
ジェラルド・スカーフ
(Gerald Scarfe)
ラッセル・ブロックバンク(Russell Brockbank) デヴィッド・ラングドン
(David Langdon)
ウフィリアム・スカリー(William Scully)
ポール・クラム
(Paul Crum)
ジョン・リーチ
(John Leech)
ロナルド・サール
(Ronald Searle)
ジョン・ドネガン
(John Donegan)
レイ・ラウリー
(Ray Lowry)
E.H. シェパード
(E H Shepard)
リチャード・ドイル(Richard Doyle) エド・マクラクラン
(Ed McLachlan)
ウィリアム・スィリィンス(William Sillince)
リアナ・ダンカン
(Riana Duncan)
ケン・マフード
(Ken Mahood)
ラルフ・ステッドマン
(Ralph Steadman)
ローランド・エメット(Rowland Emett) ノーマン・マンスブリッジ(Norman Mansbridge) J.W. テーラー
(J W Taylor)
アン・ハリエット・フィッシュ
(Anne Harriet Fish)
ヘンリー・マーティン
(Henry Martin)
ジョン・テニエル
(John Tenniel)
マイケル・フォークス(Michael Ffolkes) ジョージ・デュ・モーリア(George du Maurier) ノーマン・セルウェル
(Norman Thelwell)
フーガス[ケネス・バード]
(Fougasse [Kenneth Bird])
アーサー・ウォリス・ミルズ(Arthur Wallis Mills) ビル・ティディー
(Bill Tidy)
アンドレ・フランソワ(Andre Francois) フィル・メイ
(Phil May)
F.H. タウンゼント
(F H Townsend)
ハリー・ファーニス
(Harry Furniss)
ジョージ・モロー
(George Morrow)
トローグ[ワリ-・フォークス](Trog [Wally Fawkes])
ウィリアム・ハフェリ(William Haefeli) デヴィッド・マイヤーズ
(David Myers)
アーサー・ワッツ
(Arthur Watts)
バッド・ハンデルスマン(Bud Handelsman) バーナード・パートリッジ(Bernard Partridge) マイク・ウィリアムズ
(Mike Williams)

諷刺漫画の代名詞『パンチ』が写し取った近現代社会

本稿より数回にわけて、『パンチ』の諷刺画を通じてイギリスを中心に19世紀以降の歴史的出来事を振り返ります。『パンチ』ならではの視点で写し取られた、近現代社会の様々な側面の記録をお楽しみください。今回は、1840年代と1850年代の挿絵を取り上げます。

1840 年代

鉄道バブル(November 8, 1845)

ジョン・ラッセル(ジョン・リーチ)(April 1, 1848 )

チャーチスト運動(April 29, 1848)

1850年代

ルイ・ボナパルトのクーデタ(December 13, 1851)

万国博覧会(May 10, 1851

クリミア戦争(ジョン・リーチ)(November 25, 1854)

テムズ川大臭気(July 21, 1855)

(センゲージ ラーニング株式会社)

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